上 下
15 / 453
繁栄

母熊

しおりを挟む
カクカミの背中に乗って更に南西方向に進んでいく。
ゆっくりと進んでいくと森の雰囲気が変わって来た。
木々の枝があちこち折れて落ちていたり、大木がへし折れていたりしていて荒れていた。

『俺の母が暴れた後です。この辺りには居ない様ですが……。』

熊さんは息を潜めながら話している。

「アルカスさん、あなたのお母さんはどれくらいの大きさなの?」
『俺の倍くらいです。』

それだと、この森の木よりも大きい事になる。私達の移動を察知したりしていないだろうか?

「お母さん、《遠隔視野》で見たりできないかな?」
「そうね。やって見るわ。」

《遠隔視野》を使用すると自分よりも随分と上の方から見下ろす視点になった。
これならかなり遠くまで見渡すことができる。見たい方向に意識を向けるとそちらに視界が動いたり、見下ろし視点から普通に森の中を歩いているかの様な視点に変わったりしてかなり自由に見ることができた。
これはかなり便利ね。

さて、お母さん熊は近くにいるかしら。

南西方向を中心に視界を動かしながら少しずつ遠くに視野を動かしてみる。

地平線が見える様にしてみると、遠くに青と白にキラキラと輝く所を見つけた。

あれは……間違いない、海だ!

かなり向こうだけど海があった。海も再生されているのだろうか?興味を掻き立てられるが今はお母さん熊を探すのが先決だ。

《遠隔視野》を西方向に向けて捜索範囲を広げていく。
かなり離れたところに森の木々から突き出た黒い塊が動いているのを見つける。

熊だ。体長20メートル近いんじゃないだろうか?山の様に見える黒い物体は木々を薙ぎ倒しながら動いていた。
何かに夢中でこちらには全く気付いていない様だ。

「いたわ。西南西の方向……こっちよ。」

私が方向を示すとカクカミはそちらの方向にゆっくりと歩きだす。

「アルカスさん、もしも戦う事になってしまったらお母さんを傷つける事になってしまうかもしれない。最悪命を奪う事になってしまうかもしれないわ。」
『……覚悟は出来ています。』

そう言う熊さんは背中を丸めて俯いていた。
お母さんを殺すと言われて何とも思わない訳はないだろう。それでも念の為言っておかなくてはならない。
土壇場で私達に敵対してくる可能性があるかを計るのが目的だ。

私の口からそんな事を言われるとは思っていなかったのだろう、獣なので表情は読み取れないがどこか辛そうだった。

「勿論可能な限り助けるつもりよ。少しでも危険だと判断したら直ぐに逃げます。カクカミ、いいわね?」
『承知しました。』

皆に方針を明確に伝えておく。

『もし戦闘になったら、お二人は直ぐに退避してください。私が戦います。』
「分かったわ。くれぐれも無茶はしないでね。」

入念に打ち合わせをしながらお母さん熊の所に向かった。

バキバキと木々の裂ける音が近づいてきた。そろそろか……。

黒い巨体が見えてきた。背中を丸めながら地面の何かに攻撃を加えている様にも見える。足元に何かいるのだろうか?

目を凝らして様子を見ると、木々の間に人の様な影が見えた。

まさか人間?

「カクカミ、母アルカスを止めます。」
『畏まりました。それではこちらでお降りください。』

身体を伏せて私達を降ろしてくれる。

「カクカミ気を付けてね。」
『はい。それでは行って参ります。』

颯太に送り出されてカクカミはお母さん熊目掛けて走り出す。熊さんもそれに続いた。

私は颯太と手を繋いで慎重に歩を進める。

「カクカミ大丈夫かな?」
「ええ、あの子は賢いから危なかったらすぐに逃げてくるわ。大丈夫よ。」

あの巨体を目にして不安になったのだろう、颯太は私の手をしっかりと握っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界転生はうっかり神様のせい⁈

りょく
ファンタジー
引きこもりニート。享年30。 趣味は漫画とゲーム。 なにかと不幸体質。 スイーツ大好き。 なオタク女。 実は予定よりの早死は神様の所為であるようで… そんな訳あり人生を歩んだ人間の先は 異世界⁈ 魔法、魔物、妖精もふもふ何でもありな世界 中々なお家の次女に生まれたようです。 家族に愛され、見守られながら エアリア、異世界人生楽しみます‼︎

まさか転生? 

花菱
ファンタジー
気付いたら異世界?  しかも身体が? 一体どうなってるの… あれ?でも…… 滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。 初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……

異世界に転生!堪能させて頂きます

葵沙良
ファンタジー
遠宮 鈴霞(とおみやりんか)28歳。 大手企業の庶務課に勤める普通のOL。 今日は何時もの残業が無く、定時で帰宅途中の交差点そばのバス停で事件は起きた━━━━。 ハンドルを切り損なった車が、高校生3人と鈴霞のいるバス停に突っ込んできたのだ! 死んだと思ったのに、目を覚ました場所は白い空間。 女神様から、地球の輪廻に戻るか異世界アークスライドへ転生するか聞かれたのだった。 「せっかくの異世界、チャンスが有るなら行きますとも!堪能させて頂きます♪」 笑いあり涙あり?シリアスあり。トラブルに巻き込まれたり⁉ 鈴霞にとって楽しい異世界ライフになるのか⁉ 趣味の域で書いておりますので、雑な部分があるかも知れませんが、楽しく読んで頂けたら嬉しいです。戦闘シーンも出来るだけ頑張って書いていきたいと思います。 こちらは《改訂版》です。現在、加筆・修正を大幅に行っています。なので、不定期投稿です。 何の予告もなく修正等行う場合が有りますので、ご容赦下さいm(__)m

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

mio
ファンタジー
 なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。  こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。  なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。  自分の中に眠る力とは何なのか。  その答えを知った時少女は、ある決断をする。 長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!

処理中です...