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偽りの世界、俺にはそう見える。
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……それから、俺は何事もなく家に帰った。なんというか、突然何かしようと思っても、できるもんじゃない。人の価値を考え、意味を探し、目的を作る。疑問に思っていたことに決着をつけ、すべてを変える……はずだったのだが……
「手始めに何やったらいいんだ、俺」
ここまで来ておいて、俺はまず何をやったらいいのかわからない。中二病が治り切っていない心が、不純な人間を滅ぼすと言ったとしてもだ。
────滅ぼす。それは、自らの手で命を潰すこと。その覚悟を人は、持ち合わせているのか。
「殺す……か……」
もちろん、俺が手に掛けようと、そうでなかろうと、しばらくすればギーベリに滅ぼされることは確かだ。つまりこの星の命は、すべて「終わりがある程度近い」命である。俺もその中の一人である以上、短い時を好きに過ごしたっていいだろう。
だが……俺の考えで他人の時間を奪ってしまうことが、怖かった。考えれば考えるほど、この手にのしかかる重圧は計り知れないものになっていく。
────滅びとは、本当にすべきことなのだろうか。誰かから最後の時を、奪ったりはしていないか。
「……なーんてことは、決めきれない俺なのでした……っと」
誰もいない家で、俺はひとり呟く。それを否定する人も、肯定する人もいない。誰も振り向いてくれない、誰も聞いてくれない。誰も……俺の考えはわかってもらえない。右目をそっと隠すように、救急箱から眼帯を取り出してつける。
これが間違いなのかも、これが正しいのかもわからない、宙ぶらりんの気持ち。しかしそれが俺の平常運転だ。何気なくテレビをつけ、夕方のニュースにチャンネルを合わせる。
「────先ほど、北中市中心部で、18人が殺傷される事件が発生しました。被害者は全員死亡、犯人はいまだ逃走中とのことです。繰り返します……」
……あぁ、またこんなニュースか。ギーベリが来る前だって、通り魔なんか日常茶飯事だった。それがこの世界の抱える異常だということを、認識している人のほうが少ない。人類の滅びがほぼ決定した1週間前から、こんな事件は取り締まれないレベルで増え始めた。一日が終われば、誰かがどこかで死んでいる。知っている限り、日本全国そうだ。
「北中市って、ここじゃねぇか……」
ついに、身近にこんなことが発生するようになったか。日本全国に、いや世界中に、人の悪意はウイルスのように広がっていく。それを俺はただ見ていることしかできない。そう────ついさっきまでは。
これこそ、滅ぼすべき悪ではないか? 誰かにとっての理不尽ではないか?
────滅びの夢は、叶えるべきではないか。最後に人間が人間としてあるために────
気づけば俺は、家を飛び出していた。ひょっとしたら、俺がそんな悪を滅ぼせるんじゃないかって、壊れた理想を持ちながら、市街地へ走っていく。その足はいつもより軽く、いつもより早く、俺を運んでいく。それは心か、それとも滅びの概念かはわからない。それでも、確かに持っていたのは……
「この世界は、理不尽で……間違ってるっ!」
まるでその言葉が燃料のように、駆ける足は速くなっていく。その速さに思わず、眼帯は外れていった。
「あっ……眼帯……えっ?」
……その時だ、この異常な右目は世界を捉える。それは、左目で見る世界とは全く違っていた。
「……なんだよこれ、地獄かよ!」
捉える世界は真っ赤だ。黒い線や帯のようなものが、あちらこちらに張り巡らされている。その目で捉えた人は、とても人の姿とは思えない。まるで、悪魔か怪物のようだ。
信じられない光景に、俺は左目を塞ぐ。異常な右目で、異常な世界を見る。その黒い線を手に取って確かめる。左目ではありえないものに手を伸ばす。
「触った感じ、なんだか生暖かいな。こっちの線は、なんだか冷たい……?」
線に感触はないが、温かさはあった。その線は周辺の怪物……いや、人間にいくつか繋がっている。これはいったいなんだ?
