42 / 70
第9章
1
しおりを挟む陽の幼馴染である日暮真白が赴任してきてから、思うように陽と会えていない。
高校時代に見かけていた二人はさすが幼馴染といったようにいつも一緒にいたのだが、枢の知らない大学時代に何かあったのか、真白と再会した陽は少し気まずそうに見えた。真白が同じマンションに越してきたと言っていたがあまり嬉しそうにしていなかった(枢にはそう見えた)ので、無理はしないようにと伝えていたのだが――
「朝霧先生、最近顔色悪くないですか?」
「え?あ、あぁ……そうですね」
「この前までなんだか明るくなったなと思ってたんですけど……気のせいだったのかな」
隣の席にいる白石先生がコソコソ耳打ちしてきて、枢はため息をついた。そう、白石先生にも分かるくらい、見るからに陽は疲弊しているのだ。まるで陽とパートナーになる前の枢と同じような状態で、目の下には酷いクマ、寝不足なのか何度もあくびをしているし、昼休みは準備室にこもって眠っているのを見かけた。
Play不足の寝不足なのか、ただ単にもうすぐ期末テストがやってくるので、夜な夜なその試験問題を作っているから寝不足なのかは分からない。軽いPlayだけなら昼休みに準備室でこっそりしてもいいのだが、なんせ陽が眠りに落ちているのでそれをわざわざ起こすようなことはしたくなかった。
それに、Play不足だと思って彼に話を持ち掛けた時に、ただの寝不足だと言われたらそれはそれであまりにも恥ずかしい。まぁ、もしPlay不足での不調なら陽のほうから何か言ってくるだろうと、そんな甘い考えを持っていた。
「陽、今日も一緒に夕飯食べないか?」
「……毎日毎日飽きないね、真白」
「だって俺たち一緒にいるのは年単位で久しぶりじゃん。だから陽チャージ期間なんだよ」
「別にいいけど、おれは作らないからね」
「分かってる分かってる、料理苦手だもんな陽は」
夕飯を買いにコンビニへ行こうとドアを開けると、ちょうど帰ってきた陽と真白に遭遇した。まずい、最近はずっと通勤時間をずらしていたから、マンションで真白と会うことはなかったのに。
「ん?あれ?一学年担当の星先生?」
「あ、ど、どうも……」
「星先生って眼鏡かけてましたっけ?一瞬誰だか分かりませんでした」
「普段はコンタクトで、家では眼鏡なんです」
「ていうか!同じマンションとか奇遇ですね!」
「あ~…ですねぇ…!」
久しぶりの乙織や慧至以外の陽キャと話した気がする。どれだけ外見を磨いて変わったとしても、中身は所詮『星枢』のままなのだ。騒がしい空間も嫌いだし、根っからの陽キャというイメージの真白との会話は難しいと感じる。毎日高校生を相手にしているので多少慣れてきたと思っていたけれど、自分が高校生の時のイメージがあるので陽と同じように今はまだ近寄りがたいのだ。
「星先生は今からどこか出かけるんですか?」
「夕飯を買いにコンビニに……」
「え!じゃあ一緒に食べません?」
「……へ?」
「俺たちも今から夕飯なんですよ!材料多めに買ってきてるんで、星先生もよければどうぞ!」
「いや、えっと……」
どうしようか迷いながら陽を見ると、彼は申し訳なさそうな顔をしながらも頷いた。真白のことは全然知らないので苦手意識があるのだが、陽が枢に来てほしそう(これは願望だ)な顔をしているので、コンビニに行くのをやめて陽の家にお邪魔することにした。
「適当に座って下さいね、星先生~」
「なんで真白が言うんだよ……」
「ごめんごめん、最近毎日いるからさ」
「へぇ、毎日……仲がいいんですね、お二人は…」
思わず枢がぽつりと呟くと、陽が抗議の目を向けてくる。ただ、どうしてそんな目を向けられるのか分からなかった。だって、幼馴染だし、仲がいいのは普通ではないのか?そう思って言ったのだけれど、陽の癪に障ったらしい。
パートナーになってから知ったこともあるけれど、まだ知らないことのほうが多いのだなと枢は苦笑した。
65
お気に入りに追加
103
あなたにおすすめの小説
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。


いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる