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第10章

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Domである真白の恋人でありパートナーだった真夜はSubなのだろうけれど、驚くことに一緒にいても、手を握っても何も感じない。この人に何かコマンドを出してみたいという感情は一切湧いてこなくて、やはり自分の陽への感情が特別なのだなと実感した。

「それで、真白と朝霧陽のことなんだけど……枢はなにか聞いてない?」
「俺は、特には……。でも日暮先生がほぼ毎日朝霧先生の部屋でご飯を食べてる、っぽい…?」
「……ふーん、そっか」
「陽チャージ期間とかなんとか……」
「ふーん、陽チャージ期間ねぇ…」
「月影さんは未練がましくここに来たって言ってましたけど、日暮先生と復縁したいんですか?」
「同い年なんだし敬語もやめてよ。真夜って呼んでいいから。えーっと、復縁…復縁ね……」

最初に頼んでいた冷めたコーヒーを枢が一口飲むと、真夜も手を付けていなかったカフェラテを一口飲む。カップの縁を指で撫でながら目を伏せる彼は、陽とは違う美しさがあるなと目を奪われた。

陽は例えると太陽のようで、彼がいるだけで周りがパッと明るく見えるし、目を引くようなオーラがあると思う。でも真夜は名前のように静かに辺りを照らす月のようで、深い夜に誘われるように不思議な雰囲気をまとっているのだ。

客観的に言うと真白には陽がお似合いで、枢と真夜のほうが性格的には合っているのかもしれない。真夜とは初めて会ったし真白と同じように陽キャの部類だと思うのだが、根本的な部分が枢と『合う』のか真夜と一緒にいるのはだんだんと心地良く感じてきた。

「後悔しても遅いけどバカなこと言ったなと思うし、まさか真白が本気にすると思わなかったんだよね。3日くらい経ったらまた元通りになるだろうって、オレもわざと家に帰らなかったりとかさ。でも真白は本気で、地元に帰るって言って部屋を引き払って……」

それだけ、朝霧陽を忘れられなかったんだろうね。

そう言って悲しそうに笑う真夜の言葉に枢もつきんっと胸が痛む。元恋人もそう思うくらい二人は惹かれ合っていて、運命の人なのだろう。真夜の苦悩も葛藤も、ここ最近の枢が考えていたことと同じで苦笑した。

『運命』に選ばれなかった人たちは、同じことを考えるものなのだな。やはり自分は陽にとっての運命の人ではなく、ただの通過点だったわけだ。

「復縁したいと思ってここまで来たけど、やっぱり無理だね。毎日部屋に入り浸ってるなら、オレの入る隙って1ミリもないじゃん……」

確かにあの二人が並んでいると絵になる。高校生の時からそう思っていたけれど、大人になった今の二人が並んでいると昔より更にお似合いだなと思うのだ。今は陽がSubで真白がDomだと分かっているから『お似合い』だと思うのかもしれないが、二人が一緒にいても嫌味ではない爽やかさがあるし、二人の間に漂う空気感に他人が入り込める隙がないのが分かる。

きっと二人が恋人同士でパートナーですと公表したら理想のカップル1位に選ばれそうなほど、お互いに隣に立つのが当たり前だと思える二人だ。圧倒的な『幼馴染の純愛』を見せつけられたこちら側は、潔く身を引くことしかできないだろう。

「……俺も引っ越そうかな…」
「え?」

いつかあの二人が恋人になったとき、パートナー契約をしたとき、もしも結婚の約束をしたとき。陽の近くに家があるのはあまりにも耐えられない。仲睦まじい二人の姿を間近で見られるほど、自分は人間としてできていないのだ。

「枢って、もしかして朝霧陽のこと……」

真夜がそう言いかけたとき、ドンっという衝撃音と共にコーヒーカップがガチャンッと音を立てて揺れる。地震か雷でも落ちたのかと思うくらいの衝撃に驚いた枢の視界に入り込んできたのは、今にも枢に殴り掛かりそうな勢いで睨んでいる真白だった。

「――なに、してるんですか、二人で」

地を這うような低い声に責められていると理解したのと同時に、真白の奥にいる陽の姿に気が付いた。彼はぎゅっと唇を噛みながら悲しそうな顔をしていて、枢の心臓がどくんっと大きく跳ねる。

そんな顔を、あなたがするのはズルいじゃないか――



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