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第8話 見てしまった決定的瞬間。
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取材と言う名の尋問?
私はそんな感じしかしなかったけど、あの日を境になんか自分自身の気持ちに変化が出てきたような気がする。――――今思えばなんだけど。
ま、正直春日先生との取材と言う名の尋問は、あの後ほとんど意識がぶっ飛んじゃって、何を話したのかは記憶にない。
それから数日後、春日先生の新作の企画書がデスクにあがった。
編集長はえらく気に入ったようで「おい上野」
「はい!」やっぱりなんか呼ばれる時って緊張する。
そそくさと、編集長のデスクに行くと。今にでもあの昭和丸出しの、確か『三年目の浮気』ていう曲だと思うんだけど、鼻歌で出てきそうな表情で。つまりはとってもご機嫌ていうこと!
「春日先生からお前ご使命だ」
「へっ? ご指名っていうのは?」
「まっ、担当させろって言うことなんだろうけどな。今、全部を上野に任せるのは業務量的にも厳しいだろうから、メインは今まで通り秋葉が担当。上野はその補佐役ということでよろしく頼む。秋葉もいいよな」
視線が愛子さんの方に向けられると、それを察知したかのように「ええ、大丈夫です」と軽く流すように答えた。
「良かったね、また春日先生のところに行けるんだから」愛子さんが何か意味ありげに言うところがちょっと、いやいや、物凄くあやしい気配満載なんですけど、でもまんざら私自身も嫌という訳でもない。むしろ、春日先生のところに行けるということが、うれしいていう気持ちが芽生えていた。
なんかしてやられたような感じがするけど!
まっ、今回の作品。私がなんかメインの題材のようなんで。
なんでよ! って思いたいけど、あの尋問と言う名の取材を受けてから雄也のことを細かく観察するようになっている自分がいた。
雄也のことを疑っているわけじゃないけど、でも気になりだしたら止まらなくなっていた。
だから、春日先生のところに行けるのは、自分の気を紛らわすのにもよかったのだ。忙しいとそのことばかりに気を取られないからだ。
だが、疑心暗鬼な気持ちは日々募っていく。
そして気が付く。求めていたのは、いつも私の方からだったということを。
雄也からは私を求められていなかった。
始めは一週間。そして一か月。夫婦の営みがなくても、雄也は求めてこなかった。
確かに帰宅時間も前からすれば不規則になっているようだ。仕事が忙しい……「新規のプロジェクトも任されているからね」そうにこやかに言う彼の言葉を信じていた。
「あんまり無理しちゃいけないよ」て、返すと。
「麻奈美だって頑張っているんだから」と返してくる。
そう言うやりとは、欠かすことは無い。それが雄也のやさしさだったのか? それとも罪の意識があってそう言う言葉を私に投げていたのか?
それも今となってはよくわからない。
夏の暑さが遠のき、秋が終わろうとしていた。もう襟元にマフラーが欲しい季節。
ちょっとしたミスでその日は翻弄していた。
「ああ、なんでよ! まったくもう!!」と、自分のふがいなさと時間に追われ少し苛立ちながら、降り立った駅は、雄也の会社の近くの駅。と言っても二駅離れているんだけど。
つまりは電車の中の温かさで、つい居眠りをしてしまい、乗り越してしまったのだ。
多分これは些細なミスに入る。……多分。
気を取り直して、戻ろうとしたけど、また電車の中で眠りそうなくらい睡魔は私をまだ襲っていた。
ここでダブルでこんなことしたら、もう取り返しのつかないミスになる。ここはタクシー使っちゃえ! 駅を出てタクシー乗り場に向かう途中。見慣れた背中に目が留まった。
もしかして雄也?
すぐに声をかけようと、近づいていこうとした瞬間。私の足は止まった。
「えっ!」
隣にいたのは若い……私よりも若く見えた。
同じ会社の人? 今日は外回りだったの? 会社の人と……。
そうだよね。仕事なんだよね。――――何考えてんの? 私?