帯を触るとかなり熱く、長時間触れるものではなかった。だがそれはあくまで左手での話。俺は左目を押さえる手を変え、黒い腕輪のついた右手で、帯を触る。
────瞬間、脳に伝わってきたのは、誰かを襲っている記憶。もっと見ようと、その記憶を心が許した途端、黒く濁った感情の波のようなものがどっと押し寄せてきた。
「なんだこ……っ……ぐっ!」
手の感覚は耐えきれず、脳は千切れるかの如く痛む。胃からはせりあがってくる吐き気、全身には痛みと悪寒。呼吸は次第に悪化していき、黒い帯が細い線を張り巡らせながら、心臓へと入り込んでくる。
「あがっ……ぐぁぁぁっ!」
まともな精神は保てない。正常な判断も下せない。命を奪われる絶体絶命の状況。この状況で何ができる、突如現れた脅威に、何ができる。
……こんなの、理不尽だ。悪意以外の、何物でもない────!!!
最後の力を振り絞り、右手を握りつぶす。すると、その帯がドクンと大きく波打った。それと同時に、体を駆け巡っていた悪意は、たちまち消えていく。いいや、これは……
「滅ぼされたのか、悪意が……?」
何がどうしてこうなったのか、そして解決できたのか。その意味や理由を追求しだしたら、わからないことばかりだろう。しかしその手の感触は確かに、何かを握りつぶした感触だった。
だが、黒い帯は細くはなったものの、ずっと先まで続いている。いいや、この帯……市街地中心部から反対方向へ流れている? 右手はピリピリと痺れるような感覚が続いている。さっきのように飲み込まれそうなことはないが、もしさっき見た記憶を、感情を、悪と呼ぶならば……
「もしかして、この悪意は、犯人のか……!」
方向を変え、帯から手を放し、その悪意を追いかける。左目の映し出す景色は、この世の物とは思えないものが続く。いつも見ていた街が、こんなにも黒く汚れていると訴えかける。目に見える黒が悪意なら、この世界はやっぱり────間違っている。
……悪意を追いかけた先、建物の路地裏。人目につかない場所へ、それは続いていた。ゴミ箱の後ろ、そこにはうずくまって震える、怪物の姿があった。
「ひっ……なんだよ、お前っ……!」
俺は少しだけ、左目の眼帯をずらした。そこには確かに、人間がいる。怪物として見ているのは右目だけだと、もう一度確かめた上で眼帯を再び付けた。
「お前も……殺すぞ、殺してやる……!!」
「……なんで殺すの」
「……は?」
首元にナイフをあてられているのがわかる。怪物から伸びている悪意の線が、俺の腕に絡みついているのがわかる。それでも不思議と恐怖はなく、俺はただ真っすぐ、怪物を見つめていた。
「なんで……あんたは……殺すんだ」
恐怖がなくても、人と話すことが苦手ということに変わりはない。言葉をひねり出しながら、その思いを口にする。
「殺して意味が……あるのか? 殺すのは……どんな……」
「知るか! どうせこの世界は終わるんだ。なら最後に何しようが勝手だろ!」
……嘘だ、それだけじゃない。首元から、そして絡みつく悪意から感じ取れる、震え。怖いんだ、この世界が滅ぶことが。その中で自分が死ぬのが怖いから殺すんだ。みんな怖いのに、一人だけ自由にする資格なんてないのに。
────ほかの人間が生きるために、ここで終わらせた方が、この人のためじゃないか?
