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第二章~5億の男は大変です~
チャプター・ハーフタイム
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次の日、俺はさっそく金城さんと連絡を取った。確かに、気が動転していたあの時に、このことに気付いていればよかったのかもしれない。金城さんは、俺を知っていた。ならば、聞くべきだったのだ。俺が何者かを。
しかし、金城さんもやはり忙しいらしく、夜に街のバーで待ち合わせることになった。俺も、今日も母さんの看病は冬馬さんに任せてしまったし、トップって案外動き続けるんだなぁ。
「オシャレな……バーだな……」
待ち合わせ場所のバーに入ると、何とも高級な雰囲気が漂う。俺も一応スーツで来てはいるものの……なんだろう、雰囲気なのか、存在なのか、わからないが浮いている気がする。23歳にはまだ早い、大人な世界がそこにはあった。
もちろん、バーの仕組みなどわかるわけないので、とりあえず人を待っていることを伝えた。それがどうやら正解だったらしく、俺はカウンターに座ることになった。なるほど、まずは声をかけるのか。
「あ……あの、バーは初めてなので、おすすめとかあります?」
恥ずかしいかもしれないが、知ったかぶりのほうがよっぽど恥ずかしいので、もちろん聞く。いろんなおすすめを聞いてみたが、そもそもお酒が飲める人間じゃなかったことに気付いた。そして、いろんなおすすめを聞いた中、結局、カルーアミルクにたどり着き、飲むことになった。
「カルーアミルクは、女性に人気なんですよ。どうですか、お味は」
バーテンダーの方が聞いてくる。やばい、おいしい。語彙力が足りなくなるほどおいしい。
「甘いんですね。なんか、カフェオレっぽい」
「待っている方が女性なら、ぜひおすすめしてみてください」
「あっ……えっと、今から来るのは、上司で……」
するとバーテンダーの方が、突然、真剣な顔をしたと思ったら、俺の隣に、いつの間にか金城さんがいた。
「ごゆっくり……」
何も言わずに、俺にはよくわからないお酒を、金城さんは出してもらっていた。相当常連なんだろうな。
「あぁ、誰かと一緒にお酒を飲むなんて久しぶりだ。社長を……いや、ここでは何と呼べばいいかな。会社でなくとも……」
「いや、進でいいです。敬語とかもいいですよ。俺は年下ですし、影山明は、ビジネスネームなんで」
すると、金城さんは納得したようにうなづいた。
「あぁ、ビジネスネームか。いやはや、記憶と名前が違うから、びっくりしていたんだよ」
「……やっぱり、知ってるんですか。俺のこと」
「むしろ……覚えていないのかい?」
俺は言いにくいが、本当のことを口にする。
「……7歳より前の記憶がないんです」
「あぁ……ちょうど、誠一郎の事故死か。まさか、事故に?」
「えぇ、俺も被害にあったみたいで」
「……そうか、大変だったろう。ここまでよく上がってきた。よく戻ってきたね」
え……戻って、来た?
「やはり、どうなろうと、社長の息子だ。進くん、君には社長になる資格があった。どんなことがあれ、その道が閉ざされてはならない」
────母さんのあの言葉を彷彿とさせる、その言葉。
「進、あなたは才能ある子供よ。その才能を、私たちが足を引っ張ることで、潰してはいけないわ」
母さんは、このことを言っていたのか? 俺の父さんが、社長であることを知っていて?
