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第12章
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しおりを挟むとろりと、文字通りとろけている陽を見て思わず舌なめずりをしてしまう。そして、そんな枢を見た陽の喉仏が上下するのが分かった。
「ヒナ、」
「ん……?」
「声、抑えてないと、ダメだよ?」
「え、なんで…」
「ぐったりしてるあなたにPlayをしてあげようと思ってた心優しい日暮先生と、あなたを心配してた真夜くんが部屋の前にいたのは覚えてる?……俺、玄関の鍵、かけてないかも」
低い声で耳にそう流し込むと、陽は下唇を噛んで頬を染める。もぞもぞと細い脚をすり合わせているのが分かって、無性に意地悪したくなった。陽の脚の間に自分の脚を割り入れて「〈Kiss〉」と呟くと、陽がごくりと唾を飲み込んでから、それはそれは小さく唇を重ねた。
「〈Good Boy〉。ヒナ、〈Strip〉」
「へぁ、え…?」
「上だけ。はだけさせるだけでもいいから」
仕事から帰ってきた直後だったからか、もちろん陽はまだ着替えていない。いつもの彼なら薄い素材のTシャツに短パンというスタイルだったり、緩いスウェットなどを着ているのが家の中では主流だが、今日はまだかっちりしたシャツとスラックスを身に着けている。
陽が震える手でシャツのボタンを外していくと、はだけた隙間から見えるミルクのような肌がイチゴ色に染まっていて、眩しい柔肌を目の前にした枢は見惚れてしまった。くっきり浮き出た鎖骨に、男性だからそれなりに太いのに細く見える首筋。そして、うっすら筋肉の筋が見える柔らかい下腹部。全て脱ぐのは恥ずかしいのか中途半端に脱いでいる陽の姿は逆にエロティックで、枢は再び舌なめずりした。
「……綺麗です、陽…」
「あんまり、じっくり見ないで……」
「見ますよ。好きな人の体ですから」
まだ少し不安そうにしているので、押し倒すことはせず片腕で陽を抱きしめたまま肌に触れていく。先日、欲望のままにこの体中にキスをして、噛んで、彼を気持ちよくさせたのがもう懐かしい。あの時の自分は多分、Sub Spaceに入っていた気がする。目の前にいるDomを気持ちよくさせたくて、夢中になっていた。ギリギリで正気を保っていたが、あれも一種のSub Spaceだろう。
「……この前この体に、俺の痕をたくさん残したと思ったけど…」
「んん、」
「仕事のことを考えて甘く噛んでたから、やっぱり痕は残らないか……」
「枢……?」
「あなたを閉じ込められたら、好きにできるのに」
宝箱に大切に大切にしまうだけじゃダメだ。この人は自分のSubで、Domで、恋人なのだから、自分の中に閉じ込めておかないと。一日中ベッドの上で生活させて、気が済むまでPlayをして、愛し合うだけの甘い日々を陽と送りたい。
でも『ただの人間』の星枢の理性はしっかり残っていて、陽から笑顔を奪えないと訴えている。あぁ、なんて自分は出来た人間だろうか。枢は何よりも陽が笑っている顔が好きなのだ。同僚の先生たちや生徒からも慕われていて、いつも誰かに囲まれて中心で笑っている陽の居場所は奪えないと辛うじて残っている枢の理性が言っている。だからこそ誰かに、Domに褒めてもらわないと、やってられない。
「……枢の腕の中には、閉じ込めてて…おれはこれからずっと、枢のものだから」
「ひな、た……」
「おねがい、枢…〈Touch〉、いまのおれにコマンドの意味はないけど、どうしても、触ってほしい……っ」
――玄関の鍵、本当に閉め忘れたっけ、な?
もし陽を心配して様子を見に来た真白に見られたとしても、今ばかりはもう止まれない。いや、止まるつもりもないのだけれど。
「……愛してる、陽。あなたの全部を俺にください」
陽からの返事を待たずにキスをして口を塞ぐと、陽の腕が首に巻きついてくる。まるで体が溶け合って一つになってしまいそうなほど深く抱きしめて、快楽の海に身を投げた。
そうして夜明けを迎えたとき。
この腕の中に陽がいることを、強く願った。
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