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第13話 どうする? ……旦那の浮気相手から惚れられたら その2
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人生の転機はいつ訪れるか分からない。
あの日。雄也の浮気現場を目にした日から。私、いいえ。私と雄也との二人三脚の人生は大きく舵を切った。
思えば三年未満の人生共有。
私たちは共に老いるまで、その身と心を分かち合うことを誓ったはずなのに。
「おい! 上野……じゃなかった。西村」
「麻奈美。呼ばれているわよ!」
「……もう、知奈ちゃん。そんなとこ触っちゃだめだよぉ!!」
「麻奈美ってばぁ! ほら、呼ばれているわよ。シャキッとして!!」
「えっ! な、何?」
「に・し・む・ら……!」
「あっ、は、はい」
旧姓に戻したが、なぜか呼ばれている自分がまだその名に慣れていないような感じがする。
身も心も上野だった私。もとに戻しただけなのに。何か歯がゆい気がして落ち着かない。
知奈ちゃんとの浮気。これはあの次の日の朝。いきなり急展開で出会ちゃった私が見た雄也の浮気相手。目覚めて、いきなりの出会いに戸惑ったけど。なぜか怒る気になれない。憎むことも出来ない変な気分にさいなまれ。いやいや。それどころか知奈ちゃんから直球告白受けて。私がうろうろしちゃっていた。
「まことに済まない」
土下座して額を畳に擦り付け、春日先生は謝罪した。もちろんその時は知奈ちゃんも一緒に謝罪したんだけど。すぐに切り返されて。
「私、麻奈美さんに一目ぼれしちゃいました」
「ほへっ? ひ、一目ぼれって? 何?」
「お前なぁ。謝罪してそのすぐ後にそれは無いんじゃないか?」
「いいじゃない。お兄さん。だってこの気持ち、もう抑えきれないんだもん」
「本当にすまん上野さん。何ならこいつ刺してもいいぞ。俺が許す。包丁持ってこようか?」
えっ、刺すって……何? で、いったいどうなちゃっているの? 全くわけわかんないんだけど。
何が何だかわからずじまいで、ポケらっとしている私に春日先生は順を追って説明してくれた。
「つまりはこの人が雄也の浮気相手で、それで先生の従妹さん。……それで、先生は何もかも分かっていたということなんですよね」
ジトっと春日先生の顔を見つめた。
なんだか、春日先生がすべてを知っていたということが腹立たしく思えた。
「もぉ! なんで知っておきながらずっと隠していたんですか……先生」
「そ、それは……すまん」
また額を畳にこすり付けて頭を下げる先生。
「なんかそっちの方が重罪のような気がするんですけど」
まったく! と口にしながらも本心は、正直うれしかった。
ずっと私のことを見守ってくれていたんだ。――――この人は。
そのことが嬉しかったのだ。
それにだ確かに、彼女の事を見ると昨日雄也と一緒にいたあの女性だと確信できた。
しかしだこの変わり身の速さはなんなんだ!
「あのぉ、麻奈美さん……怒ってます? て、怒ってますよね」
彼女のねっとりとした感じの声の質問に。
「お、怒ってないといったら嘘になるけど。雄也も同罪なんだから、あなたばかりは責められないと思うけど……ああああああああ! でもなんか腹ただしい」
「うんうん。そうだろう。ささ、どうぞ平手打ちなり、殴るなりご存分に気の晴れるまでどうぞ!!」
と、春日先生が低姿勢で言うところが、またなんとも返事に困る環境を産んでくれる。
「ええええっと叩かれるの痛いし、殴られるのもっと痛いからいやだなぁ。でもね、でもね、この体。――――麻奈美おねぇさんに捧げてもいい。ううん。捧げちゃう……もう先輩とは関係持ちません。正直持ちたくないです。だってマジ本気で麻奈美おねぇさんに恋したんだもん」
恋って……。好きだって言うこと?
マジ?
