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最終章
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しおりを挟む朝、目が覚めたとき。
陽が隣で眠っていることが今もまだ信じられない。
「……光ってる…」
カーテンの隙間から差し込む朝日が陽の肌を照らしていて、きらきらと輝いている。枢の服をぎゅっと握りしめている陽のことが可愛くて、愛おしくて仕方がない。長いまつ毛が縁どる瞼を指先で撫でると、太陽を宿す温かい瞳が薄く開いた。
「どうしたの、枢……」
「……あなたのことを、愛してるなと思ってました」
「あはは、そうなんだ……あいしてるんだ、おれのこと…」
「うん……すごくすごく、愛してるんです。愛してるっていう言葉しか見つからないのが、悔しいくらい……」
「かわいいね、かなめ…おれにとっては、かなめの存在が"愛"だよ…」
「え?」
「おれの唯一のDomで、Subだから……こんな人、世界中探してもきっといないから……」
陽の細い指が枢の頬を撫でると、自分の瞳から涙がこぼれるのが分かる。陽は優しく笑いながら枢の瞳から伝う涙を拭って、唇に小さくキスをしてくれた。そんな陽の体温を全身で感じたくて、細い体をぎゅっと強く抱きしめると陽も背中に腕を回してくれる。たったそれだけのことが、こんなにも愛おしくて嬉しい。
「あなたにCollarを贈りたいです……」
Collarというのは、DomとSubの関係成立の証としてDomがSubに送る首輪のことだ。Subがこれをつけると精神的に安定するらしく、Playができない日が続いても多少は大丈夫らしい。Collarの始まりが首輪だったことから一般的には首輪を贈ると言われているが、自分たちがCollarであると認識しているものであれば、何でもいいのだとか。
「おれたち、二人ともCollarを贈らなくちゃね」
「うん……」
「どんなCollarがいい?」
「……ゆびわ、が…」
「ん?」
「指輪がいい、です」
職業柄、指輪なんてした日には恋人ができただの結婚しただの騒ぎになることは分かっている。でも、お互いに着けておけるものと言えば指輪くらいしかないなと思ったのだ。でも付き合いたてでもう指輪を贈りたいなんて重すぎることこの上ない。陽に引かれたかもしれないなと思っていると、枢の予想に反して陽は顔を真っ赤にして照れていた。
「い、いい、の……?」
「いいってなにが…?」
「う、疑われるかも、よ……」
「……疑われても困らないって言ったら、陽は困る?」
こつん、額をくっつけて陽に問うと、長いまつ毛が縁どる瞳がぱちぱちと瞬く。恥ずかしそうに目を伏せたあと、陽はふるふると首を横に振った。
「困らない……おれ、枢のパートナーだってみんなに言ってもいいくらい、枢のことが好き」
公表したらきっと釣り合わないとか、枢に陽はもったいないとか色々と言われそうだなと思うが、彼が選んでくれたのは星枢なのだ。そんな陽が『みんなに言ってもいい』と言ってくれるくらい自分は愛されているのだと、こればっかりは胸を張らざるを得ない。陽を愛しているのも、陽から愛されているのも、世界中探しても枢だけなのだから。
「じゃあ、一緒に選びに行こう。お揃いの指輪、買いに行こう?」
「うん……すごく楽しみ」
一度は捨てた恋だったけれど。
人の想いというものは、強ければ強いほど叶うものなのかもしれない。
それを教えてくれたのは、世界で一番最愛の人だった。
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