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魔術、習得したい!
空飛ぶスケボー
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「……勝ったの?」
「逃げるが勝ち、みたいなものだがな…」
「やった、科学に勝ったの? え、本当!?」
「だいたいお前のおかげだ。ありがとう、カガリ」
それにしたら……右手に剣、左手に本、そして体は抱えられ……この国の管理者に勝った気はしないなぁ。
でも、感謝されると悪い気はしない。俺のあの状況で、ここまでできたことはよかったと思ってる。やっと一安心だ。
「次はもっとうまく勝てるように、魔術の練習頑張るよ。だから、もうちょっとまともな所で教えて……?」
するとライチは大きくため息をつく。抱えられているので、顔は見えないが、なんだか残念そうにも聞こえる。
「……そうだな、思い出さないならそれでいいだろう。ちょうどいい、今から向かう場所は、俺の休憩地点────エリア・サムライだ」
「エリア……!」
エリア・サンサーラのことを思い出す。俺はあそこに向かう、それが俺の目的だと話さなければいけない。落ち着いたらそのこともライチに話そう。
それにしても、エリア・サムライか。なんだか昔の日本っぽくて、わくわくしてきた! けど、俺の知っている侍って、魔術と全然関係なかったような……
それでもいいか。今はただ、この勝利の充実感と、顔が吹き飛びそうな空の旅を、味わいながら────この時を駆けていこう。
「行くぞ、カガリ。旅の覚悟はできてるか」
「あぁ、もちろん。こういった、スケボー空の旅もまたやるの? 楽しいからいいけど、危険じゃないかな」
幸いにも抱えられてるから、落下はしないけど……ん? スケボーは真っすぐ飛ぶし、空気抵抗は受けないし、そもそもちゃんと喋れてるって……物理法則ぶった切ってない!?
「ってか、科学要素無視してるよね、これ!」
「人は科学に強く、科学は魔術に強く、魔術は人に強い。不利な三すくみだからこそ、魔術とは科学を逸脱するものだ」
「そんな理由のスケボー!?」
「……基本、魔術師は空を飛ばない、消耗が激しいからな。飛ぶときは軽く、地上でも走りやすいものが好まれる。俺がたまたまスケボーだっただけだ」
「空気抵抗とか、そういったのはやっぱり魔術?」
「そうだな、これには防御壁を使って……いや、空中での説明はやめよう。希望通り、まともなところで教えなきゃな」
こうして、俺たちは空を走る。いくつかの疑問は、空想と創造と、魔術でだいたい丸め込む。そりゃあ、それでは解決できない問題もたくさんあるけれど、先に目の前の問題を、簡単なことからはっきりさせていこう。きっと、レベル上げのようなもの。小さなことからコツコツ重ねて、大きな敵を倒すんだ!
────この知識は、誰の物か。明らかに現代ではない、この記録は何者か。それはまた、置いておこう。
……ひどい話だ、こんなことで昔を思い出すなんて。それは同じものじゃないのに、どうしても繋げてしまう。それが人間の、心の悪い癖だ。
「────ねぇ、そこの君。乗りやすい乗り物を知らない? こう……軽くて、早くて……」
「……スケートボードとか? 同僚の子の置き忘れだけど、使いたければどうぞお好きに」
「ほぉ、スケートボード! 自転車とかだと思ったけど、これはいいね」
その人は、まるでスケートボードを初めて見たかのように、興味津々だった。新しいことに目がなくて、真っすぐで、何事においても楽しむ人。一発でわかる、この人は研究者の類だと。
「いやぁ、実に新鮮でいい考えをもらった。やはり、人類の最先端を行く科学者は違う」
「……え、なんで。それは一部の人しか……」