俺は初めて、人が死ぬ利益を考えた。人間がみんな同じ価値を持つなら、人は人を殺してはいけない。でもその人が死ぬことで、ほかの多くの人の命が助かるとしたら、それは相対的に見て悪であったとしても、正義となるのではないか。
「……あんたは……悪だよ。人のことを考えられないやつは……例外なく最低だ……!」
「何ぃ……!」
悪意が増幅していく。このままでは怪物に殺されるだろうと理解した。
……ここで、殺されるもんか。俺は俺の目的のためにも、ここで死ぬわけには行かない。
────それが異常であったとしても、自分の掲げる正義だと言い切れるのならば────
進め、全てを滅ぼすまで。
「死ねなんていう理不尽に……俺は、負けない!」
心が滾る、右足が唸る。その目は、怪物を確かに捉えた。
────蹴り上げた右足は、怪物の反応より早く、怪物の頭を砕く。飛び散る血潮と、消えていく悪意。
ここに、怪物は絶命した。だが、殺したという感覚はなく、むしろやってやったと思っていた。
「やった……これで俺の理想に一歩……」
つかの間の高揚。左目の眼帯が外れるまでのわずかな時間。俺の目はついに現実を捉えてしまった。
「あ────」
声なんて出せるわけがない。血まみれになった制服と、誰かなんてわからない、人だったであろうモノ。
殺してしまった、この服をどうしよう。それと同時に、滅ぼすとはこういう事だと納得している俺がいる。
俺はどこか冷静だ。それはもはや俺ですらないと思えるほどに。
この足があれば飛べる気がした。どこまでも滅ぼせる気がした。赤黒く染まったこの足から、人じゃない力を感じる。だからこそ殺せたのだろう。
「飛べばきっと、帰れる。これからはその先考えればいい」
足に力を込めて、飛び上がる。どこまでも高く、遠く。見上げる空には、滅びの小惑星。見下ろす町は、半分赤黒く、半分美しい。
非日常が多めの世界を見ながら、俺は家に帰るなんて、平凡を成そうとしている。
────どう考えてもおかしいのに。考えるその先さえ無いと、頭ではわかっているのに。
滾る心は、滲み出る笑顔は、抑えられそうになかった。
叫びたかった。いいや、小さい声でつぶやいていた。
「俺が悪を、悪で滅ぼしてみせる……!」
それを遠くのビルの上から、眺める青年がいた。青年は呆れるようにため息をつき、空を見上げる。そこにはギーベリがいる。そして、全人類の価値を見定めている。
「……あれがもう一人か。考えが合わんな」
例え滅ぼすという目的を同じくしても、やり方も考え方も違う。
「未熟だ、全てにおいて。やつには理想が感じられん」
青年は左手を空へ掲げる。その手には黒い腕輪が付いていた。
「滅ぼしたその先に何があるか。それは悪のない世界なのか。はたまた、人類がいない世界なのか……」
そうだ、滅びには理由がある。理由を持たない、それこそ悪なのだ────
────だから、迷うな。意味と意思を持て。
「手始めに何やったらいいんだ、俺」
ここまで来ておいて、俺はまず何をやったらいいのかわからない。中二病が治り切っていない心が、不純な人間を滅ぼすと言ったとしてもだ。
────滅ぼす。それは、自らの手で命を潰すこと。その覚悟を人は、持ち合わせているのか。
「殺す……か……」
もちろん、俺が手に掛けようと、そうでなかろうと、しばらくすればギーベリに滅ぼされることは確かだ。つまりこの星の命は、すべて「終わりがある程度近い」命である。俺もその中の一人である以上、短い時を好きに過ごしたっていいだろう。
だが……俺の考えで他人の時間を奪ってしまうことが、怖かった。考えれば考えるほど、この手にのしかかる重圧は計り知れないものになっていく。
────滅びとは、本当にすべきことなのだろうか。誰かから最後の時を、奪ったりはしていないか。
「……なーんてことは、決めきれない俺なのでした……っと」
誰もいない家で、俺はひとり呟く。それを否定する人も、肯定する人もいない。誰も振り向いてくれない、誰も聞いてくれない。誰も……俺の考えはわかってもらえない。右目をそっと隠すように、救急箱から眼帯を取り出してつける。
これが間違いなのかも、これが正しいのかもわからない、宙ぶらりんの気持ち。しかしそれが俺の平常運転だ。何気なくテレビをつけ、夕方のニュースにチャンネルを合わせる。
「────先ほど、北中市中心部で、18人が殺傷される事件が発生しました。被害者は全員死亡、犯人はいまだ逃走中とのことです。繰り返します……」
……あぁ、またこんなニュースか。ギーベリが来る前だって、通り魔なんか日常茶飯事だった。それがこの世界の抱える異常だということを、認識している人のほうが少ない。人類の滅びがほぼ決定した1週間前から、こんな事件は取り締まれないレベルで増え始めた。一日が終われば、誰かがどこかで死んでいる。知っている限り、日本全国そうだ。
「北中市って、ここじゃねぇか……」
ついに、身近にこんなことが発生するようになったか。日本全国に、いや世界中に、人の悪意はウイルスのように広がっていく。それを俺はただ見ていることしかできない。そう────ついさっきまでは。
これこそ、滅ぼすべき悪ではないか? 誰かにとっての理不尽ではないか?
