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第24話 僕の知らない彼女 ACT 9
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今日はその日なんだ。
はぇよなぁ。もう4年もたっちまやがった。
響音とは年の離れた兄弟だったから、彼奴俺のこと慕ってくれていた。
俺も弟ができて本当にうれしかった。
幸せだったなぁ。あの頃は……。
でも、その幸せも一つの出来事で、あっけなく消え去ってしまった。
親父はさ、楽器の修理屋。いわばリペア職人なんだ。
4年前、3年間くらいいたのか。恵美のあの家のすぐ近くに俺たちは住んでいた。
なぜかは知らねぇけど、俺たちと恵美、そして両親とは本当に親しくさせてもらっていたんだ。
特に響音と恵美はな。
まぁ、なんていうんだろう。お似合いの仲だったよ。
暇さえあればいつも二人は一緒にいた。なんだろうな本当の兄弟の俺よりも、あの時間は恵美といる時間の方が多かったんじゃないかというくらい、いつも一緒にいた。
恵美なんか「響音にぃ」なんて呼んでてさ、暇さえあれば二人でアルト吹いていたな。
喧嘩もよくしていた。でもすぐに仲直りして、二人は笑ってた。
それに必死になって響音の後をついていこうとする、恵美の姿が俺には愛おしく見えた。
まぁ将来は、この二人結婚でもすんじゃねぇのか。それとも早くに一緒にさせてしまおうか。なんてお互いの家族同士で話していたくらい仲睦まじかった。
でも、あの日はやってきてしまった。
あの日、二人はアルトのリードを買いに出かけたんだ。まぁ正直言えばリードなんて、親父の取引業者に発注すればどのメーカでも手に入っていたんだけど、いつも行きつけの楽器屋に二人で足を運んでいた。何だろうな、リードを買うのは口実で、本当は二人だけで街をぶらつきたかったんだろうな。
あの日もいつものように恵美はおめかしして、響音を迎えに来ていた。
その日に限ってなぜか純白のワンピースを着ていたのが、いまだに記憶に濃く残っている。
「おい、響音。いくら親公認とは言え、お前ら変なとこに入っていくんじゃねぇぞ!」
「ば、馬鹿な! そんなとこに行くわけないだろう兄さん」
「ほんとかぁ? 怪しいもんだな。あははは」
「もう、音にぃはそんなとこ行かないもん。どっかの誰かとは違うんだから」
「どっかの誰かってもしかして俺のことか?」
「他に誰がいるっていうの?」
「まったく敵わねぇな、恵美には」
「ほら行くよ恵美。兄さんもたまには彼女とデートでもしてきたらどうなんだい?」
「はっ? 言ってくれんじゃねぇか響音」
「それじゃ行ってくるよ」にっこりと笑って、手を振りながら、しっかりと恵美の手も握って。
彼奴は行ってしまった。
……それが最後……だった。
そして事件は起こった。
目のまえで、いや、恵美を守るように抱きかかえ。彼奴は犯人に刺された。
恵美の着ていた白いドレスは真っ赤な血で染まり、自分の体を包み込む力が薄れていくのを恵美は感じながら、すべての意識を閉ざした。
相当なショックを受けたんだろう。恵美の意識は二日間戻らなかった。
そして気が付いたとき、一時的な記憶障害を起こしていた。
あの瞬間。あの時間の時の記憶がすぽりと抜け落ちていた。
記憶障害は一時的なものだったが、その記憶が戻るにつれ恵美にはさらなる哀しみと恐怖にさいなまれてしまった。
PTSD心的外傷後ストレス障害。記憶が戻るにつれ、恵美の心は壊れていった。
そして、自分を守るために死んだ響音。恵美は自分自身を責め立てるようになった。
心を閉ざし、あれだけ熱心に練習していたアルトも吹けなくなって。
ついには自らの命をも断とうとまでした。
実際、あの頃の恵美はもう、その存在はただの着ぐるみのようなものだったのかもしれない。
それでも恵美は少しづつ立ち直っていってくれた。
ゆっくりと。少しづつ……多分まだ相当辛いんだと思う。だけど、こうして、現実に向き合おうとしてくれている。
響音はもういないということに。
立ち上がる線香の煙が薄くその姿を消した。
なんでだよ!
