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第9章
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しおりを挟む陽の寝室に連れ込まれると、ぶわりと彼の匂いが充満していて、くらりと眩暈がした。なんせ枢もあんな中途半端なPlayでは全然満足していないし、こんなにも陽の匂いがする部屋に二人きりだなんて、何をしでかすか分からない。そう思うくらいには枢も欲求不満を感じているのだ。
「真白に呼ばれるまで、あと少しだけ……っ」
そう言いながらぎゅっと枢の服を掴んでいる陽の手が震えていて、彼が本気でコマンドを欲しているのが分かった。いつ真白から声がかかるか分からない状況なのに、先日ベランダで目隠しをしながらPlayをした日のことを思い出して、枢の背筋にぞわりと興奮が走る。陽が苦しんでいる状況だというのに自分はこの背徳的な状況に興奮していて、自分の中の黒い部分がまた顔を現していた。
「……〈Roll〉」
キッチンにいる真白に聞こえないように極力低く小さい声でコマンドを出すと、陽は顔を赤くしたままごろんとベッドに仰向けになる。仕事帰りなので今日学校に着てきたスーツのままの陽がベッドに寝転がっていて、枢を誘うような目を向けてくるのだから、興奮しないわけがなかった。
「〈Attract〉」
陽は脚をすりっと擦り合わせ、唇を噛んで枢を見つめる。もぞもぞとスーツの上着を中途半端に脱いで、しゅるっと音を立てながらネクタイを外す。Stripしろというコマンドは出していないけれど、陽の肌が見えそうで見えないギリギリのラインに枢はごくりと唾を飲み込んだ。
「はやく触って、かなめ…おねがいだから、おれを満たして……!」
ぷちりと一つボタンを外す陽は、潤む瞳で枢を見上げる。服越しに陽の体に触れるとじんわりとした温かさが手のひらを伝って流れてきて、府さしぶりに感じる陽の体温に眩暈がした。
「………かわいいですね、ヒナ…直に肌に触れたいのに、服を乱したらダメですもんね……」
「ん、くすぐったい……」
「ヒナ、〈Hug〉」
「うん……」
服越しに陽の体に口付けていきながら陽にコマンドを出すと、首に手を回した陽がぎゅっと抱きついてくる。先ほどリビングでPlayをした時よりも少しは満たされたような陽の顔が少しとろんとしていて、陽の鼻先に自分の鼻先をくっつけると彼はゆっくりと目を閉じた。
「〈Good Boy〉……」
低い声で囁くと、陽の長いまつ毛が震えた。何かを期待しているのか枢を誘うように陽の唇が少し開いて、赤い舌がちらちらと覗いて文字通り『誘われた』。陽の頭を優しく撫でながら唇を奪う。少し開いた唇の隙間からぬるりと舌を差し込んで、彼を労わるように舌先を吸ったり柔く食んだりしていると、徐々に陽の体から力が抜けていくのが分かった。
「もっとしたい……」
「……嬉しいお願いですけど、ダメですよ。日暮先生がいますから…」
「うぅ…あいつ毎日来る……」
「……幼馴染で仲がいいから、ですよね」
「それはそうだけど、どうせ恋人と別れたのが寂しいだけ」
「朝霧先生に慰めてもらうつもりとか、朝霧先生をチャージする期間だって言ってましたけど……?」
「真白が言ってるだけだから、本気にしないで下さい……」
こつん、額を合わせると陽が小さくキスをする。コマンドでもご褒美でもないけれど再び深いキスをすると、枢の下で陽がもぞもぞ動き出した。
「ほしせんせい……」
「ん、なんですか?」
「あの、当たって、て……」
「え?」
当たってる、と言いながら頬を赤らめて気まずそうにしている陽。何が、と思っていると陽の腰が動いて『そこ』を刺激された。なにが陽に当たっているのか瞬時に理解した枢は火が出そうなくらい顔に熱が集中したのが分かって、バッと陽から離れた。
「す、す、すみません!」
「なんで離れちゃうんですか……」
「いや、だって、これは、あの……っ!」
このままじゃリビングには戻れない。
どうしようかとぐるぐる頭を悩ませていると、陽が赤い舌でぺろりと唇を舐めて「……コマンド、出してもいいんですよ?出さなくてもいいですけど」と挑発的な顔をして誘ってくる。枢のベルトをかりかり指先で引っ掻いてほくそ笑んでいる陽に『〈Lick〉』なんて最低なコマンドが喉から出かかった瞬間、
「陽ー、星先生ー!そろそろできますよー!」
という真白の声に、枢はハッとして現実に戻ってきた。
「と、トイレ借ります!!」
陽の挑発的な視線から逃れるように寝室を出て、枢はトイレへと駆け込んだ。
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