────滅びの夢は、叶えるべきではないか。最後に人間が人間としてあるために────
気づけば俺は、家を飛び出していた。ひょっとしたら、俺がそんな悪を滅ぼせるんじゃないかって、壊れた理想を持ちながら、市街地へ走っていく。その足はいつもより軽く、いつもより早く、俺を運んでいく。それは心か、それとも滅びの概念かはわからない。それでも、確かに持っていたのは……
「この世界は、理不尽で……間違ってるっ!」
まるでその言葉が燃料のように、駆ける足は速くなっていく。その速さに思わず、眼帯は外れていった。
「あっ……眼帯……えっ?」
……その時だ、この異常な右目は世界を捉える。それは、左目で見る世界とは全く違っていた。
「……なんだよこれ、地獄かよ!」
捉える世界は真っ赤だ。黒い線や帯のようなものが、あちらこちらに張り巡らされている。その目で捉えた人は、とても人の姿とは思えない。まるで、悪魔か怪物のようだ。
信じられない光景に、俺は左目を塞ぐ。異常な右目で、異常な世界を見る。その黒い線を手に取って確かめる。左目ではありえないものに手を伸ばす。
「触った感じ、なんだか生暖かいな。こっちの線は、なんだか冷たい……?」
線に感触はないが、温かさはあった。その線は周辺の怪物……いや、人間にいくつか繋がっている。これはいったいなんだ?
帯を触るとかなり熱く、長時間触れるものではなかった。だがそれはあくまで左手での話。俺は左目を押さえる手を変え、黒い腕輪のついた右手で、帯を触る。
────瞬間、脳に伝わってきたのは、誰かを襲っている記憶。もっと見ようと、その記憶を心が許した途端、黒く濁った感情の波のようなものがどっと押し寄せてきた。
「なんだこ……っ……ぐっ!」
手の感覚は耐えきれず、脳は千切れるかの如く痛む。胃からはせりあがってくる吐き気、全身には痛みと悪寒。呼吸は次第に悪化していき、黒い帯が細い線を張り巡らせながら、心臓へと入り込んでくる。
「あがっ……ぐぁぁぁっ!」
まともな精神は保てない。正常な判断も下せない。命を奪われる絶体絶命の状況。この状況で何ができる、突如現れた脅威に、何ができる。
……こんなの、理不尽だ。悪意以外の、何物でもない────!!!
最後の力を振り絞り、右手を握りつぶす。すると、その帯がドクンと大きく波打った。それと同時に、体を駆け巡っていた悪意は、たちまち消えていく。いいや、これは……
「滅ぼされたのか、悪意が……?」
何がどうしてこうなったのか、そして解決できたのか。その意味や理由を追求しだしたら、わからないことばかりだろう。しかしその手の感触は確かに、何かを握りつぶした感触だった。
だが、黒い帯は細くはなったものの、ずっと先まで続いている。いいや、この帯……市街地中心部から反対方向へ流れている? 右手はピリピリと痺れるような感覚が続いている。さっきのように飲み込まれそうなことはないが、もしさっき見た記憶を、感情を、悪と呼ぶならば……
「もしかして、この悪意は、犯人のか……!」
方向を変え、帯から手を放し、その悪意を追いかける。左目の映し出す景色は、この世の物とは思えないものが続く。いつも見ていた街が、こんなにも黒く汚れていると訴えかける。目に見える黒が悪意なら、この世界はやっぱり────間違っている。
……悪意を追いかけた先、建物の路地裏。人目につかない場所へ、それは続いていた。ゴミ箱の後ろ、そこにはうずくまって震える、怪物の姿があった。
「ひっ……なんだよ、お前っ……!」
俺は少しだけ、左目の眼帯をずらした。そこには確かに、人間がいる。怪物として見ているのは右目だけだと、もう一度確かめた上で眼帯を再び付けた。
「お前も……殺すぞ、殺してやる……!!」
「……なんで殺すの」
「……は?」
首元にナイフをあてられているのがわかる。怪物から伸びている悪意の線が、俺の腕に絡みついているのがわかる。それでも不思議と恐怖はなく、俺はただ真っすぐ、怪物を見つめていた。
「なんで……あんたは……殺すんだ」
恐怖がなくても、人と話すことが苦手ということに変わりはない。言葉をひねり出しながら、その思いを口にする。
「殺して意味が……あるのか? 殺すのは……どんな……」
「知るか! どうせこの世界は終わるんだ。なら最後に何しようが勝手だろ!」
……嘘だ、それだけじゃない。首元から、そして絡みつく悪意から感じ取れる、震え。怖いんだ、この世界が滅ぶことが。その中で自分が死ぬのが怖いから殺すんだ。みんな怖いのに、一人だけ自由にする資格なんてないのに。
────ほかの人間が生きるために、ここで終わらせた方が、この人のためじゃないか?