どうしてだよ!
どうしてこんなことばかり、近寄ってくるんだよ。
もう十分だよ。父さんと母さんが突然いなくなったことだけで……十分なんだよ。
僕の知らない恵美の過去。
その話をなぜ僕に先生は話したんだ。僕は知りたくはなかった。
そんな惨いことを。
僕には重すぎるんだ。これ以上の重荷はもう背負うことなんてできないくらい、もうすでに背負っているんだ。それなのに……まだ僕に背負わせようとしている。
振られてよかった。家の中でも無視されてて、よかった。僕のことなんか何も見向きもしてくれなくて本当によかった。
―――――――――本当にか?
幼いころほんの少しだけ知り合っただけの幼馴染。
それすらも忘れて告った。――――――そして振られた。
僕はじゃぁどうして恵美のことを未だに気にかけているんだ。
未練がましく、振られてもまだこだわっているからか?
他から見ればそう見られるかもしれないけど、実際は何かが違ってきている。
なんだろう。わからないけど、その気持ちは分からなくなる一方だけど。だけど、恵美のことはほっとけないんだよ。
もう、恋なんて関係ない。好きとかそう言うもんじゃない。
わからない気持ちがまた僕の胸の中に渦巻く。
「嘘じゃないよね今の話」
「ばっかやろう! こいつの前で嘘なんかついてられるか! それこそ響音に殴らちまうぜ」
「重いね。重すぎるよ。その重荷を僕に背負わせようとしているんだね」
「ああ、逃げたいか?」
正直もう僕はこれ以上関わりたくはない。
――――――でも、それをこの僕自身が許してはくれなさそうだ。
はぇよなぁ。もう4年もたっちまやがった。
響音とは年の離れた兄弟だったから、彼奴俺のこと慕ってくれていた。
俺も弟ができて本当にうれしかった。
幸せだったなぁ。あの頃は……。
でも、その幸せも一つの出来事で、あっけなく消え去ってしまった。
親父はさ、楽器の修理屋。いわばリペア職人なんだ。
4年前、3年間くらいいたのか。恵美のあの家のすぐ近くに俺たちは住んでいた。
なぜかは知らねぇけど、俺たちと恵美、そして両親とは本当に親しくさせてもらっていたんだ。
特に響音と恵美はな。
まぁ、なんていうんだろう。お似合いの仲だったよ。
暇さえあればいつも二人は一緒にいた。なんだろうな本当の兄弟の俺よりも、あの時間は恵美といる時間の方が多かったんじゃないかというくらい、いつも一緒にいた。
恵美なんか「響音にぃ」なんて呼んでてさ、暇さえあれば二人でアルト吹いていたな。
喧嘩もよくしていた。でもすぐに仲直りして、二人は笑ってた。
それに必死になって響音の後をついていこうとする、恵美の姿が俺には愛おしく見えた。
まぁ将来は、この二人結婚でもすんじゃねぇのか。それとも早くに一緒にさせてしまおうか。なんてお互いの家族同士で話していたくらい仲睦まじかった。
でも、あの日はやってきてしまった。
あの日、二人はアルトのリードを買いに出かけたんだ。まぁ正直言えばリードなんて、親父の取引業者に発注すればどのメーカでも手に入っていたんだけど、いつも行きつけの楽器屋に二人で足を運んでいた。何だろうな、リードを買うのは口実で、本当は二人だけで街をぶらつきたかったんだろうな。
あの日もいつものように恵美はおめかしして、響音を迎えに来ていた。
その日に限ってなぜか純白のワンピースを着ていたのが、いまだに記憶に濃く残っている。
「おい、響音。いくら親公認とは言え、お前ら変なとこに入っていくんじゃねぇぞ!」
「ば、馬鹿な! そんなとこに行くわけないだろう兄さん」
