夜明けの使者【コミカライズ企画進行中!】

社菘

文字の大きさ
上 下
51 / 70
第10章

しおりを挟む



いつの間にか枢の中で陽の存在が大きくなっていて、太陽を隠してしまう夜も怖くなくなっていた。そんな風に陽への『好き』が『愛している』に変わっていたから、真白とのことは過去だと分かっていても、この黒い気持ちが抑えられないのだ。

ご褒美のキス・・・・・・は、日暮先生に仕込まれたんですか……?」
「え?」
「日暮先生とのPlayでも、ご褒美はキスだったんですか?」
「ほ、ほしせんせ……!」

ぼふり、ソファに陽を押し倒す。身構えていなかった陽は簡単に枢に組み敷かれてしまって、突然のことに彼の瞳が困惑で揺れていた。

「日暮先生とのキスが、忘れられなかったとかですか?」
「そ、んなことしてない!真白からのご褒美もキスじゃなくてただ頭を撫でられただけで……!」
「じゃあどうして俺からのご褒美は"キス"なんですか?誘い慣れてましたよね、朝霧先生。ご褒美がキスで、セーフワードは愛してるって……ただ俺をからかってるだけですか?朝霧先生にとって、年下の俺はそんな純粋に見えました?そうですよね。騙しやすそうですよね、俺。高校生の時の俺を知ってたなら尚更……」
「ちがう、ちがうんです星先生!ご褒美もコマンドも、"星先生"ならって思って考えたから――っ」
「だから、それが悪趣味だって言ってるんです!俺がどれだけ、どれほど、あなたを好きなのか分かってて言ってるんですか!?」

押し倒している陽の顔にぽたりと雫が落ちる。20歳を超えた男が、好きな人に告白をして泣くなんてバカらしい。子供の頃に抱いたこの恋心を、何年も持ちすぎたからだろう。一度は捨てた恋だと意地を張ってみても、完全に捨てられなかったのだ。頭の片隅に、心の片隅に、ずっと陽がいたのは自分でも分かっていたから。

だからこそ、陽自身に『好き』だと言うのが、怖かった。

この一言で、パートナーとしての終わりがきてしまうと思っていたから。

「……すみません、朝霧先生…俺もう、頭の中がぐちゃぐちゃで…」
「星先生……」
「あなたのことを好きすぎて、愛していて、苦しいんです。この気持ちを捨ててしまいたいくらい、苦しいんです……」

今度は自分の瞳から涙がぼろぼろ零れてきて、手の甲で乱暴に拭った。陽には本当に情けないところしか見せていないし、恥ずかしい。Domのくせに威厳も何もないと呆れられて捨てられても、何も文句は言えないだろう。だからもう、パートナーを解消される覚悟で言葉を振り絞り、涙を流すしかなかった。

「………ごめんなさい、星先生」
「え……?」
「苦しませてごめんなさい……でも、おれも苦しいんです」

泣いている枢の頭を優しく撫でる陽の顔を見ると、彼もまた泣きそうな顔をしていた。枢の目尻から溢れる涙を拭う陽は、そのまま両手で枢の頬を包み込む。柔らかい唇が額に押し付けられると、場違いなのにもかかわらず枢の中にじわりと温かい何かが広がった。

「今まで言えなくて、本当にごめんなさい」
「なに、を……」
「おれも相当悩みました。すごくすごく悩んで、ダメだって思ったけど、でもこの気持ちが大きくなっていって…」
「朝霧先生……?」
「おねがい、枢……」

陽の手が、火傷しそうなほど熱い。頬を固定されたまま、なぜか陽から視線を外せなくて彼の目をじっと見つめていると、なんだか陽の目の色が変わった気がした。

「おれにも……枢を〈Switch支配させて〉」
「え――?」

どくんっ。
心臓が大きく脈打って、息が苦しくて、なんだか視界も霞んできた気がする。心臓が痛い、苦しい、苦しい――

「怖がらないで、枢……おねがい、おれのことを受け入れて……」

体の中も頭の中も痛くて苦しいのに、目の前にいる陽のことだけはハッキリと『Dom』として枢は認識していた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

「じゃあ、別れるか」

万年青二三歳
BL
 三十路を過ぎて未だ恋愛経験なし。平凡な御器谷の生活はひとまわり年下の優秀な部下、黒瀬によって破壊される。勤務中のキス、気を失うほどの快楽、甘やかされる週末。もう離れられない、と御器谷は自覚するが、一時の怒りで「じゃあ、別れるか」と言ってしまう。自分を甘やかし、望むことしかしない部下は別れを選ぶのだろうか。  期待の若手×中間管理職。年齢は一回り違い。年の差ラブ。  ケンカップル好きへ捧げます。  ムーンライトノベルズより転載(「多分、じゃない」より改題)。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...