「そうだね、隠してる。でも私は、隠れてる世界の人間でね。科学の秘密はだいたい知っている────君がもう、助からないことも」
その人はお見通しで、まさに我々の敵だった。だが、そんなことは気にしていない素振り。この世界を人と科学が支配しても、どれだけ進歩しても、この人には及ばない。余裕を感じさせる、その目。
「この目は、そういったことには使わないんだけど、やっぱり君は助けたいよね。この先世界を動かせる、最後の影響者になりそうだし。ここで終わるのは、星の法則を捻じ曲げることになるよなぁ、うん」
「一人で何をブツブツと……」
「とりあえず、そうだなぁ、私は君を助けたい。この世界のために、未来のために、有能な人材は失いたくないんだ」
嘘は言っていない、しかし表情にはこれと言って変化がなく、常に笑みを保つ。不気味だ、感情なんて読み取らせてくれない。
「だから、君が長く生きるために、私の弟子になってはくれないか? 科学ではたどり着けない、天を、地を、世界を見せよう!」
「……胡散臭い、魔術師か何か? それはお断り、だって無理だ。人間はそれができないから、科学へ手を伸ばした!」
「ほーん、夢を諦めるほど、深刻なんだな。いいだろう、このスケボーで空想と現実の狭間まで連れて行こう」
「はぁ? 何言って……」
「人の想像が及ぶ範囲が、魔術だ。そして、人の思い描く空想の世界。それを作るのが、魔法使いだよ」
その人はそう言って無理やり抱きかかえると、スケボーに助走をつけて、 そのまま空へ駆け上がってしまった。バカみたいだ、それはすでに想像を超えている。板に乗るだけで空を飛ぶなんて、人間には早すぎる。
「あぁいいね、これ。スケボーで空の旅も、案外悪くないな。この年で新発見かー、人間って面白ーい!!」
笑っている。空を飛ぶ非日常を、日常のように楽しんでいる。そこは常に新鮮で、常に発見で、常に面白い。それはとても今の自分ではできなくて、とても遠い存在だ。こんな夢を見せる存在を、世間は「魔法使い」と呼ぶのだろう。
────あぁ、私もこの人のようになれたら。私はこの時、この男を見て思った。弟子になってもいいかもしれない、夢を追いかけるのも、悪くはないのかも、と────
「逃げるが勝ち、みたいなものだがな…」
「やった、科学に勝ったの? え、本当!?」
「だいたいお前のおかげだ。ありがとう、カガリ」
それにしたら……右手に剣、左手に本、そして体は抱えられ……この国の管理者に勝った気はしないなぁ。
でも、感謝されると悪い気はしない。俺のあの状況で、ここまでできたことはよかったと思ってる。やっと一安心だ。
「次はもっとうまく勝てるように、魔術の練習頑張るよ。だから、もうちょっとまともな所で教えて……?」
するとライチは大きくため息をつく。抱えられているので、顔は見えないが、なんだか残念そうにも聞こえる。
「……そうだな、思い出さないならそれでいいだろう。ちょうどいい、今から向かう場所は、俺の休憩地点────エリア・サムライだ」
「エリア……!」
エリア・サンサーラのことを思い出す。俺はあそこに向かう、それが俺の目的だと話さなければいけない。落ち着いたらそのこともライチに話そう。
それにしても、エリア・サムライか。なんだか昔の日本っぽくて、わくわくしてきた! けど、俺の知っている侍って、魔術と全然関係なかったような……
それでもいいか。今はただ、この勝利の充実感と、顔が吹き飛びそうな空の旅を、味わいながら────この時を駆けていこう。
「行くぞ、カガリ。旅の覚悟はできてるか」
「あぁ、もちろん。こういった、スケボー空の旅もまたやるの? 楽しいからいいけど、危険じゃないかな」
幸いにも抱えられてるから、落下はしないけど……ん? スケボーは真っすぐ飛ぶし、空気抵抗は受けないし、そもそもちゃんと喋れてるって……物理法則ぶった切ってない!?
