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魔術、習得したい!
大局、そして新たな場所へ
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────こうして、エリア・サムライを出発した俺たちだが、その前にトキナガは条件を提示した。
「俺たちは、科学軍を減らすために、共に戦う。だが、いろいろ準備があるんで、ちょっと戦ったら一旦抜けさせてもらう」
「どこまでついてこれそう?」
「まぁ、再加入後にエリア・サンサーラ到着を見届けるくらいはしたいなぁ。その時は一段とパワーアップしてるんで、楽しみにな!」
「……で、こうして走ってるわけだけどさ、ライチ!」
「なんだ、カガリ」
「この移動方法、最初からできなかったの!?」
……ここは虚構世界、現実世界の裏側を俺たちは飛んでいた。アルトお手製のブーメラン型飛行機に、一人一つ乗って操縦する。レバー一つと簡単だ。
これがなかなか速く、あの空飛ぶスケボーにも匹敵する速さ……スケボーが速すぎただけなんだが。
「いやぁ、気に入ってくれたかな、二人とも。こんなことがある気がして、ブーメラン号を魔術用に改良してよかった!」
アルトは笑顔で操縦する。本当に感謝しなければならない、もうスケボーもスノボーもごめんだ。しかし、虚構世界が走れるんなら最初から走ってくれれば、科学に見つかることもなく、あんな戦いには巻き込まれなかった気がするんだけど……
「最初からできるか、無理を言うな。アルトが用意してくれなかったら、空を飛ぶ専門の道具なんて持ってない」
「雪道スノボーも、虚構世界走ったらよかったじゃん」
「虚構世界には、一定の速度、広さ、土地が条件だ。速度がなければ入れないし、開けてなければ現実とぶつかりやすく危険だ」
「土地はどうして?」
「あぁ……現実世界の裏が、必ずしも虚構世界であるとは限らない。あの豪雪地帯の裏に、世界はなかっただけだ」
「そんな二人に、現在の地図はいかがかな。虚構世界対応、旧日本から現在日本までなんでもわかる、僕お手製の逸品だ」
そう言ってレバーの前に現れたのは、この国の地図だ。旧日本でいう北海道から、関東の少し上あたりが映されている。地図には、現在地と思われる赤い点と、陸海構わず紫色の地帯が表示されている。今は紫色の地帯を走っているようだ。つまりは────
「お察しの通り、その紫が虚構世界があるエリアだ。さっきいたのは……お前だと旧日本の呼び方がいいのか」
「うん、そのほうが分かりやすいかな」
「じゃあ……俺たちが走っていた豪雪地帯、これが元新潟県にあたる。ここには虚構世界が広がらなかった」
「広がるものなの、世界って」
「そうだ、世界は広がる。だがさっき通ってわかるように、このあたりは荒野になっていた。それはありえないんだよ。山脈があったはずなんだ」
横目に見ても、ライチの顔はわからない。だが振り返って見えたアルトの顔は、少し暗かった。
「僕らからしたら、古い出来事なんだけど……このあたりは小惑星の破片が落下した場所でね、大きなクレーターになったって言えば伝わる?」
「わかるよ、それで地形が吹っ飛んだんだ」
「世界中でこんなものだから、そりゃ戦争も納得だよね。石油地帯とか大爆発しちゃったし」
小惑星といいながら、相手は宇宙から来た星だ。きっと想像よりはるかに大きくて、直撃すれば人類は滅亡していたんだろう。それが回避できただけよかったんだろうか。
一瞬で終わるか、じわじわと先が見えない中終わるか。その小惑星は滅びだったんだろう、見た時点で終わりは決まってしまった。
「さてさて、そんな無能魔術師とポンコツ科学者たちの失敗は置いといて、旧日本の地名で、僕らが向かうところを説明しようか」
「アルト、よろしく頼む。俺は現実世界へ抜ける場所を整えるよ」
解説を始めたのはアルトだ。ライチは彼に任せて、片手で操縦しながら何かの準備を始めていた。
地図の次に現れたのは画像だ。巨大な灰色の壁が立ちふさがり、その下には機械兵がうじゃうじゃと湧いている。統率された圧力と恐ろしさ、画像越しから伝わる、魔術師たちの絶望。この先に行けば今の自分はない、魂が叫んでいる。
