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かたちだけの恋人
第50話3.この想いをあなたに
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人が残せるもの。それは何も形のあるものだけではない。
複雑に絡み合う人生の人とのつながり。その中で、僕は一つの線を掴んだような気がする。
その線は僕の人生を大き変えた線。そして、僕の前からはもう消え失せてしまっていたと思っていた。
でも、その姿形は消え失せても、その人が刻んできた軌跡はしっかりといまも残っていた。その線、糸を僕は触れることができたんだ。
「向き合う事って言うのは……自分の想いを全て注ぎ込む事」
この言葉を雨宮さんに残したのは何を隠そう、父さんだった。
そしてその言葉はまた僕のもとに帰ってくる。
因果というべきものだろうか? それともこれが人との繋がりというべきだろうか? 未だに僕には理解できないことが、自分の身の上に置きているような不思議な感じがする。
「そう、この言葉はあなたのお父さん、笹崎さんからの言葉だった。あのとき私はあの人のこの一言で立ち直ることができた。いまの君にこの言葉が合うのかどうかはわからないけど、あなたのお父さんが残した言葉。それが少なくとも私を救ってくれたことは間違いはないわ」
「そうですか。父さんが……まだ、父さん達が生きていたころ、僕にこんなことを言われても何も感じなかったと思います。でも今は何か胸に刺さる想いがあります」
「そうか、それだけ君はこの短い間に成長したんだと言う事なんでよ。きっと」
「本当に成長したのかなぁ、なんだか苦しい思いしか……感じないのが事実です」
「その苦しい思いが今、君を成長させているんだよ。だからあの言葉が今の君の胸に刺さるんだよ。私もそうだったようにね」
雨宮さんはにっこりと微笑んで返してくれる。
「真純ちゃんの事。今はあなたは動くべきじゃないと思う。今は真純ちゃんに対しては、あなたが恵美さんに今までしてあげた様に見守ってやることが一番だと思う。それに彼女はもう自分の道を切り替えて前に進んでいる。そこにあなたがまた触れる事は。彼女の今の努力を無駄にしてしまう事かもしれないね。大丈夫よ、真純ちゃんは強い子よ。こんなことくらいじゃつぶれるような子じゃないわよ。それの証拠に自分でもう歩いているじゃない。こんな短い時間なのに、彼女は新しい道を歩もうと決意して、前に進んでいる。その事を君はしっかりと受け止めてあげるだけの大きさを持たないといけない。心のね」
「心の大きさですか……」
「そう心の大きさ。そして時間が時がきっとあなた達の思い出に変わるはず。女の子はね、女性になる、変わるとき大きな壁を乗り越えるんだよ。私もそうだった。そのために傷つく事だってある。その傷が一人の女性として成長させてくれる。優しい心を持った君には少々酷な事かもしれないけど、実際はそうなんだよ。笹崎君。きっとあるはず、あなたと真純ちゃんがまた笑顔で出会える日が来るよ」
多分幸子さんも、雨宮さんと同じような事を言ってくれていたんだと思う。
僕一人だけが、自分を追い込んでいいる。そんな姿が今、そう僕の周りの人には見えるんだろう。
父さんが残してくれた言葉。
向き合う事って言うのは……自分の想いを全て注ぎ込む事。
僕は……向き合う先を……しっかりと掴み取らないといけない。まだ僕は中途半端な人間なんだ。そうまだ何もかもが中途半端なんだ。でもそれが今の僕のすべてなのかもしれない。中途半端だけど、僕はこの今の辛さを抱え胸に刻んで、一つ一つ積み重ねる時なんだ。
始めに雨宮さんが言った「あなたは偽善者なの?」その意味が何となく分かる。全てを全部を。今僕一人ではどうにもなら事だらけだ。それを全て背負おうとしている僕がいけないんだ。
多分戸鞠との事は今はそっとしてあげる事が、今の僕に出来る事なんだろう。
