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魔術、習得したい!

特異点インドタワー

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「……さて、俺の希望になるんなら、それなりの魔術は使えるようになってもらおう。科学打倒に、戦力は多く、そして大きいほうがいい」
「そこら辺の人をスカウトとか、俺がやったほうがいい?」
「そうだな……お前は人と仲良くできるだろう。なら任せたいが……お前、絶対に区別できないだろ。悪人、善人、中立、科学、魔術、無個性なんて」
「わからないから、フィーリングってやつかな、うん」
「任せんぞ、絶対」

 だが、しかし……そういってライチは口元に手を当てる。そして、その目でしっかりと俺を見た。

見分け・・さえつけば、気の合うやつを探せると」
「そうだね、ライチとはそんな感じだと思ってる」
「本当に全部フィーリングだな」

 そうかわかった、と言って、ライチは巾着の中から、トランクケースを取り出した。どういった仕組みで出せるのか、いまいちよくわからないが、ともかく大きさとしてありえないものが出るな、これ。

「……何これ」
「簡単に言えば、部屋のドアだろうか。渡したいものがある」
「……?」

 トランクケースを開けると、そこは人が一人降りられるくらいのスペースがあった。ライチは先に、ついていた梯子はしご を使って降りていく。俺もそのあとについていって降りた。

「ついでだ、そのケース閉めてくれ」
「出られなくならない?」
「仮にそうだとしても、インドなら何ともない」

 言われるがままに、俺はトランクケースを内側から閉める。カチャリと音がしたと思うと、さっき入ってきた入り口がぐにゃぐにゃと歪み始めた。
 空間が歪んでいるのか、はたまたこの部屋だけか。目が回るような感覚にしばらく耐え続けると、歪みが整ってきた。周りを見ると、そこには高い天井ができている。壁はすべて本棚となり、古そうな本やよくわからないもので溢れかえっていた。

「すごいじゃん。あ、これ面白そう!」

 すぐに梯子を下りて、部屋を歩き回る。机も椅子もある、キッチンもある。研究スペースみたいなのもあるし……あ、もう一個扉がある!
 走り回って扉を開けると、また別の部屋。その部屋の扉を開ければ、また別の……ここって、すごく広いんじゃないか? 見て回ってたらキリがない!

「驚いたか、カガリ」
「なんでトランクケースの中に、こんな部屋が? どうなってるの、これも魔術!?」

 すごい、すごい、すごいじゃん! このトランクケースがあれば、生きるのに困らなさそう。だってこの中だけで、すべてが解決してしまう。

「知り合いから譲り受けたものだ。今は俺の物、一人では余るからお前も使うといい。ここには、ほぼすべてがそろっている。書物を漁り、知識を深め、魔術習得に役立ててくれ」
「この本とか、道具とか……全部使ってみていいの?」
「構わん、お前が使うべきだ」

 そういって、ライチは棚の上のメガネを手に取る。少し拭くと、そのまま俺に渡した。

「このメガネ、何?」
「魔術で作ったものではないが……旧式の識別装置だ。それをかければ過去データと照合し、総合的にその人間が何かを識別できる」
「さっき言った6つに分けられるのか」
「そのうちの2つだ、お前にはそこが分かればいらないだろう」

 早速かけてみよう。かけて、小さなスイッチを押すのかな……

「よっ」
「あ、勝手にかけるな。大事な時以外はかけないでくれ、壊れたら部品がない」
「うん、わかった……?」

 試しにライチを見ると、メガネのレンズには「unknown」と表示された。そのデータがないってことかな。あのレーゼンに見つかったときも、今回が初めてとか言ってたし。なんだか壊れそうだから、やっぱり外しておこう。
 それにしても、物は溢れかえっているのに、それは誰のためにもない。なんだか寂しい部屋だ。それにしても落ち着いてみれば、ソファーもあるしベッドもある。なんだかやっと落ち着いて寝られそうだ。そういえば、落ち着いて寝たことあっただろうか。目が覚めてからしっかりと寝たためしがない。

「……ふかふかベッド」
「寝るか? しっかり休んだらいい。その間、窓は開けないでおこう」
「窓あるの、見たい!」

 ライチはやれやれと言いながらも、壁に手をかざした。するとさっきまで何もなかった壁に窓が浮かび上がる。俺は思い切って、その扉を開けてみた。

「な! ん! だ! こ! こ!」
「魔空間インドだが。インドは魔力の濃さが違う。こういった空間ですら可能というわけだ」
「いや、でも……こんな建物!」

 俺たちがいる場所は、どうやら虚構世界の上にある魔空間のインドらしい。しかしここからは地上は見えず、むしろ宇宙のほうが近い。星の見える宇宙と、空の境目のようなものがある。空想世界だとしても、ここが星の限界か。

「あり得ないしどうやって出るか、そう思ったか? トランクから出ればいいし、一番下に降りて塔を出ればさっきの場所だ」
「じゃあ、どうしてトランクから?」
「トランクは扉だって言ったろ。扉がなければ、この特異点には入れない。入れないなら周りからは見えない。虚構空間でも異質な建物だな」

