【改訂版】この世界に足を踏み入れたら抜け出せないじゃないですか……

さかき原枝都は

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ドール 姉妹の団結

ドール 姉妹の団結 その16 沙良の危機ACT15

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まもなく午前8時をお知らせいたします。

ターゲット捕捉 ほそく。車両ナンバー、品川330、あ○○○○。
車中に人影なし。

「それじゃ行ってくるわ」
「ああ、十分に気を付けて」
「分かってるって」

2千万が入ったボストンバックを持ち、指定された車両に向かった。

あたりを警戒しながら、後部座席のドアをあけ、ボストンバッグをシートの上に置いた。

ドアを閉め、すぐにその場を離れた。

すでに弥生ねぇさんの同士がこの車両を監視している。
何か動きあればすぐに対応できるように。

5分経過、いまだ動きなし……。

その瞬間1台の車が該当車両に横付けするように急停車した。
ターゲット車両に動きあり。

覆面をした人物が現金を置いた後部座席のドアを開け、ボストンバッグを手にし逃走した。

「やったぜ、うひょぉ―、札束だ。すげーなぁ」
「よし、後はクライアントからの入金確認だ。その前にこの子をどうするかだな」

「そこらに投げていっちゃうて言うのも、ありなんじゃねぇの」

「まぁ、それもそうだ。だけど、なんか胡散臭いんだよあのクライアント。入金の確認がとれるまでの人質だ」

「だ、そうだってよ、お嬢ちゃん。もう少しで自由にしてやるからよ。その頃には俺たちもういねぇけどな」

車に乗せられた私には白いシャツが羽織られていた。
さすがに車の中とは言え、裸ではまずいと思ったんだろう。

口には透明のテープが張り付けられ、両手は後ろで拘束されたままだ。

「おい、クライアントにメールしろ。金は受け取った。そっちの入金はまだなのかってな」

「あいよ、分かった……。それじゃ送信と」

「それと、金を用意した袋に詰めるんだ」
「おおそうだった。発信機なんか付けられてたらやばいしな」

男はボストンバックから、紙幣を取り出し用意していた袋に投げ込むように移し替え、いったん停車した車の中からボストンバックを外に投げ出した。

「発信機の動きが止まった」
「やられたな。追尾の方はどうだ」

「そろそろ限界です。気づかれるのも時間の問題でしょう」

「弥生さんにも連絡を……」
「弥生さんすでに単車で出ているそうですよ」
「いったいどこに?」

「おいおい、朝早くから金の催促か? 分かったよちゃんと用意してあげるよ。たった2千万くらい。さぁてそれじゃ君たちともさよならだ」

「おっ、返事が来たぞ」

「ご苦労さん。お金は現金で用意させてもらうよ。振込だと後あと面倒なことになりそうだし、こちらの素性も知られてしまう可能性があるからね。

添付してある地図の場所に悪いけど来てくれないかなぁ。そこに逃走用の車と現金を用意しておくよ。

彼女はそのビルの中にでも置いてくれればいいや。それじゃこれでさようならだ」

「まったく手の込んだクライアントだ。とにかくそこに行くしかないだろう」

「ここからそんなに遠くはなさそうすね」
「ああ……そうだな。だけど、少し遠回りだ。つけられている。後ろ振り向くなよ」

「マジかよぉ!」

「こちら追尾。犯人は首都高に上がり神奈川方面に向かっている。少し動きがおかしい、もしかしたらこちらの追尾に感ずかれたかもしれない。

ターゲットは今首都高を降りる。もう限界だ」

その時一台の大型バイクが追尾している車を追い抜いた。

前に出て微妙にブレーキランプを点滅させ合図を送る。
モールスだ。多分弥生さんだろう。

「あ・と・は・ま・か・せ・ろ」

「やれやれ、さすがだよ弥生さん。元上官だっただけの事はあるよ。後は頼みます」

「ああ、頼まれたよ。なんとしてでも逃がしはしないわよ」



「さぁてと僕も動くとするか。これも沙良ちゃんを僕の物にするため、最後にちゃんと感動の演出も用意してある。僕ってなんていい人なんだろうね彼方」

さぁ、チェックメイトだ。


「なんとかまいたようだな。向かうぞ」
「うっす」
30分後、犯人たちは指定された場所についた。

「本当にここでいいんすかねぇ。なんか凄いところっすよ」

都内の一角にある廃屋のビル。
誰も近づこうとはしないこの雰囲気。そこに私は一人置かれる。

「間違いはないだろう。言ってた通り車もある」
「あ、中にケースがあるぜ、そこに現金が張っているんだろ」

車のドアを開け、ケースのふたを開けると中にはきっちりとそろえられた札束が入っていた。

「悪く思わないでくれよな。運がよければだれか見つけてくれるさ」

夏だというのにビルの床はひんやりと冷たかった。
もう動く力も出てこない。かろうじて意識が保たれている状態。
ぼんやりと二人の男の姿が目に映る。

こんなところ、取り壊しの業者でもない限り誰も来ないだろう。
もう限界が近くなってきているのが分かる。

このまま、私は……。
美代ねぇ、真由美。……ご、ごめん。
頑張ったんだけどなぁ、もう限界みたいだよ。

二人組の男たちは車を乗り換え早々にこの場から立ち去った。

車両ナンバー*******

弥生さんがスマホで連絡をしようとした時、異変に気が付いた。
まだ誰かいる!。

弥生さんは相手にきずかれない様にその身を隠す。

その片手にはスナイパーライフルがしっかりと握られていた。

パリン、地面に散らばったガラスの破片を踏み割る音がした。

「やれやれ、ようやく行ったか。まぁこれで彼奴らの役目は終わったもう僕とは何の関係もない。まぁせいぜい逃げ延びてくれ……無理だと思うけど」

その男は建物の中に入っていく。
中には亜美ちゃんがいる。だがここからでは中の状況は見えない。
それにしても奇抜な姿の野郎だ。

オレンジ色のツンツン頭にびっしりとスーツを着こなしている男。

「ああ、もしかして此奴が例のエリックと言う奴なんだ。気色わるぅ!」
なんて独り言のようにつぶやく弥生さん。

「さぁてどうしたものかなぁ、相手は一人、突入して亜美ちゃんの身柄を確保すべきか。それとも応援を待つべきか」

日差しが強くなっていく。弥生さんの額には汗がにじみ出ていた。

「懐かしいねぇ、この緊張感。いいよぉ、イキそうだよまったく」

その時弥生さんは気づいた。後方に二人の手練てだれた黒スーツの男がいることに。胸元が少し膨らんでいる。

銃を所持している可能性がある。それよりもあの二人が醸し出す雰囲気、相当手ごわい相手だという事を弥生さんは感じていた。

「ちぇ、ぶが悪いなぁ。私ひとりじゃかえって危険か」

うっすらと私の目に映るその一人の人の影。
どこかで見たことがある。オレンジ……頭、ツンツン……。

ああこんな人、二人といないよね。確かエリックて美代ねぇ言ってたなぁ。

どうしてこの人ここに? いるの。

「ああ、大分衰弱しちゃっているね。手荒なことはするなと言っていたのに。

さっき君のおねぇさん、美代たちにも連絡しておいたからもうじきここに来るだろう。

それまで耐えられるかなぁ。

死んじゃったらせっかくもうそこまで来てるのに会えなくなるよ。

そうだ僕も今さっき来たところだから……と、言う事になっているからね。きみを救助しようにも手遅れだったと言えばそれまでだよね。そうだ口に張られているテープくらいは取ってあげようね」

彼は私に張り付けられていた透明のテープを剥がした。
叫んでやりたかった。
でも、もう声も出ない。
ゆらゆらと視界が揺れている。

私達はようやくエリックから来た連絡を受け、沙良ちゃんを連れて指定の場所に急行した。

ただ彼方は、もしかしたらこれはエリックの仕組んだ罠かもしれないと警戒していたが、弥生さんから、私のスマホにメールが入っていた。

その地域とエリックが指定してきた場所とが一致した。

すでに弥生さんが現場に居合わせてくれている。さすが弥生さんだ、まだまだその行動力と野生びた鋭い感は健在だ。

「沙良ちゃん、怖い想いをさせるけど必ず守るから信じて」

「あら美代おねぇ様、何を震えていらっしゃるんですか? おねぇ様らしくないですわよ。

私は美代おねぇ様を信頼しています。だから怖くなんかこらっぽちもありません。

それよりも早く亜美ねぇさんを……私の亜美ねぇさんを助け出さないと……そ……それ……グシュ、えぐっ、えっえっ……」

「沙良ちゃん。私たちの大切な姉妹。一番大切なミーちゃんを助け出そうね」

泣きじゃくる沙良ちゃんを強く抱きしめた。

怖いよね……物凄く怖いよね。私だって怖い。
その恐怖に沙良ちゃんは必死に耐えている。

今ここで私が弱音を吐いたら、すべてが終わってしまうような気がする。
もっと強くならないと……。

そっと沙良ちゃんにキスをした。

ゆっくりと目を閉じて、私の刻む鼓動を感じ取るように沙良ちゃんの抱き着く力が強くなる。

ゆっくりと離れお互いの目を見つめ合い、にっこりとほほ笑んだ。

もう怖くなんかない。

沙良ちゃんもその目には輝きが灯されていた。

そう、彼女がステージに上がる時の様な、あの輝いた瞳が私をいざなう。

「もうじき着くぞ」
彼方のその言葉に、私たちの戦闘モードに火がつけられた。

そこは……都会の狭間に出現したような、廃屋のビル。
荒れ果てた敷地に朽ち果てた建物。

この一角だけがこの世界とは違う世界の様に感じる。

パリン、パリン。
地上に飛び散ったガラス片が靴底から鳴り響く。

「やぁ、待っていたよ彼方」

朽ち果てたビルの中から彼奴の声が聞こえた。
「エリック!」
ゆっくりとコツンコツンと靴底を鳴らし私達に近づく男の影。

夏の青い空に広がる白い雲の隙間から放たれる、陽の光が彼を照らし出す。

「まぶしいなぁ」と彼は一言言った。
その背後には二人の黒服の男が立っていた。そのうちの一人。
ぐったりと変わり果てた姿のミーちゃんを抱きかかえている。

「ミーちゃん……!!」

「さぁ、彼方約束を守ってもらおうじゃないか」

「くっ! エリック」
彼方は自分のこぶしを力いっぱい握り震わせていた。

その時私の手から沙良ちゃんの手が離れた。

「さようなら……美代おねぇ様」

小さな声で彼女は呟き、自ら、エリックの方に歩み出す。
「沙良ちゃん……」

後ろは振り向かなった。

……沙良ちゃん。あなた始めっから。

馬鹿だよ、馬鹿だよ沙良ちゃん。

パリン、パリン。沙良ちゃんの履くヒールが散らばったガラス片を割り砕きながら……彼女は前に進んでいった。
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