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第10章
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しおりを挟むいつの間にか枢の中で陽の存在が大きくなっていて、太陽を隠してしまう夜も怖くなくなっていた。そんな風に陽への『好き』が『愛している』に変わっていたから、真白とのことは過去だと分かっていても、この黒い気持ちが抑えられないのだ。
「ご褒美のキスは、日暮先生に仕込まれたんですか……?」
「え?」
「日暮先生とのPlayでも、ご褒美はキスだったんですか?」
「ほ、ほしせんせ……!」
ぼふり、ソファに陽を押し倒す。身構えていなかった陽は簡単に枢に組み敷かれてしまって、突然のことに彼の瞳が困惑で揺れていた。
「日暮先生とのキスが、忘れられなかったとかですか?」
「そ、んなことしてない!真白からのご褒美もキスじゃなくてただ頭を撫でられただけで……!」
「じゃあどうして俺からのご褒美は"キス"なんですか?誘い慣れてましたよね、朝霧先生。ご褒美がキスで、セーフワードは愛してるって……ただ俺をからかってるだけですか?朝霧先生にとって、年下の俺はそんな純粋に見えました?そうですよね。騙しやすそうですよね、俺。高校生の時の俺を知ってたなら尚更……」
「ちがう、ちがうんです星先生!ご褒美もコマンドも、"星先生"ならって思って考えたから――っ」
「だから、それが悪趣味だって言ってるんです!俺がどれだけ、どれほど、あなたを好きなのか分かってて言ってるんですか!?」
押し倒している陽の顔にぽたりと雫が落ちる。20歳を超えた男が、好きな人に告白をして泣くなんてバカらしい。子供の頃に抱いたこの恋心を、何年も持ちすぎたからだろう。一度は捨てた恋だと意地を張ってみても、完全に捨てられなかったのだ。頭の片隅に、心の片隅に、ずっと陽がいたのは自分でも分かっていたから。
だからこそ、陽自身に『好き』だと言うのが、怖かった。
この一言で、パートナーとしての終わりがきてしまうと思っていたから。
「……すみません、朝霧先生…俺もう、頭の中がぐちゃぐちゃで…」
「星先生……」
「あなたのことを好きすぎて、愛していて、苦しいんです。この気持ちを捨ててしまいたいくらい、苦しいんです……」
今度は自分の瞳から涙がぼろぼろ零れてきて、手の甲で乱暴に拭った。陽には本当に情けないところしか見せていないし、恥ずかしい。Domのくせに威厳も何もないと呆れられて捨てられても、何も文句は言えないだろう。だからもう、パートナーを解消される覚悟で言葉を振り絞り、涙を流すしかなかった。
「………ごめんなさい、星先生」
「え……?」
「苦しませてごめんなさい……でも、おれも苦しいんです」
泣いている枢の頭を優しく撫でる陽の顔を見ると、彼もまた泣きそうな顔をしていた。枢の目尻から溢れる涙を拭う陽は、そのまま両手で枢の頬を包み込む。柔らかい唇が額に押し付けられると、場違いなのにもかかわらず枢の中にじわりと温かい何かが広がった。
「今まで言えなくて、本当にごめんなさい」
「なに、を……」
「おれも相当悩みました。すごくすごく悩んで、ダメだって思ったけど、でもこの気持ちが大きくなっていって…」
「朝霧先生……?」
「おねがい、枢……」
陽の手が、火傷しそうなほど熱い。頬を固定されたまま、なぜか陽から視線を外せなくて彼の目をじっと見つめていると、なんだか陽の目の色が変わった気がした。
「おれにも……枢を〈Switch〉」
「え――?」
どくんっ。
心臓が大きく脈打って、息が苦しくて、なんだか視界も霞んできた気がする。心臓が痛い、苦しい、苦しい――
「怖がらないで、枢……おねがい、おれのことを受け入れて……」
体の中も頭の中も痛くて苦しいのに、目の前にいる陽のことだけはハッキリと『Dom』として枢は認識していた。
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