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ドール 姉妹の団結
ドール 姉妹の団結 その17 沙良の危機ACT16
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「沙良ちゃん!」
私が呼びかける声にも彼女は答えなかった。
「いい子だねぇ、さぁおいでよ沙良ちゃん」
エリックが手を差し伸べ沙良ちゃんを招く。
そしてしっかりと沙良ちゃんを抱きしめた。
「どうしたんだい、目にそんなにも涙を浮かべて。そうか、嬉しなみだなんだぁ。嬉しんだ僕のこの腕の中で今抱かれていることが」
「さぁエリック、亜美ちゃんを返してもらおうか」
「おいおい、人聞きの悪いことを言っているんだよ。僕が彼女の事を探しあてたんじゃないのか。
礼は言われても悪口は言われる筋合いはないと思うんだけどなぁ。返してもらう? 言葉が違うんじゃないのかなぁ」
「ちょっとエリックあんたねぇ」
「美代言わせておけよ」
「ふぅん、相変わらずお二人は仲がいいんだ。別れたって大分前に聞いたんだけど、またもとに戻ったのかなぁ」
「あんたには関係ないでしょ」
「相変わらずだねぇ、美代。この子、君の妹なんだってねぇ。よく似ているよ。あの頃の君そっくりだよ。なぁ彼方、君もそう思わないかい」
「それより早く亜美ちゃんの手当てを、こちらに早く」
「ま、それじゃ」
エリックは私を抱きかかえている男へ合図をして、彼方さんにその身を渡した。
彼方さんは私を抱きかかえ
「亜美ちゃん、しっかり。今救急車を呼ぶからしっかりしろ」
「ミーちゃん。ごめんね……こんな姿に、辛かったでしょ、ごめんね」
「み、美代ねぇ……。美代ねぇ……」
泣きじゃくる美代ねぇの顔が、ぼやける視界の中見え隠れする。
でも美代ねぇと彼方さんの声はしっかりと聞こえていた。
助かったんだ! ようやく帰れるみんなの所に。
「救急車呼ぶのは僕たちが帰ってからにしてくれないかぁ。こんな状況だ事件に僕らは巻きまれたくはないからね。
そもそも僕、まったくの部外者だしなんの関係もないんだから」
「ふん、エリックお前良くそんなこと言えるな。今自分が置かれている状態がどんな状態なのかまだ知らされていないようだな」
「いったい何のことだよ彼方。ずいぶんと僕に対して偉そうにしているじゃないか。もう僕は君の会社の大株主なんだ。
彼方、君は僕にひれ伏してこそ今の状態が明確になるんじゃないのか」
「果たしてそうかな? エリック・トマース。君はもう終わりだよ」
「何を言っているだい彼方、お前の方こそ、おかしくなったんじゃないのか?」
もういい時間だ。彼方がつぶやくと。
エリックの側近の男がスマホを取り出し連絡を受けていた。
「エリック様、本社とお屋敷に国税局が家宅捜査に入ったそうです」
「なに? 家宅捜査? どういう事なんだ」
そしてエリックのスマホが鳴り響いた。
「パパからだ。どうしたんだい珍しいじゃないですか……」
一瞬にしてエリックの顔色が変わった。
「いったいどうなっているんだよ。何が起きたって言うんだ」
「ようやく動きだしたようだな。エリックお前の隠し資産、国税局がずっとマークしていたんだ。
それと今回、お前が今まで好き勝手にやって来たつけが、お前の父親の方にまで伸びようとしていた。だから、トマース総裁はお前を切ったんだよ」
「そ、そんな……パパが僕を切るなんて、そんなのあり得ない話だろ。いつだってパパは僕の見方だったんだ。僕は、パパが……僕はいったいこれから……」
「エリック、素直に認めるんだ。そしてこの現状を受け入れて、また一からやり直すんだ。さぁ、沙良をこちらに返すんだ」
「な、なにを言っているんだ。僕はまだ信じないぞ。ようやく沙良を僕のこの手の中に入れたんだ。これからって言う時だろ。これからなんだろ」
