2 / 13
第2話 バカ夫婦の目覚め その2
しおりを挟む「おい、上野!」
いつになく私を呼びつける声のトーンが低い。
編集長が私を呼びつけるその声に、ぞくっと寒気を感じた。
生理中で下腹部からじわっとした痛みと、なぜか今月は今までになく出血が多くて、不快指数が高い。
全体的に、気分も体も落ち込んでいるときに、編集長のあの低いトーンの声で呼ばれると、これから起きうる事態がとても憂鬱に感じる。
案の定、事態は深刻だった。
私が担当するとある作家先生から、直接編集長にクレームが入ったのだ。
「上野、春日先生に締め切り変更の事連絡してなかったのか?」
へっ? そんなことは無い。ちゃんと春日先生にはメールで連絡してあったはずだ!
春日成人。私が担当する作家先生たちの中でも、一番の売り上げ数を誇る売れてる作家。
ちょっと、いやいやかなりの癖の強い人なんだけど、年齢も私と同じくらい。
パット見、イケメンに見えるから、女の影はいつも絶えない噂話が飛び交うちょっと危険な感じの先生なんだけど。
「ちゃんと連絡していましたけど」
「今、春日先生から連絡があって、いきなり締め切りはめられても対応できないって、かなりご立腹な連絡が俺んところに直接来たんだよな。それってどういうことなんだ?」
「嘘です、私ちゃんと春日先生にはメールで……あ、」
言いかけた言葉を飲み込んだ。
そうだ、あの先生には、一度のメールで済ませること事態ミスなのだ。
何度もしつこく言わないと、すぐに頭の中からそう言うこと消し去ってしまう人だった。
「す、すみません。すぐに春日先生のところに行ってきます」
「いやお前は行かなくてもいい。しばらく春日先生の担当からは外れろ」
即決即断。その一言で唯一誇れる作家先生の担当を外されてしまった。
「秋葉。お前行けるか?」
「はい、いけます」
「じゃぁお前に任せる」
元々春日先生は愛子さんが担当していた。それをこの春から、この業界ではまだ新人扱いのこの私に担当させてもらったというのに。
痛恨のミス。編集長に怒られたことよりも自分自身のこの甘さに、心が痛んだ。
「すみません愛子さん。どうかよろしくお願いいたします」
「いいって、大丈夫よ。あの先生のご機嫌取りくらい、つぼ得ているから心配しなくたっていいよ」
にっこりと笑いながら、彼女が返した言葉がさらにこの胸の奥をえぐっていた。
仕事を終えて家に帰宅すると、雄也はまだ帰っていなかった。
暗い家の中。家と言っても賃貸のマンションなんだけど。二人で住むには十分なところ。
明りをつけると、真っ先にソファが目に入る。そのソファに吸い込まれるように、ぐったりとひれ伏した。
体が重い。心が、気持ちが重い。
動く気が起きない。夕食の支度しないといけないのに。
雄也がもうじき帰ってくるよ。
それでも体はピクリとも動かなかった。
ガチャ。
玄関のドアが閉まる音がした。雄也が帰ってきたんだろう。
ぐったりとソファに横たわる私の姿を見て。
「どうしたの麻奈美ちゃん?」
心配そうに私の横に寄り添ってくれた。
そんな彼の姿を目にしたとたん、あんなにも体を動かすのが苦痛だったのに、しっかりと雄也に抱きついていた。
ボロボロと涙を流し、雄也のワイシャツの肩を濡らした。
「いったい何があったんだよ」
そんな私に雄也は抱きしめながら問う。
その時ふんわりと、雄也の首筋から香る。香り。
この時なぜこんなにも”におい”に敏感になっていたのかは分からないけど。
雄也から。二人のにおいじゃない。
別の……雌の臭いが、私の洟についているのを感じていた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ダメな君のそばには私
蓮水千夜
恋愛
ダメ男より私と付き合えばいいじゃない!
友人はダメ男ばかり引き寄せるダメ男ホイホイだった!?
職場の同僚で友人の陽奈と一緒にカフェに来ていた雪乃は、恋愛経験ゼロなのに何故か恋愛相談を持ちかけられて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる