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ドール 姉妹の団結
ドール 姉妹の団結 その1 真由美のカミングアウト
しおりを挟むその日も暑い一日の始まりを告げるに相応しい位、朝から陽の光は眩しかった。
美代ねぇが注文したダブルベッド、業者さんが全部組みたてて、設置してくれた。今まで使っていたあのベッドは解体され、引き取り処分された。
長年使っていたベッド、愛着もあるし、いろんな思い出もあった。何となく寂しい気持ちにもなったけど、真新しいこのダブルベッドを見ていると真由美との新たな生活が本当に始まるんだという思いが湧き出てくる。
ここに越してから、まだ1か月も過ぎていない。それでももう長年住んでいるかのような感覚になるのは、今まで私のまわりに起きた変化がそうさせているんだろうか。
新たな生活が始まり、新たな関係が生まれた。
私と真由美、そして沙良ちゃん
今までとは違う環境が私を取り巻く。
そして、私たち姉妹に迫る新たな展開が、もうすぐそこまで来ていることを私は……まだ知らない。
◇真由美のカミングアウト
「わぁ―すごい! ひろ―いベッド」
真由美は大喜びだ。
「これで二人ゆっくりとベッドイン出来るでしょ」
「美代さんありがとうございます」
「いいの、いいの。これくらい大したことないんだから」
真由美は必要最低限? の荷物を実家からここに持ってきている。
クローゼットの中には、私と真由美の二人の制服がすでにハンガーに掛けられていた。
夏休みが明け、学校が始まれば私たち二人はここから毎日登校する。
そして、私たち二人夜は二人でこのベッドで抱き合いながら、その至福の時を過ごすんだろう。
そう甘――――い生活が始まるのだ。
昨日、真由美の家に初めて行ってきた。
荷物を一緒に取りに行ったのだ。
思えば真由美の家に遊びに行ったことがないのは、今の関係を思えば不思議なくらいだ。
その時に出会った真由美のお母さん。
真由美の家は代々受け継がれてきた大きな神社だ。広い敷地に大きな木々が神社を取り囲む。まさしく神が住う聖地の様な空気が私をまとう。
その神主が真由美の母親なのだ。
女性の神主は珍しいのかもしれないが、真由美のところの神社は「女性を守る神」を祭る神社としてかなり有名な神社でもある。
恋愛成就、安産、健康祈願など女性にまつわる邪気を遠のかせ、幸福をもたらす。願う想いを込め、お参りに来る人は数多い。
パンパン。
神社の祭壇で真由美と二人
「これからの私たちの生活と関係が、末永く幸せでありますように」
と、お参りをした。
「自分の家なのに、なんだかとても新鮮な気分になれちゃうね」
「私、初めて来たから物凄く新鮮な気分なんだけど」
「そうだよね亜美。不思議だけど今まで私の家に来ることなかったんだものね」
「だね」
ニコット笑って真由美に返した。
「真由美」
奥の方から真由美を呼ぶ声がした。
「あ、お母さん」
「こんにちはご無沙汰しています」と言っても真由美のお母さんと会うのは、中学校の授業参観の時くらいだ。ほとんど話したこともなかった。
「亜美ちゃん、しばらく見ないうちにずいぶんと綺麗になっちゃったわね。もしかしたら美代ちゃんより美人さんになるのかしらね」
「そ、そんな……」
「私も惚れそうなくらいよ。なんてね」
ちょっと茶目っ気のあるお母さん。真由美と尚子さんはお母さん似なんだ。
その大人の厳かな美しさを醸し出し、母親でありこの神社の神主でもある威厳が、その容姿から伝わってくるような感じがする。
「真由美荷物の方はもう準備できているの?」
「うん、大丈夫。とりあえず必要なものは準備しているし、家には帰ってくるから心配しないで」
「そうっかぁ。はぁ―、しかしあなたも尚子と同じになっちゃうとは思わなかったわ。これは運命なのかしらねぇ、美代ちゃんの妹の亜美ちゃんと一緒になるなんて」
「えっ、お母さん知ってるの?」
こくんと真由美が頷く。