「あの……俺、父さんとの思い出がなくて、父さんがどんな人だったか、わかりますか?」
「あぁ、そうか、そこまでないんだね。そうだな……進くんが6歳の頃のあの人は……」
……腕を組み、懐かしむように目を閉じる。
「あぁ、あの頃は……とても仕事熱心な人だった。常に社員のことを考え、常に人のために動いた。いい人だったよ。我々の生活は潤った。進くんには……どんなことをしていたのかわからないけども、とても信頼できる人だったのは確かだ」
そして、目を開き、俺を真っすぐな瞳で見つめる。その瞳は、老いたとは思えない、若い瞳をしていた。
「懐かしいね、若かりし頃、一緒に仕事をしていた……まさにあの頃の彼だよ」
「そんなに、似てますか?」
「写真を……持っていないのかい?」
「えぇ、父の写真は持っていなくて。探してもないんです」
すると、金城さんは気になることを言った。
「それもそうだろうね。あぁ、今日は持ってくるのを忘れてしまった。また近いうちに会えないか、ぜひとも、若いときの写真を見せたいんだ」
それもそう……? 母さんが処分したとか? それとも義理の父親だから、一緒に撮った写真がないとか?
もしそうなら、願ってもないことだ。記憶にない、父さんの姿が見れるなら、何度でも金城さんに会うとも……!
「すまない、私から呼んでおいて申し訳ないが、会社仲間からこの後呼ばれているんだ」
「では……またお会いできますか?」
金城さんの笑顔は優しい。まるで、子供を見るかのように、朗らかな笑顔で手を振る。
「あぁ、また会おう。連絡させてほしい、進くん」
そう言って、金城さんは颯爽とバーを出ていった。まさに、大人の男。要件はしっかりと伝えて、時間に無駄はない。会社仲間と飲みに行くのもまた仕事……さすがベテランだ。
「俺も……あんな大人になれるかな……」
ああやって、子供の代まで面倒が見れるような、素敵な大人に。
「もう一杯飲まれますか?」
「あ、お願いします……!」
なんだか、大人になれる気がして、俺はもう一度カルーアミルクを注文した。あんな短時間だったが、金城さんのグラスはカラだ。もともと、ものすごいスピードでお酒が飲める人なんだろうな。バーテンダーの人も何も言わないし。
────記憶は、お酒の影響もあってか、混濁してくる。なんだか、飲みすぎたんだろうか。こんなお酒飲んだことないもんな。
……次第に薄れゆく意識の中、記憶の断片を見た。若いときの……金城さん……俺の隣にいたのは確か……
しかし、金城さんもやはり忙しいらしく、夜に街のバーで待ち合わせることになった。俺も、今日も母さんの看病は冬馬さんに任せてしまったし、トップって案外動き続けるんだなぁ。
「オシャレな……バーだな……」
待ち合わせ場所のバーに入ると、何とも高級な雰囲気が漂う。俺も一応スーツで来てはいるものの……なんだろう、雰囲気なのか、存在なのか、わからないが浮いている気がする。23歳にはまだ早い、大人な世界がそこにはあった。
もちろん、バーの仕組みなどわかるわけないので、とりあえず人を待っていることを伝えた。それがどうやら正解だったらしく、俺はカウンターに座ることになった。なるほど、まずは声をかけるのか。
「あ……あの、バーは初めてなので、おすすめとかあります?」
恥ずかしいかもしれないが、知ったかぶりのほうがよっぽど恥ずかしいので、もちろん聞く。いろんなおすすめを聞いてみたが、そもそもお酒が飲める人間じゃなかったことに気付いた。そして、いろんなおすすめを聞いた中、結局、カルーアミルクにたどり着き、飲むことになった。
「カルーアミルクは、女性に人気なんですよ。どうですか、お味は」
バーテンダーの方が聞いてくる。やばい、おいしい。語彙力が足りなくなるほどおいしい。
「甘いんですね。なんか、カフェオレっぽい」
「待っている方が女性なら、ぜひおすすめしてみてください」
「あっ……えっと、今から来るのは、上司で……」
するとバーテンダーの方が、突然、真剣な顔をしたと思ったら、俺の隣に、いつの間にか金城さんがいた。
「ごゆっくり……」
何も言わずに、俺にはよくわからないお酒を、金城さんは出してもらっていた。相当常連なんだろうな。
「あぁ、誰かと一緒にお酒を飲むなんて久しぶりだ。社長を……いや、ここでは何と呼べばいいかな。会社でなくとも……」
「いや、進でいいです。敬語とかもいいですよ。俺は年下ですし、影山明は、ビジネスネームなんで」
すると、金城さんは納得したようにうなづいた。
「あぁ、ビジネスネームか。いやはや、記憶と名前が違うから、びっくりしていたんだよ」
「……やっぱり、知ってるんですか。俺のこと」
「むしろ……覚えていないのかい?」
俺は言いにくいが、本当のことを口にする。
「……7歳より前の記憶がないんです」
「あぁ……ちょうど、誠一郎の事故死か。まさか、事故に?」
「えぇ、俺も被害にあったみたいで」
「……そうか、大変だったろう。ここまでよく上がってきた。よく戻ってきたね」
え……戻って、来た?
