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繁栄
決まり事
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家族が増えて賑やかになった。
私達よりもずっと大きな鹿のカクカミ。
体高は私の倍以上。こんなに大きかったらこの辺りの草木は全部食べられちゃうかもしれないわね。
『ハル様の神聖な泉の周りの物を食するなど、とても恐れ多いです。私はもっと離れた所で食事を致します。』
「遠慮しなくてもいいのよ。」
森のめぐみは消費される為にある。カクカミが食べる位何とかしてあげたい。
『いえ、私はここに他の者が入らない様に監視しておきます。』
「僕は他のみんなとも仲良くしたいなぁ。」
『ソータ様はとても御心の広い方でいらっしゃるのですね。』
ソータがすぐ下で見上げていると、カクカミが頭を下げてソータに擦り付いている。ソータは大喜びでカクカミの顔を触っていた。
カクカミの言っていた獰猛な獣の気配がある以上ここに来る者はほとんどない筈だ。私も颯太も少し残念に思ったけど、同時に泉を荒らされない様にシグルーンが守ってくれていたのだと知って感謝もしていた。
「カクカミ、あなたは他の仲間よりもずっと身体が大きいから喧嘩をしては駄目よ。」
『畏まりました。』
カクカミは私の方を向いて頭を伏せたまま言う。
動物は本能的に相手が自分より強い事が分かるという。今のカクカミは本能云々ではなく明らかに強い生物だと分かるだろう。
カクカミが自ら攻撃に出なければ喧嘩にはなり得ないだろう。
「それから、折角家族になったのだから離れた所で暮らすなんて言わないで。」
『ハル様……はい。』
カクカミはなるべく私達と一緒にいると約束してくれた。
☆★☆★
あれから数日、カクカミは日課として一日に三回、森の見回りをしている。夜にはその日にあった事を私達に話してくれるのだ。私達はその話を毎日楽しみに聞いていた。
いつも通り、泉のほとりにみんなで座って話をする。
『本日は私の同胞に会いました。』
「他のケリュネイアに会ったんだね!みんな元気だったの?」
目を輝かせながら聞く颯太。この子は動物の話に夢中だ。
『それが……他の生き物に襲われたらしく皆怪我をしていました。』
「それは大変ね。手当てしなくて大丈夫?」
『はい。幸い大した怪我ではありませんでしたので。』
「襲って来たのはどんな動物だったの?」
普通のケリュネイアも日本の鹿よりずっと大きい。それを襲うということはもっと強い動物、捕食者だろう。
『黒く大きな者だったそうです。頑丈な毛皮に覆われていて、二本足で立つ事ができ、長は前足で角を折られてしまいました。』
熊……かしら。鹿さん達よりも大きいとなると五~六メートルはあるだろう。この世界の生き物はスケールが違うわね。
「カクカミは仲間達をどうしたい?」
『どうもしません。私はお二人にお仕えしているのですから。』
「それじゃ可哀想だよ。助けてあげてよ!」
颯太はカクカミにそう言った。カクカミは困った様に頭を二、三回振って答える。
『私はもうあの群れの者ではありません。助ける事は自然の摂理に反する事です。』
カクカミが言ったのは私が教えた事だ。彼は厳格にそれを守っていた。
「カクカミ、その動物は今までこの辺りで見た事はないのね?」
『はい。』
餌場を変えて移動して来たのだろう。元の住処追われたか、食べ物が無くなったか。森が健在な所からすると、後者はまず有り得ない。
ケリュネイア達は突然現れた敵に対応しなければならないだろう。
「長は群れを連れて他の地に移るとは言っていなかったの?」
『言っておりませんでした。我らは代々あの地におりましたので離れるつもりはないでしょう。』
「そう……。」
ケリュネイアはこの泉の南西側に生息している。
「カクカミ、その者に事情を聞きましょう。ケリュネイア達を狩り尽くしたらこの泉まで来るかもしれません。頼まれて貰えるかしら?」