「ってか、科学要素無視してるよね、これ!」
「人は科学に強く、科学は魔術に強く、魔術は人に強い。不利な三すくみだからこそ、魔術とは科学を逸脱するものだ」
「そんな理由のスケボー!?」
「……基本、魔術師は空を飛ばない、消耗が激しいからな。飛ぶときは軽く、地上でも走りやすいものが好まれる。俺がたまたまスケボーだっただけだ」
「空気抵抗とか、そういったのはやっぱり魔術?」
「そうだな、これには防御壁を使って……いや、空中での説明はやめよう。希望通り、まともなところで教えなきゃな」
こうして、俺たちは空を走る。いくつかの疑問は、空想と創造と、魔術でだいたい丸め込む。そりゃあ、それでは解決できない問題もたくさんあるけれど、先に目の前の問題を、簡単なことからはっきりさせていこう。きっと、レベル上げのようなもの。小さなことからコツコツ重ねて、大きな敵を倒すんだ!
────この知識は、誰の物か。明らかに現代ではない、この記録は何者か。それはまた、置いておこう。
……ひどい話だ、こんなことで昔を思い出すなんて。それは同じものじゃないのに、どうしても繋げてしまう。それが人間の、心の悪い癖だ。
「────ねぇ、そこの君。乗りやすい乗り物を知らない? こう……軽くて、早くて……」
「……スケートボードとか? 同僚の子の置き忘れだけど、使いたければどうぞお好きに」
「ほぉ、スケートボード! 自転車とかだと思ったけど、これはいいね」
その人は、まるでスケートボードを初めて見たかのように、興味津々だった。新しいことに目がなくて、真っすぐで、何事においても楽しむ人。一発でわかる、この人は研究者の類だと。
「いやぁ、実に新鮮でいい考えをもらった。やはり、人類の最先端を行く科学者は違う」
「……え、なんで。それは一部の人しか……」
「そうだね、隠してる。でも私は、隠れてる世界の人間でね。科学の秘密はだいたい知っている────君がもう、助からないことも」
その人はお見通しで、まさに我々の敵だった。だが、そんなことは気にしていない素振り。この世界を人と科学が支配しても、どれだけ進歩しても、この人には及ばない。余裕を感じさせる、その目。
「この目は、そういったことには使わないんだけど、やっぱり君は助けたいよね。この先世界を動かせる、最後の影響者になりそうだし。ここで終わるのは、星の法則を捻じ曲げることになるよなぁ、うん」
「一人で何をブツブツと……」
「とりあえず、そうだなぁ、私は君を助けたい。この世界のために、未来のために、有能な人材は失いたくないんだ」
嘘は言っていない、しかし表情にはこれと言って変化がなく、常に笑みを保つ。不気味だ、感情なんて読み取らせてくれない。
「だから、君が長く生きるために、私の弟子になってはくれないか? 科学ではたどり着けない、天を、地を、世界を見せよう!」
「……胡散臭い、魔術師か何か? それはお断り、だって無理だ。人間はそれができないから、科学へ手を伸ばした!」
「ほーん、夢を諦めるほど、深刻なんだな。いいだろう、このスケボーで空想と現実の狭間まで連れて行こう」
「はぁ? 何言って……」
「人の想像が及ぶ範囲が、魔術だ。そして、人の思い描く空想の世界。それを作るのが、魔法使いだよ」
その人はそう言って無理やり抱きかかえると、スケボーに助走をつけて、 そのまま空へ駆け上がってしまった。バカみたいだ、それはすでに想像を超えている。板に乗るだけで空を飛ぶなんて、人間には早すぎる。
「あぁいいね、これ。スケボーで空の旅も、案外悪くないな。この年で新発見かー、人間って面白ーい!!」
笑っている。空を飛ぶ非日常を、日常のように楽しんでいる。そこは常に新鮮で、常に発見で、常に面白い。それはとても今の自分ではできなくて、とても遠い存在だ。こんな夢を見せる存在を、世間は「魔法使い」と呼ぶのだろう。
────あぁ、私もこの人のようになれたら。私はこの時、この男を見て思った。弟子になってもいいかもしれない、夢を追いかけるのも、悪くはないのかも、と────
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