「もういい、沙良来るんだ」
沙良ちゃんがエリックの手から離れようとした時。
「うるせぇ―! 何言ってんだぁ―!」
沙良ちゃんを戻し片手で抱きしめ、内ポケットからナイフを取り出して沙良ちゃんの首に突き付けた。
「やめろ、エリック」
「うるせぇんだよ! ようやく手に入れた僕のドールをそう簡単に返すもんか。
あははは、もう終わりなのかよ! 僕はもう何もかも無くしてしまったんだというのかよ。だったら……」
……だったら、一緒に死のうよ……沙良ちゃん。
「嫌ぁ―あんたなんかとなんか、死にたくない!」
「あははは、いいようわめくともっと可愛いよ」
エリックのナイフが沙良ちゃんの首に刃先が食い込もうとした瞬間。
バシッ! ナイフを持つエリックの手と肩が打たれた。
側近の二人の男はその状況を読み取り両手をあげた。
「アゥッ!」声にならない声をあげながら、エリックはその場に倒れ込み痛さをこらえていた。
「ふぅ、間一髪だったわね。大丈夫よ実弾じゃないから致命傷は追っていないわ。でも硬質のBB弾だから相当痛いでしょうね」
「弥生さん!」
「さ、もうじき救急車が来るわ。亜美ちゃんの救護優先に」
「ありがとうございますねぇさん」
「ねぇさんかぁ。美代にそう呼ばれると恥ずかしんだよねぇ」
「美代おねぇ様ぁ―」
沙良ちゃんが私に抱き着いてきた。
「ごめんね、ありがとう沙良ちゃん怖い思いさせたね」
強く抱きしめた沙良ちゃんを……。
「亜美ねぇさん、大丈夫! 分かる沙良です妹の沙良です。しかっかりして」
「さ、沙良ちゃん……」
終わったんだね。全部終わったんだ。沙良ちゃんも無事だった……よかった。本当に良かったよ……ああ、まぶしいなぁ。
太陽の光が、今日も暑いなぁ……私の不快指数上がっちゃ……う、よ。
「亜美ねぇさん!」
「ミーちゃん!」
救急車のサイレンがすぐ近くまで鳴り響いていた。
◇◇◇◇◇
「ううん……」
うっすらと目が開いた。
白い天井がぼやけて見える。
病院かぁ……
私どれくらい寝てたんだろう。なんだか物凄く体中が痛いなぁ。
手、温かい。
そっとその温かい手の方に顔を向けると、私の手をしっかりと握ったまま寝ている真由美の姿が映し出された。
真由美ずっとて握ってくれてたんだ。
ずっと温かった。真由美のぬくもりが伝わっていた。
そっと髪の毛を指で滑らせた。
するッと指から抜ける柔らかくてつややかな髪の毛。
真由美のあの甘い香りが少しづつ、私を包み込んでくれるような気がする。
私の手を握る真由美の手の上から私の手を重ねる。
その感触が伝わったんだろう。ゆっくりと真由美の頭が上がり、その瞳が私の顔を映し出した。
「亜美!」
気が付いた私の顔を見て真由美が私の名を呼んだ。
「おはよう、真由美」
「亜美、ようやく気が付いた。良かった……亜美」
真由美の瞳は一気に濡れて、大粒の涙がこぼれた。
「ねぇ、私どれくらい寝てたの?」
「もう、2日間もずっとよ」
「そっかぁ……大分寝坊しちゃったね」
「うん……本当、お寝坊さん」
そっと真由美が私の唇に自分の唇を重ねた。
真由美の涙が私の頬に零れ落ちた。
そして私があふれ出した涙が一緒に流れ落ちる。
病院に搬送された時、私はすでに意識がなくなっていた。
極度の脱水症状と恐怖によるストレスが私の体力を失わせていた。
正直脱水症状は危険な状態だったらしい。拉致されてから水分は何も取っていなかった。
もう少し遅ければもう二度と真由美ともこうして、見つめ合う事も出来なかっただろう。
「よかった……私、もう亜美ともう会えないかと思ってた。もし亜美がずっと意識が戻らなかったら、私は私は……」
「はいはい、ちゃんと戻ってきましたよ。ご心配おかけいたしました真由美」
「馬鹿ぁ、どれだけ心配したと思ってんの!」
「怒らないでよ。私だって……真由美の所に戻るために頑張ったんだから」
