異世界国盗り物語 ~戦国日本のサムライ達が剣と魔法の世界で無双する~

和田真尚

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第1章 国盗り始め

第39話 虎口

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「すごい……本当に敵が追って来ている……」

 馬を疾走させながら、後ろを振り返ったミナが呟く。

 言葉戦いの後、敵軍は陣形もへったくれもなく、ただ一心に俺とミナを追っている。

「サイトーを殺せ! サイトーを殺せ!」

 相変わらず平原に響き渡るのはカスパルの声。

 完全に頭に血が昇っておるようだ。

 さっきから俺を殺せとやかましいことこの上ない。

 俺達を追う兵らも同じであろう。

 罵倒ばとうし、コケにしてやったのだから当然か。

 だが、怒りに駆られた敵軍は俺達に追いつけないでいる。

 選りすぐった馬上巧者の騎馬武者達が敵の先鋒に矢を射かけ、真っ直ぐに追うことを妨害しているからな。

「ぐはっ!」

 また一人、大将格と思しき騎士が落馬した。

 周囲の者がそれに巻き込まれる。

 指揮出来る者を的確に狙っておるのだ。

 さすがは坂東武者。

 見事なものよ。

「何をモタモタしている! 連中はたった二十騎だぞ!」

 もはやゲルトの声は聞こえなくなった。

 事ここに至った上は、なし崩しでも兵力差で圧し潰してしまえと覚悟したか?

 ならばそれでもよい。

 お主らの進んだ先は地獄が待っているのだからな。

「奴らの乗っているのはポニーやロバと見まがう小さな馬だぞ! さっさとしろ!」

 確かにお主らの馬に比べれば小さかろう。

 だが、俺達が乗るのは美濃みの信濃しなのの山々に鍛えられた馬達だ。

 凹凸の少ない平原を駆け回るくらい訳はない。

 それに、シュテファンに頼んで付けさせた蹄鉄ていてつの具合も申し分ない。

 馬草鞋うまわらじに比べて、馬が力強く走れている気がするわ。

 ゲルトとカスパルが兵を集めるのに費やした三日の間に、馬達を調練する事も出来たのだ。

 まだまだ十分とは言えないが、連中には礼の一つもせねばならない。

 時間を与えていただき有難き幸せ、とでもな。

「奴らは魔法も使えない野蛮人だ! 魔法を恐れる必要はない! 一気に追い縋れ!」

 おやおや……どこで誰に調べさせたのやら。

 確かに俺達は魔法を使えんが、そんなフリとしか思えぬ言葉を吐いて、本当に良かったのかな――――?

 ドンッ! ドンッ! ドドンッ! ドンッ!

 まるでカスパルの言葉に応じたように、後方から爆発音が立て続けに響き、硝煙しょうえんが上がった。

「なっ、何だ今のは!? 炎の魔法!?」

焙烙玉ほうろくだまと申してな、火を付けると爆発する。鉄砲を放つ時に使う火薬が入っておるのだ」

「火薬は魔法のような現象まで起こせるのか……」

 ミナが言葉を失う。

 敵軍もさぞかし驚いておろうが、後から後から後続の兵が続き、前の兵は止まるに止まれない。

 今や、奴らは俺達を追うしか道はない。

 ゲルトとカスパルは兵の数を揃える事に執心したようだが、寄せ集めの兵を使うなら、もっと頭を使わねばならん。

 一度でもたがが外れてしまえば、瞬く間に烏合の衆と化すのだ。

 特に悪いのは冒険者をやたらめったら雇い入れたことだ。

 領都の冒険者は腕の立つ者が多いとは聞くが、冒険者の仕事と戦との隔たりは大きい。

 例えば、軍が大人数の集団で行動するのに対して、冒険者は少人数で行動することが大半だ。

 その数は多くとも十人程度。

 軍の中へと組み込まれた時、果たして足並みを乱さず動くことが出来るのか?

 さらに、連中の得意な武器はてんでバラバラ。

 装備の質にも格段の差があり、実力に至っては雲泥うんでいの差がある。

 いずれにしても、兵として集団で用いる上で困った話だ

 攻めるにしても、守るにしても、時間をかけて調練しておかねばもまともには使えまい。

 そして、その冒険者達が褒美を目当てに率先して俺達を追い駆けている。

 ゲルトの兵も騎士や雑兵の別を問わずその熱に当てられてしまった。

「……噂を流しておいた甲斐があったな」

「噂!? 何のことだ!?」

「カスパルがお主に執心しているという噂だ。ミナを捕えれば一生遊んで暮らせる褒美がもらえるともな。奴めの振る舞いで真実味が加わった。皆、血眼で追って来るわ」

「い、一体いつどうやってそんな噂を!?」

「それは秘密だ」

「もしかして……モチヅキ殿のシノビシューか!?」

「左馬助の奴め……タネを明かしては面白くないではないか」

「せめて私に断ってからしろ!」

「すまんすまん。断る暇もなかったんでな」

 そうこうする内に、ネッカーの町は目前。

 門まであと少しだ。

 ここで、二十騎の騎馬武者達は馬首を東の荒れ地に向けて一目散に走り去ってしまった。

「見ろ! 敵がついに逃げたぞ! サイトーもヴィルヘルミナも目の前だ! 急げ急げ!」

 カスパルの歓喜の声が響く。

 だが、これはあらかじめ決められていたこと。

 この先に待つ地獄に、家臣達を巻き込まぬための方策よ。

 直後、ミナと共に門を駆け抜けた。

 俺達が通った後は――――門は開いたままだ。

「しめた! まだ門が開いているぞ! 一気に押し込め!」

 再びカスパルが歓喜する。

 しかし、遠くまで声を伝える魔法は便利だが、大将の指示が敵方に駄々漏れに漏れるとは考えものだな。

 ようよう考えて使わねば。

 すると、馬を走らせながらミナが尋ねた。

「本当に開けたままでいいんだな!?」

「然り! 敵をそのまま通す!」

「敵をワザと町の中に入れるなんて……」

「日ノ本ではよくあることだ!」

「こんな危険な戦い方は聞いたことがない! 町が落とされたらどうするんだ!?」

「肉を切らせて骨を断つ! 城とは侵入される事を前提に作るものだ! さあ、無駄口はここまでにして急げ急げ! 屋敷に向かって一目散だ!」

「分かっている!」

 くの字の曲がった通りを駆け抜け、例の腕試しがあった広場も駆け抜ける。

 くの字の上半分に入った所で、下半分や広場からは死角になる位置では大太刀おおだちを手にした左馬助が待ち構えていた。

「若っ!」

「おう! 待たせたな!」

「準備は万端にござります! 若、御自らお切りください!」

 左馬助が指し示す先には太い縄がピンと張られていた。

 その縄の先は、通りの両側に隙間なく並ぶ町屋のあちこちに繋がっていた。

 ドドドドドドドドドドッ…………!。

 馬蹄の音、そして敵兵の踏み鳴らす足音が近づいて来る。

 …………今だ!

 ブチッ!

 大太刀を振るい、縄を一刀両断の元に斬り落とした。

 敵兵の姿がこちらにも見え――――、

 ドガガガガガガガガガガッ!
 
 バキバキッ! ベキベキベキッ!

 町屋の屋根の上から敵兵目掛けて大量の木材が降り注ぎ、通りを完全に塞いでしまう。

 そして――――、

「――――放て!」

 ダダ――――――――――――ンッ!

 ダダダ――――――――――――ンッ!

 ダ――――――――――――ンッ!

 俺の号令一下、鉄砲の一斉射撃の音がネッカーの町を震わせた。
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