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第1話.Xmas
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メリークリスマス。
彼女の声はいつもの声と変わらなかった。
メリークリスマス。
風力発電の大きな風車がゆっくりとその翼を回転させる。
それはまるで時の進みを遅らせているような感じさえさせる。
海辺のこの公園。冬のこの時期、この公園に足を向けるのは僕だけだろう。
誰もいないうすら明かりの中、彼女はそっと僕の隣に腰を落とす。
「お店、今日はお休みなの?」
「ああ、今日はもう店じまいしてきた」
「クリスマスなのに?」
「うん、クリスマスだからね」
「そう」
少し悲しげな表情をする彼女に
「君のせいじゃないよ。俺が勝手に休んでいるんだから、気にすることなんかないじゃないか」
「そうだけど……」
「こうしてまた君と会える事の方が重要なんだよ」
「変なの。どうして私と会うことがそんなに重要なの?」
「さぁな、どうしてかな」
「いつも会っているじゃない」
「一年に一度だけな」
「いじわる。そう言って私をいじめて楽しい?」
「いじめてる? 俺が君を。こうして毎年会いに来ている俺に、そんなことを言うのか」
「そう、言うの」
彼女はまっすぐ顔を上げ、きっぱりと答えた。
「毎年会いに来ているのは私の方なのに」
「そうかもな」
あとは何も返すことができない。
毎年十二月二十四日の夜八時に、彼女はこの公園にその姿を表す。それを知る者はこの俺以外誰もいない。
毎年彼女とはこの公園で同じ日に、同じ時間にその姿を確かめるように俺たち二人は出会う。
もしかしたら俺が一方的に彼女に会おうとしているのかもしれない。
3つ下の彼女。その容姿はまだあどけなさが抜けきれない、あのときの幼さを感じさせる。
「ところでこの一年元気でいた?」
「それくらい今の俺を見ればわかるだろ」
コートのポケットからタバコを取り出して一本火をつけ軽く煙を吸い込む。
「ああ、今年も止めれなかったのね。た・ば・こ」
「ふん……」
「まっいいかぁ、あなたから煙草まで奪っちゃうと何にも残んなくなりそうだし」
「随分と言う様になったな」
「あら、そうぉ。私だって少しは成長しているのよ」
「そうなんだ」
「なんだか呆れているみたいね」
「そうでもないさ」
「本当に?」
「本当さ」
彼女はすっと立ち上がり、目の前のブランコに座り、ゆっくりとこぎ出す。
ギシギシと錆びついた鎖とフレームの支えの音がする。
その音は少しづつギーコ、ギーコとき刻み小気味良い音に変わる。
「ねぇまだ後悔しているの?」
「何をだ?」
「お医者さん辞めちゃったこと」
「もう、引きずってねぇよ。」
「ホントかなぁ?」
「疑い深いなぁ。もう未練もないぜ。俺には喫茶店のマスターのほうが性にあっていたようだ」
「ただ珈琲入れるだけの仕事なのに?」
「そうだ、ただ旨い珈琲を入れるだけの仕事が俺には向いている」
「それって私のせい?」
小気味よく響いていたブランコの音がやんだ。
「そうっかぁ、じゃぁ、今は満足しているのね」
「ああ、満足している」
「でも幸せじゃないんでしょ。いつも寂しい顔しているもの」
「幸せさ、こうして毎年君と出会うことができるんだから俺は幸せものだよ」
「恥ずかしいじゃない、そんなこと言うなんて。ずるい!」
「そうか、ずるいか。でも俺の本心だ」
「ふぅ-ん、そうなんだ。本心なんだ」
ニッコリと微笑む彼女の顔を目に焼き付けるように眺めた。
あとどれくらい彼女のこの笑顔を俺は、見ることができるんだろうか? 今年でもう終わりになるのか、それともまた来年も……。その笑顔を俺は見ることが出来るんだろうか。
一筋の涙が俺の目からこぼれた。
愛しい彼女のその姿をこの目にしながら、俺の涙はあふれ出す。
止めることのできない涙とこみあげる想い。もう、戻ることのできないあの時への慈しみを俺は忘れない。
