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繁栄
消失
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何が起こった?
母熊がカクカミ目掛けて倒れた巨木を投げつけたのだ。その威力は凄まじく、砕けた木の枝が飛んできて……
颯太がその場に倒れてしまった。
「颯太!颯太!」
グッタリとしている颯太。抱き起こそうにもこんな酷い怪我を間近で見た事も初めてで、動かして良いのか分からない。
腹部を木の幹の様な太い枝が貫通していて抜く事は出来ない。血が地面を赤く染めていく。
止血を……いや、泉の水を!
震える手を合わせて《成分複製》を使って水を溜める。
傷口に掛けると身体は修復しようとしているが、枝を取り除いていない為か直ぐに傷口が広がってしまう。
「颯太、しっかりして……!水を飲んで……」
颯太は虚な目をしたまま動かない。
もう一度手に水を溜めて口に垂らす。もしかしたら中から治るかもしれない。
小さく喉を鳴らして飲み込んだ。しかしその直後に咳き込む。ビチャビチャと飲み込んだ以上の液体を吐き出し、私の顔と服を赤く染めた。
「颯太……そんな……」
「おかあ……さ、ん……ごめん、な、さい……」
颯太はそう言い残すと無数の白い光になっていく。
私は颯太を抱き寄せようとするも光を掴む事は出来ず、目の前に残ったのは赤く染まった木の枝だけだった。
「颯太……いやよ……颯太……」
目の前で颯太が死んだ。到底受け入れられる事ではなかった。
私は前世でも娘を亡くしている。孫娘も……。
ここでも同じ思いをしなくてはならないのか……。
『ハル様!お下がりください!』
カクカミの声が聞こえた。
見上げると彼は私の前で巨大な熊と真正面からぶつかっていた。私を守るためにツノで巨体を押し返そうとしている。
母熊はツノを両の手で掴むと持ち上げて、ガラ空きになった首に噛み付いた。
苦しそうに呻くカクカミ。
私のせいでカクカミまで……。
『ハル様!』
小熊が母熊に体当たりを仕掛ける。上体が持ち上がっている所に左足目掛けての体当たりを受けて右に傾斜していく。
カクカミは噛み付いていた母熊の顔を前脚で殴りつけると何とか引き剥がす事に成功した。
『カクカミ様!もはや加減の必要はありません。母を殺してください!』
『承知!』
カクカミは後ろ足で立ち上がると、前足で母熊の顔面を殴打する。
凄まじい衝撃音が数度、森に響き渡り母熊は大きくのけ反って動きを止めた。
カクカミは後ろを向き、後ろ足で渾身の一撃を放つ。
後ろ足は母熊の眉間にあった真っ赤な石を砕き、山の様な体躯の母熊は後ろに倒れていく。
ズシン、大きな地響きが起こって沈黙が訪れる。
『ハル様……ご無事ですか?』
『私は大丈夫よ。カクカミ、怪我をしているわね。水を出すから……』
立ち上がろうとしたけど足に力が入らない。
『私の事は結構です。大した傷ではありません。』
「駄目よ。ちゃんと手当てしないと。」
何とか立ち上がり泉の水を生成して、屈んだカクカミの首に掛ける。傷はすぐに塞がった。
「あなたのお母さんを助けてあげられなくてごめんなさい。」
『いえ……どうしようもなかったのです。それよりも……』
小熊は私に気を遣ってくれている。自分の母親が死んだばかりなのに、優しい子ね。
私は母熊の所に行く。額にあった真っ赤な石を確認する為だ。
身体が重い。フラフラと何とか歩いて額を見ると、石は完全に外れて地面に落ちている。
拾い上げる。これが元凶……?
