56 / 69
第55話 季節が変わるその時期に ACT1
しおりを挟む
「ささざきくぅ――――ん」
耳元で、甘ったるい声で呼ばれ、ぞくっと背筋に寒気を感じた。
季節は次第に夏の暑さを遠のかせ、今では教室内に暖房が入るくらい寒さを感じる時期になってきた。
もうじき、雪が降る。……て、この地域は正直雪はほとんど降らないんだけど。寒さと空の雰囲気はそんなことを訴えているかのように、どんよりとした日が続くようになった。
たまに、日差しが差し込むと、陽の光のありがたみと言うべきだろうか、柔らかな温かさに包まれ、おのずと眠気が差し込む。そんな心地いい気分でうとうとしていた時に耳元であんな声で呼ばれると、ぞくぞくっとくる。
閉じていた目を開けるといったい何が映っているのか、それに気が付くまで幾分の猶予が必要なくらい、まじかにその顔があった。
「えっ、戸鞠!」
「ふぅーん、笹崎君ってまつげ長かったんだね。なんか女の子みたいで可愛いよ」
ち、近い近すぎる。戸鞠の顔が、もうくっつく寸前のところにある。
ほんの少し顔を動かせば、多分唇が重なってもおかしくない。
「戸鞠、もしかしてキスされたい?」
そう言っても彼女はその位置から動こうとはしなかった。
「したければすればいいんじゃない」
彼女はそう言う。ふんわりと桃のような甘い香りを漂わせながら。
スッと顔を動かすと、おのずと唇同士が触れ合った。
柔らかく、プルンとした唇の感触。
甘い香りがさらに洟から抜け出す。
ただ唇同士が触れ合っただけの軽いキス。
さらさらとした彼女の髪の毛がほほに触れる。そしてゆっくりと離れていく。
「しちゃったね」と戸鞠は言う。
最近、こういうことに関しては少し麻痺状態なのかもしれない。
特別戸鞠とキスをしても、ああ、したんだ。そんな感じにしか受け入れていなかった。
「えへへへ、浮気だね」
「浮気か?」
「そうだよ、浮気したんだよ。今ここで、……私と」
「じゃぁ、それってお互い様っていうことで」
「別にお互い様じゃないんだけどね」
ん? それってどういう意味で言っているんだ?
「ま、愛華には報告しなきゃ」
「おいおい、それまずいんじゃない?」
「別にぃ。まずくなんかないよ。愛華もう知ってるし。それに私孝義君とはもうそう言う関係じゃないしね」
「はぁ? 何それ。初耳なんだけど」
「そうでしょ、だって愛華以外特にあなた。笹崎君には内緒にしていたんだもん。もちろん孝義君にも口止めしていたんだけど」
「なんでだよ。なんで僕だけに口止めしてんだよ」
それでなのか? ここのところ孝義の奴なんとなく距離を置いているような感じになっていたのは。
「さぁ、なんででしょうか? 当てたら、ご褒美上げちゃうんだけどなぁ――」
にっこりと笑いながら言う戸鞠のその姿に、ちょっと焦りながらも。
「分かんねぇ――」
「そうでしょうねぇ―、何せ本当にこういうことに関しては疎い結城君なんですもんねぇ―」
はいはい疎くてわるぅーございました。
「まっ、いいか。それじゃ、これ宿題ね。期限は別にいつでもいいんだけど、多分そのうち提出っていうことになると思うけどね」
「はぁ―、で、ほかの連中は?」
「あのねぇ―、今何時だと思ってんの? もう6時よ。とっくにみんないないわよ」
ああ、そうなんだほんの一瞬だと思っていたけど実は、相当寝込んでいたみたいだ。
愛華は? あ、そうか今日は確か、お店手伝いに行くって言っていた。
たまにお店の手伝いもする愛華。最も、愛華には別な理由もあるようだ。
料理のことを職人さんから教えてもらうのも一つにある。それに孫とはいえ、働いた分はちゃんとバイト代を支払ってくれている。
もうすでに料理の腕はかなりのもので、これは僕自身が愛華の作る料理をいつも堪能させてもらっているから実証済みだ。それでも愛華はまだまだと言っているが、おばあさん曰く。
「この子がこの店継いでくれたらほんと、あと思い残すことないんだけどねぇ」などと言うくらいだ。
まぁあのおばあさん、見た目も若く綺麗な人だけど、実際の年齢を聞いてびっくりした。
55歳。で、僕と同い年の孫がいる。
で、愛華の母親もまだ若い。34歳とは。写真を見せてもらったが20代と言ってもいいくらい若い感じの母親だった。幸子さんと同じくらいの年齢。
ふとそんなことを思った。
でもそうなると単純に計算しても愛華を生んだのは15の時? それはいくら何でも早すぎないのか?