はぁ~。こんな展開と結末は予想外だったけど。
まっ、いいかぁ――。
開き直るところから始めよう。あの時そう思った私の決断は多分……今の私の生活の姿を見ればわかってもらえると思う。
「西村。百合企画好調だな。第二弾決まったぞ」
「本当ですか?」
「ああ、この調子で頼む。春日先生の担当ときついかもしれないけどな」
「あ、でもあの人のことは担当と言うよりもう、生活の一部なんで」
「……そうか」
編集長はちょっと私の顔を覗き込むようにして見て。
「強くなったな」と一言言った。
雄也とはもう連絡さえ取っていない。
あれから部長との噂が社内に広まり。あえなく地方に飛ばされてしまった雄也。
知奈ちゃんの話だと、もう本社には戻ってこれないかも……。だって。
頑張ってね。
玄関からまっすぐに伸びる廊下。その片側はこの家の庭に面している。
縁側? ではないけど、そこから見るこの家の庭が私は好きだ。
「はい、麻奈美さん。今日は暑いから冷たいほうじ茶だよ」
「ありがとう」
彼はそっとお盆に乗せたグラスを私に手渡し、隣に腰を落とした。
「ふぅ」と一息。
「春日先生」
「ん? どうした」
「なんでもないですぅ」
「なんだよ」
「だからなんでもないってばぁ!」
「気になるなぁ」
「じゃぁ気にしないでください」
「そっか。じゃぁ気にしない」
ううううううぅ。そうじゃなくて……気にしてよぉ!
「ああ、また二人でイチャイチャしているぅ。そりゃぁ、二人が付き合うの許したんだけど。でも麻奈美おねぇさんは、私のだからね。仕方なくだよ! 仕方なくお兄さんにつけているだけだからね。そこんとこ間違えないように!!」
「あははは。まいったね……でも知奈ちゃん。私どこにももう行くとこないから安心して」
「安心? 出来ないよぉ。だからさ、早く籍入れてよ」
そう言いながら私の体に背中から抱きつき、耳元でそっと息をかけるように彼女は言う。
「子供。つくっちゃいな」て。
「そうだね」
さんさんと降り注ぐ太陽の光は。
これからの私たち三人の未来を、照らしているように思えた。
でもその前に。
「春日先生」
「はい」
「原稿締め切り迫っていますよ!!」
「はい頑張ります」
旦那が浮気しているみたいだから私も不倫してみよっと!
終わり。
あの日。雄也の浮気現場を目にした日から。私、いいえ。私と雄也との二人三脚の人生は大きく舵を切った。
思えば三年未満の人生共有。
私たちは共に老いるまで、その身と心を分かち合うことを誓ったはずなのに。
「おい! 上野……じゃなかった。西村」
「麻奈美。呼ばれているわよ!」
「……もう、知奈ちゃん。そんなとこ触っちゃだめだよぉ!!」
「麻奈美ってばぁ! ほら、呼ばれているわよ。シャキッとして!!」
「えっ! な、何?」
「に・し・む・ら……!」
「あっ、は、はい」
旧姓に戻したが、なぜか呼ばれている自分がまだその名に慣れていないような感じがする。
身も心も上野だった私。もとに戻しただけなのに。何か歯がゆい気がして落ち着かない。
知奈ちゃんとの浮気。これはあの次の日の朝。いきなり急展開で出会ちゃった私が見た雄也の浮気相手。目覚めて、いきなりの出会いに戸惑ったけど。なぜか怒る気になれない。憎むことも出来ない変な気分にさいなまれ。いやいや。それどころか知奈ちゃんから直球告白受けて。私がうろうろしちゃっていた。
「まことに済まない」
土下座して額を畳に擦り付け、春日先生は謝罪した。もちろんその時は知奈ちゃんも一緒に謝罪したんだけど。すぐに切り返されて。
「私、麻奈美さんに一目ぼれしちゃいました」
「ほへっ? ひ、一目ぼれって? 何?」
「お前なぁ。謝罪してそのすぐ後にそれは無いんじゃないか?」
「いいじゃない。お兄さん。だってこの気持ち、もう抑えきれないんだもん」
「本当にすまん上野さん。何ならこいつ刺してもいいぞ。俺が許す。包丁持ってこようか?」
えっ、刺すって……何? で、いったいどうなちゃっているの? 全くわけわかんないんだけど。
何が何だかわからずじまいで、ポケらっとしている私に春日先生は順を追って説明してくれた。
「つまりはこの人が雄也の浮気相手で、それで先生の従妹さん。……それで、先生は何もかも分かっていたということなんですよね」
ジトっと春日先生の顔を見つめた。
なんだか、春日先生がすべてを知っていたということが腹立たしく思えた。
「もぉ! なんで知っておきながらずっと隠していたんですか……先生」
「そ、それは……すまん」
また額を畳にこすり付けて頭を下げる先生。
「なんかそっちの方が重罪のような気がするんですけど」
まったく! と口にしながらも本心は、正直うれしかった。
ずっと私のことを見守ってくれていたんだ。――――この人は。
そのことが嬉しかったのだ。
それにだ確かに、彼女の事を見ると昨日雄也と一緒にいたあの女性だと確信できた。
しかしだこの変わり身の速さはなんなんだ!
