【完結】エデンの住処

社菘

文字の大きさ
8 / 44
第2章 同居

しおりを挟む



背中に感じる体温が心地よくて、藍がいるなんて最悪だと思っていたにもかかわらず由利はすぐに眠ってしまった。今日の撮影現場で変に気を張っていたからか、目を閉じるとすぐに夢の中に誘われてしまったのだ。

そのまま朝まで目覚めなければよかったのに、タイミングがいいのか悪いのか、どうしても目が覚めてしまうのだ。

「……っふ、は…」

着ている服が汗で濡れていると感じるほどの暑さに目を覚ますと、血管が浮き出た太い片腕がぎゅっと由利抱きしめていて、後ろからは熱い吐息に混ざる小さな声が耳に届いた。そして、静寂に包まれた室内に響き渡る卑猥な水音。べろりと首筋を舐められて声を上げそうになったのを、由利はなんとか堪えた。

「ゆうり、ゆうり、ゆうり……ッ」

熱い吐息と一緒に由利の名前を呼ぶのは、言わずもがな藍だ。由利を抱きしめていない片手が『なに』をしているかなんて、部屋に響き渡る水音と熱気、そして過去の出来事からすぐに察した。彼は中学生の時も、眠っている由利を抱きしめながら『同じこと』をしていたのだから。

「由利、今日から由利の弟になる藍くんよ」
「由利くん、引っ越しが済んでなくてごめんな。しばらく藍と同じ部屋を使ってもらってもいいかな……?」

母が再婚したのは由利が高校2年生の時。新しい父になる人は物腰柔らかく、由利の母のことをとても愛おしそうに見つめていて『本当に好きなんだな』と思ったのが第一印象だ。そして、そんな新しい父の連れ子である藍は3歳年下で、中学2年生だった。中学生なのでまだ幼さが残る顔で、声変わりの最中らしく変な声だからと恥ずかしそうにしていた。

「藍くん、今日からよろしくね。部屋、俺が来て狭くなったよな」
「そ、そんなことないです!由利くんは家族だから、そんなの気にしないで……」
「ありがとう。藍くんみたいな弟ができて嬉しいよ!」

そう言うと藍は照れくさそうに笑って、大人と子供の境目の声が「兄さん」と呼んでくれた時は純粋に嬉しさを感じた。

高校2年生の由利と中学2年生の藍が同じ部屋を使うには手狭だったが、男同士だし大丈夫だと思っていた。実際、なんの不便もなかったのだ。藍とはもしかしたら気まずくなるかもと懸念していたけれど、お互いに昔から本当の兄弟のように仲良く過ごしていた。

だから広い家に引っ越した時、やっと別々の部屋が手に入ったのに「一人じゃ眠れない、兄さん……」と言ってベッドに潜り込んでくる藍を、由利は『寂しがりやの可愛い弟』と思いながら甘やかしていたのだ。

それが全ての過ちの始まりだと気がつくには、とても遅かったのだけれど。

『それ』に気がついたのは、由利が高校3年、藍が中学3年生の夏休み。

藍は中学3年生になってから急激に身長が伸びた。このまま成長したら180センチを超えるだろうなというくらい高身長になって、声変わりが終わった藍の声は低く、男らしい声になった。本当の初対面は藍が中学1年生の頃だったので、その頃はまだ子供っぽかったのにと言うと「いつまでも子供扱いしないでよ、兄さん」なんて言ってくるくせに、今でも一緒に寝たがるのだ。

身長が高くなって声が低くなっても中身はやっぱりまだまだ子供だなと思っていたのに、あの夏の夜に一変してしまった。

「……はぁ、は…っ!兄さん、兄さん……っ」

真夏の夜だったからか蒸し暑さが寝苦しくて目が覚めた由利は、後ろから抱きつくように眠っている藍が声を荒げていることに気がついた。もしかしてどこか具合が悪いのかも――!?そう思って声をかけようとしたのだが、静かな部屋にやたらと響き渡る水音に気がついて石のように硬直した。

「(藍、もしかして……)」

まだまだ子供だと思っていた弟は、どうやら自慰をしているらしい。由利のむき出しのうなじに藍の熱い息がかかって、彼がやっている行為を認識した途端、由利は自分の体温が3℃くらい上がった気がする。まさか藍が自慰をしているなんて思っていなかったし、一緒に寝ているベッドでしているというのも衝撃的だった。

「兄さん……ゆうり…っ」

『兄さん』から『由利』と呼ばれると、どくんっと心臓が跳ね上がる。

何より、由利はアルファだ。由利がアルファなのは藍も知っているだろうが、藍本人はその時点ではまだバース診断を受けていなかったので、性の対象を決めるのにバース性は関係なかったのかもしれない。アルファやベータ、オメガというのを除外して『由利自身』が藍の性的な対象だったのだ。

由利の名前を呼びながら忙しなく手を動かしているのが分かって、藍が自分を性的な対象として見ていると理解した。親の再婚でできた可愛い義弟は、いつの間にか男になっていた。

義兄のことを想いながら自慰をしていると分かれば、普通の兄なら止めたり説教したりするのだろう。でも由利がそれを止めなかったのは、両親の幸せを壊してしまうのが怖かったのと、そういう行為をしている藍に対して全く嫌悪感を抱かなかったからだ。

行為そのものは大人になるにつれ仕方のないことだし、由利だってすることなので止めるわけにはいかない。何を思ってするかのは本人の自由で、それが自分だったことにむしろ安心した。安心したというか、どちらかといえば、嬉しかったのだ。

アルファの自分が義弟の自慰のネタにされているのに嬉しいなんて頭がおかしいと思われるだろうけれど、藍が由利を特別だと思っているように、由利もまた藍を『弟』の枠を超えた特別だと思っていたから。

だから彼を止めなかったし、なんなら自分が、彼を『過ち』に誘ったのだ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

変異型Ωは鉄壁の貞操

田中 乃那加
BL
 変異型――それは初めての性行為相手によってバースが決まってしまう突然変異種のこと。  男子大学生の金城 奏汰(かなしろ かなた)は変異型。  もしαに抱かれたら【Ω】に、βやΩを抱けば【β】に定着する。  奏汰はαが大嫌い、そして絶対にΩにはなりたくない。夢はもちろん、βの可愛いカノジョをつくり幸せな家庭を築くこと。  だから護身術を身につけ、さらに防犯グッズを持ち歩いていた。  ある日の歓楽街にて、β女性にからんでいたタチの悪い酔っ払いを次から次へとやっつける。  それを見た高校生、名張 龍也(なばり たつや)に一目惚れされることに。    当然突っぱねる奏汰と引かない龍也。  抱かれたくない男は貞操を守りきり、βのカノジョが出来るのか!?                

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

またのご利用をお待ちしています。

あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。 緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?! ・マッサージ師×客 ・年下敬語攻め ・男前土木作業員受け ・ノリ軽め ※年齢順イメージ 九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮 【登場人物】 ▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻 ・マッサージ店の店長 ・爽やかイケメン ・優しくて低めのセクシーボイス ・良識はある人 ▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受 ・土木作業員 ・敏感体質 ・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ ・性格も見た目も男前 【登場人物(第二弾の人たち)】 ▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻 ・マッサージ店の施術者のひとり。 ・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。 ・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。 ・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。 ▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受 ・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』 ・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。 ・理性が強め。隠れコミュ障。 ・無自覚ドM。乱れるときは乱れる 作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。 徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。 よろしくお願いいたします。

おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件

ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。 せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。 クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom × (自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。 『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。 (全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます) https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390 サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。 同人誌版と同じ表紙に差し替えました。 表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!

処理中です...