これは従妹が妹になってから始まった。

さかき原枝都は

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第13話 ご指導いただきます。 その3

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目の前で裸エプロンで俺のために料理をしてくれている彼女。
その彼女の姿を眺めながら、本当にこの人が俺の彼女になってくれたんだという想いが新たに。再確認する我のごとく胸の中でときめいている。

「どうしたのよ俊哉としや
あんまり見つめすぎていたからなのか、彼女の方から恥ずかしそうに問いかけてきた。
「ううん、何でもない。……佐奈がさ」
佐奈が出て行ったあと、俺と真梨香さんの二人っきりのこの空間で。
二人っきり。俺と真梨香さんの他は誰もいない。

「なんか変だよ本当にどうしたのよ」
不思議そうに俺に問いただす真梨香さん。

「うん、実はさ」
「うん、何?」
「あのさ、佐奈がさ……」
「佐奈がどうしたの?」
スッと言葉が出てきそうで出てこない。

これほどまでこの一言を言葉にするのが難しいことに俺は初めて知った。
――――年明けから、経験することは俺の人生にとって初めての事ばかりだ。それが何十にも重なって、一つの想いになっている。
たった一晩。関係を持っただけなのに。

もしかしたら、真梨香さん自体は軽く流しているのかもしれない。
それでも俺は、この一つの経験が、俺の心を想いをまっすぐにさせてくれたような気がする。
今は……正直に言う。
迷いのないその想いを。

「真梨香さん!!」
余り力みすぎていたのか、真梨香さんはびっくりしてちょっと体を硬直させながら「はい」と答えた。

「どうしたのよいきなり」
「いや、そのぉ……。お許しが出ました。佐奈から。」
「なぁに? 佐奈からお許しって?」
「……ですから、本当に真梨香さんの事を――――――――――――――あ、愛しても……」

真梨香さんの人差し指が俺の唇に押し付けられて、その先の言葉が遮られてしまった。
まじめな、そして潤み吸い込まれそうな瞳が俺の瞳をじっと見つめている。
「その先の言葉は、あなたから言ってはいけない。言うのならそれは私からあなたに言うべきことだから」
今までにないくらい真剣な顔で彼女は言った。

「私を愛して。あなたの気が済むまで」
それは真梨香さんの決意でもあるのか。でも俺から真梨香さんに本気で愛したいと告げたかった。
だが、それは俺の身を俺の事を本当に愛するがゆえに、彼女が自分の責務をすべて受け入れるという覚悟の表れだったのだろう。

立場が一気に逆転したが「俺でいいの?」
と、その口が放した。
彼女は「うん」と軽く答え。安心したように柔らかな笑みを俺に向けてくれた。

「もうお料理中断ばかりさせて。出来上がるの遅くなちゃうよ」
「ごめん」
「いいけど」
そっと真梨香さんが俺の唇に自分の唇を重ね合わせた。そして……。
「本気になっちゃうよ」そう一言言った。

そのあとは何も言わず、オムライスを作り始めた。
ご飯が炊け、ケチャップと下ごしらえしていた具材がフライパンの中で踊り始めた。
そこにご飯が入り、程よく色付けされたチキンライスが、二つの皿に盛り付けられる。
もう一つのフライパンを熱し、油を引いた中に溶かれた卵がジュッと音を立て焼かれていく。

手早く卵をかき混ぜ、フライパンの取っ手をトントンとたたき、整形していく。
綺麗に整形されたフライパンの卵を、皿に盛り付けてあるチキンライスにふんわりと乗せ、ナイフでたまごに切れ込みを入れると、プルンとオレンジ色のチキンラスが黄色の卵に覆い隠された。

「おお! お見事!!」
「へへん。どうよ! 上手いでしょう」
得意げに真梨香さんは言う。
そしてもう一つの皿の方にも綺麗に卵が覆いかぶさった。

真梨香さんはケチャップを手に取り「ねぇ、どうする? 何かリクエストはある?」と、問いかける。
リクエスト? ああ、これはもしかして、じゃなくてまさにその、もしかしてなのだ。
唐突に聞かれてもすぐには思い浮かばない。とっさに浮かんだのがハートマーク。ものすごくありきたりなんだが、それしか浮かんでこなかった。

「ハートマークを」
「えへへ、そっか。ハートマークなんだね。わかった」そう言ってハートマークを黄色い卵の上に真っ赤なケチャップでなぞられていく。
綺麗なハートマークが、出来上がった。

「それじゃぁ―、俊哉も私のにハートマーク書いてよ」
そう言ってケチャップのボトルを手渡された。
うぅ――――ん。こんなの初めてだから、うまく書ける自信なんてないけど、とにかくやってみた。
プシュッと空気が出て、緊張で手が震え。出来たのは超いびつなハートマークだった。

「あははは、変なのぉ!」
「笑わないでくださいよ。これでも真剣に書いたんですから」
「わかったわかった。それじゃ冷めないうちに食べよ」
「はい、いただきます」

綺麗に描かれたハートマークにスプーンが入り、すくった一切れを、口に運んだ。その様子を膝たてをしながらほほに手をついて、じっと真梨香さんは見つめていた。
「どぉお? 美味しい?」
「うん、美味しいです」と簡単に答えたが実際は驚くほど美味しかった。


母さんが作ってくれたあのオムライスの味そのものだった。子供ころはよく母さんはオムライスを作ってくれた。さすがに高校生になったら、めったなことでは作らなくなった。だから本当にこの味は久しぶりだ。
「うれしいなぁそう言って喜んでもらえると」
「本当に真梨香さんは料理上手いんですね」

「まぁね。ねぇさんに対抗してた時あったからね」
「そうなんですか?」
「そうよ。ほら、ねぇさんてああ見えて、なんでも卒なく何でもやりのけちゃうでしょ。だからせめて料理だけわと思って頑張ったんだ」
そんな話を聞かされると、実際この人は母さんの妹であって、俺の叔母であることの現実に引き戻されそうになる。
でもそれは、現実の消し去ることの出来ない、事実であることなのだ。
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