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第30話 僕の知らない彼女 ACT 15

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車のハンドルに腕を置きその上に片方の頬をのせ、僕の方をじっと見つめている。
「な、何ですか?」
「ん、何でもないわよ」
と言いながらニコッと笑う幸子さん。

あたりは暗い。そしてここには誰も来なそうだ。僕と幸子さんの二人っきり。
「ねぇ、結城」
この場で呼び捨てにされるその彼女の声がとてもなまめかしい。

「はい!」
「どうしたのよ何か緊張している?」
「………い、いや別に」
「そうかなぁ―、何か意識しちゃっている感じがするんだけどねぇ――」
「意識って何ですか?」
「ん、そうねぇ――。若さゆえの過ち的な意識かなぁ――」

過ち? 若さゆえ? えええええっと。年上の余裕、もしかしてからかわれて面白がられている?
「結城さぁ―、あなたはほんと不思議な子よねぇ。初めて出会ってそんなに経っていないのに、なんだかずっと前から知っているような感じがするのはなぜかしら?」

「そ、そうなんですか。でも僕も幸子さんとはそんな気がします」
「そうなんだ。なんだかうれしいなぁ。そう言ってもらえると」
そして「はぁ―」と一つため息を幸子さんは漏らした。

「頼斗君はちゃんと学校で先生やっているの?」
「い、一応やっているみたいです」
「なぁ―に、その一応やっているみたいって、ああ、そっかぁ―、首にならないでいるっていうことは何とかやっているんていうことなんだよねぇ―、それよりもさぁ―、頼斗君、女子生徒に手だしていないといいんだけど? そんな噂なんか聞こえてこないのぉ?」

「えっ! そう言うのはな、何ですか……全然聞かないですけど。ただ、部活じゃ、かなり怖いっていうのはよく耳にしますね」

「ああああ、あのバカ! やっぱり音楽バカなんだ! だからフラれちゃうんだよ律子さんに」
「知っていたんですか? 律ねぇ、あ、いや律子さんに振られたこと」
「まぁねぇ―、頼斗君は振ったって、強がっているけど。あのどうしようもない音楽バカは愛想つかれて当然よ。全くあの人とおんなじなんだから。私の事なんかほっといてさ」
ちょっとほほを膨らませる幸子さん。暗がりでもその表情はよくわかる。

「私さぁ、17の時にあの人に恋しちゃって、子供もいるっていうの知りながらどうしても諦められなくて、ほとんど私から強引にこの体あげちゃったの。そうしたらさぁ―、何とおなかの中に出来ちゃったんだぁ。それも1発でよ! ほんと運命感じちゃったなぁ。そして生まれたのが響音。まぁねぇ―まだ高校生だったから、いろいろともめちゃったところはあるんだけど、でもねぇ――、ほらここって漁師町でしょ。あんまり表には出ないんだけど、そう言うことって意外とあるのよ。うちの親もさ、正直、そんな感じで結婚したみたいだから、自分たちのことは棚に上げれなかったんだけど、ただねぇ、あの人との年の差もあるし頼斗君もいたし、それに17歳で後妻になるなんて言うのはあんまりよく言われなくてねぇ」

まぁ、普通に考えりゃ、いやいや17歳って言ったら僕らと同い年じゃないか。かなり問題になっちゃうんじゃないのかなぁ。

「でさ、私達の事認めてさ、力になってくれたのがさっき会った、横田のお爺ちゃんなんだ。それで、ね、おろせなくなるまで、私横田のお爺ちゃんのところに逃げていたの。そして響音を出産して、周りからはもう逃げ場はないんだよって言われながら、あの人と結婚したんだ」

「ちょっ、ちょっと待ってください。幸子さんて、いったい……何歳?」
「へっ? な、何歳って……。私、見たまま。そ、そりゃっ、なんて言うの。ちょっとはそのさ、若作りていうのか、そのぉ……。もう、女性に年齢そんなにダイレクトに聞くもんじゃないよ! 38よ。もうじき40歳になるおばさん。どう幻滅したでしょ」

