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第21話 僕の知らない彼女 ACT 6
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早朝、まだ、正樹さんもミリッツアさんも葵さんも起きてこない時間。
玄関のドアがぱたんと閉まる音がした。
窓のカーテンの隙間から外を覗くと恵美の姿があった。
こんなに朝早く、彼奴はいったいどこに行くんだろう。まさかこんな朝早くからいつもの河川敷でアルトサックスを吹きに……いや違う。彼女の手にはアルトサックスのケースがなかった。
じゃぁ、何処に……。
そう言えば、ミリッツアさんが夕べ言っていたな。恵美が出かけるだろうって。
毎年のことだって言っていたけど、いったい何があるんだ。
あんなにもひっそりと家を出るなんて。
後をつけたい衝動に一瞬かられた。でもその思いにブレーキがかかった。
「傷が癒えていない」その言葉だった。
なんなんだ。その傷って。
恵美の過去にいったい何があったんだというんだ。
「そっとしてあげて」ミリッツアさんの言葉がよみがえる。
僕はまた上掛けを頭からすっぽりかぶり、恵美が離れていくのを、ずっと何も考えないようにしながら時が過ぎていくのを待った。
それでも、何かもやもやとした気持ちは脱ぎ捨てられなかった。
朝食の時、正樹さんもミリッツアさんも恵美のことには触れなかった。
だからこそ僕もそのことにはあえて触れないようにした。
そしてお昼過ぎ、北城先生が店にやってきた。
「よう! 笹崎」
と、いつもよりラフな格好で、しかも頭はいつもより寝ぐせがひどい。
はぁ、これが担任の休日の姿。ま、いつもと、そう変わり映えはしないような気がする。
でもなぁ――――思うよ。律ねぇの元カレ氏だったなんて。なんかさっていう感じ。
「わりぃな笹崎、付き合わさせちまって」
「へっ? 付き合わせてって、どこかに行くんですか?」
「まぁな。ちょっとそこまでだ」
ミリッツアさんがきれいにラッピングした小箱を先生の前に置いた。
「すみません。いつも」
「いいのよ。これは私達からの気持ち。大好きだったもんね」
「ああ、本当に彼奴はここのこのカヌレが好きでした」
中身はあのカヌレなんだ。そしてちょっと困惑した表情で彼女は言った。
「結城を連れて行くんでしょ」
「ええ、そうです」
「どうして?」
「訳は俺にもわかんないです。でもなんか連れて行かなきゃいけないような気がしてならないんです」
「ふぅ―」と軽くため息を漏らしミリッツアさんは「……そう」とだけ答えた。
正樹さんが奥からやってきて、ミリッツアさんの肩にそっと手を置いて
「結城には知ってもらった方がいい。それに俺たちから伝えるよりも実際にその目で知った方がいいだろう」
かなり重い空気が流れていた。
いったい何があるというんだ。
「ま、そう言うことで此奴を少しばかりお借りしていきます。そこんとこどうかよろしくお願いします」
正樹さんが「ああ」とだけ返し、その身を厨房へと戻した。
「気を付けてね」
少し曇ったいつもと違う表情が気になるが、ミリッツアさんは笑顔で僕たち二人を送り出した。
北城先生の車に乗り込み、車は静かに店を離れていった。
途中、商店街の花屋で花束を買い、自販機で缶コーヒーを買ってその一つを僕に手渡した。
なんで花束を……。聞こうとしたがやめた。
それよりももっと気になることができたからだ。
どうして、北城先生は、政樹さんたちとあんなにも親しげに会話ができるんだろう。
父兄と担任教師という感じではなかったのは確かだ。
それにもう一つ気がかりなことがあった。それは、恵美が北城先生に僕とのことを嘘をついてまで、いや、そうじゃない。そう言うことじゃない。
北城先生と恵美は、何だろう。……何かある。
多分、教師と生徒の間以上の何かがある。
そんな気がしてならなかった。
玄関のドアがぱたんと閉まる音がした。
窓のカーテンの隙間から外を覗くと恵美の姿があった。
こんなに朝早く、彼奴はいったいどこに行くんだろう。まさかこんな朝早くからいつもの河川敷でアルトサックスを吹きに……いや違う。彼女の手にはアルトサックスのケースがなかった。
じゃぁ、何処に……。
そう言えば、ミリッツアさんが夕べ言っていたな。恵美が出かけるだろうって。
毎年のことだって言っていたけど、いったい何があるんだ。
あんなにもひっそりと家を出るなんて。
後をつけたい衝動に一瞬かられた。でもその思いにブレーキがかかった。
「傷が癒えていない」その言葉だった。
なんなんだ。その傷って。
恵美の過去にいったい何があったんだというんだ。
「そっとしてあげて」ミリッツアさんの言葉がよみがえる。
僕はまた上掛けを頭からすっぽりかぶり、恵美が離れていくのを、ずっと何も考えないようにしながら時が過ぎていくのを待った。
それでも、何かもやもやとした気持ちは脱ぎ捨てられなかった。
朝食の時、正樹さんもミリッツアさんも恵美のことには触れなかった。
だからこそ僕もそのことにはあえて触れないようにした。
そしてお昼過ぎ、北城先生が店にやってきた。
「よう! 笹崎」
と、いつもよりラフな格好で、しかも頭はいつもより寝ぐせがひどい。
はぁ、これが担任の休日の姿。ま、いつもと、そう変わり映えはしないような気がする。
でもなぁ――――思うよ。律ねぇの元カレ氏だったなんて。なんかさっていう感じ。
「わりぃな笹崎、付き合わさせちまって」
「へっ? 付き合わせてって、どこかに行くんですか?」
「まぁな。ちょっとそこまでだ」
ミリッツアさんがきれいにラッピングした小箱を先生の前に置いた。
「すみません。いつも」
「いいのよ。これは私達からの気持ち。大好きだったもんね」
「ああ、本当に彼奴はここのこのカヌレが好きでした」
中身はあのカヌレなんだ。そしてちょっと困惑した表情で彼女は言った。
「結城を連れて行くんでしょ」
「ええ、そうです」
「どうして?」
「訳は俺にもわかんないです。でもなんか連れて行かなきゃいけないような気がしてならないんです」
「ふぅ―」と軽くため息を漏らしミリッツアさんは「……そう」とだけ答えた。
正樹さんが奥からやってきて、ミリッツアさんの肩にそっと手を置いて
「結城には知ってもらった方がいい。それに俺たちから伝えるよりも実際にその目で知った方がいいだろう」
かなり重い空気が流れていた。
いったい何があるというんだ。
「ま、そう言うことで此奴を少しばかりお借りしていきます。そこんとこどうかよろしくお願いします」
正樹さんが「ああ」とだけ返し、その身を厨房へと戻した。
「気を付けてね」
少し曇ったいつもと違う表情が気になるが、ミリッツアさんは笑顔で僕たち二人を送り出した。
北城先生の車に乗り込み、車は静かに店を離れていった。
途中、商店街の花屋で花束を買い、自販機で缶コーヒーを買ってその一つを僕に手渡した。
なんで花束を……。聞こうとしたがやめた。
それよりももっと気になることができたからだ。
どうして、北城先生は、政樹さんたちとあんなにも親しげに会話ができるんだろう。
父兄と担任教師という感じではなかったのは確かだ。
それにもう一つ気がかりなことがあった。それは、恵美が北城先生に僕とのことを嘘をついてまで、いや、そうじゃない。そう言うことじゃない。
北城先生と恵美は、何だろう。……何かある。
多分、教師と生徒の間以上の何かがある。
そんな気がしてならなかった。
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