そう言えば後輩さんの指導もしているって言っていたけど。彼女がその後輩さん?
人込みでその人の顔はよく見えなかったけど。
二人が向かう方向が無性に気になる方角だった。だからかもしれない。こんなことしたくはなかったんだけど。
こっそり後をつけてしまった。
師走に入ろうとする時期。街は少しづつ活気にあふれてくる。しかし周知の事情からか、それともこんな時間から、そう言う雰囲気のエリアに足を運ぶ人は少ない。
二人が向かう先にあるビル群。
何? なんでこんなところに向かの?
二人は私の存在に気付くことなく。まるでゴキブリ取りハウスに引き込まれるように、雄と雌のゴキブリが入っていくのを私は見てしまった。
ひんやりとした空気が体をまとい、心にもその冷たい風が吹き込んできた。
いやぁ―、驚いた。でも、もっと驚いたのは意外に平然としている自分にだった。
あはは、雄也浮気してるじゃん。
何あのデレっとした顔。私にも見せたことなんかないよあんな顔。
疑っていたわけじゃないよ。でもこれは確信犯。現場見ちゃったんだから。
ああ、なんかマジに体が心が冷え切っていく。もう眠気なんかなくなっていた。
用事を済ませ、帰社時刻が遅れることを伝え。そのまま向いた行先は……。
春日先生のところ。
連絡もせず。先生の家の玄関の前で呼び鈴を押す。
ガラガラと音を立て、引き戸が開かれた瞬間。
「先生。先生は私のこと仕事のパートナーとしか見ていないって言っていましたよね」
「あれぇ、上野さん」
「あのですね。私に不倫の仕方教えてください!」
「はぁ? いきなりなんだ? 上野さん」
きょとんとして、目をぱちくりさせる。春日先生の姿がなんかちょっと可愛い。
ああ、これはいつぞやの日と、逆のような気がするんだけど?
でも、いきなり「セックスしましょう」よりはまだいいのか?
……どうなんでしょう――――私。
私はそんな感じしかしなかったけど、あの日を境になんか自分自身の気持ちに変化が出てきたような気がする。――――今思えばなんだけど。
ま、正直春日先生との取材と言う名の尋問は、あの後ほとんど意識がぶっ飛んじゃって、何を話したのかは記憶にない。
それから数日後、春日先生の新作の企画書がデスクにあがった。
編集長はえらく気に入ったようで「おい上野」
「はい!」やっぱりなんか呼ばれる時って緊張する。
そそくさと、編集長のデスクに行くと。今にでもあの昭和丸出しの、確か『三年目の浮気』ていう曲だと思うんだけど、鼻歌で出てきそうな表情で。つまりはとってもご機嫌ていうこと!
「春日先生からお前ご使命だ」
「へっ? ご指名っていうのは?」
「まっ、担当させろって言うことなんだろうけどな。今、全部を上野に任せるのは業務量的にも厳しいだろうから、メインは今まで通り秋葉が担当。上野はその補佐役ということでよろしく頼む。秋葉もいいよな」
視線が愛子さんの方に向けられると、それを察知したかのように「ええ、大丈夫です」と軽く流すように答えた。
「良かったね、また春日先生のところに行けるんだから」愛子さんが何か意味ありげに言うところがちょっと、いやいや、物凄くあやしい気配満載なんですけど、でもまんざら私自身も嫌という訳でもない。むしろ、春日先生のところに行けるということが、うれしいていう気持ちが芽生えていた。
なんかしてやられたような感じがするけど!