「で、どうする? 笹崎君はこれからも、ここに来る気ある。それとも……もう来るの止める?」
「また来ます。回数は減るかもしれませんが、ここにはまた通わせてもらいたいです」
「そっかぁ、分かったわ。やっぱりあなたは、あの人の息子ね。よく似ているわ、あなたのお父様に」
「そ、そうですか……」
「そうよ、大きくてとても優しくて、人を導いてくれる力のある人。あなたはまだまだだけどね。顔だけはちゃんと見せに来なさい。いい約束よ」
「はい、わかりました」
雨宮さんの店を出て駅に入ると、戸鞠と出くわすんじゃないかと少し不安だった。
多分、出会ったにせよ、何も声をかける事は無いと思う。彼女からは……、僕からは、例え近くにいたとしても彼女は僕を遠ざけるだろう。その意味を僕はくんでやるべきだろう。だが、帰りの電車に乗り込むまで駅で戸鞠の姿を見る事は無かった。
それでいい。僕らには今距離と時間が必要なんだと自分に言い聞かせた。
帰宅すると、葵さんがリビングで神妙な顔つきで僕を見つめた。
「遅かったわね結城」
「うん、ちょっと、雨宮さんのところに行っていたんだ」
「ふぅ―ん、そうなんだ。結城これから私の部屋に来ない? ちょっと話があるの。戸鞠さんだっけ、彼女の事でね」
思いもしなかった。葵さんから戸鞠の名が出てくることを。
確かに、前に葵さんには戸鞠の事、雨宮さんのところで働くことでここの住所、いや、恵美と一緒に暮らしている事がバレてしまう事を恐れ、相談したことがある。その時は何も恐れず素直になればいいんじゃないかと。
そう、あの時は葵さんは、むしろ僕と戸鞠の事を応援していたような感じだった。しかし、今の葵さんの表情はちょっと怖いような感じがする。
しかも何故、葵さんにまでも戸鞠との事が知られたんだろうか? いや、この家の中では戸鞠との件は一切触れていないはずだ。
頼斗さんが、政樹さんたちに保護者として、そして担任として今回のこの事を話したのなら致し方ない。
だがそうすれば、真っ先に政樹さんから僕は呼び出されるはずだ。それが葵さんから呼び出されている。これはどういうこと何だろう?
葵さんの部屋に入ると、彼女は部屋のカギを閉めた。
「まぁ結城、適当に座って」僕は言われるままに床の上に座った。
それを見てすぐに葵さんは机の上から一通の封筒を取り僕に手渡した。
差出人も何も掛かれていない白い封筒だった。
「その中にある手紙読むのは後にして、まずは私の話を訊いて、そんなに怖がらなくてもいいわよ結城。私は何もあなたを責めようなんて思ってもいない。むしろあなたの見方よ」
さっきまでとは違って和らいだ表情だった。
「どこから話したらいいのかなぁ……。今日さ、私オフだったじゃない。やる事なくてさ、なんとなく河川敷に散歩に出かけたら、可愛い制服姿の女の子がベンチに座ってため息ついていてさ、何気なく声かけたんだ。『どうかしたの?』って。その子私の顔見て何でもないって言ってたけど、目、真っ赤にしててさ、今まで泣いてましたって言うのバレバレ状態だったから、ほっとけなくてちょっと話してみたんだ。彼女なんかお店に用事があったみたいで、関係者だって言ったら『笹崎結城さん』は今いますか? って訊かれてね。今の時間は学校のはずだけどって言ったんだよ。その子ボッソリ言ったんだ」
「そうですよね。でももうじき下校の時間ですよね」
「また泣き出しちゃってさ、寒いし困っちゃったよ正直」
それから、葵さんは戸鞠を店に連れ出した。始めは断ったみたいだけど「ケーキごちそうするよ」の一言で素直についてきたみたいだ。
戸鞠らしい。
店内のテーブル席、そこからはあの河川敷がよく見える。
「ここから、さっきいた河川敷よく見えるんですね」
「ああ、そうだね。私も気が付かなかった。客席に座るなんて事ないからね。そうそう名前まだ聞いてなかった。私、富喜摩葵ここでパティシエの修行中なんだ。まだ駆け出しなんだけどね」
「パティシエの修行しているんですか、凄いですね。私、戸鞠真純です。この前まで笹崎君と同じクラスでした」
