夜明けの使者

社菘

文字の大きさ
上 下
48 / 70
第10章

しおりを挟む


Domである真白の恋人でありパートナーだった真夜はSubなのだろうけれど、驚くことに一緒にいても、手を握っても何も感じない。この人に何かコマンドを出してみたいという感情は一切湧いてこなくて、やはり自分の陽への感情が特別なのだなと実感した。

「それで、真白と朝霧陽のことなんだけど……枢はなにか聞いてない?」
「俺は、特には……。でも日暮先生がほぼ毎日朝霧先生の部屋でご飯を食べてる、っぽい…?」
「……ふーん、そっか」
「陽チャージ期間とかなんとか……」
「ふーん、陽チャージ期間ねぇ…」
「月影さんは未練がましくここに来たって言ってましたけど、日暮先生と復縁したいんですか?」
「同い年なんだし敬語もやめてよ。真夜って呼んでいいから。えーっと、復縁…復縁ね……」

最初に頼んでいた冷めたコーヒーを枢が一口飲むと、真夜も手を付けていなかったカフェラテを一口飲む。カップの縁を指で撫でながら目を伏せる彼は、陽とは違う美しさがあるなと目を奪われた。

陽は例えると太陽のようで、彼がいるだけで周りがパッと明るく見えるし、目を引くようなオーラがあると思う。でも真夜は名前のように静かに辺りを照らす月のようで、深い夜に誘われるように不思議な雰囲気をまとっているのだ。

客観的に言うと真白には陽がお似合いで、枢と真夜のほうが性格的には合っているのかもしれない。真夜とは初めて会ったし真白と同じように陽キャの部類だと思うのだが、根本的な部分が枢と『合う』のか真夜と一緒にいるのはだんだんと心地良く感じてきた。

「後悔しても遅いけどバカなこと言ったなと思うし、まさか真白が本気にすると思わなかったんだよね。3日くらい経ったらまた元通りになるだろうって、オレもわざと家に帰らなかったりとかさ。でも真白は本気で、地元に帰るって言って部屋を引き払って……」

それだけ、朝霧陽を忘れられなかったんだろうね。

そう言って悲しそうに笑う真夜の言葉に枢もつきんっと胸が痛む。元恋人もそう思うくらい二人は惹かれ合っていて、運命の人なのだろう。真夜の苦悩も葛藤も、ここ最近の枢が考えていたことと同じで苦笑した。

『運命』に選ばれなかった人たちは、同じことを考えるものなのだな。やはり自分は陽にとっての運命の人ではなく、ただの通過点だったわけだ。

「復縁したいと思ってここまで来たけど、やっぱり無理だね。毎日部屋に入り浸ってるなら、オレの入る隙って1ミリもないじゃん……」

確かにあの二人が並んでいると絵になる。高校生の時からそう思っていたけれど、大人になった今の二人が並んでいると昔より更にお似合いだなと思うのだ。今は陽がSubで真白がDomだと分かっているから『お似合い』だと思うのかもしれないが、二人が一緒にいても嫌味ではない爽やかさがあるし、二人の間に漂う空気感に他人が入り込める隙がないのが分かる。

きっと二人が恋人同士でパートナーですと公表したら理想のカップル1位に選ばれそうなほど、お互いに隣に立つのが当たり前だと思える二人だ。圧倒的な『幼馴染の純愛』を見せつけられたこちら側は、潔く身を引くことしかできないだろう。

「……俺も引っ越そうかな…」
「え?」

いつかあの二人が恋人になったとき、パートナー契約をしたとき、もしも結婚の約束をしたとき。陽の近くに家があるのはあまりにも耐えられない。仲睦まじい二人の姿を間近で見られるほど、自分は人間としてできていないのだ。

「枢って、もしかして朝霧陽のこと……」

真夜がそう言いかけたとき、ドンっという衝撃音と共にコーヒーカップがガチャンッと音を立てて揺れる。地震か雷でも落ちたのかと思うくらいの衝撃に驚いた枢の視界に入り込んできたのは、今にも枢に殴り掛かりそうな勢いで睨んでいる真白だった。