「馬鹿、馬鹿……亜美の……ばか」
「うん、またこうして真由美を愛せる。もう、離れることなんかないから」
病室の外で、そっと私たちを見守るように、美代ねぇが涙を流していたのは私たちは知らなかった。
それから3日後検査の結果も異状なし。ようやく退院が出来た。
美代ねぇはもう少し、ゆっくりしていたらって言ってくれたけど。
「はっきり言って、退屈なんだよねぇ」
このまま入院していたら、退屈で逆に具合が悪くなりそうだったから退院が決まってホッとしている。
「あのさぁ、真由美……正直に教えてくれる」
「なによあらたまっちゃって」
「家んなか、部屋の中今どんな状態?」
「だ、ダイジョブよ……ちゃんと、やってるから……わ、私が」
「ふぅ――ん、大丈夫なんだ。ま、真由美は何とかやってくれてると思うんだけど。問題は美代ねぇだよ」
「ははは、もうすっかりもとに戻っちゃったわよ」
「もとに戻ったって。大変だったでしょ」
「えーとねぇ……大分美代ねぇさんの扱いに馴れたというかさぁ。まぁ何とかやってるわよ」
「何が何とかやってるってマーちゃん?」
「あ、美代ねぇさん」
「ミーちゃん早くおうち帰ろうよ。そして私のお世話してぇ。ミーちゃんの手料理早く私に食べさせてぇ。お願い!」
「ンもう、私の作ったのはまずくてすみません」
真由美がプンと怒ってほほを膨らませた。
「あ、そう言う意味じゃないのよマーちゃん。マーちゃんの手料理も美味しいわよ。でもさぁ……やっぱミーちゃんの料理が恋しくて。怒らないでよマーちゃん」
「怒ってなんかいません。どうせ私は亜美にはかないませんから」
「ああ、美代ねぇ、真由美怒らせちゃったじゃないの」
真由美の頭をポンポンして
ぎゅっと抱き寄せて、キスしてやった。
「あぐっ……んんっ」
真由美の熱い舌が私の舌に絡みつく。
「うん……。今はここまでにしておこうね」
「もう、亜美のバカ!。いきなり……でも続きは私たちのベッドの上でね」
「なははは、そうだね」
こうして私は病院を後にして懐かしさを感じる、マンションに帰って来た。
「もしも――し、あのぉ、真由美さん? この散らかり様は何でしょうか?」
「あのね、私もお片付け頑張ったのよ。でもね、どうしてかしら……片付かなかったの」
「はぁ―、そっかぁ。それじゃまずは軽く片付けますか」
でもね、分かってるよ真由美。あなたがどれだけ心配していたのかを。
そうそう、私を誘拐したあの二人組さん。あれからすぐに警察に捕まっちゃったんだって。
私も警察から色々聞かれて大変だったんだぁ。
そしてエリックは今こッてりと絞られてるらしい。これに懲りて少しは性格が変わればいいんだろうけどね。ま、しばらく無理そうだけどね。
彼方さんは今大忙しだそうです。
ドール・システムを軸に事業をもう一度見直して、再スタートをこれから切ろうとしているんだって。
それに秘書の麻美さんと一緒に……。
「ねぇ、美代ねぇは良かったの彼方さんの事」
「ん? 何の事かなぁ」
「だからさぁ、彼方さんの事美代ねぇ本当は……」
「タン塩君だからねぇ。それに私もう男はいいの。だってミーちゃんとマーちゃんがいれば私は十分」
「あのぉ……また私はのけ者ですかぁ……美代おねぇさまぁ」
「ち、違うわよ沙良ちゃんも一緒よ」
「なら私にキスしてください。美代ねぇさん、亜美ねぇさん、真由美ねぇさん」
「ええ、3人同時に?」
「誰が同時って言いました。順番にですわよ」
「それじゃ沙良ちゃん、私たちのキスでトロトロにさせちゃおうっかぁ」
「えええ、キスだけでそんなになれるんですかぁ」
「ねぇ真由美ぃ」
「そうねぇ、キスだけでイカせてあげちゃうわよ」
「助けてください、美代おねぇ様」
「うっぐっ」
美代ねぇと沙良ちゃんのキスしているところを、私たち二人はニヤニヤしながら見ていた。
でも長いなぁ、いつまでキスしてるん?