「ほんとかぁ? 怪しいもんだな。あははは」
「もう、音にぃはそんなとこ行かないもん。どっかの誰かとは違うんだから」
「どっかの誰かってもしかして俺のことか?」
「他に誰がいるっていうの?」
「まったく敵わねぇな、恵美には」
「ほら行くよ恵美。兄さんもたまには彼女とデートでもしてきたらどうなんだい?」
「はっ? 言ってくれんじゃねぇか響音」
「それじゃ行ってくるよ」にっこりと笑って、手を振りながら、しっかりと恵美の手も握って。
彼奴は行ってしまった。
……それが最後……だった。
そして事件は起こった。
目のまえで、いや、恵美を守るように抱きかかえ。彼奴は犯人に刺された。
恵美の着ていた白いドレスは真っ赤な血で染まり、自分の体を包み込む力が薄れていくのを恵美は感じながら、すべての意識を閉ざした。
相当なショックを受けたんだろう。恵美の意識は二日間戻らなかった。
そして気が付いたとき、一時的な記憶障害を起こしていた。
あの瞬間。あの時間の時の記憶がすぽりと抜け落ちていた。
記憶障害は一時的なものだったが、その記憶が戻るにつれ恵美にはさらなる哀しみと恐怖にさいなまれてしまった。
PTSD心的外傷後ストレス障害。記憶が戻るにつれ、恵美の心は壊れていった。
そして、自分を守るために死んだ響音。恵美は自分自身を責め立てるようになった。
心を閉ざし、あれだけ熱心に練習していたアルトも吹けなくなって。
ついには自らの命をも断とうとまでした。
実際、あの頃の恵美はもう、その存在はただの着ぐるみのようなものだったのかもしれない。
それでも恵美は少しづつ立ち直っていってくれた。
ゆっくりと。少しづつ……多分まだ相当辛いんだと思う。だけど、こうして、現実に向き合おうとしてくれている。
響音はもういないということに。
立ち上がる線香の煙が薄くその姿を消した。
なんでだよ!
どうしてだよ!
どうしてこんなことばかり、近寄ってくるんだよ。
もう十分だよ。父さんと母さんが突然いなくなったことだけで……十分なんだよ。
僕の知らない恵美の過去。
その話をなぜ僕に先生は話したんだ。僕は知りたくはなかった。
そんな惨いことを。
僕には重すぎるんだ。これ以上の重荷はもう背負うことなんてできないくらい、もうすでに背負っているんだ。それなのに……まだ僕に背負わせようとしている。
振られてよかった。家の中でも無視されてて、よかった。僕のことなんか何も見向きもしてくれなくて本当によかった。
―――――――――本当にか?
幼いころほんの少しだけ知り合っただけの幼馴染。
それすらも忘れて告った。――――――そして振られた。
僕はじゃぁどうして恵美のことを未だに気にかけているんだ。
未練がましく、振られてもまだこだわっているからか?
他から見ればそう見られるかもしれないけど、実際は何かが違ってきている。
なんだろう。わからないけど、その気持ちは分からなくなる一方だけど。だけど、恵美のことはほっとけないんだよ。
もう、恋なんて関係ない。好きとかそう言うもんじゃない。
わからない気持ちがまた僕の胸の中に渦巻く。
「嘘じゃないよね今の話」
「ばっかやろう! こいつの前で嘘なんかついてられるか! それこそ響音に殴らちまうぜ」
「重いね。重すぎるよ。その重荷を僕に背負わせようとしているんだね」
「ああ、逃げたいか?」
正直もう僕はこれ以上関わりたくはない。
――――――でも、それをこの僕自身が許してはくれなさそうだ。
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