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第1章 国盗り始め
第41話 首取り
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「ふ、伏兵だ――――っ!」
敵軍のあちこちで悲鳴が上がる。
南方から現れた伏兵が町の門前に集まる敵軍の背後を突いたからだ。
乱れた陣形を慌てて整えようとするものの間に合わない。
陣形が整わないなら町の門前から移動しようとする者達もいる。
だが、前方――北は町を取り囲む石の壁に行く手を阻まれ、町に入れば地獄絵図。
後方――南は我が伏兵によって完全に遮られ、東に向かえば二千に及ぶ我が援軍。
西は湿地帯で足場が悪い。
ここまでお膳立てが整えば、自軍の敗北を悟る者が出るのは時間の問題だった。
伏兵の大将は山県。
これに浅利、小幡、雑賀といずれ劣らぬ戦巧者が脇を固める。
敵を屠るのに一切の容赦はない。
憐れな敵兵達は挨拶代わりの鉄砲玉と矢の雨を浴びせられ、潰乱寸前に陥っていた。
ついでに――――。
ドォン! ドォン!
戦場に響いた轟音に、ミナが耳をそばだてた。
「これは……炎魔法の爆発音?」
「ああ。焙烙玉ではないな」
「クリス達か!」
山県達にはクリスやハンナ達、雇い入れた女子の冒険者達を道案内に付けた。
彼女らはネッカーの町とその周辺の出身者。周辺の地理を熟知している。
ゲルトの軍勢が押し寄せながらも、千人の赤備えが今の今まで姿を隠していられたのはそのためだ。
クリス達には道案内以上の事はせんでよいと言い含めておいたのだが、自分達の故郷を荒らされて我慢が出来なくなったのかもしれんな。
まあ、これはこれで良しとしておくか。
報酬には少しばかり色を付けるとしよう。
ん? 男の冒険者はどうしたか、だと?
そんなもの真っ先に追い出してやったわ。
春日村の一件と言い、クリスやハンナ達の話と言い、如何に役立たずか分かっておったからな。
役立たずな味方ほど始末に負えぬ者はない。
後から裏切られても面倒だ。
もしかすると、敵軍にはそ奴らが紛れ込んでおるかもしれぬな。
さぞかし恐ろしい目に遭っておるだろうが、俺の知ったことではない。
己の所業と決断の結果は、己自身で受けてもらおう。
町の外では鉄砲衆と弓衆の射撃戦が一段落し、今度は長柄衆が長槍を並べて敵軍の塊に噛り付いた。
鋭利な牙を持った猛獣が、憐れな獲物を食い破っていくように、長槍の列が敵を叩き伏せていく。
「変わった槍の使い方をするな……。槍で突かずに上から叩いているぞ?」
「一点を正確に突くのは難しいからな。槍は長さと重さを利用して叩いた方が使い物になる。叩かれたが最後。身体は引き裂かれ、骨は砕け散る。立ち上がる事も出来んだろう」
「う……恐ろしい槍の遣い方だな……」
光景を想像したのか、ミナが顔をしかめた。
これで主戦場は町の南に移った。
町家の屋根伝いに移動し、再び門上の櫓に至る。
ミナは門外の様子を一瞥するや、自身も魔法を使って敵軍への攻撃を始めた。
闇雲な攻撃ではない。
どこを攻撃すれば良いかと俺達に尋ねながらだ。
うむ。冷静に戦えておる。
初陣で舞い上がった者は、こんな質問が出来ないからな。
俺は俺で、ミナに指示を出しつつゲルトとカスパルの姿を探していた。
櫓に着いてからずっと、目を皿のようにして奴らの姿を探しているのだが一向に見つからない。
と言うのも、奴らが着ていた全身甲冑とよく似た格好の騎士が数多くいるせいだ。
おまけに顔の前面は細い切れ込みの入った面で覆われている。
見慣れぬ甲冑であることも手伝い、誰が誰やらサッパリ分からないのだ。
戦は水物。どこでどう転ぶか分からん。
優勢な内に敵大将を討ち取り、さっさと終わらせてしまうに限るんだが……
仕方ない。ミナの手を借りるか。
「ミナ、声を届ける魔法をもう一度使えるか?」
「風魔法の応用だな。もちろん使えるぞ」
「よし。俺の声を戦場の隅々まで届けてくれ」
ミナが呪文を唱え終えるのを待ち、俺は声を張った。
「ゲルトとカスパルが逃げたぞ! 兵も冒険者も置き去りだ! 見捨てられたんだ!」
一瞬、戦場が静まり返り、敵兵全員が動きを止めたように思えた。
「う……うわああああああ!」
一人の兵が叫び声を上げた。
何の意味も持たない、ただ恐怖のあまりに発された叫び声だ。
だが、これが呼び水となって逃げ出そうとする兵が出始める。
率先して逃げ出したのは冒険者だ。
思った通り、金で雇われただけの連中は最後まで戦い抜くつもりなどない。
ゲルトとカスパルが勝馬でないと見限れば、我先にと逃げ出す。
もちろん、伏兵に追い込まれた状況では簡単に逃げられない。
ただでさえ混乱する敵軍をさらに混乱させるだけだ。
さて、どうする?