 特異点って、何もかも無限大になるんじゃなかったっけ。じゃあこの建物も、大地よりずっと下に続いているのか。とんでもないものを譲ってもらったんだな。

「特異点・インドタワー……?」
「あの人も、それっぽいことを言っていた。名称はそれでもいいだろう」

 インド要素が微塵もない、西洋風のお部屋ですが。前の持ち主もそういうなら、うん。その人のネーミングダサいな。

「さて、エリア・サムライなら、虚構世界への攻撃もないだろう。しばらくゆっくりできる」
「ここに攻撃……」
「科学は入れないが、攻撃はできる。虚構世界が揺らげばこの特異点も揺ら……!」

 突然地鳴りのような音がすると、特異点が小刻みに揺れ始める。高い建物だからか、だんだん揺れが大きくなる。まさか、言ったそばから攻撃か?

「攻撃なわけ……ないよね?」
「いや、その……これは攻撃だな。エリア・サムライに何かあったんだろう」
「フラグ回収か! って、じゃあどうしたらいいんだよ……」
「当たり前のことだが、虚構世界に攻撃するものを排除、それしかない」
「またここから出るのかよ!」

 落ち着く暇もないが、今は仕方ない。ここで戦えば、ベッドでゆっくり寝られると信じて!

「勝ってみせる、今回も!」

 ……魔空間インドから出るのは簡単だ。インドタワーの出口でダイヤルを回すと直接、現実世界に出られるらしい。なぜ間を挟んで入ったのか、ライチは「現実世界から直接入ると、トランクケースが置きっぱなしだ。危険だろ」とのこと。
 虚構世界に入った場所は、エリア・サムライの端っこ。そこからエリアを見ると、鉄の鳥のようなものが襲撃しているのがわかる。

「結構離れてるな。見たところ6体か」 
「あの鳥……機械兵ファルコンの電磁波だな。虚構世界は、機械が近づくと弱い。あれぐらい離れた電磁波でも揺れる……いや、さすがに建物も悪いな」
「うん、前の持ち主に直してもらったほうがいいよ」
「……あの人は旅に出ていてな、いつ帰るかわからん」

 ライチは俺から目を背けた。さすがに俺では治せないし、電磁波が近づくたびに揺れに耐えるのか……でも、科学軍が近寄ってくるアラームみたいだし、いいかな。

「さて、想像をぶっ放すぜ! かかってこーい!」

 俺は抱えていた本から剣を取り出す、これが結構もたつく。この本ずっと持っとくのか、邪魔だなぁ。するとライチは憐みの目で、緑の巾着を渡して来た。

「使え、邪魔くさい」
「俺もそう思う、ありがとう」

 本を巾着にしまい、それを越しから下げる。さて、今度こそ戦闘だ。俺とライチはスケボーに乗ると、機械兵ファルコンめがけて飛んでいく。狭いスケボーだが、それもわずかな時間。
ファルコンの真上で、俺はスケボーから飛び降りる。振り下ろした剣は、天からの一撃。空は空に勝てない!

空想斬撃イマジナリースラッシュ!」

 一撃で粉砕されたファルコンを横目に見て、俺は落下する。下にはライチが構えており、俺を抱えるともう一度空へと上がる。

「もう一回落ちろ。あと一体は俺がやる」 
「酷くない?」

 そう言いながらも、俺はもう一回スケボーから落ちる。そのあとのことはわからないが、もう一体を粉砕したが……これ拾ってくれる人いなくない? 何か、そう……落ち着いて考えろ、呪文には決まりがある。分類がはっきりしていれば、あとはテキトーに言えば当たるかもしれない。自分でできる限りはやっておく!

「俺は跳べる、存在、跳躍アイデンティティジャンプ!」

  自己暗示気味に唱えると、俺の足は宙で跳ねあがる。不安定ではあるが、俺は空中でジャンプしていた。トランポリンの上にいるような感覚だが、この調子であと一体は倒せるだろう。ここまでくれば、物は試しだ。

「ファルコンは切れる、存在、切断アイデンティティカット!」

 その剣は魔術で強化され、ファルコンを綺麗に両断する。手ごたえとしては、こちらのほうが軽い。魔力の消費と関わってくるんだろう、これならいくらでも行けそうだ。案外大したことはないのか、この機械兵。

「おーい、ライチ。あと一体か?」
「……教えてないのに、何故……いや、いい。こっちも2体焼いた。あと一体が逃げている」

  ライチの反応は置いておくとして、機械兵ファルコンが一体、エリアの中心に向かって飛んでいる。撃ち落とせそうなのは、俺たちしかいない。

「よし、少し離れているし、デヘメルマーティザイトで……」
「……一気に決めるのか、いいねぇ勇者サマだ」

 ────ライチじゃない声、気づいたときには遅かった。空中だというのに、俺は誰かに背後を取られる。振り返るとそこには、左目を隠した侍のような男性がいた。突然のことに驚くしかない、空飛ぶ侍?

「侍……?」
「アホみたいな顔。いい反応だ、気に入ったぜ!」
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