「何かわかる?」
「……科学軍がたくさん。この先は科学首都か」
「ご名答だ、科学首都の壁は、かなりせり出してきててね。ここから行くのは難しいだろうから、この少し前で、旧群馬方面に曲がるんだ」
「この虚構世界をずっと進めばつくんだろうか……」
「一回出なきゃいけないね。でも基本、魔術師なら進めばつくと思うよ」
基本、つく? 少し疑問を感じたが、とりあえず進めばわかるんだろう。
「その群馬方面、今でいうと「密林村ン・マ」っていうんだけど、その密林村に含まれるのがエリア・サンサーラなんだ」
「えっ、そこに俺が目指す場所が?」
「科学軍もまだ落としきれてない、魔術師たちの最後の「壁」だ。行くならば気を付けるといい、君を失う可能性もある」
「……本当?」
「今は気にしなくて大丈夫! まぁ、自治してるのは村だからなぁ……最近はどこまで管理されているか。いつの間にか無くなってたりして」
そんなに村の自治ってふんわりしてて雑なのか。どうやら、現在は村や町が自治しているらしく、その中に「エリア」が含まれるらしい。ということは、俺の推測が正しければ……
「じゃあ、俺が最初に目覚めた町に含まれるのが、エリア・サムライかな、ライチー!」
「聞こえている、デカい声出すな。凍結町イーズ、お前の目覚めた町はそう呼ばれていた。あとはお前の言う通りだ」
ほうほう、なるほど。エリアより大きなくくりが、現代にはあるわけだな。人も少ないし、そこまで広い範囲で見ないと協力し合えないんだ。無個性と魔術師が生き抜くための区分けってところか。
そして、密林村ン・マ。そこにあるエリア・サンサーラは、この勢いで行けばそう遠くはないだろう。そこに何があるのか、俺は確かめなければいけない。しかし、絶対にアクシデント起こるよね、それは科学首都に近づいているわけだから、科学軍も黙ってない。
「え、君たちイーズにいたの? 無事だったの、町が一つ焼け落ちたけど?」
「アルトの心配には及ばない、俺たちは通りすがっただけだ」
「……カガリ君がそこで目覚めて、ライチが通りすがった……ははーん、イーズは落ちてしまったんだな。不運な町だ」
不思議な言い回しに、ライチは何も答えない。アルトは何かを知っているみたいだが、俺が知れたことじゃないし、今の俺では理解できない。これも後にわかるだろうか。
「アルト、準備ができた。まもなく虚構世界が途切れる、現実世界に浮上するぞ」
「よしよし、さすがだよライチ。普通、虚構世界はこんなに簡単に出入りできないからね」
アルトの操作方法を見て、俺もレバーを切り替える。翼の角度が変わったと思うと、飛行機は一気に加速する。
「────行くぞ、空想から現実に向かう。存在を保て、失いそうになっても、見失うな、カガリ!」
ライチの声で、自分を認識する。宇宙が歪むような景色に、すべてを見失いそうになる。空想と現実を行き来するのは、普通は無理だ。そのたびに、自分は何者かと確認しなければいけない。今の俺が何度もできるのは、無くなりそうなほど小さな存在だからだろう。
……この存在で、俺は認めてもらえるのだろうか。
「迷うな、カガリ。真っすぐ前を見ろ、前にしか未来はない!」
目まぐるしく変わる景色の中、ライチがこっちを向いて、手を刺し伸ばしているのが見えた。ハッとして、ライチの言っていた言葉を理解する。
────目の前に未来がある。ライチを見失わなければ、俺は自分を見失わない。あまりにも他者依存、だがそれが安定した在り方────
「俺ってば、脆いな」
「脆弱で何が悪い、それが人間だろう」
その目に映る宇宙は、根源に向かい落ちる。天は、その先の宇宙は、星の理を分からせる。世界は光り輝き、七色の輪が回る。世界も美しいが、あなただって美しい。そう、私が見たあなたは……
……曖昧な世界は現実へ傾き、ぼやけていた意識が、次第に形を取り戻した。
「……こうやって、存在が世界から離れるから、虚構世界は好きじゃないんだ」
「あれ、いつの間にか抜けてた?」
気づけば、空想を抜け出していた。目に飛び込んできた景色は、雪の中に何本も経つ木々が生い茂る世界。雪は冬なのに、木葉は緑に輝き、夏のようだ。丸く大きな湖がいくつもあり、その上に氷が浮いているが、鳥が水浴びをしている……なんてあべこべな世界だ!
「暑ぅ! 俺たちのいたところは凍結町でも温かいほうだったが……これが夏ってやつか、アルト」
「そうか……兄貴は夏とかわからないんだよね。ほとんどエリア・サムライにいるから」
「だが……この様子を見るに、夜にはイーズより極寒の地になるんだろう。恐ろしい場所だな」
浮上した現実は、また俺の見たことのない世界を教えてくれる。それは俺にとって常に新鮮で、常に発見で、冒険で。そうできるのは記憶と常識、見えない何かが俺を後押ししているからだ。
……俺は何もわからないだろう、何もできないだろう。でも俺はここにいる、確かに今を見ているのは俺なんだ。それを誰も否定しないなんて、何と幸福な人生なんだろう。
────恵まれた、時代はさておき、俺は本当に恵まれた。俺が見続けているのはこの世界の僅かな光であり、影をしっかりとは見ていない。逸らしているんだ、目覚めたあの日から。
だから恵まれた、逸らしても生きていけるこの日々が、ほかの何物にも代えられない出会いが。
俺が見る光、逸らしている影。その根源────太極には何があるのだろう。どうしてか、俺はその根源を知っている気がするんだ。
「あべこべ、陰と陽。渦巻く先の太極から、俺は無極を見渡した……」
……この天を俺は知ろうとしていた。その先の宙を掴もうとした。それがこの星に────
「俺ってば何言ってんだろ」
「……まだ空想を彷徨っているのか、お前。早く戻れ、時と現実は待ってくれないぞ」
「へっ、あ────うぁ……目の前の……!」
「あぁ、現実だ」
その通りだ、時と現実────今は待ってくれない。置いていかれる前に進もう。何が待っていたとしても。仮に、それが勝てないとわかっているものでも、俺たちは進んでいく。敵対とはそういうことだ。
「勇者ってやつは、ぽえまー…? ってやつなのか? 一緒にいれば面白いからいいんだけどよ!」
「科学軍の待ち伏せ……兄貴、楽しくなってきたね。こういう冒険、好きだよね!」
「俺はアルトがいれば、なんだって好きだがな」
空は、鉄が擦れあう音に包まれる。それにより、視界は黒く埋め尽くされ、油の匂いとギチギチとした異音が五感を刺激する。危機感は肌から全身に伝わり、危ない、逃げろと悲鳴をあげだした。
────機械の翼を持つ鳥、機械兵ファルコン。気味の悪い目をしたその大群が、俺たちを狩ろうと待っていた。
戦いとは、何かとぶつかることである。敵対とは、運命に対する意地である。負けられない戦いは、常に目の前にある。
それが現実に生きるということだ。
「……負けるもんか、絶対に。俺たちは、ここも勝つんだから!」
「俺たちは、科学軍を減らすために、共に戦う。だが、いろいろ準備があるんで、ちょっと戦ったら一旦抜けさせてもらう」
「どこまでついてこれそう?」
「まぁ、再加入後にエリア・サンサーラ到着を見届けるくらいはしたいなぁ。その時は一段とパワーアップしてるんで、楽しみにな!」
「……で、こうして走ってるわけだけどさ、ライチ!」
「なんだ、カガリ」
「この移動方法、最初からできなかったの!?」
……ここは虚構世界、現実世界の裏側を俺たちは飛んでいた。アルトお手製のブーメラン型飛行機に、一人一つ乗って操縦する。レバー一つと簡単だ。
これがなかなか速く、あの空飛ぶスケボーにも匹敵する速さ……スケボーが速すぎただけなんだが。
「いやぁ、気に入ってくれたかな、二人とも。こんなことがある気がして、ブーメラン号を魔術用に改良してよかった!」
アルトは笑顔で操縦する。本当に感謝しなければならない、もうスケボーもスノボーもごめんだ。しかし、虚構世界が走れるんなら最初から走ってくれれば、科学に見つかることもなく、あんな戦いには巻き込まれなかった気がするんだけど……
「最初からできるか、無理を言うな。アルトが用意してくれなかったら、空を飛ぶ専門の道具なんて持ってない」
「雪道スノボーも、虚構世界走ったらよかったじゃん」
「虚構世界には、一定の速度、広さ、土地が条件だ。速度がなければ入れないし、開けてなければ現実とぶつかりやすく危険だ」
「土地はどうして?」
「あぁ……現実世界の裏が、必ずしも虚構世界であるとは限らない。あの豪雪地帯の裏に、世界はなかっただけだ」
「そんな二人に、現在の地図はいかがかな。虚構世界対応、旧日本から現在日本までなんでもわかる、僕お手製の逸品だ」
