異世界国盗り物語 ~戦国日本のサムライ達が剣と魔法の世界で無双する~

和田真尚

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第1章 国盗り始め

第29話 鋸挽

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「あ、あんたは辺境伯様の! 助けてくれ!」

 人相の悪い男がミナを見て助けを求める。

 村で盗みを働き、村の若者に手傷を負わせた男だ。

 こ奴の他にも男が五人、女が七人、合計十三人が捕えられており、口々に助けを求めた。

 しかし、言われたミナは困惑した様子で俺の顔を見る。

「…………何だこれは?」

「どうした? 顔見知りでも混じっていたか?」

「ネッカーの町の冒険者達に違いないと思う。だが、私が言いたいのはそこじゃない」

「うん? 他に困惑するようなことがあったのか?」

「ある。どうしてこの者達は埋められている? それからあのノコギリは何なのだ!?」

 ミナが足元を指差した。

 十三人の冒険者達は首元まで地面に埋められ、すぐそばの地面には竹で作ったと思しきノコギリが置かれている。

「ノコギリの刃がどす黒く変色している……。一体何に使うつもりだ!?」

「決まっておろう。鋸挽のこぎりびきにするのだ」

「ノ、ノコギリビキ?」

「こちらにはないのか? 竹や木で作ったノコギリで、数日かけてジワジワと首を斬るのだ。罪人は痛みと苦しみ、恐怖に悶えながら死んでいく」

「なんて恐ろしいことを……」

「盗みだけで済めば一思いに打ち首だったかもしれんが、こ奴らは村の若者を傷付けた。ならばより厳罰に処さねばならん」

「ちょっと待て! 打ち首とは死罪のことか!? 盗みでも死罪になるのか!?」

「その通りだ。苦しまずに死ぬか、苦しみ抜いて死ぬかの違いはあるがな」

「け、刑罰が重過ぎないか? 盗みを働いた者は軽ければ鞭打ち、重くとも奴隷として売却し、被害者への弁償に当てるはず。死罪など聞いたことがない!」

「ミナよ、日ノ本は乱世なのだ。太閤殿下は天下を統一されたが戦国の気風は未だに消えておらぬ。軽い罪だと情けをかけては侮りを受けようぞ」

「侮り? 罪に応じた刑罰を課すことが侮りだと?」

「そうだ。一度盗みに手を染めた者は味をしめ、やがてさらに大きな罪を犯すだろう。ならば、禍根かこんを絶つため死罪しかあるまい」

 俺の隣で望月と庄左衛門が当然の道理だとばかりに何度も頷く。

 一方、ミナは「い、異世界は狂っている……」といつものように衝撃を受けていた。

「ねぇねぇ。ちょっといい?」

 クリスが小さく手を挙げた。

「どうした? お主も納得出来んか?」

「ううん。郷に入っては郷に従えって言うしねぇ、アタシは別に異論も反論もないんだけどぉ……」

「ん? では何だ?」

「二人のお話が聞こえてたみたいでさぁ、皆が大変な事になってるよぉ」

 クリスに言われて足元に視線を移すと、十三人の冒険者達が大変な事になっていた。

 恐怖のあまり白目を剥く者、泡を吹く者、泣き叫ぶ者、神に許しを請う者、母親に助けを求める者等々――――、

「――――ふむ。地獄絵図だな」

「どうするのぉ? 本当にやっちゃうのぉ?」

「罪は明らかなのだ。異界の者だからと言って赦免する理由にはならんが――――」

「ちょっと待ってよ!」

 地面から届く異論の声。

 女の冒険者が必死に首を伸ばして俺を見つめていた。

 ミナやクリスと同じ年頃の気の強そうな顔立ちの女子だ。

「あたし達は盗みなんかしてない! 盗みをしたのは男共よ! あたし達は関係ない!」

「お主らは仲間ではないのか?」

「違うわ! あたし達がこの村に着いた時、そいつらはもう捕まっていた! でも、いきなり武器を突き付けられて……仕方なく応戦したの! 本当よ!」

 真実ならば捨ておくことも出来まいな。

 言葉が通じておらぬ庄左衛門に娘の訴えを伝えてみた。

「確かに……男共と女共は別々にこの村にやって来ました。ですが、似たような格好をしていたため、仲間が来たものと考え問い質したのです」

「言葉が通じず、争いになってしまったか」

「今から考えれば不幸な行き違いでございました」

「どうだ? せめて女達だけでも許してやっては」

「難しゅうございますな……」

「ほう? 何故だ?」

「男共は簡単に召し取れました。しかし、女共は実に手強く、召し取るまでに五人が傷を負い、うち二人は半死半生の深手ふかでで今も苦しんでおるのです。最悪助からないかもしれません」

「許してやっては村人の憤懣ふんまんが収まらぬか」

「左様にございます」

「ならば、憤懣が出ないようにしてやろう」

「は?」

「ミナ、クリス、頼みがある」

 二人を招き寄せ、耳打ちをする。

「庄左衛門。怪我人の元へ案内せよ。異界の者共との戦いで傷を負った者、全員だ」

「わ、分かりました」

 庄左衛門は困惑気味に、村の社まで俺達を案内した。

 中に入ると十人近くの男達が寝かされており、傷の痛みに苦しんでいる。

 三人か四人は傷が重いと見え、ほとんど身動きも出来ない有様。

 枕元では、家族と思しき男女が涙を浮かべて必死に名を呼んでいる。

「頼んだぞ、二人共」

 ミナとクリスは頷くと、傷が重い者の元へと駆け付ける。

 事態を理解出来ていない家族の者を望月達がなだめている内に、二人の治癒魔法は発動した。

「おお……おおっ! き、傷が治っていく!」

 庄左衛門が目を丸くする。

 社の中にいた者達も同様だ。

 一人が治れば、間を置かずに次の一人に取り掛かり、ミナとクリスは怪我人の傷を癒していく。

 いつの間にか、話を聞きつけた村人で社の一杯になっていた。

 治癒魔法に驚きの声を上げていた村人達だったが、いつしか言葉を失い、黙って様子を見守るだけになっている。

 最後の一人を癒し終えると、庄左衛門はその場に膝を突き、深く頭を垂れた。

「我が村の若者をお救い下さりありがとうございます。幾重にお礼を申し上げても足りませぬ。まさしく……まさしく天女の如きお方にございます……」

 庄左衛門がよく通る声でそう言うと、集まった村人も、二人に命を救われた怪我人も、次々と頭を垂れた。

 二人に「天女とは天上より遣わされた女人の事だ」と説明してやると、ミナはあたふたと恐縮し、クリスは「うへへへ……」とだらしのない笑顔で頭をかいた。

「さて村の衆。異界の者共が犯した罪をなかったことには出来ぬが、俺が責任を持って連れて行く故、これで手打ちとしてはくれぬか?」

 異を唱える声は上がらなかった。
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