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第10章
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しおりを挟むなんだか久しぶりに陽と二人きりになった。二人きりになるのも慣れてきていたのだが、間が空いたのでまた少し気まずい。距離感が分からないと言うか、いつもどうしていたっけ?と陽と手を繋いだままソファに座って思い出していた。
「………どうして真夜くんと一緒に?」
「え?あ、えっと…俺が帰ってきたらマンションの下にいたんです。それで、日暮先生の写真見せられて、この人知ってますかって…俺が同僚だと分かったので、話がしたいと言われてあのカフェに…」
「そうなんですね……」
「日暮先生と朝霧先生が付き合っているのかどうか知りたかったみたいです。俺には分からないって言いました」
二人が喧嘩していた時の内容から、かつて陽と真白がPlayをした経験があるのは分かった。ただ、問題はその内容だ。枢としているような軽いPlay内容ではなく、過激なことまでしていたら?陽の言う『ご褒美のキス』を真白にもねだっていたとしたら?二人は本当にお互いに未練が残っていないのか?
聞きたいけど聞けないことをぐるぐる頭の中で考えていると、繋いでいた手がくんっと引っ張られた。
「星先生が聞きたいこと、全部答えます」
覚悟を決めた顔の陽がそう言ってくれたので、聞きたいことは全部質問して答えてもらおう。きっと今このモヤモヤを解消しておかないと、これからの陽との関係に大きく影響するような予感がした。
「……日暮先生とパートナーだった時期があるんですか?」
「ううん、パートナー関係ではなかった。一度だけ……大学生の頃、教育実習とか勉強とかに忙しくて抑制剤をもらうのを忘れていたことがあって…でも誰ともPlayをしたくなくて、ずっと我慢して、我慢して、寝込んじゃったんです。それを心配した真白が、その時一度だけ相手をしてくれました」
「Playの内容は……?」
「……目隠しをして、Come、Kneelとか…そういう軽いやつだけ。」
「は、目隠しってそういう……」
先日、あまりにも感情が昂って陽に目隠しをするいじわるをした時があった。その時の彼は視界を奪われたこと、目の前にいる相手が枢かどうか分からないことに不安と恐怖を抱いて、セーフワードを言われたので終わりにしたあの日のことを思い出す。
その時の陽が話してくれたのは、過去に一瞬だけPlayをした時に目隠しをして、嫌な気持ちになってSub Dropをしたと言っていた。その相手が真白だったのかと思うと、二人が喧嘩した時に話していた『陽が避け始めた』とか『気まずくなるのは分かってただろ』という言葉の意味も理解できる。
きっと不可抗力だとは思うけれど、陽が目隠しをした姿を、真白は世界で一番最初に見たのか。陽の初めてのPlayの相手はどう転んでも真白で、彼のコマンドによって陽は救われたのだろう。仕方のない状況だったのは理解する。理解はするけれど、それを受け入れられるかは別の話で。
「……星先生、唇噛まないで。傷になるから…。なんでも話すから、だからお願いです、我慢しないで……」
無意識に唇を噛んでいた枢の頬に手を添えて、陽の柔らかい声が『我慢しないで』と言ってくれる。陽を怖がらせたくないのに、もしSub Dropされたら生きていけないほど落ち込むことは分かっているのに、枢の中で『陽は自分のSubだ』と思う黒い気持ちがじわじわと心の中を侵食していく。陽という明るい太陽を、深い夜の闇が覆ってしまうようだった。
――また、眠れない夜に戻ってしまうかもしれない。一度眠ってしまったら夜明けがこないと思うような深い夜に飲みこまれて、不安だけが渦巻くあの日々に戻ってしまうかもしれない。
でも、変われると思ったのは。
陽は枢にとって、夜明けを信じさせてくれる人だったからだ。
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