「同じクラス?」
「ええ、転校したんです。この前……」
戸鞠のその言葉の後、そっと二人の前にミルクティと「カヌレ」が置かれた。
複雑に絡み合う人生の人とのつながり。その中で、僕は一つの線を掴んだような気がする。
その線は僕の人生を大き変えた線。そして、僕の前からはもう消え失せてしまっていたと思っていた。
でも、その姿形は消え失せても、その人が刻んできた軌跡はしっかりといまも残っていた。その線、糸を僕は触れることができたんだ。
「向き合う事って言うのは……自分の想いを全て注ぎ込む事」
この言葉を雨宮さんに残したのは何を隠そう、父さんだった。
そしてその言葉はまた僕のもとに帰ってくる。
因果というべきものだろうか? それともこれが人との繋がりというべきだろうか? 未だに僕には理解できないことが、自分の身の上に置きているような不思議な感じがする。
「そう、この言葉はあなたのお父さん、笹崎さんからの言葉だった。あのとき私はあの人のこの一言で立ち直ることができた。いまの君にこの言葉が合うのかどうかはわからないけど、あなたのお父さんが残した言葉。それが少なくとも私を救ってくれたことは間違いはないわ」
「そうですか。父さんが……まだ、父さん達が生きていたころ、僕にこんなことを言われても何も感じなかったと思います。でも今は何か胸に刺さる想いがあります」
「そうか、それだけ君はこの短い間に成長したんだと言う事なんでよ。きっと」
「本当に成長したのかなぁ、なんだか苦しい思いしか……感じないのが事実です」
「その苦しい思いが今、君を成長させているんだよ。だからあの言葉が今の君の胸に刺さるんだよ。私もそうだったようにね」
雨宮さんはにっこりと微笑んで返してくれる。
「真純ちゃんの事。今はあなたは動くべきじゃないと思う。今は真純ちゃんに対しては、あなたが恵美さんに今までしてあげた様に見守ってやることが一番だと思う。それに彼女はもう自分の道を切り替えて前に進んでいる。そこにあなたがまた触れる事は。彼女の今の努力を無駄にしてしまう事かもしれないね。大丈夫よ、真純ちゃんは強い子よ。こんなことくらいじゃつぶれるような子じゃないわよ。それの証拠に自分でもう歩いているじゃない。こんな短い時間なのに、彼女は新しい道を歩もうと決意して、前に進んでいる。その事を君はしっかりと受け止めてあげるだけの大きさを持たないといけない。心のね」
「心の大きさですか……」
「そう心の大きさ。そして時間が時がきっとあなた達の思い出に変わるはず。女の子はね、女性になる、変わるとき大きな壁を乗り越えるんだよ。私もそうだった。そのために傷つく事だってある。その傷が一人の女性として成長させてくれる。優しい心を持った君には少々酷な事かもしれないけど、実際はそうなんだよ。笹崎君。きっとあるはず、あなたと真純ちゃんがまた笑顔で出会える日が来るよ」
多分幸子さんも、雨宮さんと同じような事を言ってくれていたんだと思う。
僕一人だけが、自分を追い込んでいいる。そんな姿が今、そう僕の周りの人には見えるんだろう。
父さんが残してくれた言葉。
向き合う事って言うのは……自分の想いを全て注ぎ込む事。
僕は……向き合う先を……しっかりと掴み取らないといけない。まだ僕は中途半端な人間なんだ。そうまだ何もかもが中途半端なんだ。でもそれが今の僕のすべてなのかもしれない。中途半端だけど、僕はこの今の辛さを抱え胸に刻んで、一つ一つ積み重ねる時なんだ。
始めに雨宮さんが言った「あなたは偽善者なの?」その意味が何となく分かる。全てを全部を。今僕一人ではどうにもなら事だらけだ。それを全て背負おうとしている僕がいけないんだ。
多分戸鞠との事は今はそっとしてあげる事が、今の僕に出来る事なんだろう。
「で、どうする? 笹崎君はこれからも、ここに来る気ある。それとも……もう来るの止める?」
「また来ます。回数は減るかもしれませんが、ここにはまた通わせてもらいたいです」