ゲルト、カスパル。
「逃げるな馬鹿者! 高い金を払っておるのに!」
「僕は逃げてない! 父上も一緒だ!」
意外な事に、その声は櫓の下の方から響いた。
馬に乗ったゲルトとカスパルが顔の前面を覆う面を上げ、周囲の兵に向かって指示を出している。
伏兵に攻め立てられる内に、こんな所までやって来たか。
飛んで火にいる夏の虫よ!
「左馬助! 大太刀!」
「ここに!」
柄を握ると左馬助が鞘を引く。
ぎらつく刀身が露わになった。
「者共援護せよ!」
「待てシンクロー! どうする気だ!?」
「こうするのだ!」
大太刀を振りかぶり、櫓から飛び降りる。
「ゲルト! カスパル!」
「なっ!?」
「サ、サイ――――」
ビュッ!
カスパルの言葉は半ばで途切れた。
飛び降りながらの一振りは、親子の首を一刀の元に叩き斬った。
「敵大将ゲルト殿! カスパル殿! 斎藤新九郎が討ち取ったり!」
魔法がかけられた俺の声が、戦場の隅から隅まで響き渡る。
敵軍の士気は完全に砕け散った。
敵軍のあちこちで悲鳴が上がる。
南方から現れた伏兵が町の門前に集まる敵軍の背後を突いたからだ。
乱れた陣形を慌てて整えようとするものの間に合わない。
陣形が整わないなら町の門前から移動しようとする者達もいる。
だが、前方――北は町を取り囲む石の壁に行く手を阻まれ、町に入れば地獄絵図。
後方――南は我が伏兵によって完全に遮られ、東に向かえば二千に及ぶ我が援軍。
西は湿地帯で足場が悪い。
ここまでお膳立てが整えば、自軍の敗北を悟る者が出るのは時間の問題だった。
伏兵の大将は山県。
これに浅利、小幡、雑賀といずれ劣らぬ戦巧者が脇を固める。
敵を屠るのに一切の容赦はない。
憐れな敵兵達は挨拶代わりの鉄砲玉と矢の雨を浴びせられ、潰乱寸前に陥っていた。
ついでに――――。
ドォン! ドォン!
戦場に響いた轟音に、ミナが耳をそばだてた。
「これは……炎魔法の爆発音?」
「ああ。焙烙玉ではないな」
「クリス達か!」
山県達にはクリスやハンナ達、雇い入れた女子の冒険者達を道案内に付けた。
彼女らはネッカーの町とその周辺の出身者。周辺の地理を熟知している。
ゲルトの軍勢が押し寄せながらも、千人の赤備えが今の今まで姿を隠していられたのはそのためだ。
クリス達には道案内以上の事はせんでよいと言い含めておいたのだが、自分達の故郷を荒らされて我慢が出来なくなったのかもしれんな。
まあ、これはこれで良しとしておくか。
報酬には少しばかり色を付けるとしよう。
ん? 男の冒険者はどうしたか、だと?
