異世界転移の魔術教師、最強を目指す。

ザクロ

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講義を始めよう。まずはどうしてこうなったか、だ。

私が転移するまでの話をしよう。

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────さて、どこから話そうか。私もこういったことには慣れていない。なんせ、目の前に広がる巨大な建造物群、そして魔力を微塵も感じない人間たち。あの四角いものを耳に当てている人間はなんだ。全く、どれも見たことのないものばかりだからな。
 さらに、聞いたことのあるようでない言語。日本語か? いや、それもまたおかしい。なんせ日本は────

「どうでもよいな、そのような戯言は」

 私の名は、ゲイツ・シュヴァルツシルト。この見たこともない建物ばかりで、言語も通じない、魔法も通じない世界から、救難信号を発信する。

────我が故郷、魔法界へ向けて。



 では、一度時を遡ろうか。そもそも、私がどうしてこのような状態に至ったか、だ。それは約1週間前の魔法界から始まった……

「チャイムが鳴ったな。今日の講義を終了する。皆、学習に励め」
「はい、ゲイツ先生!」

 学園内に響く鐘の音。生徒たちは席を立ち、教室を立ち去っていく。ある者は図書室で魔術を勉強し、ある者はのんきに遊びながら家に帰り、ある者は何事もなく家に帰る。広々とした学園は、石造りで古い。しかし、その頑丈さはこの世界でもかなり高く、優良建築物として魔法界から登録されているものだ。
 私は、講義の材料を片付ける作業に入る。と言っても、さほど難しいことはない。ただ一言、呪文を唱えるだけ。

片づけよヴェグツローメン

 この世界の仕組みを簡単に説明しよう。ここは魔法界、人間は魔術を使い、日々生活している。何ら不自然なことはない。魔術は生活の一部であり、生きる上で必要なものだ。そして、極めたものは────魔法使いの称号を与えられる。
 魔法使いと魔術師には天と地の差がある。簡単に言えば、魔術は誰もができる事であり、魔法は誰もができないことだ。魔術師の何人かは、その魔法使いを目指し、一生を研究、研鑽に費やすこともある。もちろん、簡単になれるものではないのだが……私もまた、その魔法使いを目指す一人である。

「よぉ、ゲイツ。講義終わったかー?」
「ブラウニー・カント。学園内では敬語で頼む」
「めんどくせぇなぁ、さっさと表出ろ」
「……君には呆れるな」

 いつも通り、学園での職務が終わると、ブラウニー・カントがやってくる。彼は学園内の警備員をやっており、こうして職員という意味では一緒なのだが……立場上は、教師のほうが上である。学園内では敬語が決まりだ。
 だが、私生活での立場では、昔からの親友だ。彼の生活上こうなるのも自然である。なんせ彼は、雑、だからな。


 私の職場、エインバーム学園には、教職員用の工房がある。いわば貸家で、工房は4~5人で一部屋を使うといったものだ。この国を支える学園にしては、実に粗末である。一人一人に工房を用意してくれてもいいものだが……実質、食事、物資の提供、研究材料の確保などはやってもらっているので、大人数で無理やり住まわされても文句は言えないのだ。
 なんせ、研究に必要な物資を集めるのはそう簡単ではない。世界中にある物資を滞りなく用意する、そこには非常に高度な労力が必要なのだ。
 小さな工房のドアを開ける。私が開けたというのに、先にブラウニーがずけずけと入っていった。

「全く……」

 私は呆れながらも、工房に入ってドアを閉める。そろそろ部屋も暗くなってきた時間帯だ。

灯せリヒト

 小さな杖を振り、呪文を唱えると、部屋の明かりが一斉についた。すると、部屋の奥で頭を抱える女性の姿が浮かび上がる。

「リューナ、メシー。腹減ったー」
「うるさいなーブラウニー。自分で作ったらどうなの」

 頭を抱えていた女性、リューナはゆっくりと顔を起こす。ずいぶんとぐったりした顔だ。

「実験にでも失敗したかね。宝石ゴーレムだったか」
「もう、うまくいかないわよー……ほかの宝石の波長と合わなくて崩れるんだもの」

 彼女、リューナ・キースリングは、宝石を使った魔術を得意とする、エインバーム学園の教師の一人である。しかし、彼女の授業である宝石学は、受講者が少ない。受講者数で給料の決まるこの学園では、彼女はなかなか厳しい立場に立たされていた。
 まぁ、無理もない。宝石は非常に高価なものだ。家柄が良くなければ、簡単にはそろわない。ましてや宝石を使った魔術は難しく、そして学んだところで魔法使いになるには程遠い。よって彼女の受講者は年々減る一方というわけだ。

「打開策に宝石ゴーレムを作ろうと思ったけど……難しいわ……」
「それもそうだろう。鉄くずなどと違い、宝石はすでに完成された、自然の産物だ。寄せ集めで形を作り、簡単な命を与えるなど、難易度が高いだろうな」

 私が口にすると、リューナは机に突っ伏してしまい、大きくため息をついた。魔術には魔力が必要だ。魔力とは生命力に直結するもので、酷使することは、もちろん体の疲れに繋がる。

「休んだらどうだ、リューナ。それにだ、私が思うに、こうすれば少しは先が見えるだろう」

 私は、同じ紫の石を集める。なるべく小さな石を集め、呪文を唱える。

この体に命を宿せアン・エイン・リーブンズ・リーブン

 すると、宝石は集まり始め、形を構築する。小さな頭と、二本の腕と足。全く役に立たないような大きさだが、小さなゴーレムは完成した。

「波長が合わないなら、波長の合う石だけで構築すればいいだけの話だ。お前は、赤や青……反対の力を持つ石を集めすぎだ」

 杖を下ろし、魔力の供給を断ち切ると、ゴーレムはまたただの宝石に戻り、ボロボロと崩れ落ちた。

「もう……なんでゲイツはいっつもそんなにうまくいくわけ!?」
「怒られても困るな……言っただろう、私は魔法使いを目指していると」
「ゲイツの才能は認めるわ。でも、あなたももう30歳に近いんだし……魔法使いはやめて、結婚でもしたほうがいいんじゃないの? エインバーム学園の有力講師の妻になれるって思ったら、みんな飛びついてくるわよ?」
 
 確かに……リューナのいうことも一理ある。30歳までに、魔術師は大体結婚し、家庭を持つ。そして次の子孫に、魔術を教え、自分よりもさらに高度な魔術師を育て上げる……一般家庭はそういうものだ。確かに、毎度やってくる誕生日の贈り物の数は、学園の中でも一番だろう。明らかなラブレターだってある。しかしだ────

「言っただろう。魔法使いになるのはあきらめない。私の代で、魔法は完成させる」

 私の意志は固い。そこまで強固な意志を持ったのには理由があるが……そこはどうでもいいだろう。

「そう、ゲイツは結婚よりも、魔法使いなのね……」

 何故かしんみりとしてしまったが、私は何か悪いことでも言っただろうか。そう思っていると、リューナは一冊の厚い本を差し出した。

「なんだ、これは」
「この部屋の床下にあったのよ。落ちた宝石を拾いに行ったら、ポツンと置いてあったわ。読んでみたけど、あなたには最適かもね」

 私はそれを手に取り、パラパラとめくる。文章自体は、かなり古い書き方だが、読めないことはない。内容は────

「世界転移魔法!? どうしてこんな本が床下に!?」
「知らないわ……一番古いあなたがここを使い始めたのが8年前だから……それより前の人が置いていったんじゃないの?」
「これはすごい書物だ! なんと素晴らしい!」
「聞いてるわけ?」

 周囲の声はもはや聞こえない。私はその書物に囚われてしまっていた。読めば読むほど奥が深い。この書物には見たところ、異世界とはどのようなところか、どんな魔法を使えば行けるかなどが書いてある。しかし、しっかりと読んで、準備を整えたうえで実行に移さなければ、危険な魔法のようだ。

「おい、リューナ。メシ作っちまったぞ」
「あら、できるじゃない……って、何を作ったのよブラウニー! なにその茶色いの!」
「いや、雑穀があったから、魔術でやわらかくして炒めたんだけど。味付けは、卵とスパイスね」

 魔術料理学を極めたブラウニーだからこそできる、謎の料理。しかし、これと似た料理を、異世界で見ることになるとは、私はまだ知る由もなかったのだ。
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