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第12章
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しおりを挟むPlayの最中ではない時に枢の気持ちを伝えたのだから陽の抱えていた悩みは解決かなと思い、彼の細い顎を掬う。そのままキスをしようと顔を近づけると、ぐぐぐっと陽の手に押し返された。
「ストップ!ちょ、ちょっと待った!」
「なんれすか、いま朝霧先生はDomじゃないのに」
「いやっ、その…このキスの意味が、わかんない……」
ご褒美ってわけじゃないでしょ?と首を捻る陽に、正直呆れた。
枢とPlayをするたびに万が一のことを考えて受け入れる場所を綺麗にしていたと言うのに、セーフワードが『愛してる』なんてひどいことを考えるような人なのに、この話をした後のキスの意味が分からないなんて、冗談も程々にしてほしい。これでよく今まで、騙されてパートナー契約を結ばれたり、最初の相手であるDomの真白から最後まで犯されなかったなと逆に感心してしまった。
「……朝霧先生と同じで、俺もあなたを愛してるんですよ。だからこれは、恋人同士のキスです」
陽が何か言いかけたが、それよりも先に唇を重ねた。もう何も言わせまいと、ぬるりと舌を差し込んで、くちゅくちゅと音を立てながら熱い口内を犯す。陽は上顎を擦られるのが弱くて、キスの最後に舌先を吸われるのが好き。とろとろの唾液が混ざり合って甘い媚薬に変わり、熱を含んだ吐息がお互いの肌に触れた。
「……朝霧先生は、面倒くさいって言ってたけど…俺は、パートナーは恋人と同じだと思ってます…」
「ん……、そっか…。だからあの時、おれたちの関係がどうなるのか聞いたんですね……」
「同じ職場の同僚で、年下で、朝霧先生みたいに友達も多くない陰キャだけど……でも、俺、あなたを傷つけないって約束します。俺は朝霧先生が…陽じゃないと……っ」
Playをして満たされて、安心して眠れたのは、陽と最初にPlayをしたあの夜が初めてだった。
枢がダイナミクスの診断をして自分がDomだと分かった時は、すでにこの恋を諦めてしまっていた。この恋を捨てたあと、新しい相手を探そうなんて思ったこともない。この恋がなくなったあとはこのまま死ぬまで一人で生きていくのだろうと、そう思っていた。どうせ薬で抑えられるほどの欲望だろうと甘く見ていたのだ。でも、大人になるにつれて、欲望は顔を出しては消える頻度が多くなった。教師になってからは忙しい生活も相まって、深い眠りについたことがなかったのだ。
でも、陽とPlayをして初めて、気絶するように朝まで眠っていた。しかも、腕の中に陽がいたときは、彼の体温を感じて安心したものだ。運命なんてないと思うけれど、枢はきっと陽のDomでありSubとして生まれてきたに違いない。そんな夢物語のようなことを言うくらい、陽には『運命』を感じているし、そうじゃないと困る。
「愛してるんです、愛してる……今まで誰にもこんな気持ちになったことないし、言ったこともありません。朝霧先生だけなんです。俺の心を動かしたのは、あなたなんです…あなたがいないと、俺は一人じゃ眠れない…一人じゃ、夜を明かせない……」
一人じゃ眠れないなんてまるで子供みたいだが、事実なのだ。実際、陽に避けられていたこの期間、一人で眠るのはとても辛かった。陽を抱きしめて眠るのに慣れてしまった体は、彼の代わりにクッションを抱いて眠ったものだ。
学校で陽の気配を感じていても、満たされなかった。毎日職場で会っているのに触れないし、彼の笑顔を独占できない。生徒や教師みんなに笑いかけている唇を奪って、とろとろに甘やかしたいのに、それができない。陽に避けられてからずっと、胸が張り裂けそうな思いを抱えていた。
「そ、そんな可愛いこと言って、ずるいです、星先生……」
「ずるい?」
「そんなこと言われたら、胸がいっぱいになって、苦しくなる…」
赤くなった顔を腕で隠している陽の姿に、どくんっと心臓が大きく跳ねる。
いじらしいそんな姿を可愛いと思う自分と、陽の心を暴いてどう思っているのか言わせたいという意地悪な思いがせめぎ合っている。今すぐコマンドを出して正直な気持ちを話してほしいのをぐっと堪え、枢は優しく陽を抱きしめた。
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