「――なに、してるんですか、二人で」

地を這うような低い声に責められていると理解したのと同時に、真白の奥にいる陽の姿に気が付いた。彼はぎゅっと唇を噛みながら悲しそうな顔をしていて、枢の心臓がどくんっと大きく跳ねる。

そんな顔を、あなたがするのはズルいじゃないか――



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

無理やりお仕置きされちゃうsubの話(短編集)

みたらし団子
BL
Dom/subユニバース ★が多くなるほどえろ重視の作品になっていきます。 ぼちぼち更新

不器用Subが甘やかしDomにとろとろにされるまで

もものみ
BL
【Dom/Subの創作BL小説です】 R-18描写があります。 地雷の方はお気をつけて。 タイトルがあらすじみたいなものです。 以下にあらすじを載せておきます。もっと短く内容を知りたい方は一番下までスクロールしてください。  Sub性のサラリーマン、葵(あおい)はある日会社の健康診断に引っかかってしまい病院を訪れる。そこで医師から告げられた診断は『ダイナミクス関連のホルモンバランスの乱れ』。医師からはパートナーを作ることを勧められた。葵はここのところプレイを疎かにしており確かに無視できない体調不良を感じていた。  しかし葵は過去にトラウマがあり、今はとてもパートナーを作るような気分にはなれなかった。そこで葵が利用したのがDomとSub専用のマッチングアプリ。葵は仕方なしにマッチングアプリに書き込む。 『27歳、男性、Sub。男女どちらでもかまいません、Domの方とプレイ希望です。』  完結なメッセージ。葵は体調さえ改善できれば何だってよかった。そんかメッセージに反応した一件のリプライ。 『28歳、男性、Dom よろしければ△△時に〇〇ホテル×××号室で会いませんか?』  葵はそのメッセージの相手に会いに行くことにした。指定された高級ホテルに行ってみると、そこにいたのは長身で甘い顔立ちの男性だった。男は葵を歓迎し、プレイについて丁寧に確認し、プレイに入る。そこで葵を待っていたのは、甘い、甘い、葵の知らない、行為だった。 ーーーーーーーーー マッチングアプリでの出会いをきっかけに、過去にトラウマのある不器用で甘え下手なSubが、Subを甘やかすのが大好きな包容力のあるDomにとろとろに甘やかされることになるお話です。 溺愛ものがお好きな方は是非読んでみてください。

淫らに壊れる颯太の日常~オフィス調教の性的刺激は蜜の味~

あいだ啓壱(渡辺河童)
BL
~癖になる刺激~の一部として掲載しておりましたが、癖になる刺激の純(痴漢)を今後連載していこうと思うので、別枠として掲載しました。 ※R-18作品です。 モブ攻め/快楽堕ち/乳首責め/陰嚢責め/陰茎責め/アナル責め/言葉責め/鈴口責め/3P、等の表現がございます。ご注意ください。

男の子たちの変態的な日常

M
BL
主人公の男の子が変態的な目に遭ったり、凌辱されたり、攻められたりするお話です。とにかくHな話が読みたい方向け。 ※この作品はムーンライトノベルズにも掲載しています。

【R指定BL】下剋上な関係を集めた短編集

あかさたな!
BL
◆いきなりオトナな内容に入るのでご注意ください◆ 全話独立してます! 年下攻めや下剋上な関係の短編集です 【生徒会長になってた幼馴染による唇攻め】【弟からの指による快感で服従してしまった兄】【sub/dom世界の勇者と魔王】【VRゲームが進化した先にスライムに負ける受けがいてもいい】【脳イキさせる大学の後輩】【両片思いが実った】【むしろ胸を開発されてしまう話】【嫉妬を抑えれない幼いご主人様】【悪魔に執着してしまう腹黒神父様】【ただただ甘々なオメガバース世界のお話】【キス魔な先生を堪能する双子】 2022/02/15をもって、こちらの短編集は完結とさせていただきます。 ありがとうございました。 ーーーーーーーーーーー 感想やリクエスト いつもありがとうございます! 完結済みの短編集 【年下攻め/年上受け】 【溺愛攻め】 はプロフィールから読めます!

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...