まぁでも実際幸子さんも17の時に響音さんを生んだということになるから、身近に僕らと同い年で、子供を産んだという女性に縁があるのか? そんなことも考えてしまう。
それに、おばあさん。いや名前は佳奈美さん。杉村佳奈美と言う名前だ。
もうすでに愛華のおばあさんとは言っていない。正直まだ母親と言ってもいいくらいの年なんだから。
それに……。
僕ら二人の関係に色濃く割り込んでくる彼女の意思が見え隠れしている。
耳元で、甘ったるい声で呼ばれ、ぞくっと背筋に寒気を感じた。
季節は次第に夏の暑さを遠のかせ、今では教室内に暖房が入るくらい寒さを感じる時期になってきた。
もうじき、雪が降る。……て、この地域は正直雪はほとんど降らないんだけど。寒さと空の雰囲気はそんなことを訴えているかのように、どんよりとした日が続くようになった。
たまに、日差しが差し込むと、陽の光のありがたみと言うべきだろうか、柔らかな温かさに包まれ、おのずと眠気が差し込む。そんな心地いい気分でうとうとしていた時に耳元であんな声で呼ばれると、ぞくぞくっとくる。
閉じていた目を開けるといったい何が映っているのか、それに気が付くまで幾分の猶予が必要なくらい、まじかにその顔があった。
「えっ、戸鞠!」
「ふぅーん、笹崎君ってまつげ長かったんだね。なんか女の子みたいで可愛いよ」
ち、近い近すぎる。戸鞠の顔が、もうくっつく寸前のところにある。
ほんの少し顔を動かせば、多分唇が重なってもおかしくない。
「戸鞠、もしかしてキスされたい?」
そう言っても彼女はその位置から動こうとはしなかった。
「したければすればいいんじゃない」
彼女はそう言う。ふんわりと桃のような甘い香りを漂わせながら。
スッと顔を動かすと、おのずと唇同士が触れ合った。
柔らかく、プルンとした唇の感触。
甘い香りがさらに洟から抜け出す。
ただ唇同士が触れ合っただけの軽いキス。
さらさらとした彼女の髪の毛がほほに触れる。そしてゆっくりと離れていく。
「しちゃったね」と戸鞠は言う。
最近、こういうことに関しては少し麻痺状態なのかもしれない。
特別戸鞠とキスをしても、ああ、したんだ。そんな感じにしか受け入れていなかった。
「えへへへ、浮気だね」
「浮気か?」
「そうだよ、浮気したんだよ。今ここで、……私と」
「じゃぁ、それってお互い様っていうことで」
「別にお互い様じゃないんだけどね」
ん? それってどういう意味で言っているんだ?
「ま、愛華には報告しなきゃ」
「おいおい、それまずいんじゃない?」
「別にぃ。まずくなんかないよ。愛華もう知ってるし。それに私孝義君とはもうそう言う関係じゃないしね」
「はぁ? 何それ。初耳なんだけど」
「そうでしょ、だって愛華以外特にあなた。笹崎君には内緒にしていたんだもん。もちろん孝義君にも口止めしていたんだけど」
「なんでだよ。なんで僕だけに口止めしてんだよ」
それでなのか? ここのところ孝義の奴なんとなく距離を置いているような感じになっていたのは。
「さぁ、なんででしょうか? 当てたら、ご褒美上げちゃうんだけどなぁ――」
にっこりと笑いながら言う戸鞠のその姿に、ちょっと焦りながらも。
「分かんねぇ――」
「そうでしょうねぇ―、何せ本当にこういうことに関しては疎い結城君なんですもんねぇ―」
はいはい疎くてわるぅーございました。
「まっ、いいか。それじゃ、これ宿題ね。期限は別にいつでもいいんだけど、多分そのうち提出っていうことになると思うけどね」
「はぁ―、で、ほかの連中は?」
「あのねぇ―、今何時だと思ってんの? もう6時よ。とっくにみんないないわよ」
ああ、そうなんだほんの一瞬だと思っていたけど実は、相当寝込んでいたみたいだ。
愛華は? あ、そうか今日は確か、お店手伝いに行くって言っていた。
たまにお店の手伝いもする愛華。最も、愛華には別な理由もあるようだ。
料理のことを職人さんから教えてもらうのも一つにある。それに孫とはいえ、働いた分はちゃんとバイト代を支払ってくれている。
もうすでに料理の腕はかなりのもので、これは僕自身が愛華の作る料理をいつも堪能させてもらっているから実証済みだ。それでも愛華はまだまだと言っているが、おばあさん曰く。
「この子がこの店継いでくれたらほんと、あと思い残すことないんだけどねぇ」などと言うくらいだ。
まぁあのおばあさん、見た目も若く綺麗な人だけど、実際の年齢を聞いてびっくりした。
55歳。で、僕と同い年の孫がいる。
で、愛華の母親もまだ若い。34歳とは。写真を見せてもらったが20代と言ってもいいくらい若い感じの母親だった。幸子さんと同じくらいの年齢。
ふとそんなことを思った。
でもそうなると単純に計算しても愛華を生んだのは15の時? それはいくら何でも早すぎないのか?
まぁでも実際幸子さんも17の時に響音さんを生んだということになるから、身近に僕らと同い年で、子供を産んだという女性に縁があるのか? そんなことも考えてしまう。
それに、おばあさん。いや名前は佳奈美さん。杉村佳奈美と言う名前だ。
もうすでに愛華のおばあさんとは言っていない。正直まだ母親と言ってもいいくらいの年なんだから。
それに……。
僕ら二人の関係に色濃く割り込んでくる彼女の意思が見え隠れしている。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

聖夜交錯恋愛模様
神谷 愛
恋愛
仲のいい友達同士でクリスマスにラブホ女子会を敢行した二人の結末。
恋人の欲しい同士の二人でラブホ女子会を行うことにする。二人は初めて入ったラブホを楽しんでいる内に場の空気に呑まれていく。
ノクターンとかにもある
☆とブックマークと応援をしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる