【改訂版】この世界に足を踏み入れたら抜け出せないじゃないですか……

さかき原枝都は

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ドール 姉妹の団結

ドール 姉妹の団結 その9 沙良の危機ACT8

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「うへぇぇ―――じがれたよぉ!」
さすがに撮影に、基本動作のレッスンその他もろもろ……
ここまでつぎ込まれると、限界!

「お腹空いたよぉ―――」
「はいどうぞ、ご準備できております」
と、目の前に出てきたのは

牛丼!

「麻美さん牛丼これで何食目?」
「牛丼は私のステータスです。そして元気の源、美容の源全てです」
「はぁ―、何か他のもの食べたいよう」

マネージャの岡西愛理おかにしあいりが、早く食べちゃってください。この後まだスケジュールが押しています。

明日なんですよ。お二人のデビューは。

もっと緊張感を持ってくださいようぉ……お願いします。
あのちっこい体を、ピョンピョンさせながら言う。

うえぇ―――もう逃げたいよう。

二人っきりになった控室。
真由美と二人、ぼう―――――としながら顔を見つめ合っていた。
ああ、吸い込まれる。
真由美のあの唇。
無意識に真由美にキスしていた。
「亜美……うっ……あああ。駄目だよ、私だって我慢しているんだから」
「うん、そうだよ我慢しているよ……我慢もう限界、牛丼よりも真由美を食べたい」
「私だって亜美を食べたい」