『畏まりました。』
カクカミは小さく嘶く。その姿は少し嬉しそうに見えた。
私達よりもずっと大きな鹿のカクカミ。
体高は私の倍以上。こんなに大きかったらこの辺りの草木は全部食べられちゃうかもしれないわね。
『ハル様の神聖な泉の周りの物を食するなど、とても恐れ多いです。私はもっと離れた所で食事を致します。』
「遠慮しなくてもいいのよ。」
森のめぐみは消費される為にある。カクカミが食べる位何とかしてあげたい。
『いえ、私はここに他の者が入らない様に監視しておきます。』
「僕は他のみんなとも仲良くしたいなぁ。」
『ソータ様はとても御心の広い方でいらっしゃるのですね。』
ソータがすぐ下で見上げていると、カクカミが頭を下げてソータに擦り付いている。ソータは大喜びでカクカミの顔を触っていた。
カクカミの言っていた獰猛な獣の気配がある以上ここに来る者はほとんどない筈だ。私も颯太も少し残念に思ったけど、同時に泉を荒らされない様にシグルーンが守ってくれていたのだと知って感謝もしていた。
「カクカミ、あなたは他の仲間よりもずっと身体が大きいから喧嘩をしては駄目よ。」
『畏まりました。』
カクカミは私の方を向いて頭を伏せたまま言う。
動物は本能的に相手が自分より強い事が分かるという。今のカクカミは本能云々ではなく明らかに強い生物だと分かるだろう。
カクカミが自ら攻撃に出なければ喧嘩にはなり得ないだろう。
「それから、折角家族になったのだから離れた所で暮らすなんて言わないで。」
『ハル様……はい。』
カクカミはなるべく私達と一緒にいると約束してくれた。
☆★☆★
あれから数日、カクカミは日課として一日に三回、森の見回りをしている。夜にはその日にあった事を私達に話してくれるのだ。私達はその話を毎日楽しみに聞いていた。
いつも通り、泉のほとりにみんなで座って話をする。
『本日は私の同胞に会いました。』
「他のケリュネイアに会ったんだね!みんな元気だったの?」
目を輝かせながら聞く颯太。この子は動物の話に夢中だ。
『それが……他の生き物に襲われたらしく皆怪我をしていました。』
「それは大変ね。手当てしなくて大丈夫?」
『はい。幸い大した怪我ではありませんでしたので。』
「襲って来たのはどんな動物だったの?」
普通のケリュネイアも日本の鹿よりずっと大きい。それを襲うということはもっと強い動物、捕食者だろう。
『黒く大きな者だったそうです。頑丈な毛皮に覆われていて、二本足で立つ事ができ、長は前足で角を折られてしまいました。』
熊……かしら。鹿さん達よりも大きいとなると五~六メートルはあるだろう。この世界の生き物はスケールが違うわね。
「カクカミは仲間達をどうしたい?」
『どうもしません。私はお二人にお仕えしているのですから。』
「それじゃ可哀想だよ。助けてあげてよ!」
颯太はカクカミにそう言った。カクカミは困った様に頭を二、三回振って答える。
『私はもうあの群れの者ではありません。助ける事は自然の摂理に反する事です。』
カクカミが言ったのは私が教えた事だ。彼は厳格にそれを守っていた。
「カクカミ、その動物は今までこの辺りで見た事はないのね?」
『はい。』
餌場を変えて移動して来たのだろう。元の住処追われたか、食べ物が無くなったか。森が健在な所からすると、後者はまず有り得ない。
ケリュネイア達は突然現れた敵に対応しなければならないだろう。
「長は群れを連れて他の地に移るとは言っていなかったの?」
『言っておりませんでした。我らは代々あの地におりましたので離れるつもりはないでしょう。』
「そう……。」
ケリュネイアはこの泉の南西側に生息している。
「カクカミ、その者に事情を聞きましょう。ケリュネイア達を狩り尽くしたらこの泉まで来るかもしれません。頼まれて貰えるかしら?」
『畏まりました。』
カクカミは小さく嘶く。その姿は少し嬉しそうに見えた。
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