「あのぉ、麻奈美さん……怒ってます? て、怒ってますよね」
彼女のねっとりとした感じの声の質問に。
「お、怒ってないといったら嘘になるけど。雄也も同罪なんだから、あなたばかりは責められないと思うけど……ああああああああ! でもなんか腹ただしい」
「うんうん。そうだろう。ささ、どうぞ平手打ちなり、殴るなりご存分に気の晴れるまでどうぞ!!」
と、春日先生が低姿勢で言うところが、またなんとも返事に困る環境を産んでくれる。
「ええええっと叩かれるの痛いし、殴られるのもっと痛いからいやだなぁ。でもね、でもね、この体。――――麻奈美おねぇさんに捧げてもいい。ううん。捧げちゃう……もう先輩とは関係持ちません。正直持ちたくないです。だってマジ本気で麻奈美おねぇさんに恋したんだもん」
恋って……。好きだって言うこと?
マジ?
はぁ~。こんな展開と結末は予想外だったけど。
まっ、いいかぁ――。
開き直るところから始めよう。あの時そう思った私の決断は多分……今の私の生活の姿を見ればわかってもらえると思う。
「西村。百合企画好調だな。第二弾決まったぞ」
「本当ですか?」
「ああ、この調子で頼む。春日先生の担当ときついかもしれないけどな」
「あ、でもあの人のことは担当と言うよりもう、生活の一部なんで」
「……そうか」
編集長はちょっと私の顔を覗き込むようにして見て。
「強くなったな」と一言言った。
雄也とはもう連絡さえ取っていない。
あれから部長との噂が社内に広まり。あえなく地方に飛ばされてしまった雄也。
知奈ちゃんの話だと、もう本社には戻ってこれないかも……。だって。
頑張ってね。
玄関からまっすぐに伸びる廊下。その片側はこの家の庭に面している。
縁側? ではないけど、そこから見るこの家の庭が私は好きだ。
「はい、麻奈美さん。今日は暑いから冷たいほうじ茶だよ」
「ありがとう」
彼はそっとお盆に乗せたグラスを私に手渡し、隣に腰を落とした。
「ふぅ」と一息。
「春日先生」
「ん? どうした」
「なんでもないですぅ」
「なんだよ」
「だからなんでもないってばぁ!」
「気になるなぁ」
「じゃぁ気にしないでください」
「そっか。じゃぁ気にしない」
ううううううぅ。そうじゃなくて……気にしてよぉ!
「ああ、また二人でイチャイチャしているぅ。そりゃぁ、二人が付き合うの許したんだけど。でも麻奈美おねぇさんは、私のだからね。仕方なくだよ! 仕方なくお兄さんにつけているだけだからね。そこんとこ間違えないように!!」
「あははは。まいったね……でも知奈ちゃん。私どこにももう行くとこないから安心して」
「安心? 出来ないよぉ。だからさ、早く籍入れてよ」
そう言いながら私の体に背中から抱きつき、耳元でそっと息をかけるように彼女は言う。
「子供。つくっちゃいな」て。
「そうだね」
さんさんと降り注ぐ太陽の光は。
これからの私たち三人の未来を、照らしているように思えた。
でもその前に。
「春日先生」
「はい」
「原稿締め切り迫っていますよ!!」
「はい頑張ります」
旦那が浮気しているみたいだから私も不倫してみよっと!
終わり。
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