抱き合いながら私たちは床にその身を伏せた。
冷たい床。だか私たちの体は燃え上がるように熱くなっていた。

止めようにも、もう体が勝手にお互いを求めている。
真由美のブラを外し、すでにぴんと立ち上がった《そうあそこなんです!》を吸い出すように口に含む。

「あううううっ! 亜美、亜美……もっと強く。お願いもっと私のそこ、吸ってちょうだい」

「うん、もっと強くね……つよ……く」
「うっぐっ……ああぅ……イクぅぅぅ!」
「真由美、見せて、あなたのその顔、真由美の最高の声を聞かせて!」


あうぅっ……あああぁ……気持ちいようぉ……あ、亜美ぃ

ぐったりとする真由美の体に私は抱き着いた。
ドクンドクンと真由美の心臓の鼓動が私の胸に伝わる。
それだけで、私は満たされた。

真由美が気持ちよくなれば、その気持ちよさは私の体に伝わる。
それだけで十分だ。

「えへへ、イッちゃった」

恥ずかしそうに真由美の手が伸び、私の体をきつく抱きしめる。
「亜美は大丈夫なの?」
「うん、私も満たされた。真由美の気持ちよさが、私の体に伝わって来たから」

もう体も気持ちも何もかも、私たちは繋がりあっているから。


そのあとのスケジュールはあっという間に終わった。
満たされた分……二人の心の繋がりが強く感じる。

本番当日の朝。
ホテルの窓から差し込む光が私たち二人を包み込んだ。
スタッフは昨日から会場入りをしている。
急遽組み込まれた私達ドールの出演、その調整に大忙し。

開演は午前11時から、そして閉演は16時
私たちの役目は主力ブースのアイキャッチ的存在。

特別歌を歌ったり、マイクを持って説明や演出をすることはない。
単に言えば、その場にいればいいという簡単なことだ。

しかしそれが実は一番難しい。

ドールいわば人形として無表情でいるのであればいい。しかし私たちは生身のドールだ。

動きがあり、来所する人々にその存在を表情とアイキャッチで呼び込まなければいけない。

その可愛らしさをフルに見せつけ興味を沸かせる。

私たちはプロのコスプレイヤー。

その私たちの姿の魅力をその目に焼き付きさせる。
ただ、今回は主催者側も急遽の予定変更投入の事もあり、正直あまり乗り気ではないらしい。

それでも今まで影の存在とでしか活躍することないドールが表の世界に出るという初の日だ。

失敗はしたくない。

何をどうすか、綿密な打ちあわせはすでに私たちはレクチャー済み。
何も心配することはない。
ただ、沙良ちゃんの身だけは心配だ。

いつどんな形で、沙良ちゃんが襲われるのかは分からない。
その分セキュリティは十分に対応させている。

私たちのデビューは、もう秒読み段階だ。



「ねぇ彼方、エリックから直接電話来たんだよね」

「ああ、今思い出しても腹が立つ」
「それでお父様の所に連絡をした」

「う、うん。本当は頼りたくはなかったんだが、今の僕の力では彼奴の行動を止めるには、まだ未熟だというのが良く分かったよ。彼奴の電話で」

「ふぅ――ンそうなんだ。少しは成長したのかなぁ」

彼方の顔を覗き込むようにして私は、彼の目を見た。
うん、死んではいない。
いいえ、むしろ今の方がいい目をしている。

「ふ、成長かぁ……でも恐れ入ったよ美代。父さんとも通じていたなんて」
「あら、言っときますけど、お父様とはただの友達よ。あなた抜きのね」

「ま、まさか……」

「馬鹿ねぇ、そんなのある訳無いじゃないの。親子丼なんてしていないわよ」

「ふぅ、そうだよな、あの堅物の父さんがそんなことする訳ないよな」
「あった方がよかった?」
「まさか!」

「だよねぇ―。でもねぇ、あの時はあなたは親の気持ち子知らずだった。どれだけお父様があなたのことを心配していたのか分かってる?」

「そなこと、僕がこの事業を立ち上げようとした時、偉い剣幕で怒られたんだ。お前にはその才能なんか無いってね。

だから見返してやりたかった。その一心でここまで来た」


「ただそれだけだったの?」


美代はいったい何を僕に言わせたいんだ。
たまに分からなくなる時がある。彼女のその考えが、彼女が見ているその先の景色が……僕にはまだ想像さえできない。

ただそれだけだったの?
いいや違う。僕はあの時、美代と一緒に前を向いて歩きたかったんだ。

僕は美代という存在の大きさに、その時から気が付いていたんだ。彼女とならどんなことも乗り越えられる。

そして僕は美代のためにこの身を捧げることを誓うために起業したんだ。

それが……僕は飛んでもない過ちを犯し、美代と尚子を傷付けてしまった。
己に負けたんだ。

事業が軌道に乗り、成長が約束された時。僕は自分の事しか見ようとしなかったんだ。そして二人の存在を消そうとまでした。

その結果、二人は僕の前から身を引いた。

「甘々だったな僕は……美代」
「今頃気が付いたの彼方」

「ああ、今頃な。それにエリックがどんな攻撃を仕掛けてくるのか、楽しみになって来たよ」

「そうかぁ、彼方もようやくタン塩君の名を、返上出来る時が来たのかなぁ」

「僕は君のために、君たちのために僕のすべてを捧げるために、起業したことを……その想いを先に伝えるべきだったんだ……甘かったよ。

僕は最高の女神二人を自ら手放してしまったんだからな」

「今さらそれを言うのは反則よ」
「そうだな」

「もうミーちゃんたちは会場入りしている時間だよ。これからが私たちの本当の戦いが始まるのよ」

「ああ、僕は戦うよ。たとえこの会社が無くなっても、たとえ僕一人になっても君たちを守ってやる」

「うん、期待してるよ彼方」

いい目をしているよ彼方……また惚れ直しちゃいそうだよ。

でも、もう後には戻れないんだぁ。
それを一番知っているのは、あなた彼方自身だから。


その時私たちはすでに大勢の人たちの注目の的となっていた。

「ばっちりだね。主催者側のコンセプト共合致している。それに見てごらん。来た人たちの視線、みんなドールに注目している」

沙也加さんは手ごたえを感じていた。

「そりゃそうですよ。なにせ急遽の事でも絶対に相乗効果はあるって自信もって営業しましたからね」

マネージャの愛理さんもホッとしているようだ。

「ねぇ真由美」
「なぁに亜美」

「なんだか物凄く気持ちいよ」
「うん、どんどんのめり込んでいきそう」

「注目を浴びるって、こんなにも気持ちいものだったなんて知らなかった」

「そうだね」

「すみませ―――ん! ご順番に奥のブースの方へご移動願いま――す」

大声で私たちの前に群がる観客を誘導する声。どこかで聞いたことのある声だった。

必死に押し寄せる人の波に立ち向かうその姿。

亜希子だ。
今日の亜希子のバイト会場はここだったんだ。

「はぁ―――い。ご順番にぃ!。どうぞ一列にお並びくださいぁ―――い!」

「ねぇ亜美、亜希子ちゃんじゃない」
「亜希子だ。私たちに気が付くかなぁ」
「知ったらどうなるんだるんだろうね」

「亜希子の事だから、暴走しちゃうんじゃない」
「自分の仕事ほったらかして?」

どうなるのか物凄く興味はあったけど、こちらから声をかけることは厳禁だ。
私たちは今ドールだ。

特定の人に、たとえ友人でも愛人でも、こちらから声をかけることは出来ない。

ふと亜希子が立ち止まってこっちを見ている。
不思議な感じで私たちを見つめていた。

でも亜希子は何も言わず、押し寄せる人の波の中に消えて行った。
何かを感じ取ったのは確かだと思う。

でも、今の私たちに亜希子は声をかけなかった。
いや、声を掛けるべきではないと理解したんだろう。

沙良ちゃんのスタンバイポジションは、ここからだと大きなパネルが視界を遮っていて見えないが、私たちよりも大勢の人たちが集まっているのが分かる。

さすがは今までトップドールとして活躍していたことはある。
その熱気は私達のブースにも伝わるほどだ。

今沙良ちゃんはどんな衣装を着ているんだろう。

セットアップは入れ違いだから、沙良ちゃんの姿を見ることは出来なかった。

新作ゲームのプロモーション。
今回は三社だけだったけど、その三社ともかなりの有名なゲーム会社のようだ。

二次元の世界でしか会う事の出来ないゲームのキャラクターヒロイン。
私たちはそのヒロインの実写化の様な存在だ。

しかもただの人形じゃない。
生身のこの体のあるドールだ。

インカムから指示が出される。
「沙良あと10分で2番の衣装にチェンジします」

「沙良ちゃん衣装チェンジなんだ」
「亜美ちゃん、真由美ちゃん、あなた達も衣装チェンジに入るわよ」
沙也加さんの指示が聞こえてきた。

「ねぇ亜美、次の衣装ってフェアリー系だったよね」
「そうだったね」

「私あの衣装好きなんだぁ」
「真由美一押しですかぁ?」

「そうだよ。だって亜美の視線が物凄く熱く感じるんだもん」
「い、いやそれは……だって可愛いんだから仕方ないでしょ」

その時、遠くの方から物凄く鋭くて、異様な感じの視線が私を見つめているのを感じた。

その方向に目を向けると。

スーツ姿のオレンジ色した髪をとげの様にツンツンさせた、一人の男の姿が目に映った。

その男は私と目が合うと
うすら笑いをしながら何かを言っていた。
だけどその声は私たちには届かなかった。

これがあの、エリック・トマースであることを知ったのは、少し後の事だった。

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