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魔術、習得したい!

ずらすのは勝利の道

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魔術の壁マギア・ムーロ わけは後で聞こう。その前にその本だ」

 本と弾丸の隙間に、一枚の布のようなものが入る。手に伝わる電流は途絶えて、なんとか俺は生還できた。

「ライチ! 動けるように……」
「どうなっているんだ、これ……それはそうと、その本は空想を現実にする物。一人につき一冊だ、有効に使え」
「どういうこと? それに、どうやって……」
「難しいことは言わない方が上手くいく。今は想像が武器になると思っておけ」

 空想を現実にする、想像の武器……空想はあり得ないことだから、そのあり得ないをどこまで考えられるか、これが鍵になりそうだ。

空想実現イマジナリーリアライズ それが第一分類。分類がはっきりしていればいい、呪文は好きに唱えろ。自由に想像し、ここを打破するんだ」

 ライチは俺の手を本にそっと置き、そして優しく手を重ねた。すべてを丸め込みそうな優しい手。何もわからないのが、どうでもよく感じる。

「お前ならできる。俺はお前を信じている。自由、それは最大の味方だ」

 呪文は好きに唱えたっていい。それが感情を、想像を具現化する。俺でもきっとできるし、ライチが信じてくれている。

「わかってる。目でわかるよ」

 なら、大丈夫。俺は笑顔で答えると、本を開いた。何も書いていないなら、俺がそれを書いてやる。

空想実現イマジナリーリアライズ 我が存在は、空想に突き立てる剣────想像し得る最強の剣イマジネーション・サーベル!」

 本は光り輝く。現実は歪められ、空想との境目を曖昧にさせる。その前には科学も魔術も無力だ。空想は誰の物でもない、だが想像はその人の物。

 ……そして想像は、その人が持つ可能性すべてである。


 ────これが、今のができる、想像の限界だ。 


「剣……!? その程度っ……」

 少女の放つ弾丸は、その剣の前には無力。宙に浮く虫も無力、俺は逃げも隠れもしない。

「例え、あなたに弾丸が効かなくとも、剣は空を刺せない」
「そうだな、剣は空に勝てない。普通はな・・
「!?」

 翼を羽ばたかせ、俺と距離を取る。その距離は、剣では到底届かない、空。そこからいくつもの弾丸を打っても、何発の雷を打たれようと、無数の爆弾を落とされようと、今の俺には叶わない。

「……どうして、どうしてよっ! 理解できない、想定外。想像や空想なんて不確定なもの。武器にすれば、あなたの存在だって危ういのに!」
「俺の想像では死なないんだよ。それに空だって、この剣で刺せる」

 遠くの機会兵が放つ砲撃も、今の俺には皆無。これこそが、想像の極み────

空穿つ時の一撃デヘメルマーティザイト!」

 その剣は想像の範囲において、無敵となる。想像は形を持ち、空想を叶え、限定的に星の法則を塗りつぶす。
 ────剣は、空を飛ぶ鉄の鳥を、貫いたのだ。突き上げるような、そのたった一撃で。

「やったか!?」

 俺は空を見上げる。確かにこの剣は、貫いた。だが撃ち落としたかは別だ。少女の片翼は砕けはしたが、落ちることはなかった。

「……!」
「残念ね、狙いは外れたみたい……私がずらしたのだけど。これが想像が引き起こす、計算外」

 その左目は、赤く輝く宝石のように綺麗だ。だがそれは人のものじゃない。

「こっちは魔眼持ちよ。魔術と科学は効率よく合わせなくっちゃ」
「魔眼……?」
「えっ……ちょ……魔眼知らないの?  あなた本当にユリウスの果実?」
「えっ────」

 返事に困る。俺はユリウスなんて知らないし、それ以上なんてもっとわからない。彼女は俺を知っているのか、俺は誰か。その一瞬の間に、彼女は砕けた片翼から何かを取り出した。それはガシャガシャと音を立て変形し、機関銃の形になる。
 あれは、折りたたみ式の機関銃なのか! だとすれば、銃口が向けられてて、まだマズイ!

「もう一回……!」
「いや、やめておけカガリ。屈折の魔眼持ちに、遠距離攻撃は当たらない。ここは引くぞ」
「でも、どうやって……」
「あちらが軌道をずらすなら、こちらも世界から存在をずらせばいい」

 ライチは目薬を取り出すと、左目に一滴落とす。

「魔眼、限定解放」

 その目が黄色に輝いたかと思うと、すぐに色を無くした。

「よし、飛ぶぞ。捕まれ!」

 次にライチが巾着から取り出したのは、スケートボード。
 いや、なんで? この時代にスケートボードは見ない。俺の常識がいつの時代かはさておき、科学と魔術のぶつかる世界で、どうしてこうもアナログなものが出てくるのか。
 しかし、そんなのお構いなしにライチが先に乗ったかと思うと、今度は俺が抱きかかえられた。さっきと違う展開に、俺は思わず声を出す。

「おわっ、ちょ、くすぐったい!」
「言ってる場合か! 」

 そして、アナログスケボーは空を飛ぶ。空を走るように、弾丸は雑踏を抜けるように避けていく。
 えぇっ、飛ぶのかこれ……とても飛ぶようなものには見えない板だが、間違いなく飛んでいる。それはよく聞く魔法の絨毯より小さく、地を走る車よりも早い、意外だな。少女も片翼で追いかけるが、さっきのでスピードが遅い。

「何よ、全然当たらない! エネル、人工衛星から座標を!」

 機械兵からの砲撃は、ギリギリ当たらない。少女の機関銃も当たらない。少女が誰かに連絡しているが、それすら遠のくほど、遥かにスケボーが早い。

「連絡が、繋がらない! あなたいったい何をしたの!」
「目には目を、魔眼には魔眼を。お前が受動的に対し、俺は能動的。俺たちの存在は、今だけは誰も正確に認知できない」
「わかっているの、それはこの世界から自分が消し飛ぶ・・かもしれないのよ。そしてそれは続かない。この空に人工衛星がある限り、あなたたちは逃げられない」
「いつでも潰せる、わかっているさ。だから俺たちはお前たちに敵対する。全力で戦い、抵抗し続けるとも」

 ライチはそう言って空を見上げる。高速で動く空、そして無数の輝く物体。例え太陽が出る昼間でも、人工衛星その星 はあり続ける。それが科学の走り続ける最先端だと、俺は理解した。
 ……俺は、いつの時代を見て、ここを今と呼ぶのか。
 困惑する少女に、ライチは堂々と宣言する。ここからが俺たちの、戦いだ。

「レーゼン、俺たちは科学首都へ向かう。また会うだろう、その時は全力で魔眼を殺す」

 彼女に、ライチは捨て台詞のように告げた。そしてスケボーはさらに加速し、完全に機械兵たちを振り切る。あの少女の悔しそうな声が、少しだけ聞こえた。音すらたどり着けないような速さ、大丈夫かこのスケボー。
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