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第12章
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しおりを挟むふわふわと蕩けている陽が言った『愛してる』が、セーフワードではないことくらい分かっていた。でも、あれをセーフワードと認識して止まらないと、止まれなかったと思う。
『下着の上から触るだけ』と言って戸惑う彼に懇願したけれど、嬉しい誤算があり陽が途中でSwitchをしてくれたので、あのままだとDomとして『服を脱げ』と命令していたに違いない。
陽の『Dom』として、正直に言うと彼の過去にとてつもなく嫉妬した。
陽と真白の過去がたとえ一度きりのPlayだったとしても、陽の初めてのPlayの相手だと思うと明日から学校でまともに顔を見られそうにない。真白は陽や枢のように担当科目を担っているわけではないのであまり会うことはないのだが、少しは意識してしまう自信がある。
だからこそ、陽をDomだと思い込んでいた過去の自分を殴って、目を覚まさせたい。お前のすぐ近くにお前を欲しているSubがいるのだと教えられたら、枢が最初で最後のパートナーになれたのに。まぁ、過去の自分に陽がSubだと教えても、信じないだろうけれど。
陽からの『愛してる』に枢も同じ気持ちだと返したのだが、彼はSub Spaceに入っていたので聞こえていなかったかもしれない。それにしても、だ。なぜあれ以来、陽に避けられているのだろうか。
「………星先生、ちょっといいですか?」
「え?あ、はい……」
学校ではあまり関りがないと思っていた真白にあれから数日後に呼び出された枢は、緊張しながら真白を自分の家に迎え入れた。
「……とりあえず、この前のことは真夜から事情を聞きました」
「その節はちゃんと説明していなくてすみません……」
「いえ……俺もあの時は取り乱してすみませんでした」
真白のパートナーで同棲していた恋人だったという真夜と二人でカフェで会っているのを見られた時、真白はGlareを出して枢から真夜を守ろうとしていた。真夜からフラれたのを真に受けて別れたと言っていたが、やはり真白には未練があったのだろう。二人はきっと上手くいっただろうなと勝手に思っているが、こちらはあれ以来陽に避けられているのである。
「真夜とは和解して…復縁することになりました」
「それはよかったです。真夜くん……月影さんも日暮先生のことを好きなんだなって、短時間話していただけでも分かりましたから」
「いいですよ、真夜で。同い年なんですよね?」
「……はい、すみません。ありがとうございます」
「いや……謝らないといけないのは俺のほうです」
「え?」
真白が気まずそうな顔をして枢に向かって頭を下げる。真夜と会っていたことに関しては既に謝ってもらったし、他に何を謝られることがあるのだろうか?
「この前、星先生と食事をした時なんですけど」
「はい?」
「あの時、陽がものすごく具合悪そうに見えて……またPlayをしてやるって、パートナーになってもいいって言ってしまったんです」
「そう、ですか……」
「その時に陽から星先生との関係を聞いて、バカなこと言ったなと反省したんです。でも星先生、そのあと陽を避けてましたよね…?」
「……実は、その時の会話を聞いていたんです。だから俺にはきっともう望みはないんだろうなと思って、ですね……」
「勘違いさせるようなことをしてすみません。確かに真夜と別れてからパートナーもいなかったので、陽なら幼馴染だしパートナーになってもいいかなと思ってしまって……軽率でした」
「いえ……俺のほうこそ、日暮先生と朝霧先生は本当は好き同士なんだろうなと思っていたので…」
あの時のことを思い返してみても、二人が片想い同士に見えたのは今でも変わらない印象だ。だからこそ焦ったし、今でも若干疑っているところはある。でも真白が真夜と復縁したと言うので、陽に対しての気持ちは本当にないのだろう。
「もう勘違いさせたくないので言うんですけど、本当に陽を恋愛対象とか性的な対象として見たことは一度もありません。ただの幼馴染で、本当の兄弟のような存在なんです。陽が死んでしまうかと思って助けた……それだけなんです」
「それは、はい……朝霧先生からもちゃんと聞きました。ありがとうございます」
「で、ついでに聞きたいんですが……陽と星先生、付き合いました、よね?」
「え?」
「正式にパートナー兼恋人として付き合い始めました…?」
真白が本当は何を聞きたいのか、枢も分かっている。
きっと陽が枢を避けていることに真白も気が付いているのだろう。ただ、枢にだって何が何だか分からないのだ。陽はあの夜以来枢を避けていて、Playに誘うメッセージへの返信もこない。やはり、あの夜はやりすぎただろうか。陽は陽でDomとしての凶暴な支配欲が止まらなかったようだが、枢もそんな彼を前にすると、欲望が溢れ出てきてしまったのだ。陽をめちゃくちゃにしたい、自分のものにしたい、命令したい、命令されたい――。
そもそも枢のDomとしての欲求はSubを『甘やかしたい』だったのに、話が違うと怒っているのだろうか。でも、陽に対しては意地悪をしたいし、体に触れたいという気持ちがあるのだと正直に話していたはずなのに。
Playの誘いを断られたっていいのだが、陽に避けられるようになってからは一人きりの家に帰っても眠れないのだ。まるで、パートナーがいなかった時期に寝不足になっていたように、また少しばかりストレスを抱えている。ただ、学校に出勤するとまだマシなのは、陽がいると感じられるからだ。学校のどこかに彼がいると感じられるだけで、それだけよかった、が――。
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