【改訂版】この世界に足を踏み入れたら抜け出せないじゃないですか……

さかき原枝都は

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小岩さんちの家族会議

新たな生活  その2

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住むとこ探さないと!
時間はない。引っ越しもある。どんなに遅くても今週中にはなんとかしないといけない。
亜美、落ち込んでいる暇なんかない。ファイトだ!

なんて、熱血ドラマの主人公みたいに即決、即行動なんて出来る私じゃない。

「マジほんまのことなんだ」
亜希子がつぶやくように言う。
「ふぅ、そうなのよ。現実、ああ、別の世界に行けるんだったら行きたいなぁ」
「あははは、異世界っていうやつ? そんなとこあったら私も行ってみたいねぇ」
本当にそうだ。
「ねぇ、ねぇ、美代ねぇさんと二人暮らしになるんだよね」
あれ、亜希子が標準語に戻っている。
意外と亜希子って飲み込みやすいのかなぁ。それとも他人事?
まぁどっちでもいいんだけど。

「住居は異世界。学校なんかは現実世界で、家に帰ったら愛する二人は心の赴くままに……。なんちゃって、美代ねぇさんとやりたい放題じゃない」
「はぁ、あんたも美代ねぇに似てるかもしれないね」
「ははは、やっぱりそう思う」
「何となくね」
「よっしゃ、私も手伝うよ。亜美たちの部屋探し」
「そうありがと……」
とは言ったものの、亜希子も意外と美代ねぇと一緒で広告に載っていたマンションがどうのこうのて言ってくるんだろうな。きっと。

「まずは着替えて、不動産屋巡りや! いや、待て、始めはネット検索からだ。それで目星をつけてと」
へぇ―意外。亜希子って案外まともかも。

「さぁ、亜美とりあえずいったん帰って私んちに来てよ」
「あ、う、うん」
「そうだ真由美もこの際だから誘ってと!」
え! 真由美まで
「真由美まで誘うの?」
「いいじゃん、いいじゃん。頭の分だけ知恵は膨らむって」
「はぁ~」

「ああ、面白くなってきたぞうぅぅ」
「面白くなってきたって、それ何よ!」

「なずけて小岩亜美こいわあみ愛の部屋探し」

はいはい、やっぱこういうところは美代ねぇとおんなじだわ。
愛の巣と愛の部屋。どっちもなんだかエロイわ、ラブホでも探してるみたい。なんて私が言える立場じゃないんだけど。

こうして私の17歳の夏休みはスタートした。
私と美代ねぇが住む部屋探しタイムリミットはあと1週間! それまでには何とかして住む場所を確保しないと。
そのあと引っ越しと、あの家の掃除もしておかなきゃ……。いや、何で私がそこまでしなきゃいけないの? 自分たちの部屋のかたずけだけで十分。
追い出されるのは私たちなんだから。

あとは勝手にあの家に入る人たちがやるべきよ。

亜希子は真由美も誘ったけど、用事があるからって来ないらしい。
亜希子の部屋で二人っきり。
しかも亜希子の家には私たち以外誰もいない。

始めはよかったんだ。二人してスマホで不動産関係のサイト見ては、この物件どう?なんて比べながら探していたんだけど、意外とこれが物凄く地道な作業だったことに二人とも気が付いたころには、欲望に負けていた。

「はぁ、はぁ」
エアコンつけていても熱い。体が物凄く火照ってる。
「ねぇ熱くない?」
「亜美の体が熱くなっているんだよ」
「どうしたらいいのこの体?」
「私にどうしてもらいたいの亜美」
「……どうしてって、分からない」
「よしよし、甘えん坊の亜美ちゃんの出来上がりだね」
「亜希子の馬鹿!」
「亜美これ付けてよ」
「なにこれ、猫耳カチューシャ?」
「そう亜美はネコちゃん。ほら、お腹くりくりすると気持ちいでしょ」
「あ、だめ、力が抜けるぅぅ」

「かわいいなぁ亜美」
「馬鹿」
そんなこと耳元で言わないでよ。
「うふふ、口ではそういっていても、何も抵抗しないのはどうしてかなぁ」
亜希子の手が私の柔らかいところに触れるたびに、体がピクンと反応する。
亜希子はいつもずっとじらすタイプ。
「意地悪な亜希子……」
「そうだよ私は亜美には意地悪なんだぁ」

シャツのボタンが下から外されていく。
亜希子の癖だ。いつもボタンを下からゆっくりと外していく。
ペロリ! おへそのあたりに亜希子の舌が這う。
「あううぅ」
「亜美はさぁ、私の事好き?」
「す、好きだよ」
「それじゃ私の事愛してる?」
「……わ、分からない」
「どうして分からないの。それとも美代ねぇさんの事愛しているの?」
「そ、そうじゃない……けど」

「けどって、何?」
亜希子は耳元で言う。彼女の熱い息が私の耳に触れるように。
私はその亜希子の口を、自分の口びるを重ねて黙らせた。
もう駄目、敏感になりすぎている。私ここに何しに来てたんだろう? 
「ンもう!」
このままじゃ落ちゃう。
反撃! 亜希子の弱いところはもう全て知っている。
集中攻撃! 
「あ、だめ、ダメだってば……」
アッという間に
亜希子はぐったりとしてしまった。

私は何となく中途半端な感じ、でもその余韻が私は好きだ。根っからのネコなんだろうな、きっと。

「明日さぁ、今日調べたとこ行ってみようよ」
二人でベッドに横たわり天井を見つめていた。
「うん、ありがとう」

二人ともそのままお互いを見つめることはなかった。

あたりはもう暗くなっていた。帰りたくはないけど、今はまだあの家が私の帰るべく家だから。
……仕方がない。
玄関を開けると真っ先に目に入ったのは、引っ越し用の段ボールの山だった。
「あ、亜美ちゃん今帰ったの」
お母さん、いや母だ!
「ごめんね亜美ちゃん。こんなことになっちゃって……。許してなんて言えないよね。でももう後には戻れないの。私明日この荷物と一緒にこの家出ていくから」
「そう」
その一言しか私は言えなかった。
「美代と仲良くやってね」
ぐっと手を握り、あふれてくる涙をこらえながら自分の部屋に行った。

バタンと自分のベッドに体を倒して、枕を抱いて声を殺して
泣いた。
泣いた悔しくて、悲しくて。
たまらない思いが一気にあふれ出してきた。

出来る事ならこれは夢であることを心の中で願い、いつの間にか私は眠ってしまった。

「あ”、」
朝起きた時に気が付いた。猫耳カチューシャしたままだった。
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