異世界国盗り物語 ~戦国日本のサムライ達が剣と魔法の世界で無双する~

和田真尚

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第2章 辺境伯領平定戦

第48話 恩賞

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「――――くのごとく、ゲルトとカスパルを討ち取りましてござります」

 大坂屋敷の一室にて報告を終えると、辺境伯はゆっくりと頷いた。

 寝床の上で、ミナと奥方に背を支えられながらも、動きに弱々しさはなかった。

「このアルバン、感服いたしました。真に鮮やかな戦振り。お見事です」

「勿体なきお言葉にござります」

「とんでもない。あなたはアルテンブルク辺境伯家二十年来の病巣をたった数日で切り取ってしまわれたのです」

 少し、目が潤んでいるであろうか?

 これまで気丈に振る舞っていたミナや奥方も目を真っ赤にしている。

「……サコン殿、ミドリ殿。お二方は良き御子息を持たれましたね?」

「はっはっは……。アルバン殿から左様に手放しで褒められと面映おもはゆうござるな。のう? みどりよ?」

「おほほほ……。御前様の仰る通りございますね――」

 父上と母上は謙遜しつつも、満更でもない様子で笑い声を上げた。

 つられてか、辺境伯と奥方も笑顔を浮かべる。

 この四人、夫が長く病で妻が支え続けた境遇が似ていたせいか、出会って数日のうちに打ち解け、何十年来の友の如く振る舞っておる。

 お? 今度は母上がミナを褒めたな。

 女子おなごの身でありながら、合戦前に言葉戦いを仕掛け、敵前を馬で駆け抜けたことを巴御前ともえごぜんに例えた。

 疑問符を浮かべる辺境伯一家であったが、母上が「判官様と同じ時代の女人でございますよ」と申すと、途端に満面の笑みを浮かべた。

 ミナは「恐れ多いことです!」などと恐縮しておるな。

 やはりと言うべきか、辺境伯家の方々は判官贔屓ほうがんびいきばかりらしい。

 日ノ本とは異なる意味でな。

 互いの子の褒め合いがいつまでも続きそうだったので、「よろしゅうござりますか?」と口を挟む。

「これは失敬しました。どうぞ」

「ゲルトの屋敷から持ち帰った財物についてご報告を」

「ヴィルヘルミナからも聞いております。相当な量に上るようですね……」

「左様にござります。あまりの量にて、未だに調べが追い付いておりませぬ」

「目算では如何ほどに?」

「少なくとも、金貨のみで一万枚」

「「い、一万枚!?」」

 辺境伯と奥方が揃って驚く。

 現場を見ていたはずのミナも、思わずと言った様子で息を飲んだ。

「驚くのは早うござります。銀貨や銅貨も数多あまた見付かってござります。その額、金貨に換算して、こちらも一万枚相当と見込まれまする。合わせて二万枚ござるな。銭の他にも、屋敷内の品は一つ残らず押さえてござります。さて、一体如何程になるやら……」

「「……」」

 辺境伯と奥方は完全に言葉を失ってしまった。

 代わって父上と母上が尋ねた。

「のう、新九郎よ? お二方は大層驚いておられるが、その金貨一万枚だか、二万枚だかと申すのは、左様に大きなぜになのか?」

「ねえねえ、新九郎? 金貨は日ノ本の銭にするとおいくらなのかしら?」

 父上が素朴に尋ねる一方、母上は目をキラキラさせながら尋ねた。

 まったく母上は……。

 この手の話が大好きなのだ。適当にあしらっても、しつこく尋ねてくるに違いない。

 困ったことよ。容易に答えの出る話ではないのだが……。

「簡単には比べられん。弾正が八方手を尽くして調べておるところだ」

「大雑把にでも分からないの?」

 答えを促すようににじり寄る母上。

 仕方がないのう――――、

「――――あくまで大掴みな話だぞ?」

「分かっていますよ!」

「日ノ本の銅銭――精銭せいせん一文いちもんと異界の銅貨一枚は等価ではあるまいか……と、弾正は申しておる」

「え? 等価ですって? それなら――――」

 異界では、銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚になる。

 要は、金貨一枚は銅貨一万枚と等価。

 日ノ本の銭で表せば、異界の金貨一枚は銅銭一万枚――十貫文だ。

 金貨が一万枚あれば、十万貫文に相当する。

 堺の商人共へ支払うはずだった鉄砲五百挺と玉薬の代金は五千貫文。

 比べれば、その大きさの程が知れよう。

「で、では! 金貨二万枚なら二十万貫文と申すか!?」

「まあすごい! うちの年貢の軽く十倍ね!」

「日ノ本では、四十万石や五十万石の大身たいしんでなくば望めぬ額だ。よくも溜め込んだものよな」

とは申しつつも、これは不思議な話でもなければ、無理な話でもない。

 辺境伯領は石高に換算すると三十万石。

 一年間の年貢は軽く十万貫文以上はあろう。

 寄騎貴族や家臣の領地も含まれているとは申せ、二十年に渡って蓄財に励んでいたとすれば、この程度残っていても何らおかしくはない。

 ゲルトが吝嗇りんしょく誹謗ひぼうされていたことを思えば、少ないとさえ言えるかもしれんが――――。

「――――これならば、サイトー殿の働きに報いることが出来ます」

 辺境伯がポツリと呟く。

「何の事にござりますか?」

「戦には恩賞が付き物です。しかし、当家にはサイトー殿の働きに報いるだけの蓄えがありません。なにせ、私の直轄地の税収は一年間で金貨五百枚にも満たないのですからね。ですが、これで十分な恩賞を――――」

「――――有難きお言葉にござりますが、またの機会と致しとうござります」

「は? そ、それはどういう――――」

「恩賞の儀は、謹んで遠慮致しまする」

 その場の全員が驚きを露わにした。
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