夜明けの使者【コミカライズ企画進行中!】

社菘

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最終章

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恋人になってからは、どちらかの家に帰って過ごすことが多くなった。大体は毎日交互にお互いの家に行っているので、今日は陽の家にお邪魔するつもりだ。でもその帰宅途中、ある人に捕まった陽は若干トラウマになっているカフェに連れてこられた。

「久しぶりだな、枢!」
「うん、久しぶり。元気そうだね、真夜くん」
「ぼちぼちかな~」
「また日暮先生と暮らし始めたんだって?」
「うん、一応……オレたちのことで二人の関係も搔き乱してたみたいでごめんな」
「そんな、全然…むしろそれがきっかけで俺たちも前に進めた気がするから」

真白が地元に帰ってきた原因である、同棲をしていた恋人の真夜。二人は一時期お互いの勘違いで別れていたが、真夜が真白を追いかけてきてくれたから二人はまた付き合うことになったと聞いていた。そして真夜が同じマンションに引っ越してきて、二人は同棲を始めたと。

ただ、真白からは要が初めて真夜と会った時はこのカフェで話していたので、枢に対していい印象がないのか(そりゃあ、自分のSub恋人が他のDomと会っていたらいい気はしない)二人はしばらく会っていなかった。真白はああ見えて独占欲がすごくて束縛が激しい人なのだなと、枢は意外に思ったものだ。

「真白から聞いたけど、陽さんと付き合い始めたんだって?」
「な、なんとか……まだ夢見てる気分だけど」
「本当に好きな人と付き合えた時ってそう思うよな。枢、本当に陽さんのこと好きなんだね」
「……正直、好きなんてもんじゃないよ」
「へ?」
「好きなんて言葉じゃ片付けられないくらい……愛してるよりも上の言葉があればいいのに」
「わぉ……熱烈じゃん。そんなに想われて陽さんは幸せもんだな」

どうしてこの世には『愛してる』以上の言葉がないのか。愛してるよりも愛してるのに、それをうまく伝えられないのがもどかしい。あまりにも言い過ぎたら薄っぺらく感じてしまうし、言葉というのは難しいんだなと最近はいつも思うのだ。それこそ、国語教師である陽に聞いてみたらいいのかもしれないが、彼に伝える言葉を陽自身に教えてもらうなんてなんとも情けないから聞けないのである。

「そういえば、真夜くんはこっちで何の仕事を?」
「MooNっていうブランドの店、知ってる?結構有名なブランドなんだけど。そこでデザイナーとして働いてるよ」
「デザイナーか、すごいな……ていうかそこ、知り合いの店なんだよ」
「マジで?慧至さん?」
「そうそう。俺の姉さんの恋人なんだよね」
「へぇ!じゃあ枢のお姉さんってDomなんだ?」
「うん。姉さんと真夜くんは似てると思う」
「それ慧至さんにも言われた!」
「やっぱり」

枢と真夜は正反対の性格だと思うのにどこか一緒にいて居心地がいいのは、姉の乙織と真夜が似ているからかもしれない。この人なら信頼できるな、というような安心感があるのだ。

「じゃあ今度3グループで飲み会しようよ!絶対楽しいじゃん!」
「まぁ、せっかくならそういう会を開くのもいいかもね」
「だろ!真白に話してみよーっと」

陽とこうなる前までは、極力人との関りを避けていた。もちろん乙織や慧至との交流はそこそこあったけれど、自分とは住む世界が違うような真白や真夜とこんな風に話せる日が来るなんて想像もしていなかった。それもこれも、陽を好きになったおかげだろう。彼が枢の世界を広げて、色んな景色を見せてくれるのは陽がいてくれるからだ。

「なんか、枢はDomなのにすごく話しやすい。昔からの友達みたいな感じ」
「……今度、聞いてほしいことがあるんだ。朝霧先生が許してくれたらだけど」
「もちろん。オレたちの間にもう気まずいとかないしな!なんせ大修羅場見た仲だし!」

Subの真夜と一緒にいて居心地がいいのは枢自身もSubになれるからかもしれない。だから慧至と話すのも安心するし、自分には『合っている』と思うことがある。陽が許してくれるなら、真夜や姉たちにはSwitchのことを話してもいいかな、と自分のダイナミクスを話してもいいかなと思えるような人たちに出会えたのは本当に幸福なことだろう。

「じゃあ、今度絶対飲み会!ドタキャンなしな!」
「分かったって」
「陽さんにも言っといて!じゃーなー!」

真夜は枢よりも上の階に住んでいるのでエレベーターで別れると、驚いたことに陽が枢の家の前に座り込んでいたのだ。

「えっ、朝霧先生!?」

枢が声をかけると彼はムスッとした顔で見上げ、拗ねたように枢の足に猫パンチをお見舞いしたきた。

「あいたっ」
「浮気だ。真夜くんと会ってたんだ」
「いや、違いますって!浮気とかじゃなくて、ただお茶してきただけ!」
「……家に帰るまで待て、って言われたから、まってたのに……」

昼休みの終わりに言ったことを陽は健気に守ってくれたらしい。
お風呂上りなのか大きめのTシャツに短パンを履いて、急いで髪の毛を乾かしたのかうなじがしっとりと濡れている。ボディソープの少し重めな匂いが枢の鼻をくすぐって、くらりと眩暈がした。

「………ご褒美あげなくちゃね、ヒナ」

そう言うと、陽の口元に笑みが浮かんだ。



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