夜明けの使者

社菘

文字の大きさ
上 下
53 / 70
第11章

しおりを挟む



二人分の荒い息遣い。
フェロモンか香水か何かが漂っているのかというくらい、芳醇な香りが鼻をくすぐるのは気のせいだろうか。リビングから寝室に移動して、ベッドの上でもうどのくらいの時間、彼から体に触れているのかもう分からない。

「……俺になんてコマンドを出したいの?」
「〈Touch触って〉〈Kissキスして〉枢……っ」
「…DomになってもM気質なのはそのままなんだね、ヒナ」
「いじわる、いわないで……」

DomになってもSubに対して『キスをして』『体に触って』とコマンドを出す自分は、やっぱり枢の言うようにM気質なのだろうか。でも、自分の言ったコマンドを枢が実行してくれることに、胸がいっぱいになる。もっともっと、この小さな胸を枢でいっぱいにしてほしい。でも彼の心も陽でいっぱいになってくれないと、満たされない。

「ねぇ、褒めて、ヒナ。ヒナの言う通り、キスもいっぱいして、体もたくさん触ってるよ。いい子だねって、Good Boyって言って褒めてくれないと、噛みついちゃうかもよ……?」
「あっ、かなめ…〈Good Boyよくできました〉…、いいこだね、ありがとう枢…」
「うん、」

コマンドを実行できたご褒美として陽が枢にねだったのはキスだったが、彼は頭を撫でられるのがいいらしい。陽が震える手で枢の顎を撫でると、彼はうっとりした瞳の中に赤色のハートを宿していた。そんな瞳を見ると、支配欲が満たされていく。今の枢は自分のSubなのだなと、ほっとしたのだ。

「〈Kissキスして〉…ほしい、かなめ……」
「……そんなにキスが好きなの?」
「うん……ずっと枢としたかった、から…」
「いつから?」
「高校生のとき、から……」
「え?」

陽がなぜSwicthをできるのか、お互いに愛してると言い合ったのに詳細な話もしないまま、息を奪うような枢からのキスを皮切りにPlayが始まってしまったのだ。だからいつから陽が枢を好きだったとか、まだ枢が聞きたい真白のことなどがあるかもしれないのに、枢から与えられる久しぶりの熱に思うように話せないでいる。

「ぶつかった時から、枢がDomだっていうのが分かってた……」
「でも、あの時はまだダイナミクスの診断はしてなかったのに…」
「目が…星が浮かんでるような夜の瞳を見た時に、そうなのかもって本能的に思ってたから……」
「そうだったんだ……」
「……それからずっと、おれは枢のことを好きだった」

ずっと言えなかったこの言葉。
パートナーとして枢と関係を持つときに、パートナーになったら自動的に恋人になるのか、と聞いた彼の言葉を否定したのは陽自身だった。あの時は枢の負担になりたくなくてそう言ったのだが、最初にきちんと話をしていたら、ここまでこじれなかったかもしれない。

でも、怖かったのだ。
Switchをできる体質だと話すのも、真白とPlayをしたことがあると話すのも、話したこともない高校時代に一度ぶつかっただけの枢をずっと好きだったと知られることも。

『好き』だと口にして、もしもこのパートナー関係に終わりがきてしまったら、また夜明けが来ない深い夜を彷徨う日々に逆戻りしてしまうと恐れたのだ。でもそんな陽の暗い夜に、きらりと輝く星が現れた。こっちだよと道を教えてくれるような、綺麗な星。それが枢だったのだ。道に迷ったら星を目印に進めばいいと言われているけれど、枢との関係が終わってしまったら自分の歩く道が分からなくなると感じた。

でも怖がっているだけではダメなのだと、言わないと進めない道もあるのだと、枢が真夜と一緒にいるのを見て思ったのである。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

無理やりお仕置きされちゃうsubの話(短編集)

みたらし団子
BL
Dom/subユニバース ★が多くなるほどえろ重視の作品になっていきます。 ぼちぼち更新

不器用Subが甘やかしDomにとろとろにされるまで

もものみ
BL
【Dom/Subの創作BL小説です】 R-18描写があります。 地雷の方はお気をつけて。 タイトルがあらすじみたいなものです。 以下にあらすじを載せておきます。もっと短く内容を知りたい方は一番下までスクロールしてください。  Sub性のサラリーマン、葵(あおい)はある日会社の健康診断に引っかかってしまい病院を訪れる。そこで医師から告げられた診断は『ダイナミクス関連のホルモンバランスの乱れ』。医師からはパートナーを作ることを勧められた。葵はここのところプレイを疎かにしており確かに無視できない体調不良を感じていた。  しかし葵は過去にトラウマがあり、今はとてもパートナーを作るような気分にはなれなかった。そこで葵が利用したのがDomとSub専用のマッチングアプリ。葵は仕方なしにマッチングアプリに書き込む。 『27歳、男性、Sub。男女どちらでもかまいません、Domの方とプレイ希望です。』  完結なメッセージ。葵は体調さえ改善できれば何だってよかった。そんかメッセージに反応した一件のリプライ。 『28歳、男性、Dom よろしければ△△時に〇〇ホテル×××号室で会いませんか?』  葵はそのメッセージの相手に会いに行くことにした。指定された高級ホテルに行ってみると、そこにいたのは長身で甘い顔立ちの男性だった。男は葵を歓迎し、プレイについて丁寧に確認し、プレイに入る。そこで葵を待っていたのは、甘い、甘い、葵の知らない、行為だった。 ーーーーーーーーー マッチングアプリでの出会いをきっかけに、過去にトラウマのある不器用で甘え下手なSubが、Subを甘やかすのが大好きな包容力のあるDomにとろとろに甘やかされることになるお話です。 溺愛ものがお好きな方は是非読んでみてください。

淫らに壊れる颯太の日常~オフィス調教の性的刺激は蜜の味~

あいだ啓壱(渡辺河童)
BL
~癖になる刺激~の一部として掲載しておりましたが、癖になる刺激の純(痴漢)を今後連載していこうと思うので、別枠として掲載しました。 ※R-18作品です。 モブ攻め/快楽堕ち/乳首責め/陰嚢責め/陰茎責め/アナル責め/言葉責め/鈴口責め/3P、等の表現がございます。ご注意ください。

男の子たちの変態的な日常

M
BL
主人公の男の子が変態的な目に遭ったり、凌辱されたり、攻められたりするお話です。とにかくHな話が読みたい方向け。 ※この作品はムーンライトノベルズにも掲載しています。

【R指定BL】下剋上な関係を集めた短編集

あかさたな!
BL
◆いきなりオトナな内容に入るのでご注意ください◆ 全話独立してます! 年下攻めや下剋上な関係の短編集です 【生徒会長になってた幼馴染による唇攻め】【弟からの指による快感で服従してしまった兄】【sub/dom世界の勇者と魔王】【VRゲームが進化した先にスライムに負ける受けがいてもいい】【脳イキさせる大学の後輩】【両片思いが実った】【むしろ胸を開発されてしまう話】【嫉妬を抑えれない幼いご主人様】【悪魔に執着してしまう腹黒神父様】【ただただ甘々なオメガバース世界のお話】【キス魔な先生を堪能する双子】 2022/02/15をもって、こちらの短編集は完結とさせていただきます。 ありがとうございました。 ーーーーーーーーーーー 感想やリクエスト いつもありがとうございます! 完結済みの短編集 【年下攻め/年上受け】 【溺愛攻め】 はプロフィールから読めます!

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...