「やはり、どうなろうと、社長の息子だ。進くん、君には社長になる資格があった。どんなことがあれ、その道が閉ざされてはならない」
────母さんのあの言葉を彷彿とさせる、その言葉。
「進、あなたは才能ある子供よ。その才能を、私たちが足を引っ張ることで、潰してはいけないわ」
母さんは、このことを言っていたのか? 俺の父さんが、社長であることを知っていて?
「あの……俺、父さんとの思い出がなくて、父さんがどんな人だったか、わかりますか?」
「あぁ、そうか、そこまでないんだね。そうだな……進くんが6歳の頃のあの人は……」
……腕を組み、懐かしむように目を閉じる。
「あぁ、あの頃は……とても仕事熱心な人だった。常に社員のことを考え、常に人のために動いた。いい人だったよ。我々の生活は潤った。進くんには……どんなことをしていたのかわからないけども、とても信頼できる人だったのは確かだ」
そして、目を開き、俺を真っすぐな瞳で見つめる。その瞳は、老いたとは思えない、若い瞳をしていた。
「懐かしいね、若かりし頃、一緒に仕事をしていた……まさにあの頃の彼だよ」
「そんなに、似てますか?」
「写真を……持っていないのかい?」
「えぇ、父の写真は持っていなくて。探してもないんです」
すると、金城さんは気になることを言った。
「それもそうだろうね。あぁ、今日は持ってくるのを忘れてしまった。また近いうちに会えないか、ぜひとも、若いときの写真を見せたいんだ」
それもそう……? 母さんが処分したとか? それとも義理の父親だから、一緒に撮った写真がないとか?
もしそうなら、願ってもないことだ。記憶にない、父さんの姿が見れるなら、何度でも金城さんに会うとも……!
「すまない、私から呼んでおいて申し訳ないが、会社仲間からこの後呼ばれているんだ」
「では……またお会いできますか?」
金城さんの笑顔は優しい。まるで、子供を見るかのように、朗らかな笑顔で手を振る。
「あぁ、また会おう。連絡させてほしい、進くん」
そう言って、金城さんは颯爽とバーを出ていった。まさに、大人の男。要件はしっかりと伝えて、時間に無駄はない。会社仲間と飲みに行くのもまた仕事……さすがベテランだ。
「俺も……あんな大人になれるかな……」
ああやって、子供の代まで面倒が見れるような、素敵な大人に。
「もう一杯飲まれますか?」
「あ、お願いします……!」
なんだか、大人になれる気がして、俺はもう一度カルーアミルクを注文した。あんな短時間だったが、金城さんのグラスはカラだ。もともと、ものすごいスピードでお酒が飲める人なんだろうな。バーテンダーの人も何も言わないし。
────記憶は、お酒の影響もあってか、混濁してくる。なんだか、飲みすぎたんだろうか。こんなお酒飲んだことないもんな。
……次第に薄れゆく意識の中、記憶の断片を見た。若いときの……金城さん……俺の隣にいたのは確か……
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