上 下
11 / 69

第10話 見事にフラれました ACT 10

しおりを挟む


いつの間にか眠っていた。
意外と緊張してたんだな。そんな感じはしてなかってけど、ぷっつりと何かが切れたような感じがしていたのは確かだ。

いったい今何時なんだろう。
机の上に置いていたスマホを持ち電源を入れる。

「ん、着信がある」
時間よりも着信マークの方に気が向く。
一体誰からなんだろう。通話アプリを開くと見知らぬ番号から数回着信があった。

なんだ? しらねぇーぞこんな番号。学校からでもねぇし、最も孝義や戸鞠たちからだったら電話じゃなくてSNSアプリの通話機能からかけてくる。
こっちから掛け直すのはやめておいた方がいい。変なところからだったら嫌だ。

無視しよう。

明日、半日学校に行けば夏休みだ。
なんだかなぁ、今年の夏休みも特に予定はないし、ただ時間の消化をするだけの怠惰な休みになりそうだ。
これがさ、今日三浦恵美からOKをもらっていたら、たぶんものすげぇ楽しい夏休みに変貌していたかもしれないのに。

て、まぁあるわけねぇような。
ダメ元。いや、無理なのをわかっていて告ったんだから。断られて当たり前、あの三浦恵美だぞ! こんな俺なんか不釣り合い。
でもさ、見てしまったんだよな。


彼女が声を上げて泣き叫ぶ姿を……。

雨の降る中、濡れながら、自分の何かを取り戻したいという悲痛な叫びのような声を。

あの時の彼女の姿は、今でもこの胸の中に描かれている。
一体彼女はどんな苦しみを背負っているというんだ。学校では絶対に見せない彼女の本当の姿。
多分僕が見た彼女の本当の姿はごく一部かもしれない。でもほっとけなくなった。
遠くから見ているだけでいい。それだけでも十分だった。

そうだよ。壊しちゃいけない僕の理想を、僕自ら壊したんだ。
でなければ、彼女を三浦恵美を救うことはできない。……救って。そんなたいそうなことができるほどの力があるわけじゃないけど、でも、ただ、傍にいてあげたいという想いだけが先走った。

本当はさ、片思いのままでよかったんだ。
何も告って付き合おうなんて、……あれ、変だな。また涙が出てきた。
やっぱり、僕は好きだったんだ。
でももう、終わったんだ。遠くから彼女を眺めていることも、もうできないんだ。

幸か不幸か、明日は終業式だ。ほんの半日学校にいれば、あとはしばらく学校で彼女の姿を見ることもなくなる。
吹っ切れるかなぁ。
――――――そうだよな。振られたんだから。いつまでも引きずっていちゃいけないよな。
なんかほんと女々しい。でも失恋ってこんなにも苦しかったんだ。

その時スマホが鳴った。
また同じ知らない番号からだった。
反射的に通話をタップする。

「もしもし、笹崎結城さんの携帯でお間違いないでしょうか?」
少し冷たい感じ、事務的な感じを受ける女性の声だった。
「はい、そうですけど」
「あ、よかった。ようやくご連絡がついて」
「あのぉ、」

………………………。

なんだろう。今僕は何をしているんだろう。

小部屋のドアを閉め、廊下の長椅子に力なく座り込んだ。
天井から光るライトがリノリウムに反射している。
その光をただ、目に映していた。

カツカツカツと小走りにヒールがその床をはじく音が聞こえてくる。
見上げると、息を切らしながら、あの黒いつややかな長い髪を乱し、僕の前に立ちすくむ律ねぇの姿があった。

「結城」
ゆっくりと顔を上げ、呼ばれた声の方に目を動かす。

「………律ねぇ………か」
「結城」彼女はもう一度僕の名を呼んだ。

「中にいるよ。二人とも。父さんも、母さんも。二人ともいるよ。3か月ぶりかなぁ。父さんに会うのなんて。待っているよ、あってあげなよ」

律ねぇは小刻みに震える手でドアの取っ手をつかみ、その部屋に入った。


悲鳴のような律ねぇの鳴き声が聞こえてきた。


「嘘よね。嘘だよね―――――――!!」

その声は……。
夏の夜の闇に…………響き渡った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私と白い王子様

ふり
恋愛
 大学の春休み中のある日、夕季(ゆき)のもとに幼なじみの彗(けい)から電話がかかってくる。内容は「旅行に行こう」というもの。夕季は答えを先送りにした電話を切った。ここ数年は別々の大学に進学していて、疎遠になっていたからだ 夕季 https://x.gd/u7rDe 慧 https://x.gd/gOgB5 「『私と白い王子様』について」 https://x.gd/aN6qk

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...