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第6話 一皮むけました。 その2
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「セックスしようか」
「はへっ?」
い、いきなり何を言うんだこの人は!!
久しぶりに春日先生のところに出向いて、開口一番に出た言葉が”それ”!
何なんだ。いったい。
不倫についての取材だって言うから来てみたら、久しぶりですと言うあいさつもなく。
「セックスしよう」だよ! しかも何。あのにこやかな顔は。
思わず、開けた引き戸をそのまま。ガラガラと音を立て閉めてしまった。
「おいおい! それは無いだろう上野さん。ほんの冗談だってば!」
閉めた引き戸をまた開けて、茫然と立っている私に向けて、にこやかに言う彼。
「先生……冗談にしては行きすぎじゃないんですか? セクハラで訴えますよ!」
「おっ、なんか前と違ってかなり強気だねぇ。いいよいいよ! そうだよ上野さんにはその強気のところがかけていたんだよなぁ。しばらく離れて正解だったかもな」
「何をおしゃってるんですか? これでも私かなり怒っているんですけど?」
「あれ? そうなの? ごめんねぇ――! まっ、そんな怒んないで入って入って」
「入ったらいきなり押し倒すなんて言うのは、無いですよね?」
「ああ、ごめんねぇ、警戒しちゃったんだ。でもさ、上野さんって僕のこと、そう言うところ理解してくれているものだとばかり思っていたんだけど。ちょっと自意識過剰だったかな?」
「いいえ、理解しています。でも、本当に押し倒したら、即警察呼びますからね」
「もう、そんな物騒なこと言わないでよ。もうジョークはジョークで流してください。これでもまじめに取材したいという気持ちはあるんですから。機嫌直してくださいよ」
「本当ですか?」
「本当です」
「わかりました。では、お邪魔します」
久しぶりに入る春日先生の家。築何年物なんだろうか。古びた感じは否めないが、それでも、手入れは程よくされている。幾度も修理を施しているあとが、それとなく目に入る。玄関の三和土からまっすぐに伸びる廊下。縁側のように、片面が窓でおおわれ、そこから庭が眺められる。私が担当していた時しばしば、お邪魔させていただいた家。
なんとなく懐かしい感じがする。よくあの庭を眺めながらボケっと、先生の原稿が仕上がるのを待っていたのを思い出す。
和風の古き良き時代の家の面影。なんとなく実家の雰囲気に似ている。
正直、ここに来るのが本当は楽しみでもあったのは否めない。
「冷たい方がいい? それとも温かい方がいい?」
「お構いなく。でも温かい方がいいかな」
「そうか」と一言漏らすように答え、先生はほうじ茶を入れてくれた。
お湯を沸かし、急須に湯を注ぎ入れ、茶を入れる姿はいつもながら、なんとなくみとれてしまう。
私のようにぎこちない感じなど、みじんも感じさせないその動作自体が、洗礼されたような美しささえ感じてしまう。いつもそうだった。
私とさほど年は変わらないはずなのになぜか、この人のことを見ていると、落ち着く気がする。
この広い家にたった一人で暮らしている彼に……。
「お待たせ」にっこりとした笑みを投げかけながら、湯飲みを私の前にそっと置く。
香ばしい香りが洟から抜ける。
いつもながら、本当に美味しいお茶を入れる人だ。初夏の日差しが外の気温を上げている季節。でも、私はあえて温かいこのお茶が飲みたくて「温かいの」と答えたのだ。
湯飲みを持ち上げ、そっとすするように口にほうじ茶を含む。
「美味しいかい?」
「はい」と、それとなく答えた。その私の表情を遠くを見つめるような目で見るように彼の視線が、注がれている。
もう取材……。それは始まっていた。
そして、春日先生はひと言、私に向けて言う。
「上野さん。何か悩み事あるのかな?」
その一言が私の心を動かした……のかもしれない。
「はへっ?」
い、いきなり何を言うんだこの人は!!
久しぶりに春日先生のところに出向いて、開口一番に出た言葉が”それ”!
何なんだ。いったい。
不倫についての取材だって言うから来てみたら、久しぶりですと言うあいさつもなく。
「セックスしよう」だよ! しかも何。あのにこやかな顔は。
思わず、開けた引き戸をそのまま。ガラガラと音を立て閉めてしまった。
「おいおい! それは無いだろう上野さん。ほんの冗談だってば!」
閉めた引き戸をまた開けて、茫然と立っている私に向けて、にこやかに言う彼。
「先生……冗談にしては行きすぎじゃないんですか? セクハラで訴えますよ!」
「おっ、なんか前と違ってかなり強気だねぇ。いいよいいよ! そうだよ上野さんにはその強気のところがかけていたんだよなぁ。しばらく離れて正解だったかもな」
「何をおしゃってるんですか? これでも私かなり怒っているんですけど?」
「あれ? そうなの? ごめんねぇ――! まっ、そんな怒んないで入って入って」
「入ったらいきなり押し倒すなんて言うのは、無いですよね?」
「ああ、ごめんねぇ、警戒しちゃったんだ。でもさ、上野さんって僕のこと、そう言うところ理解してくれているものだとばかり思っていたんだけど。ちょっと自意識過剰だったかな?」
「いいえ、理解しています。でも、本当に押し倒したら、即警察呼びますからね」
「もう、そんな物騒なこと言わないでよ。もうジョークはジョークで流してください。これでもまじめに取材したいという気持ちはあるんですから。機嫌直してくださいよ」
「本当ですか?」
「本当です」
「わかりました。では、お邪魔します」
久しぶりに入る春日先生の家。築何年物なんだろうか。古びた感じは否めないが、それでも、手入れは程よくされている。幾度も修理を施しているあとが、それとなく目に入る。玄関の三和土からまっすぐに伸びる廊下。縁側のように、片面が窓でおおわれ、そこから庭が眺められる。私が担当していた時しばしば、お邪魔させていただいた家。
なんとなく懐かしい感じがする。よくあの庭を眺めながらボケっと、先生の原稿が仕上がるのを待っていたのを思い出す。
和風の古き良き時代の家の面影。なんとなく実家の雰囲気に似ている。
正直、ここに来るのが本当は楽しみでもあったのは否めない。
「冷たい方がいい? それとも温かい方がいい?」
「お構いなく。でも温かい方がいいかな」
「そうか」と一言漏らすように答え、先生はほうじ茶を入れてくれた。
お湯を沸かし、急須に湯を注ぎ入れ、茶を入れる姿はいつもながら、なんとなくみとれてしまう。
私のようにぎこちない感じなど、みじんも感じさせないその動作自体が、洗礼されたような美しささえ感じてしまう。いつもそうだった。
私とさほど年は変わらないはずなのになぜか、この人のことを見ていると、落ち着く気がする。
この広い家にたった一人で暮らしている彼に……。
「お待たせ」にっこりとした笑みを投げかけながら、湯飲みを私の前にそっと置く。
香ばしい香りが洟から抜ける。
いつもながら、本当に美味しいお茶を入れる人だ。初夏の日差しが外の気温を上げている季節。でも、私はあえて温かいこのお茶が飲みたくて「温かいの」と答えたのだ。
湯飲みを持ち上げ、そっとすするように口にほうじ茶を含む。
「美味しいかい?」
「はい」と、それとなく答えた。その私の表情を遠くを見つめるような目で見るように彼の視線が、注がれている。
もう取材……。それは始まっていた。
そして、春日先生はひと言、私に向けて言う。
「上野さん。何か悩み事あるのかな?」
その一言が私の心を動かした……のかもしれない。
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