俺が生涯愛するたった一人の彼女のために。
彼女の声はいつもの声と変わらなかった。
メリークリスマス。
風力発電の大きな風車がゆっくりとその翼を回転させる。
それはまるで時の進みを遅らせているような感じさえさせる。
海辺のこの公園。冬のこの時期、この公園に足を向けるのは僕だけだろう。
誰もいないうすら明かりの中、彼女はそっと僕の隣に腰を落とす。
「お店、今日はお休みなの?」
「ああ、今日はもう店じまいしてきた」
「クリスマスなのに?」
「うん、クリスマスだからね」
「そう」
少し悲しげな表情をする彼女に
「君のせいじゃないよ。俺が勝手に休んでいるんだから、気にすることなんかないじゃないか」
「そうだけど……」
「こうしてまた君と会える事の方が重要なんだよ」
「変なの。どうして私と会うことがそんなに重要なの?」
「さぁな、どうしてかな」
「いつも会っているじゃない」
「一年に一度だけな」
「いじわる。そう言って私をいじめて楽しい?」
「いじめてる? 俺が君を。こうして毎年会いに来ている俺に、そんなことを言うのか」
「そう、言うの」
彼女はまっすぐ顔を上げ、きっぱりと答えた。
「毎年会いに来ているのは私の方なのに」
「そうかもな」
あとは何も返すことができない。
毎年十二月二十四日の夜八時に、彼女はこの公園にその姿を表す。それを知る者はこの俺以外誰もいない。
毎年彼女とはこの公園で同じ日に、同じ時間にその姿を確かめるように俺たち二人は出会う。
もしかしたら俺が一方的に彼女に会おうとしているのかもしれない。
3つ下の彼女。その容姿はまだあどけなさが抜けきれない、あのときの幼さを感じさせる。
「ところでこの一年元気でいた?」
「それくらい今の俺を見ればわかるだろ」
コートのポケットからタバコを取り出して一本火をつけ軽く煙を吸い込む。
「ああ、今年も止めれなかったのね。た・ば・こ」
「ふん……」
「まっいいかぁ、あなたから煙草まで奪っちゃうと何にも残んなくなりそうだし」
「随分と言う様になったな」
「あら、そうぉ。私だって少しは成長しているのよ」
「そうなんだ」
「なんだか呆れているみたいね」
「そうでもないさ」
「本当に?」
「本当さ」
彼女はすっと立ち上がり、目の前のブランコに座り、ゆっくりとこぎ出す。
ギシギシと錆びついた鎖とフレームの支えの音がする。
その音は少しづつギーコ、ギーコとき刻み小気味良い音に変わる。
「ねぇまだ後悔しているの?」
「何をだ?」
「お医者さん辞めちゃったこと」
「もう、引きずってねぇよ。」
「ホントかなぁ?」
「疑い深いなぁ。もう未練もないぜ。俺には喫茶店のマスターのほうが性にあっていたようだ」
「ただ珈琲入れるだけの仕事なのに?」
「そうだ、ただ旨い珈琲を入れるだけの仕事が俺には向いている」
「それって私のせい?」
小気味よく響いていたブランコの音がやんだ。
「そうっかぁ、じゃぁ、今は満足しているのね」
「ああ、満足している」
「でも幸せじゃないんでしょ。いつも寂しい顔しているもの」
「幸せさ、こうして毎年君と出会うことができるんだから俺は幸せものだよ」
「恥ずかしいじゃない、そんなこと言うなんて。ずるい!」
「そうか、ずるいか。でも俺の本心だ」
「ふぅ-ん、そうなんだ。本心なんだ」
ニッコリと微笑む彼女の顔を目に焼き付けるように眺めた。
あとどれくらい彼女のこの笑顔を俺は、見ることができるんだろうか? 今年でもう終わりになるのか、それともまた来年も……。その笑顔を俺は見ることが出来るんだろうか。
一筋の涙が俺の目からこぼれた。
愛しい彼女のその姿をこの目にしながら、俺の涙はあふれ出す。
止めることのできない涙とこみあげる想い。もう、戻ることのできないあの時への慈しみを俺は忘れない。
俺が生涯愛するたった一人の彼女のために。
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