55 / 70
第11章
3
しおりを挟む「……もう一回言って?」
「なにを?」
「おれのこと、どう思ってるか……」
コマンドを使うこともできたけれど、なんとなくコマンドで言われる『本音』は『本音』じゃないと感じる。コマンドを出されると自分の心を開示される気分だが、コマンドを介さない言葉こそがやはり『本音』だと思うのだ。
そんな思いで陽が枢に『好き』という言葉をねだると、彼は少し恥ずかしそうに笑った。
「好きです、朝霧先生。高校生の頃に初めて見た時から……あの渡り廊下でぶつかった時から好きだったんです。好きで、好きで……愛してます」
枢からの言葉に目頭が熱くなるのを感じた。
なんせこの言葉を聞くまでに5年以上の月日がかかったのだ。陽も枢もこの間に色んなことを考えてはこの想いを捨てたり、もう叶わない恋だと諦めていたのに。神様や運命なんて信じたことはなかったけれど案外捨てたもんじゃないなと、枢と再会してから思ったものだ。
「おれも愛してる……いつの間にかこの"好き"が大きくなってて、どうしようもなかった。だから…SubのおれもDomのおれも枢のことを愛して、いっぱいにしてほしかった」
「……嬉しいです。Switchできるのは驚いたけど、自分の全てを余すことなくあなたに渡せるなら本望です」
「うれしい、枢。おれのことをもっと満たして……」
「朝霧先生がコマンドを出すのは俺が初めてですか?……でも、Switchできるって分かってたなら、誰かにコマンドを出したことがあるってことですよね」
「正式なコマンドではなくて……病院でたまたまSwitchの話を先生から聞いて、何気なくコマンドを口にしてみたんです。そしたら近くにいたSubが反応してしまって……それで自分がSwitchできる体質なんだって分かったんです」
「はぁ、よかった……それならやっと、俺が朝霧先生の"初めて"なんだ…」
そう呟いた枢から噛みつかれるようなキスをされる。これ以上は会話をしている時間が無駄だと言うように口を塞がれ、窒息してしまいそうなほどの唾液を流し込まれると、頭がふわふわしてきた。
少しだけ目を開けると枢が愛おしそうに陽を見つめていているので、枢の頭を優しく撫でた。ゆっくり頭を撫でている陽の手にすり寄ってくる枢は「好きです……」と言いながら、また甘いキスを落とす。とろとろに甘いキスを繰り返しながら、再び彼の熱い指が肌に触れた。
「……っは、ヒナ…かわいい、可愛いですね…」
「かなめ、も、さわんないで……へんになる……っ」
「ふふ。セーフワード言えないの、可哀想。やめてほしいならコマンドを使わないと。そしたら俺は命令を聞くよ?今はあなたの"Sub"なんだから」
「うぅ、やだ、〈More〉……」
「もっと?命令されるより、自分を気持ちよくさせる命令するほうが恥ずかしいでしょ、ヒナ。その証拠に……肌、真っ赤だね」
「んぁ……っ!」
今は陽がDomのはずだが、完全に枢に手綱を握られている。
首筋の薄い皮膚を噛まれるとそのまま食いちぎられるんじゃないかと思って、びくりと体を震わせた。そんな陽の様子に気をよくした枢は小さく笑って、舌なめずりしている。曖昧なコマンドしか出していないから、枢に体を好き勝手に触られているのだ。
でも、それを止める術を知らない。
『Stop』なんてコマンドを言えるわけがなかった。
77
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説

「じゃあ、別れるか」
万年青二三歳
BL
三十路を過ぎて未だ恋愛経験なし。平凡な御器谷の生活はひとまわり年下の優秀な部下、黒瀬によって破壊される。勤務中のキス、気を失うほどの快楽、甘やかされる週末。もう離れられない、と御器谷は自覚するが、一時の怒りで「じゃあ、別れるか」と言ってしまう。自分を甘やかし、望むことしかしない部下は別れを選ぶのだろうか。
期待の若手×中間管理職。年齢は一回り違い。年の差ラブ。
ケンカップル好きへ捧げます。
ムーンライトノベルズより転載(「多分、じゃない」より改題)。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」



顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け!
小池 月
BL
男性オメガの「本田ルカ」は中学三年のときにアルファにうなじを噛まれた。性的暴行はされていなかったが、通り魔的犯行により知らない相手と番になってしまった。
それからルカは、孤独な発情期を耐えて過ごすことになる。
ルカは十九歳でオメガモデルにスカウトされる。順調にモデルとして活動する中、仕事で出会った俳優の男性アルファ「神宮寺蓮」がルカの番相手と判明する。
ルカは蓮が許せないがオメガの本能は蓮を欲する。そんな相反する思いに悩むルカ。そのルカの苦しみを理解してくれていた周囲の裏切りが発覚し、ルカは誰を信じていいのか混乱してーー。
★バース性に苦しみながら前を向くルカと、ルカに惹かれることで変わっていく蓮のオメガバースBL★
性描写のある話には※印をつけます。第12回BL大賞に参加作品です。読んでいただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします(^^♪
11月27日完結しました✨✨
ありがとうございました☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる