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第10話 見事にフラれました ACT 10
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◇
いつの間にか眠っていた。
意外と緊張してたんだな。そんな感じはしてなかってけど、ぷっつりと何かが切れたような感じがしていたのは確かだ。
いったい今何時なんだろう。
机の上に置いていたスマホを持ち電源を入れる。
「ん、着信がある」
時間よりも着信マークの方に気が向く。
一体誰からなんだろう。通話アプリを開くと見知らぬ番号から数回着信があった。
なんだ? しらねぇーぞこんな番号。学校からでもねぇし、最も孝義や戸鞠たちからだったら電話じゃなくてSNSアプリの通話機能からかけてくる。
こっちから掛け直すのはやめておいた方がいい。変なところからだったら嫌だ。
無視しよう。
明日、半日学校に行けば夏休みだ。
なんだかなぁ、今年の夏休みも特に予定はないし、ただ時間の消化をするだけの怠惰な休みになりそうだ。
これがさ、今日三浦恵美からOKをもらっていたら、たぶんものすげぇ楽しい夏休みに変貌していたかもしれないのに。
て、まぁあるわけねぇような。
ダメ元。いや、無理なのをわかっていて告ったんだから。断られて当たり前、あの三浦恵美だぞ! こんな俺なんか不釣り合い。
でもさ、見てしまったんだよな。
彼女が声を上げて泣き叫ぶ姿を……。
雨の降る中、濡れながら、自分の何かを取り戻したいという悲痛な叫びのような声を。
あの時の彼女の姿は、今でもこの胸の中に描かれている。
一体彼女はどんな苦しみを背負っているというんだ。学校では絶対に見せない彼女の本当の姿。
多分僕が見た彼女の本当の姿はごく一部かもしれない。でもほっとけなくなった。
遠くから見ているだけでいい。それだけでも十分だった。
そうだよ。壊しちゃいけない僕の理想を、僕自ら壊したんだ。
でなければ、彼女を三浦恵美を救うことはできない。……救って。そんなたいそうなことができるほどの力があるわけじゃないけど、でも、ただ、傍にいてあげたいという想いだけが先走った。
本当はさ、片思いのままでよかったんだ。
何も告って付き合おうなんて、……あれ、変だな。また涙が出てきた。
やっぱり、僕は好きだったんだ。
でももう、終わったんだ。遠くから彼女を眺めていることも、もうできないんだ。
幸か不幸か、明日は終業式だ。ほんの半日学校にいれば、あとはしばらく学校で彼女の姿を見ることもなくなる。
吹っ切れるかなぁ。
――――――そうだよな。振られたんだから。いつまでも引きずっていちゃいけないよな。
なんかほんと女々しい。でも失恋ってこんなにも苦しかったんだ。
その時スマホが鳴った。
また同じ知らない番号からだった。
反射的に通話をタップする。
「もしもし、笹崎結城さんの携帯でお間違いないでしょうか?」
少し冷たい感じ、事務的な感じを受ける女性の声だった。
「はい、そうですけど」
「あ、よかった。ようやくご連絡がついて」
「あのぉ、」
………………………。
なんだろう。今僕は何をしているんだろう。
小部屋のドアを閉め、廊下の長椅子に力なく座り込んだ。
天井から光るライトがリノリウムに反射している。
その光をただ、目に映していた。
カツカツカツと小走りにヒールがその床をはじく音が聞こえてくる。
見上げると、息を切らしながら、あの黒いつややかな長い髪を乱し、僕の前に立ちすくむ律ねぇの姿があった。
「結城」
ゆっくりと顔を上げ、呼ばれた声の方に目を動かす。
「………律ねぇ………か」
「結城」彼女はもう一度僕の名を呼んだ。
「中にいるよ。二人とも。父さんも、母さんも。二人ともいるよ。3か月ぶりかなぁ。父さんに会うのなんて。待っているよ、あってあげなよ」
律ねぇは小刻みに震える手でドアの取っ手をつかみ、その部屋に入った。
悲鳴のような律ねぇの鳴き声が聞こえてきた。
「嘘よね。嘘だよね―――――――!!」
その声は……。
夏の夜の闇に…………響き渡った。
いつの間にか眠っていた。
意外と緊張してたんだな。そんな感じはしてなかってけど、ぷっつりと何かが切れたような感じがしていたのは確かだ。
いったい今何時なんだろう。
机の上に置いていたスマホを持ち電源を入れる。
「ん、着信がある」
時間よりも着信マークの方に気が向く。
一体誰からなんだろう。通話アプリを開くと見知らぬ番号から数回着信があった。
なんだ? しらねぇーぞこんな番号。学校からでもねぇし、最も孝義や戸鞠たちからだったら電話じゃなくてSNSアプリの通話機能からかけてくる。
こっちから掛け直すのはやめておいた方がいい。変なところからだったら嫌だ。
無視しよう。
明日、半日学校に行けば夏休みだ。
なんだかなぁ、今年の夏休みも特に予定はないし、ただ時間の消化をするだけの怠惰な休みになりそうだ。
これがさ、今日三浦恵美からOKをもらっていたら、たぶんものすげぇ楽しい夏休みに変貌していたかもしれないのに。
て、まぁあるわけねぇような。
ダメ元。いや、無理なのをわかっていて告ったんだから。断られて当たり前、あの三浦恵美だぞ! こんな俺なんか不釣り合い。
でもさ、見てしまったんだよな。
彼女が声を上げて泣き叫ぶ姿を……。
雨の降る中、濡れながら、自分の何かを取り戻したいという悲痛な叫びのような声を。
あの時の彼女の姿は、今でもこの胸の中に描かれている。
一体彼女はどんな苦しみを背負っているというんだ。学校では絶対に見せない彼女の本当の姿。
多分僕が見た彼女の本当の姿はごく一部かもしれない。でもほっとけなくなった。
遠くから見ているだけでいい。それだけでも十分だった。
そうだよ。壊しちゃいけない僕の理想を、僕自ら壊したんだ。
でなければ、彼女を三浦恵美を救うことはできない。……救って。そんなたいそうなことができるほどの力があるわけじゃないけど、でも、ただ、傍にいてあげたいという想いだけが先走った。
本当はさ、片思いのままでよかったんだ。
何も告って付き合おうなんて、……あれ、変だな。また涙が出てきた。
やっぱり、僕は好きだったんだ。
でももう、終わったんだ。遠くから彼女を眺めていることも、もうできないんだ。
幸か不幸か、明日は終業式だ。ほんの半日学校にいれば、あとはしばらく学校で彼女の姿を見ることもなくなる。
吹っ切れるかなぁ。
――――――そうだよな。振られたんだから。いつまでも引きずっていちゃいけないよな。
なんかほんと女々しい。でも失恋ってこんなにも苦しかったんだ。
その時スマホが鳴った。
また同じ知らない番号からだった。
反射的に通話をタップする。
「もしもし、笹崎結城さんの携帯でお間違いないでしょうか?」
少し冷たい感じ、事務的な感じを受ける女性の声だった。
「はい、そうですけど」
「あ、よかった。ようやくご連絡がついて」
「あのぉ、」
………………………。
なんだろう。今僕は何をしているんだろう。
小部屋のドアを閉め、廊下の長椅子に力なく座り込んだ。
天井から光るライトがリノリウムに反射している。
その光をただ、目に映していた。
カツカツカツと小走りにヒールがその床をはじく音が聞こえてくる。
見上げると、息を切らしながら、あの黒いつややかな長い髪を乱し、僕の前に立ちすくむ律ねぇの姿があった。
「結城」
ゆっくりと顔を上げ、呼ばれた声の方に目を動かす。
「………律ねぇ………か」
「結城」彼女はもう一度僕の名を呼んだ。
「中にいるよ。二人とも。父さんも、母さんも。二人ともいるよ。3か月ぶりかなぁ。父さんに会うのなんて。待っているよ、あってあげなよ」
律ねぇは小刻みに震える手でドアの取っ手をつかみ、その部屋に入った。
悲鳴のような律ねぇの鳴き声が聞こえてきた。
「嘘よね。嘘だよね―――――――!!」
その声は……。
夏の夜の闇に…………響き渡った。
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