「カミングアウトしちゃった」
「したの?」
「うんしちゃった」
「あのぉ……お母さん怒っていません?」
「ん? 怒っていないかって」
「はい、私たちがこんな関係になっているの」
「ふふふ、そりゃ、怒っているわよ。腹の底が煮えくり返るほど怒っているわよ。大切な跡取り娘が同性愛だったなんて、しかもあなた方姉妹に二人ともとられちゃうなんてほんと。これが怒れずにいられるのかなぁ」
言葉はかな―――りきつい言葉だったけど、お母さんは笑顔だった。
「ま、仕方ないでしょ。これも祭る神のお示しなのかもしれないでしょうからね。でもね、私は本当は嬉しいの。あの真由美がこんなにもはつらつと、輝いている姿を見ちゃうと、亜美ちゃんの存在がこの子には本当に必要だったんだなぁって、そう感じてるの」
「そんなに私変わっちゃった?」
「うん、それはもう物凄くいい顔してるもの。本当にあなたの幸せを感じるくらいにね。どんな形であれ、幸せは福を導く。その導かれた想いと幸運を二人で一生懸命育んでいってね」
「はい、お母さん本当にお許しいただいてありがとうございます。真由美、いいえ、真由美さんの事は私の一生をかけてお守りいたします」
「お、なんだか、結婚の許しの挨拶に来てるみたいね。祭壇の前で宣言しちゃったんだから、亜美ちゃんもう後には戻れないわよ。ちゃんと真由美の事。そして、この先待ち受けるあなた達の困難を共に乗り切って行ってちょうだい」
「はい」
「お母さんありがとう」
真由美はお母さんの胸に飛び込む様に抱き着いた。
「私幸せよ、本当に幸せで一杯。溢れてきちゃいそう」
「ほらほら真由美、もう分かったから。お昼、お蕎麦取ったから食べていきなさい」
「はぁ―い。ありがとうお母さん」
「ありがとうございます」
真由美の家を後にして、どっと疲れが私を襲った。
「はぁ―、じかれたぁ……」
「お疲れ様でした、亜美」
「まさか祭壇の前で、あんあ事宣言するなんて思いもしなかったよ」
「黙ってカミングアウトしたこと怒ってる?」
「うんにゃ、かえってなんだか安心しちゃった。これで真由美の家にも隠し事みたいにしなくて済むんだから」
「隠し事なんて……、でも言わないでいたら何時かは、ばれちゃうんだろね。その時になって最悪の状態になるのは私は一番嫌だったから。お母さんには私の素直な気持ち伝えたの」
「でも理解のあるお母さんで良かった」
「そうね、でも色々とこの後問題や苦難はあると思う。お母さんからも私たちの様な関係は、まだまだ世間では認知されにくいから、辛いことも沢山あるけど乗り切って行けるの? て言われちゃったんだ」
「……多分ね。お母さんの言う通りだと思う」
真由美は私の手を力強く握りしめて
「うん、覚悟のうえだよ。って、お母さんに言ってやったよ」
それが真由美の覚悟の現れ、私に対する愛への答えだったんだと思う。
それにしてもすんなりと事が行き過ぎている気がする。
……もしかして、真由美のお母さんにも美代ねぇと尚子さんが事前に何かしていたのかもしれない。
美代ねぇは私の知らないところで、私を守ってくれているのかもしれない。
そんな、私の知らない美代ねぇの姿を思うと、何となく寂しさを感じる。
もしかしたら……いずれ、私の愛する美代ねぇは、私の前からいなくなってしまうんじゃないのかと。
そんな不安が私を襲った。
そんなこと、あり得ないよね……美代ねぇ。
美代ねぇは私の事も、そして真由美の事も愛してくれているんだよね。
私はずっと美代ねぇを愛し続けているよ。
美代ねぇ……愛しています。
それから3日後。
夏休みの直前、私の家族は突如崩壊した。
突如に私を襲った不運。
でも今、私たちはその不運を乗り越え、新たな幸せと日常を取り戻しつつあった。
その矢先、新たな出来事が私たちを翻弄させた。
そして私は新たな扉をもう一つ開けることになる。
その扉は……。
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