「ぷはぁ」
ふらふらと美代ねぇの胸の中に、顔をうずめる沙良ちゃん。
「私もうメロメロですわ」
やっぱり沙良ちゃんの一番は美代ねぇのようだ。
ようやくまた日常が戻って来たんだと私は思った。
もうじき、長かった夏休みも終わる。
窓枠にトンボが止まっていた。
季節が変わろうとしている。
でも外に出れば、私の不快指数は上がるんだろうな。
まだ暑い日は続きそうだ。
私が呼びかける声にも彼女は答えなかった。
「いい子だねぇ、さぁおいでよ沙良ちゃん」
エリックが手を差し伸べ沙良ちゃんを招く。
そしてしっかりと沙良ちゃんを抱きしめた。
「どうしたんだい、目にそんなにも涙を浮かべて。そうか、嬉しなみだなんだぁ。嬉しんだ僕のこの腕の中で今抱かれていることが」
「さぁエリック、亜美ちゃんを返してもらおうか」
「おいおい、人聞きの悪いことを言っているんだよ。僕が彼女の事を探しあてたんじゃないのか。
礼は言われても悪口は言われる筋合いはないと思うんだけどなぁ。返してもらう? 言葉が違うんじゃないのかなぁ」
「ちょっとエリックあんたねぇ」
「美代言わせておけよ」
「ふぅん、相変わらずお二人は仲がいいんだ。別れたって大分前に聞いたんだけど、またもとに戻ったのかなぁ」
「あんたには関係ないでしょ」
「相変わらずだねぇ、美代。この子、君の妹なんだってねぇ。よく似ているよ。あの頃の君そっくりだよ。なぁ彼方、君もそう思わないかい」
「それより早く亜美ちゃんの手当てを、こちらに早く」
「ま、それじゃ」
エリックは私を抱きかかえている男へ合図をして、彼方さんにその身を渡した。
彼方さんは私を抱きかかえ
「亜美ちゃん、しっかり。今救急車を呼ぶからしっかりしろ」
「ミーちゃん。ごめんね……こんな姿に、辛かったでしょ、ごめんね」
「み、美代ねぇ……。美代ねぇ……」
泣きじゃくる美代ねぇの顔が、ぼやける視界の中見え隠れする。
でも美代ねぇと彼方さんの声はしっかりと聞こえていた。
助かったんだ! ようやく帰れるみんなの所に。
「救急車呼ぶのは僕たちが帰ってからにしてくれないかぁ。こんな状況だ事件に僕らは巻きまれたくはないからね。
そもそも僕、まったくの部外者だしなんの関係もないんだから」
「ふん、エリックお前良くそんなこと言えるな。今自分が置かれている状態がどんな状態なのかまだ知らされていないようだな」
「いったい何のことだよ彼方。ずいぶんと僕に対して偉そうにしているじゃないか。もう僕は君の会社の大株主なんだ。
彼方、君は僕にひれ伏してこそ今の状態が明確になるんじゃないのか」
「果たしてそうかな? エリック・トマース。君はもう終わりだよ」
「何を言っているだい彼方、お前の方こそ、おかしくなったんじゃないのか?」
もういい時間だ。彼方がつぶやくと。
エリックの側近の男がスマホを取り出し連絡を受けていた。
「エリック様、本社とお屋敷に国税局が家宅捜査に入ったそうです」
「なに? 家宅捜査? どういう事なんだ」
そしてエリックのスマホが鳴り響いた。
「パパからだ。どうしたんだい珍しいじゃないですか……」
一瞬にしてエリックの顔色が変わった。
「いったいどうなっているんだよ。何が起きたって言うんだ」
「ようやく動きだしたようだな。エリックお前の隠し資産、国税局がずっとマークしていたんだ。
それと今回、お前が今まで好き勝手にやって来たつけが、お前の父親の方にまで伸びようとしていた。だから、トマース総裁はお前を切ったんだよ」
「そ、そんな……パパが僕を切るなんて、そんなのあり得ない話だろ。いつだってパパは僕の見方だったんだ。僕は、パパが……僕はいったいこれから……」
「エリック、素直に認めるんだ。そしてこの現状を受け入れて、また一からやり直すんだ。さぁ、沙良をこちらに返すんだ」
「な、なにを言っているんだ。僕はまだ信じないぞ。ようやく沙良を僕のこの手の中に入れたんだ。これからって言う時だろ。これからなんだろ」
「もういい、沙良来るんだ」
沙良ちゃんがエリックの手から離れようとした時。
「うるせぇ―! 何言ってんだぁ―!」
沙良ちゃんを戻し片手で抱きしめ、内ポケットからナイフを取り出して沙良ちゃんの首に突き付けた。
「やめろ、エリック」
「うるせぇんだよ! ようやく手に入れた僕のドールをそう簡単に返すもんか。
あははは、もう終わりなのかよ! 僕はもう何もかも無くしてしまったんだというのかよ。だったら……」
……だったら、一緒に死のうよ……沙良ちゃん。
「嫌ぁ―あんたなんかとなんか、死にたくない!」
「あははは、いいようわめくともっと可愛いよ」
エリックのナイフが沙良ちゃんの首に刃先が食い込もうとした瞬間。
バシッ! ナイフを持つエリックの手と肩が打たれた。
側近の二人の男はその状況を読み取り両手をあげた。
「アゥッ!」声にならない声をあげながら、エリックはその場に倒れ込み痛さをこらえていた。
「ふぅ、間一髪だったわね。大丈夫よ実弾じゃないから致命傷は追っていないわ。でも硬質のBB弾だから相当痛いでしょうね」
「弥生さん!」
「さ、もうじき救急車が来るわ。亜美ちゃんの救護優先に」
「ありがとうございますねぇさん」
「ねぇさんかぁ。美代にそう呼ばれると恥ずかしんだよねぇ」
「美代おねぇ様ぁ―」
沙良ちゃんが私に抱き着いてきた。
「ごめんね、ありがとう沙良ちゃん怖い思いさせたね」
強く抱きしめた沙良ちゃんを……。
「亜美ねぇさん、大丈夫! 分かる沙良です妹の沙良です。しかっかりして」
「さ、沙良ちゃん……」
終わったんだね。全部終わったんだ。沙良ちゃんも無事だった……よかった。本当に良かったよ……ああ、まぶしいなぁ。
太陽の光が、今日も暑いなぁ……私の不快指数上がっちゃ……う、よ。
「亜美ねぇさん!」
「ミーちゃん!」
救急車のサイレンがすぐ近くまで鳴り響いていた。
◇◇◇◇◇
「ううん……」
うっすらと目が開いた。
白い天井がぼやけて見える。
病院かぁ……
私どれくらい寝てたんだろう。なんだか物凄く体中が痛いなぁ。
手、温かい。
そっとその温かい手の方に顔を向けると、私の手をしっかりと握ったまま寝ている真由美の姿が映し出された。
真由美ずっとて握ってくれてたんだ。
ずっと温かった。真由美のぬくもりが伝わっていた。
そっと髪の毛を指で滑らせた。
するッと指から抜ける柔らかくてつややかな髪の毛。
真由美のあの甘い香りが少しづつ、私を包み込んでくれるような気がする。
私の手を握る真由美の手の上から私の手を重ねる。
その感触が伝わったんだろう。ゆっくりと真由美の頭が上がり、その瞳が私の顔を映し出した。
「亜美!」
気が付いた私の顔を見て真由美が私の名を呼んだ。
「おはよう、真由美」
「亜美、ようやく気が付いた。良かった……亜美」
真由美の瞳は一気に濡れて、大粒の涙がこぼれた。
「ねぇ、私どれくらい寝てたの?」
「もう、2日間もずっとよ」
「そっかぁ……大分寝坊しちゃったね」
「うん……本当、お寝坊さん」
そっと真由美が私の唇に自分の唇を重ねた。
真由美の涙が私の頬に零れ落ちた。
そして私があふれ出した涙が一緒に流れ落ちる。
病院に搬送された時、私はすでに意識がなくなっていた。
極度の脱水症状と恐怖によるストレスが私の体力を失わせていた。
正直脱水症状は危険な状態だったらしい。拉致されてから水分は何も取っていなかった。
もう少し遅ければもう二度と真由美ともこうして、見つめ合う事も出来なかっただろう。
「よかった……私、もう亜美ともう会えないかと思ってた。もし亜美がずっと意識が戻らなかったら、私は私は……」
「はいはい、ちゃんと戻ってきましたよ。ご心配おかけいたしました真由美」
「馬鹿ぁ、どれだけ心配したと思ってんの!」
「怒らないでよ。私だって……真由美の所に戻るために頑張ったんだから」
「馬鹿、馬鹿……亜美の……ばか」
「うん、またこうして真由美を愛せる。もう、離れることなんかないから」
病室の外で、そっと私たちを見守るように、美代ねぇが涙を流していたのは私たちは知らなかった。
