異世界国盗り物語 ~戦国日本のサムライ達が剣と魔法の世界で無双する~

和田真尚

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第1章 国盗り始め

第28話 戦国の村人

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「こ、これを本当に村人だけでやったのか!?」

 ミナが困惑した様子で俺の顔を見た。

 ここは三野郡の西の端にある春日村。

 荒れ地での魔物狩りに一区切りつけて三野城へ戻るや否や、「魔物の襲撃を受けた」と知らせあり、こうして駆け付けてきたのだが……。

 俺達が到着した時には、村人達の手によって魔物は討ち取られていた。

 目の前には、『ごぶりん』、『こぼると』、『おうく』と、よく目にする連中が整然と地面に並べられている。

 数は三十体近く。

 周囲には武装した村人達が人垣を作り、誇らしそうな顔付きで胸を張っていた。

 魔物への警戒を促すため領内の村々には触れを出していたのだが、早くも成果が上がった格好だ。

「村長の庄左衛門しょうざえもんにございます。どうぞ存分にご覧ください」

 五十過ぎに見える村長は人の良さそうな笑顔で俺達を迎える。

 こ奴こそが村人を率いて魔物を討ち取った張本人だ。

 そのことを伝えると、ミナとクリスは青い顔で庄左衛門と魔物を何度も見返していた。

「こちらの女人にょにんは南蛮のお方……でいらっしゃいますか?」

「いいや。異界の住人だ」

「異界の?」

「俺が世話になっている者でな、丁重に遇してくれ」

「左様でございますか……」

 そう言うと、言葉少なに左馬助らへの説明に戻った。

 初めて目にした異界の民に驚いているのだろうか?

 庄左衛門の説明を聞き終えた左馬助が他の家臣に指示して検分に取り掛かる。

 ミナとクリスも横たわる死体に近付いた。

「……このコボルトは急所を一撃でやられているな。こっちのオークは……背骨がへし折られているのか? これを本当に村人が?」

「自分達で魔物を退治するのは珍しい事じゃないけど……こんな上手に魔物を狩る村人なんて聞いたことないよ……」

「狩人なら可能性もあるが……」

 二人が無言で村人達に視線を移した。

 魔物の周囲に集まった者達は、槍、弓、刀で武装し、簡素ながら鎧も身に付けている。

 中には鉄砲を手にした者までいた。

 当家の家臣達に比べれば粗末ではあるものの、どの武器や防具も手入れが行き届いており、扱いに慣れていることは明らかだ。

 ミナが疑わしそうな視線を俺に向けた。

「本当に村人か? 兵士や冒険者ではないのか?」

「間違いなく村人だ。どうしてそこまで疑う?」

「村人がどうして武器の扱いに手慣れている? おかしいではないか」

「春日村は領地の境目にある村だからな、戦に備えて武器の扱いには力を入れておるかもしれんが……どこの村もこんなものだと思うぞ?」

「そうじゃない。私が疑問に思っているのは村人が武装していることだ。しかも兵士や冒険者のような立派な武装をだ。ただの村人がどうやってこんな武器を手に入れた? おかしいじゃないか」

「戦場にいくらでも落ちていよう? 死体と一緒にな」

「せ、戦死者から剥ぎ取っているのか!?」

「戦で迷惑を被った民百姓のせめてもの慰みだ」

「遺品の剥ぎ取りが慰み……」

「戦の勝者が剥ぎ取りの独占を認めることもあるぞ。死体を片付け、戦場の後始末をさせるためにな。手に入れた品は己で使うも、売り払うも勝手次第だ」

「買い取る者まで!?」

「専門の商人もいるぞ。異界では戦場で物を拾う者がおらんのか?」

「そこに驚いているのではない。こちらでも戦場に遺されたものは戦利品として勝者が独占するしきたりだからな。私が驚いているのは民に武器を渡すことだ」

「民が武器を持つころがおかしいか? 近隣の村との争いもあれば、今回のように危険な獣が村を襲うこともある。民は民なりに武器が必要であろう?」

「帝国ではほとんどの領主が民の武器所有を認めていない。民の間に武器が行き渡れば武断の気風が蔓延り、世が乱れる元になると信じられている。世の平和の為には民に武器を持たせてはならないとな」

「……もっともらしい理屈だな。で? 武器を手にした場合はどうなる?」

「即刻死罪だ」

「ならば冒険者や狩人は? あの者らは武器を持っておるぞ?」

「各々が属するギルドを通じて相応の税を納めているんだ。そうしてはじめて武器を持つことが出来るようになる」

「……なんとも都合の良い仕組みだな」

「言うな……」

 ミナが渋い顔になる。

 この仕組みが誰にとって都合が良いのか十分に理解しているのだろう。

 どんな理屈をこねてみたところで、この話は極めて胡散臭い代物。

 なぜなら一方的に利益を受ける者達がいるからだ。

 民から武器を取り上げて自分達に反抗する芽を摘み取り、特別に認めたとしても見返りに税を納めさせる。

 領主達にとってこの仕組みは一挙両得。

 しかも己に損はない。

 当然、仕組みを崩そうとする者は死罪という手段で徹底的に叩き潰される。

 武器の扱いに慣れた村人も、村人から武器を買い取る商人も、そもそも存在することは許されない。

 だからこそ、ミナやクリスの困惑や驚きも大きかったのだろう。

 話が一段落した所で、再び庄左衛門がこちらへ近付き声を掛けてきた。

「……申し上げてもよろしいでしょうか?」

「許す。何だ?」

「実は魔物とは別に捕らえた者共がいるのです」

「穏やかではないな。悪さを働いたか?」

「盗みでございます。さらには、止めようとした村の若者に手傷を負わせました」

「罪が明らかならば村で罰を与えよ。咎人とがにん検断けんだんは村に任せておろう?」

「仰せの通りでございます。ですが、その者共は異界のお客人と似た姿をしておりまして……」

「ミナやクリスの事を尋ねたのはその為か?」

「はい。奇妙な風体の上に言葉も通じぬため、早々に処罰しても良いものかと悩んでおりましたが、お二人のお姿をめにしてもしやと。村の衆と相談し、若様のお手を煩わせることに致しました」

「でかした。良い判断だ。その者らに会わせよ」

「はい。こちらでございます」

 こうして、咎人達の首実検をすることとなった。
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