「そっかぁ、分かったわ。やっぱりあなたは、あの人の息子ね。よく似ているわ、あなたのお父様に」
「そ、そうですか……」
「そうよ、大きくてとても優しくて、人を導いてくれる力のある人。あなたはまだまだだけどね。顔だけはちゃんと見せに来なさい。いい約束よ」
「はい、わかりました」
雨宮さんの店を出て駅に入ると、戸鞠と出くわすんじゃないかと少し不安だった。
多分、出会ったにせよ、何も声をかける事は無いと思う。彼女からは……、僕からは、例え近くにいたとしても彼女は僕を遠ざけるだろう。その意味を僕はくんでやるべきだろう。だが、帰りの電車に乗り込むまで駅で戸鞠の姿を見る事は無かった。
それでいい。僕らには今距離と時間が必要なんだと自分に言い聞かせた。
帰宅すると、葵さんがリビングで神妙な顔つきで僕を見つめた。
「遅かったわね結城」
「うん、ちょっと、雨宮さんのところに行っていたんだ」
「ふぅ―ん、そうなんだ。結城これから私の部屋に来ない? ちょっと話があるの。戸鞠さんだっけ、彼女の事でね」
思いもしなかった。葵さんから戸鞠の名が出てくることを。
確かに、前に葵さんには戸鞠の事、雨宮さんのところで働くことでここの住所、いや、恵美と一緒に暮らしている事がバレてしまう事を恐れ、相談したことがある。その時は何も恐れず素直になればいいんじゃないかと。
そう、あの時は葵さんは、むしろ僕と戸鞠の事を応援していたような感じだった。しかし、今の葵さんの表情はちょっと怖いような感じがする。
しかも何故、葵さんにまでも戸鞠との事が知られたんだろうか? いや、この家の中では戸鞠との件は一切触れていないはずだ。
頼斗さんが、政樹さんたちに保護者として、そして担任として今回のこの事を話したのなら致し方ない。
だがそうすれば、真っ先に政樹さんから僕は呼び出されるはずだ。それが葵さんから呼び出されている。これはどういうこと何だろう?
葵さんの部屋に入ると、彼女は部屋のカギを閉めた。
「まぁ結城、適当に座って」僕は言われるままに床の上に座った。
それを見てすぐに葵さんは机の上から一通の封筒を取り僕に手渡した。
差出人も何も掛かれていない白い封筒だった。
「その中にある手紙読むのは後にして、まずは私の話を訊いて、そんなに怖がらなくてもいいわよ結城。私は何もあなたを責めようなんて思ってもいない。むしろあなたの見方よ」
さっきまでとは違って和らいだ表情だった。
「どこから話したらいいのかなぁ……。今日さ、私オフだったじゃない。やる事なくてさ、なんとなく河川敷に散歩に出かけたら、可愛い制服姿の女の子がベンチに座ってため息ついていてさ、何気なく声かけたんだ。『どうかしたの?』って。その子私の顔見て何でもないって言ってたけど、目、真っ赤にしててさ、今まで泣いてましたって言うのバレバレ状態だったから、ほっとけなくてちょっと話してみたんだ。彼女なんかお店に用事があったみたいで、関係者だって言ったら『笹崎結城さん』は今いますか? って訊かれてね。今の時間は学校のはずだけどって言ったんだよ。その子ボッソリ言ったんだ」
「そうですよね。でももうじき下校の時間ですよね」
「また泣き出しちゃってさ、寒いし困っちゃったよ正直」
それから、葵さんは戸鞠を店に連れ出した。始めは断ったみたいだけど「ケーキごちそうするよ」の一言で素直についてきたみたいだ。
戸鞠らしい。
店内のテーブル席、そこからはあの河川敷がよく見える。
「ここから、さっきいた河川敷よく見えるんですね」
「ああ、そうだね。私も気が付かなかった。客席に座るなんて事ないからね。そうそう名前まだ聞いてなかった。私、富喜摩葵ここでパティシエの修行中なんだ。まだ駆け出しなんだけどね」
「パティシエの修行しているんですか、凄いですね。私、戸鞠真純です。この前まで笹崎君と同じクラスでした」
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