そんなもの真っ先に追い出してやったわ。
春日村の一件と言い、クリスやハンナ達の話と言い、如何に役立たずか分かっておったからな。
役立たずな味方ほど始末に負えぬ者はない。
後から裏切られても面倒だ。
もしかすると、敵軍にはそ奴らが紛れ込んでおるかもしれぬな。
さぞかし恐ろしい目に遭っておるだろうが、俺の知ったことではない。
己の所業と決断の結果は、己自身で受けてもらおう。
町の外では鉄砲衆と弓衆の射撃戦が一段落し、今度は長柄衆が長槍を並べて敵軍の塊に噛り付いた。
鋭利な牙を持った猛獣が、憐れな獲物を食い破っていくように、長槍の列が敵を叩き伏せていく。
「変わった槍の使い方をするな……。槍で突かずに上から叩いているぞ?」
「一点を正確に突くのは難しいからな。槍は長さと重さを利用して叩いた方が使い物になる。叩かれたが最後。身体は引き裂かれ、骨は砕け散る。立ち上がる事も出来んだろう」
「う……恐ろしい槍の遣い方だな……」
光景を想像したのか、ミナが顔をしかめた。
これで主戦場は町の南に移った。
町家の屋根伝いに移動し、再び門上の櫓に至る。
ミナは門外の様子を一瞥するや、自身も魔法を使って敵軍への攻撃を始めた。
闇雲な攻撃ではない。
どこを攻撃すれば良いかと俺達に尋ねながらだ。
うむ。冷静に戦えておる。
初陣で舞い上がった者は、こんな質問が出来ないからな。
俺は俺で、ミナに指示を出しつつゲルトとカスパルの姿を探していた。
櫓に着いてからずっと、目を皿のようにして奴らの姿を探しているのだが一向に見つからない。
と言うのも、奴らが着ていた全身甲冑とよく似た格好の騎士が数多くいるせいだ。
おまけに顔の前面は細い切れ込みの入った面で覆われている。
見慣れぬ甲冑であることも手伝い、誰が誰やらサッパリ分からないのだ。
戦は水物。どこでどう転ぶか分からん。
優勢な内に敵大将を討ち取り、さっさと終わらせてしまうに限るんだが……
仕方ない。ミナの手を借りるか。
「ミナ、声を届ける魔法をもう一度使えるか?」
「風魔法の応用だな。もちろん使えるぞ」
「よし。俺の声を戦場の隅々まで届けてくれ」
ミナが呪文を唱え終えるのを待ち、俺は声を張った。
「ゲルトとカスパルが逃げたぞ! 兵も冒険者も置き去りだ! 見捨てられたんだ!」
一瞬、戦場が静まり返り、敵兵全員が動きを止めたように思えた。
「う……うわああああああ!」
一人の兵が叫び声を上げた。
何の意味も持たない、ただ恐怖のあまりに発された叫び声だ。
だが、これが呼び水となって逃げ出そうとする兵が出始める。
率先して逃げ出したのは冒険者だ。
思った通り、金で雇われただけの連中は最後まで戦い抜くつもりなどない。
ゲルトとカスパルが勝馬でないと見限れば、我先にと逃げ出す。
もちろん、伏兵に追い込まれた状況では簡単に逃げられない。
ただでさえ混乱する敵軍をさらに混乱させるだけだ。
さて、どうする?
ゲルト、カスパル。
「逃げるな馬鹿者! 高い金を払っておるのに!」
「僕は逃げてない! 父上も一緒だ!」
意外な事に、その声は櫓の下の方から響いた。
馬に乗ったゲルトとカスパルが顔の前面を覆う面を上げ、周囲の兵に向かって指示を出している。
伏兵に攻め立てられる内に、こんな所までやって来たか。
飛んで火にいる夏の虫よ!
「左馬助! 大太刀!」
「ここに!」
柄を握ると左馬助が鞘を引く。
ぎらつく刀身が露わになった。
「者共援護せよ!」
「待てシンクロー! どうする気だ!?」
「こうするのだ!」
大太刀を振りかぶり、櫓から飛び降りる。
「ゲルト! カスパル!」
「なっ!?」
「サ、サイ――――」
ビュッ!
カスパルの言葉は半ばで途切れた。
飛び降りながらの一振りは、親子の首を一刀の元に叩き斬った。
「敵大将ゲルト殿! カスパル殿! 斎藤新九郎が討ち取ったり!」
魔法がかけられた俺の声が、戦場の隅から隅まで響き渡る。
敵軍の士気は完全に砕け散った。
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