まっ、今回の作品。私がなんかメインの題材のようなんで。
なんでよ! って思いたいけど、あの尋問と言う名の取材を受けてから雄也のことを細かく観察するようになっている自分がいた。
雄也のことを疑っているわけじゃないけど、でも気になりだしたら止まらなくなっていた。
だから、春日先生のところに行けるのは、自分の気を紛らわすのにもよかったのだ。忙しいとそのことばかりに気を取られないからだ。
だが、疑心暗鬼な気持ちは日々募っていく。
そして気が付く。求めていたのは、いつも私の方からだったということを。
雄也からは私を求められていなかった。
始めは一週間。そして一か月。夫婦の営みがなくても、雄也は求めてこなかった。
確かに帰宅時間も前からすれば不規則になっているようだ。仕事が忙しい……「新規のプロジェクトも任されているからね」そうにこやかに言う彼の言葉を信じていた。
「あんまり無理しちゃいけないよ」て、返すと。
「麻奈美だって頑張っているんだから」と返してくる。
そう言うやりとは、欠かすことは無い。それが雄也のやさしさだったのか? それとも罪の意識があってそう言う言葉を私に投げていたのか?
それも今となってはよくわからない。
夏の暑さが遠のき、秋が終わろうとしていた。もう襟元にマフラーが欲しい季節。
ちょっとしたミスでその日は翻弄していた。
「ああ、なんでよ! まったくもう!!」と、自分のふがいなさと時間に追われ少し苛立ちながら、降り立った駅は、雄也の会社の近くの駅。と言っても二駅離れているんだけど。
つまりは電車の中の温かさで、つい居眠りをしてしまい、乗り越してしまったのだ。
多分これは些細なミスに入る。……多分。
気を取り直して、戻ろうとしたけど、また電車の中で眠りそうなくらい睡魔は私をまだ襲っていた。
ここでダブルでこんなことしたら、もう取り返しのつかないミスになる。ここはタクシー使っちゃえ! 駅を出てタクシー乗り場に向かう途中。見慣れた背中に目が留まった。
もしかして雄也?
すぐに声をかけようと、近づいていこうとした瞬間。私の足は止まった。
「えっ!」
隣にいたのは若い……私よりも若く見えた。
同じ会社の人? 今日は外回りだったの? 会社の人と……。
そうだよね。仕事なんだよね。――――何考えてんの? 私?
そう言えば後輩さんの指導もしているって言っていたけど。彼女がその後輩さん?
人込みでその人の顔はよく見えなかったけど。
二人が向かう方向が無性に気になる方角だった。だからかもしれない。こんなことしたくはなかったんだけど。
こっそり後をつけてしまった。
師走に入ろうとする時期。街は少しづつ活気にあふれてくる。しかし周知の事情からか、それともこんな時間から、そう言う雰囲気のエリアに足を運ぶ人は少ない。
二人が向かう先にあるビル群。
何? なんでこんなところに向かの?
二人は私の存在に気付くことなく。まるでゴキブリ取りハウスに引き込まれるように、雄と雌のゴキブリが入っていくのを私は見てしまった。
ひんやりとした空気が体をまとい、心にもその冷たい風が吹き込んできた。
いやぁ―、驚いた。でも、もっと驚いたのは意外に平然としている自分にだった。
あはは、雄也浮気してるじゃん。
何あのデレっとした顔。私にも見せたことなんかないよあんな顔。
疑っていたわけじゃないよ。でもこれは確信犯。現場見ちゃったんだから。
ああ、なんかマジに体が心が冷え切っていく。もう眠気なんかなくなっていた。
用事を済ませ、帰社時刻が遅れることを伝え。そのまま向いた行先は……。
春日先生のところ。
連絡もせず。先生の家の玄関の前で呼び鈴を押す。
ガラガラと音を立て、引き戸が開かれた瞬間。
「先生。先生は私のこと仕事のパートナーとしか見ていないって言っていましたよね」
「あれぇ、上野さん」
「あのですね。私に不倫の仕方教えてください!」
「はぁ? いきなりなんだ? 上野さん」
きょとんとして、目をぱちくりさせる。春日先生の姿がなんかちょっと可愛い。
ああ、これはいつぞやの日と、逆のような気がするんだけど?
でも、いきなり「セックスしましょう」よりはまだいいのか?
……どうなんでしょう――――私。
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