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第10章
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しおりを挟む「で、教えてほしいことがあるんですけど」
マンションの前にいた不審な男に声をかけられ、そのまま手近なカフェに入った枢は見ず知らずの男性に尋問されていた。形式だけ注文したコーヒーに手を付けようものなら、猫のような鋭い瞳を覗かせている目の前の男性からぎろりと睨まれる。あまりの剣幕に枢は思わず縮こまり、彼からの質問を待った。
「同じ学校で働いてるなら、二人のことをご存知ですよね?」
「知ってはいます、けど……」
「じゃあ今、真白と朝霧陽が付き合ってるかどうかも知ってますか?」
「は……?」
「周りに公言していなくても、付き合ってそうだなって雰囲気とか。そういうの感じたりしたことありません?」
「あの……まずあなたが何者なのか教えてもらってもいいですか?さすがに、見ず知らずの人に同僚の情報なんて教えられませんよ」
「あぁ、そっか……真白から同棲してた恋人がいたとか、そういう話をするくらい仲いいです?」
「別に仲がいいってわけでもないですが…仕事が忙しくてすれ違いが続いて別れたとは聞いています」
「へぇ、すれ違いが続いて、ね……」
彼は頬杖をついて、空いている片手でテーブルをトントン叩いている。何かにイラついているのかぐしゃりと髪の毛をかいた拍子に、被っていたフードと帽子が外れた。全く気付いていなかったけれど、彼の髪の毛はまるで夜に浮かぶ月のようにキラキラと輝く金髪で、露わになった瞳は吸い込まれそうなほど深い夜の色をしていた。
「オレ、月影真夜っていいます。真白と同棲してた恋人です」
「えっ、あ、え!?あなたが日暮先生の……!?」
「名前だけじゃ信じられないと思うので写真見せます」
そう言って見せてくれた写真は真白と真夜のキスショットだった。確かに信ぴょう性がある写真だが、初対面の人にそれをみせるのもどうかと思う。こっちはほとんど免疫がないんですけど、と思いながら枢は片手で頭を押さえ「分かりました、信じました」と観念した。
「すれ違いが続いて別れたというか、オレが怒っちゃったんです、真白に」
「え?怒った?」
「真白と朝霧陽が幼馴染なのも知ってますか?」
「それはまぁ、はい」
「でもあの二人、ここ何年も会ってなかったみたいなんですけど……夜、オレを抱きしめながら"陽、ごめん"って言うんですよ。最初の頃のほうがひどかったんですけど、まぁ、代わりでもいいやって付き合ってて…でもアイツ、Play中にですよ?オレを陽だって……さすがに許せないですよね?」
「確かに……」
「そんで思わずセーフワード言って、そんなに朝霧陽がいいならオレと別れてそっちいけ!って大喧嘩したわけです」
真夜の話を聞くと、陽と真白は過去に付き合っていたが何らかの理由があって別れ、その後に真白は真夜と出会ったのだろう。それでも真白はずっと陽のことを忘れられずに想っていて……真夜に別れを告げられて、陽のいる地元に戻ってくる決意をしたというところだろうか。
だからこそ最近ずっと陽と一緒にいるのは復縁したいという気持ちの表れなのだろう。枢がここ数日モヤモヤしていたことが何だかクリアになった気がして、頭の中では『やっぱりそうだったのか』と腑に落ちた。
「……朝霧先生と日暮先生って付き合っていたんですか?」
「それは知らない。真白、オレには何も話してくれないから」
「まぁ、元恋人の話ってあんまりしないですもんね……」
「それもあるし…同棲っていうか、オレが住み着いてただけだしね。真白からしてみれば野良猫拾ったみたいな感じ」
「そんな適当なことを思ってたら、同棲していた恋人と別れた、なんて言いませんよ」
枢がそう言うと真夜は苦笑して「どうだろうね」と、どこか寂しそうな顔をした。そんな顔をするくらい真白のことを想っていたんだろうなと思うと、ぎゅっと胸が締め付けられる。何だか、陽を追いかけている自分と重なってしまったのだ。
「真白の友達から住所聞いて、未練がましくここまで来ちゃったんだけどさ。キモいでしょ」
「そんなことないですよ……」
「でもアイツも悪いと思わない?ていうか、オニーサンの名前なんて言うの?」
「あ、星枢です。一応年齢は23歳です」
「オレとタメじゃん。よろしく!」
差し出された手を握ると、久しぶりに感じる人の体温がじわりと手のひらから伝わってきた。
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