母熊の自我を失わせ、森を破壊し、自分の子供に手をあげ、カクカミと戦い、颯太を……
「颯太……」
私のせいだ。
こんな所まで近付かなければ。
颯太をこんな所に連れて来たから。
母熊に話を聞こうと言い出さなければ。
なんて愚かな事をしてしまったのだろう。
なんて駄目な母親なのだろう。
私は……
「颯太……ごめんなさい。」
守ってあげられなくて。
助けてあげられなくて。
ごめんなさい。
母熊がカクカミ目掛けて倒れた巨木を投げつけたのだ。その威力は凄まじく、砕けた木の枝が飛んできて……
颯太がその場に倒れてしまった。
「颯太!颯太!」
グッタリとしている颯太。抱き起こそうにもこんな酷い怪我を間近で見た事も初めてで、動かして良いのか分からない。
腹部を木の幹の様な太い枝が貫通していて抜く事は出来ない。血が地面を赤く染めていく。
止血を……いや、泉の水を!
震える手を合わせて《成分複製》を使って水を溜める。
傷口に掛けると身体は修復しようとしているが、枝を取り除いていない為か直ぐに傷口が広がってしまう。
「颯太、しっかりして……!水を飲んで……」
颯太は虚な目をしたまま動かない。
もう一度手に水を溜めて口に垂らす。もしかしたら中から治るかもしれない。
小さく喉を鳴らして飲み込んだ。しかしその直後に咳き込む。ビチャビチャと飲み込んだ以上の液体を吐き出し、私の顔と服を赤く染めた。
「颯太……そんな……」
「おかあ……さ、ん……ごめん、な、さい……」
颯太はそう言い残すと無数の白い光になっていく。
私は颯太を抱き寄せようとするも光を掴む事は出来ず、目の前に残ったのは赤く染まった木の枝だけだった。
「颯太……いやよ……颯太……」
目の前で颯太が死んだ。到底受け入れられる事ではなかった。
私は前世でも娘を亡くしている。孫娘も……。
ここでも同じ思いをしなくてはならないのか……。
『ハル様!お下がりください!』
カクカミの声が聞こえた。
見上げると彼は私の前で巨大な熊と真正面からぶつかっていた。私を守るためにツノで巨体を押し返そうとしている。
母熊はツノを両の手で掴むと持ち上げて、ガラ空きになった首に噛み付いた。
苦しそうに呻くカクカミ。
私のせいでカクカミまで……。
『ハル様!』
小熊が母熊に体当たりを仕掛ける。上体が持ち上がっている所に左足目掛けての体当たりを受けて右に傾斜していく。
カクカミは噛み付いていた母熊の顔を前脚で殴りつけると何とか引き剥がす事に成功した。
『カクカミ様!もはや加減の必要はありません。母を殺してください!』
『承知!』
カクカミは後ろ足で立ち上がると、前足で母熊の顔面を殴打する。
凄まじい衝撃音が数度、森に響き渡り母熊は大きくのけ反って動きを止めた。
カクカミは後ろを向き、後ろ足で渾身の一撃を放つ。
後ろ足は母熊の眉間にあった真っ赤な石を砕き、山の様な体躯の母熊は後ろに倒れていく。
ズシン、大きな地響きが起こって沈黙が訪れる。
『ハル様……ご無事ですか?』
『私は大丈夫よ。カクカミ、怪我をしているわね。水を出すから……』
立ち上がろうとしたけど足に力が入らない。
『私の事は結構です。大した傷ではありません。』
「駄目よ。ちゃんと手当てしないと。」
何とか立ち上がり泉の水を生成して、屈んだカクカミの首に掛ける。傷はすぐに塞がった。
「あなたのお母さんを助けてあげられなくてごめんなさい。」
『いえ……どうしようもなかったのです。それよりも……』
小熊は私に気を遣ってくれている。自分の母親が死んだばかりなのに、優しい子ね。
私は母熊の所に行く。額にあった真っ赤な石を確認する為だ。
身体が重い。フラフラと何とか歩いて額を見ると、石は完全に外れて地面に落ちている。
拾い上げる。これが元凶……?
母熊の自我を失わせ、森を破壊し、自分の子供に手をあげ、カクカミと戦い、颯太を……
「颯太……」
私のせいだ。
こんな所まで近付かなければ。
颯太をこんな所に連れて来たから。
母熊に話を聞こうと言い出さなければ。
なんて愚かな事をしてしまったのだろう。
なんて駄目な母親なのだろう。
私は……
「颯太……ごめんなさい。」
守ってあげられなくて。
助けてあげられなくて。
ごめんなさい。
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