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Chapter 2 猫は居すわる。にゃーにゃ―!

第5話 初夏に咲く花 File 2

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「先輩そこんところどうなっているんですか?」

「あ、いや……。彼奴は、従妹だ。たまたま遊びに来て遊園地に行きたいって言うから仕方なく連れて行ったんだ」
「ほぉ―……。そうなんですねぇ。でも先輩の彼女だって言っていましたよねぇ」

「あああ、私もそれ訊いた」長野、そんなところで山岡と同期しなくてもいい。

「嘘だ嘘だ。お前らをおちょくったんだ」
ふぅ―、ありきたりのいい訳。こんなんでごまかせる訳ねぇと思うけど、そう言う事にしておいてくれ。頼む! 山岡に長野。
「ま、そう言いう事ならなんか納得できそっす」
ほっ。良かったよお前の頭の中が単純な構造で。ちらっと長野の方に視線を向けると、ニまぁーとした顔が俺の視線を真っ向から受けていた。

うっ!ヤベェ、山岡はいいとして長野はまだ疑っている……。いや、此奴まったく信じてねぇ。
「そ、そう言えば、お前らやっぱり仲いいんじゃねぇか。二人で遊園地デートとはな」
よし! 話題のすり替え成功!

「そ、それは……」ちらっと山岡は長野の方に目をやり「あ、愛佳がどうしても遊園地行きてぇって言うから……仕方なく」
「そ、そうなんだ」
な、な、山岡分かるだろ、こういう時に出てくる言葉ってそう言う言葉しか出てこねぇんだよ。これでお互い察してくれよ。

「いいじゃん。私、あきらと一緒に遊園地行きたかったんだから」
少し顔を赤らめながら長野が言う。
「別に俺とじゃなくたっていいんじゃねぇかよ愛佳」

「だから私はあんたと行きたかったから誘ったの。このにブチん!!」
そう言いながら咳を立ちオフィスから出て行った。
「あ、愛佳」
ふぅ―。「行けよ山岡」
一瞬迷ったようなそれでもって、躊躇った表情を隠せねぇ山岡は長野の後を追った。

ああ、若けぇなぁ。
まだ彼奴ら青春出来るんだ。俺はもうそんなガラじゃねぇけどな。

ただな、山岡。女子トイレの中まで追いかけるのは……やめとけよ。

さぁてと俺は帰る準備でもするか。
ピコ。香。
「終わりそう?」
「ああ、なんとかな」
ピコ。香。
「それじゃ、エントランスで待っている」
「分かった」
早く彼奴ら戻ってこねぇかな……。


「おい待てよ愛佳」
「うるさい! 来るな昭。後追ってくるな。近づくな! 話しかけるな!」
「うっせっぇな!」逃げるように前を進む愛佳の手をグイッと掴んだ。
よろめいた愛佳の躰を抱き抱えた。

泣いていた。愛佳の目から涙が溢れていた。
「なによ!」
「なによって、お前泣いていたのか?」
「泣いてなんかいない」
「泣いてるじゃねぇかよ」

「だから泣いてないってば」
振り切るように俺の躰から離れようとする愛佳。俺はその躰を強く抱きしめた。
「痛いってば……昭」
「痛てぇか」
「……うん」
「なら我慢しろ」
「でも恥ずかしい」

終業時間まじかの通路、次第に人の通行量が多くなって来る。
通りかかる人たちが俺たちの方に視線を向けているのが良く分かる。

「お、俺も恥ずかしい」
「なら、離してよ」
「でも放したくねぇ」
「何でよ」
「理由が無きゃいけねぇのか?」
「……べ、別に」
でもさすがにこのままでここにいるのは、まずい様な気がしてきた。

「ごめん」
「何で謝るの?」
「何でかわかんねぇけど、とにかくごめん」
「ホント昭ってにブチん!」
だからその「にブチん」って何なんだよ。

「……昭、お腹っ減った」
今度はいきなりぶすっとした顔で腹減ったと言う。何だ此奴? 訳分かんねぇな。

「腹へった?」
「うん」
ま、確かにな、俺も何か食いてぇとこだ。

「帰りに何か食っていくか?」
その一言が効いたのか、愛佳はニコット笑い。
「うん、昭のおごりで」
「えっ! 割り勘じゃねぇのか?」
「今日は昭のおごり! 私を泣かせた罰だから」
な、何だよ、勝手に泣いてたのはお前じゃねぇのか。それに給料日前だぜ! 俺、金あったかな。

「まじか!」
「うん、マジで」
「さ、戻るよ。久我先輩待っているんじゃない私たちの事」
「ああ」と返事はしたものの、なんか釈然としね。
何だよいったい。いきなり飛び出すわ、怒るわ、泣くし。挙句の果てに腹減ったから、おごれときた。

ホント訳分かんねぇ。

そんな愛佳の後姿を目にしながらオフィスに戻ろうとした時、エレベーターホールから、蓬田さんがオフィスに向かう姿を目にした。
当然愛佳も彼女の姿は目に入っていたはずだ。

一瞬、愛佳の足がピクンと止まろうとした。だが、その足は止まらなかった。そのまま、蓬田さんの横を通り抜け、オフィスの入り口に進み、IDカードをかざしてオフィスの中へと入った。

目の前に蓬田さんがいる。
俺の憧れの……憧れだった蓬田さんがいる。

先輩と蓬田さんがよりを戻したことで俺の蓬田さんへの想いは無残にも砕け散った。
無残? いやいや、無残も何もただ俺は蓬田さんに憧れていただけだったにすぎない。先輩にあんな大口叩いておいて、実際は何も行動一つ行っていない。
今となっては先輩との仲を引き裂こう何て思ってもいないのは確かだ。
最も、俺なんか蓬田さんにアタックしたって鼻にもかけられねぇ事くらい知っていた。
それでも彼女の姿を見れば俺の胸の鼓動は高鳴る。

愛佳相手だとこんな緊張感は生まれてこねぇのは確かだ。
えぇ――――っと。何で俺は愛佳と蓬田さんを比較しなきゃいけねぇんだ。
ドキドキする蓬田さん。何も感じねぇ……。その時俺の胸の中でチクリと痛みが走った。

長野愛佳。この会社の新入社員研修の時に、声かけて、ちょっと親しくなった。
まさか同じ部署で、しかも先輩の元、同じメンバーで仕事するとは思ってもいなかった。
彼奴は表向きなんでも卒なく熟しているように見えるが、実は物凄い努力家だ。
研修の時は気がつかなかったけど、こうして一緒に仕事して付き合って知り得たことだ。彼奴の家には凄い数の書物が並んでいた。
俺なんか読んだこところでまるで、意味なんか分からねぇムズイ本ばかりだ。

「昭、あんたもこれくらいは読んでいた方がいいよ」て、渡された本すら読んでいねぇ。
どんだけ仕事も、愛佳に助けられたことだろうか。
そんな愛佳の姿を、俺はずっと見て来た。見続けて来た。

……だから言える。愛佳は、愛佳は。ものスゲェんだってことを。


そんな愛佳が……俺は好きなのかもしれない。

「にブチん!」

ホント俺は―――――「にブチん」なんだ。
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