俺は初めて、人が死ぬ利益を考えた。人間がみんな同じ価値を持つなら、人は人を殺してはいけない。でもその人が死ぬことで、ほかの多くの人の命が助かるとしたら、それは相対的に見て悪であったとしても、正義となるのではないか。
「……あんたは……悪だよ。人のことを考えられないやつは……例外なく最低だ……!」
「何ぃ……!」
悪意が増幅していく。このままでは怪物に殺されるだろうと理解した。
……ここで、殺されるもんか。俺は俺の目的のためにも、ここで死ぬわけには行かない。
────それが異常であったとしても、自分の掲げる正義だと言い切れるのならば────
進め、全てを滅ぼすまで。
「死ねなんていう理不尽に……俺は、負けない!」
心が滾る、右足が唸る。その目は、怪物を確かに捉えた。
────蹴り上げた右足は、怪物の反応より早く、怪物の頭を砕く。飛び散る血潮と、消えていく悪意。
ここに、怪物は絶命した。だが、殺したという感覚はなく、むしろやってやったと思っていた。
「やった……これで俺の理想に一歩……」
つかの間の高揚。左目の眼帯が外れるまでのわずかな時間。俺の目はついに現実を捉えてしまった。
「あ────」
声なんて出せるわけがない。血まみれになった制服と、誰かなんてわからない、人だったであろうモノ。
殺してしまった、この服をどうしよう。それと同時に、滅ぼすとはこういう事だと納得している俺がいる。
俺はどこか冷静だ。それはもはや俺ですらないと思えるほどに。
この足があれば飛べる気がした。どこまでも滅ぼせる気がした。赤黒く染まったこの足から、人じゃない力を感じる。だからこそ殺せたのだろう。
「飛べばきっと、帰れる。これからはその先考えればいい」
足に力を込めて、飛び上がる。どこまでも高く、遠く。見上げる空には、滅びの小惑星。見下ろす町は、半分赤黒く、半分美しい。
非日常が多めの世界を見ながら、俺は家に帰るなんて、平凡を成そうとしている。
────どう考えてもおかしいのに。考えるその先さえ無いと、頭ではわかっているのに。
滾る心は、滲み出る笑顔は、抑えられそうになかった。
叫びたかった。いいや、小さい声でつぶやいていた。
「俺が悪を、悪で滅ぼしてみせる……!」
それを遠くのビルの上から、眺める青年がいた。青年は呆れるようにため息をつき、空を見上げる。そこにはギーベリがいる。そして、全人類の価値を見定めている。
「……あれがもう一人か。考えが合わんな」
例え滅ぼすという目的を同じくしても、やり方も考え方も違う。
「未熟だ、全てにおいて。やつには理想が感じられん」
青年は左手を空へ掲げる。その手には黒い腕輪が付いていた。
「滅ぼしたその先に何があるか。それは悪のない世界なのか。はたまた、人類がいない世界なのか……」
そうだ、滅びには理由がある。理由を持たない、それこそ悪なのだ────
────だから、迷うな。意味と意思を持て。
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