それから3日後検査の結果も異状なし。ようやく退院が出来た。
美代ねぇはもう少し、ゆっくりしていたらって言ってくれたけど。
「はっきり言って、退屈なんだよねぇ」
このまま入院していたら、退屈で逆に具合が悪くなりそうだったから退院が決まってホッとしている。
「あのさぁ、真由美……正直に教えてくれる」
「なによあらたまっちゃって」
「家んなか、部屋の中今どんな状態?」
「だ、ダイジョブよ……ちゃんと、やってるから……わ、私が」
「ふぅ――ん、大丈夫なんだ。ま、真由美は何とかやってくれてると思うんだけど。問題は美代ねぇだよ」
「ははは、もうすっかりもとに戻っちゃったわよ」
「もとに戻ったって。大変だったでしょ」
「えーとねぇ……大分美代ねぇさんの扱いに馴れたというかさぁ。まぁ何とかやってるわよ」
「何が何とかやってるってマーちゃん?」
「あ、美代ねぇさん」
「ミーちゃん早くおうち帰ろうよ。そして私のお世話してぇ。ミーちゃんの手料理早く私に食べさせてぇ。お願い!」
「ンもう、私の作ったのはまずくてすみません」
真由美がプンと怒ってほほを膨らませた。
「あ、そう言う意味じゃないのよマーちゃん。マーちゃんの手料理も美味しいわよ。でもさぁ……やっぱミーちゃんの料理が恋しくて。怒らないでよマーちゃん」
「怒ってなんかいません。どうせ私は亜美にはかないませんから」
「ああ、美代ねぇ、真由美怒らせちゃったじゃないの」
真由美の頭をポンポンして
ぎゅっと抱き寄せて、キスしてやった。
「あぐっ……んんっ」
真由美の熱い舌が私の舌に絡みつく。
「うん……。今はここまでにしておこうね」
「もう、亜美のバカ!。いきなり……でも続きは私たちのベッドの上でね」
「なははは、そうだね」
こうして私は病院を後にして懐かしさを感じる、マンションに帰って来た。
「もしも――し、あのぉ、真由美さん? この散らかり様は何でしょうか?」
「あのね、私もお片付け頑張ったのよ。でもね、どうしてかしら……片付かなかったの」
「はぁ―、そっかぁ。それじゃまずは軽く片付けますか」
でもね、分かってるよ真由美。あなたがどれだけ心配していたのかを。
そうそう、私を誘拐したあの二人組さん。あれからすぐに警察に捕まっちゃったんだって。
私も警察から色々聞かれて大変だったんだぁ。
そしてエリックは今こッてりと絞られてるらしい。これに懲りて少しは性格が変わればいいんだろうけどね。ま、しばらく無理そうだけどね。
彼方さんは今大忙しだそうです。
ドール・システムを軸に事業をもう一度見直して、再スタートをこれから切ろうとしているんだって。
それに秘書の麻美さんと一緒に……。
「ねぇ、美代ねぇは良かったの彼方さんの事」
「ん? 何の事かなぁ」
「だからさぁ、彼方さんの事美代ねぇ本当は……」
「タン塩君だからねぇ。それに私もう男はいいの。だってミーちゃんとマーちゃんがいれば私は十分」
「あのぉ……また私はのけ者ですかぁ……美代おねぇさまぁ」
「ち、違うわよ沙良ちゃんも一緒よ」
「なら私にキスしてください。美代ねぇさん、亜美ねぇさん、真由美ねぇさん」
「ええ、3人同時に?」
「誰が同時って言いました。順番にですわよ」
「それじゃ沙良ちゃん、私たちのキスでトロトロにさせちゃおうっかぁ」
「えええ、キスだけでそんなになれるんですかぁ」
「ねぇ真由美ぃ」
「そうねぇ、キスだけでイカせてあげちゃうわよ」
「助けてください、美代おねぇ様」
「うっぐっ」
美代ねぇと沙良ちゃんのキスしているところを、私たち二人はニヤニヤしながら見ていた。
でも長いなぁ、いつまでキスしてるん?
「ぷはぁ」
ふらふらと美代ねぇの胸の中に、顔をうずめる沙良ちゃん。
「私もうメロメロですわ」
やっぱり沙良ちゃんの一番は美代ねぇのようだ。
ようやくまた日常が戻って来たんだと私は思った。
もうじき、長かった夏休みも終わる。
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