「う、嘘だろ! 38歳って……。でも計算は合うな。で、でもその見た目、てっきり俺、頼斗さんと同じくらいか、どんなに上でも2つくらいか。て、お、思っていたんですけど!!」
「ええええええっと! そ、それはちょっと若く見すぎじゃないのかなぁ―――――――! 結城。で、でもう、うれしいわよ。そんなに若く見られていたなんて、思っていなかったから。て、も、もしかして精神年齢の事表にして言っている?」

「そ、そんなことありませんって本当ですって」

あわてた。マジ驚いちまったぞ! な、なんだ、母さんと同じくらいだったのか! 
いやいや……。あ、そう言えば、ミリッツアさんも年からすれば、ずいぶん若く見れるよなぁ。
いやぁ―。女ってわかんねぇ――――!

「ああ、なんか年言って損した気分」プンっとすねた口調で幸子さんは言う。
「怒らないでくださいよ。幸子さん」
「ふぅ―、でもこれ、現実なんだもんねぇ――。しょうがないよねぇ」

「はぁ―、いや、すみません。こっちこそ勝手にその年齢作り上げちゃって」
「ま、別にいいけど。……でさぁ――、結城ってあなた、女知ってるでしょ」

「へっ?」

「何がへっ、よ。隠さなくたっていいよ。なんとなくわかるんだよねぇ。うふふふ」
今度はなんだ! ニタァ―とした顔して笑ってるぞ。忙しいなぁ……ほんと。もしかして意識しすぎちゃってたのかなぁ。その時脳裏に浮かんだ言葉。

「なぁ兄弟!」げっ! なんで今そんなこと思い出さなきゃいけねぇんだよ!

そりゃ、律ねぇとはそう言う関係だったというのは否定しない。僕に恋人ができるまでという約束だったけど、その約束はもう無効になちゃったし。1年半想い続けた恵美にはあっさりとフラれるし、一緒に暮らすことになったとはいえ、その距離は正直、告る前より遠くなちまった感じだよなぁ。

「ちょっとちょっと、結城どうしちゃったの? 何ぶつぶつ独り言言っているの?」
「あ、いや、僕なんか言っていましたか?」
「んっ、もう――。変なの」

そんな僕の顔をじっと幸子さんは見つめて「ねぇ、私としたい? セックスしようか」

「えっ! あ、あのぉ――――――」
なんかの聞き間違いか? 自分を抑えるのに実は必死だったというのがばれていた……のか?


「あ、そうよねぇ――、こんなおばさんとなんか、やだよねぇ!」
「―――――――やだ……よね……」


そんな色っぽい目で訴えないでくださぁい! 幸子さぁん! もう……理性というかそのぉ――――限界です!!

―――――――――――――――「か、帰りませんか。二人とも待っていると思いますよ」
「ブゥ―――――――!! ああ、振られちゃったぁ――――!! あはははは、冗談よ、冗談。うん君合格。響音の代わりに君に恵美ちゃん預けてもいいよ。なんとなく頼斗君が結城を連れてきた意味わかるような気がする。そうなんだよね。だから……」

彼女の唇が僕の唇とかなる。
やわらかい胸のふくらみが、体に触れているのがわかる。
自分の母親と同じくらいの年なのに、全然そんなことを感じさせない、いけない人だ。 

抱きしめたかった。でもその手は―――――動くことはなかった。

「うん。ちょっとすっきりした。ありがとう」
そう言ってにっこりとほほ笑んだ幸子さん。あなたは僕に何を求めたかったんだ。

……それを今、僕は、この人に追求してはいけないことを、本能的に感じていた。
そのあと僕らは何も会話することなく家に着いた。

「ただいまぁ――」何もなかったように変わらない。
その幸子さんの様子が返って気になる。


あのことは、僕たちの秘密なんだから。
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