そう言ってレバーの前に現れたのは、この国の地図だ。旧日本でいう北海道から、関東の少し上あたりが映されている。地図には、現在地と思われる赤い点と、陸海構わず紫色の地帯が表示されている。今は紫色の地帯を走っているようだ。つまりは────
「お察しの通り、その紫が虚構世界があるエリアだ。さっきいたのは……お前だと旧日本の呼び方がいいのか」
「うん、そのほうが分かりやすいかな」
「じゃあ……俺たちが走っていた豪雪地帯、これが元新潟県にあたる。ここには虚構世界が広がらなかった」
「広がるものなの、世界って」
「そうだ、世界は広がる。だがさっき通ってわかるように、このあたりは荒野になっていた。それはありえないんだよ。山脈があったはずなんだ」
横目に見ても、ライチの顔はわからない。だが振り返って見えたアルトの顔は、少し暗かった。
「僕らからしたら、古い出来事なんだけど……このあたりは小惑星の破片が落下した場所でね、大きなクレーターになったって言えば伝わる?」
「わかるよ、それで地形が吹っ飛んだんだ」
「世界中でこんなものだから、そりゃ戦争も納得だよね。石油地帯とか大爆発しちゃったし」
小惑星といいながら、相手は宇宙から来た星だ。きっと想像よりはるかに大きくて、直撃すれば人類は滅亡していたんだろう。それが回避できただけよかったんだろうか。
一瞬で終わるか、じわじわと先が見えない中終わるか。その小惑星は滅びだったんだろう、見た時点で終わりは決まってしまった。
「さてさて、そんな無能魔術師とポンコツ科学者たちの失敗は置いといて、旧日本の地名で、僕らが向かうところを説明しようか」
「アルト、よろしく頼む。俺は現実世界へ抜ける場所を整えるよ」
解説を始めたのはアルトだ。ライチは彼に任せて、片手で操縦しながら何かの準備を始めていた。
地図の次に現れたのは画像だ。巨大な灰色の壁が立ちふさがり、その下には機械兵がうじゃうじゃと湧いている。統率された圧力と恐ろしさ、画像越しから伝わる、魔術師たちの絶望。この先に行けば今の自分はない、魂が叫んでいる。
「何かわかる?」
「……科学軍がたくさん。この先は科学首都か」
「ご名答だ、科学首都の壁は、かなりせり出してきててね。ここから行くのは難しいだろうから、この少し前で、旧群馬方面に曲がるんだ」
「この虚構世界をずっと進めばつくんだろうか……」
「一回出なきゃいけないね。でも基本、魔術師なら進めばつくと思うよ」
基本、つく? 少し疑問を感じたが、とりあえず進めばわかるんだろう。
「その群馬方面、今でいうと「密林村ン・マ」っていうんだけど、その密林村に含まれるのがエリア・サンサーラなんだ」
「えっ、そこに俺が目指す場所が?」
「科学軍もまだ落としきれてない、魔術師たちの最後の「壁」だ。行くならば気を付けるといい、君を失う可能性もある」
「……本当?」
「今は気にしなくて大丈夫! まぁ、自治してるのは村だからなぁ……最近はどこまで管理されているか。いつの間にか無くなってたりして」
そんなに村の自治ってふんわりしてて雑なのか。どうやら、現在は村や町が自治しているらしく、その中に「エリア」が含まれるらしい。ということは、俺の推測が正しければ……
「じゃあ、俺が最初に目覚めた町に含まれるのが、エリア・サムライかな、ライチー!」
「聞こえている、デカい声出すな。凍結町イーズ、お前の目覚めた町はそう呼ばれていた。あとはお前の言う通りだ」
ほうほう、なるほど。エリアより大きなくくりが、現代にはあるわけだな。人も少ないし、そこまで広い範囲で見ないと協力し合えないんだ。無個性と魔術師が生き抜くための区分けってところか。
そして、密林村ン・マ。そこにあるエリア・サンサーラは、この勢いで行けばそう遠くはないだろう。そこに何があるのか、俺は確かめなければいけない。しかし、絶対にアクシデント起こるよね、それは科学首都に近づいているわけだから、科学軍も黙ってない。
「え、君たちイーズにいたの? 無事だったの、町が一つ焼け落ちたけど?」
「アルトの心配には及ばない、俺たちは通りすがっただけだ」
「……カガリ君がそこで目覚めて、ライチが通りすがった……ははーん、イーズは落ちてしまったんだな。不運な町だ」
不思議な言い回しに、ライチは何も答えない。アルトは何かを知っているみたいだが、俺が知れたことじゃないし、今の俺では理解できない。これも後にわかるだろうか。
「アルト、準備ができた。まもなく虚構世界が途切れる、現実世界に浮上するぞ」
「よしよし、さすがだよライチ。普通、虚構世界はこんなに簡単に出入りできないからね」
アルトの操作方法を見て、俺もレバーを切り替える。翼の角度が変わったと思うと、飛行機は一気に加速する。
「────行くぞ、空想から現実に向かう。存在を保て、失いそうになっても、見失うな、カガリ!」
ライチの声で、自分を認識する。宇宙が歪むような景色に、すべてを見失いそうになる。空想と現実を行き来するのは、普通は無理だ。そのたびに、自分は何者かと確認しなければいけない。今の俺が何度もできるのは、無くなりそうなほど小さな存在だからだろう。
……この存在で、俺は認めてもらえるのだろうか。
「迷うな、カガリ。真っすぐ前を見ろ、前にしか未来はない!」
目まぐるしく変わる景色の中、ライチがこっちを向いて、手を刺し伸ばしているのが見えた。ハッとして、ライチの言っていた言葉を理解する。
────目の前に未来がある。ライチを見失わなければ、俺は自分を見失わない。あまりにも他者依存、だがそれが安定した在り方────
「俺ってば、脆いな」
「脆弱で何が悪い、それが人間だろう」
その目に映る宇宙は、根源に向かい落ちる。天は、その先の宇宙は、星の理を分からせる。世界は光り輝き、七色の輪が回る。世界も美しいが、あなただって美しい。そう、私が見たあなたは……
……曖昧な世界は現実へ傾き、ぼやけていた意識が、次第に形を取り戻した。
「……こうやって、存在が世界から離れるから、虚構世界は好きじゃないんだ」
「あれ、いつの間にか抜けてた?」
気づけば、空想を抜け出していた。目に飛び込んできた景色は、雪の中に何本も経つ木々が生い茂る世界。雪は冬なのに、木葉は緑に輝き、夏のようだ。丸く大きな湖がいくつもあり、その上に氷が浮いているが、鳥が水浴びをしている……なんてあべこべな世界だ!
「暑ぅ! 俺たちのいたところは凍結町でも温かいほうだったが……これが夏ってやつか、アルト」
「そうか……兄貴は夏とかわからないんだよね。ほとんどエリア・サムライにいるから」
「だが……この様子を見るに、夜にはイーズより極寒の地になるんだろう。恐ろしい場所だな」
浮上した現実は、また俺の見たことのない世界を教えてくれる。それは俺にとって常に新鮮で、常に発見で、冒険で。そうできるのは記憶と常識、見えない何かが俺を後押ししているからだ。
……俺は何もわからないだろう、何もできないだろう。でも俺はここにいる、確かに今を見ているのは俺なんだ。それを誰も否定しないなんて、何と幸福な人生なんだろう。
────恵まれた、時代はさておき、俺は本当に恵まれた。俺が見続けているのはこの世界の僅かな光であり、影をしっかりとは見ていない。逸らしているんだ、目覚めたあの日から。
だから恵まれた、逸らしても生きていけるこの日々が、ほかの何物にも代えられない出会いが。
俺が見る光、逸らしている影。その根源────太極には何があるのだろう。どうしてか、俺はその根源を知っている気がするんだ。
「あべこべ、陰と陽。渦巻く先の太極から、俺は無極を見渡した……」
……この天を俺は知ろうとしていた。その先の宙を掴もうとした。それがこの星に────
「俺ってば何言ってんだろ」
「……まだ空想を彷徨っているのか、お前。早く戻れ、時と現実は待ってくれないぞ」
「へっ、あ────うぁ……目の前の……!」
「あぁ、現実だ」
その通りだ、時と現実────今は待ってくれない。置いていかれる前に進もう。何が待っていたとしても。仮に、それが勝てないとわかっているものでも、俺たちは進んでいく。敵対とはそういうことだ。
「勇者ってやつは、ぽえまー…? ってやつなのか? 一緒にいれば面白いからいいんだけどよ!」
「科学軍の待ち伏せ……兄貴、楽しくなってきたね。こういう冒険、好きだよね!」
「俺はアルトがいれば、なんだって好きだがな」
空は、鉄が擦れあう音に包まれる。それにより、視界は黒く埋め尽くされ、油の匂いとギチギチとした異音が五感を刺激する。危機感は肌から全身に伝わり、危ない、逃げろと悲鳴をあげだした。
────機械の翼を持つ鳥、機械兵ファルコン。気味の悪い目をしたその大群が、俺たちを狩ろうと待っていた。
戦いとは、何かとぶつかることである。敵対とは、運命に対する意地である。負けられない戦いは、常に目の前にある。
それが現実に生きるということだ。
「……負けるもんか、絶対に。俺たちは、ここも勝つんだから!」
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