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第7章
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しおりを挟むベランダからベッドに移動させてもらい、枢から抱きしめられながらキスをして甘やかしてもらうと安心する。名残惜しくも唇が離れ、ちゅうっと額に熱を押し付けられると陽は枢の首筋に顔を埋めた。
「……目隠しが、イヤだったんじゃなくて…」
「うん?」
「枢が側にいるかわからないのが、イヤだった……」
「……俺がいないと思って不安になった?」
「うん……いつも側にいるって言って…?おれの側から離れないって言って……」
正式にパートナー契約を結ぶ前、パートナーになったら自動的に恋人になるのかと聞く枢に『それは違うんじゃない?』と言ったのは自分なのに。側にいて、なんて公私混同しているよなと自嘲する。それでも、どこまでも優しい枢は「もう離れないよ」と言って、顎を掬ってまたキスをしてくれる。安心してと言って笑う彼を全部全部手に入れたい。枢の頭の中を自分のことでいっぱいにして、支配したい――なんて、凶暴な感情を持ってると言ったら、きっと彼は離れていくだろう。
「体の一部が触れていたほうが安心しますか?」
「うん、そうなのかも……星先生の膝の上でなら、なにをされても大丈夫…」
「そっか、分かりました。でも顔が見えなくて怖いなら、次からはしません」
「……信頼関係が足りないって怒らない?」
「どうして?そんなことで怒りませんよ」
俺の配慮が足りなかったからと言って、涙の滲む目尻に口付けられる。そんな枢の愛は優しくて甘くて、深い。一度堕ちたら、もう戻ってこられなくなるほどに。
「俺のほうが、あなたの過去に嫉妬してひどいことした。Glareが出そうになってたのに、怖がらないでくれてありがとうございます。あなたのほうが俺を信頼してくれてますよ」
「……聞くのはイヤかもしれないけど、前に一度だけ、ほんの一瞬だけPlayをした人がいたんです。その時に……ちょっと嫌な気持ちになってSub Dropしちゃって…その時のことを思い出してちょっと怖くなっただけです」
「……すみませんでした。許してくれますか?」
「ふふ。Subに許しを乞うDomなんて初めて会いましたよ」
「あなたには嫌われたくないから、こっちだって必死なんです……」
どうして嫌われたくないの?なんて、野暮なことは聞かなかった。それを聞いてしまうと、自分たちはきっと『パートナー』の域から出てしまうと思ったから。きっと枢はこの『特別』の意味をまだ分かっていない。だからまだ、パートナーの域を出るのは先の話だ。
「気遣ってくれてありがとうございます、星先生。でも多分、次は上手くできると思うから……」
「……敏感になるって、本当ですか?」
先ほどまでしおらしく謝罪していたのに、枢は少しむっとしながら陽の頬をあむっと甘噛みしてくる。そんな枢の言葉に、ごくりと唾を飲み込んだ。思い出したくもない過去の出来事。あの時はただ、目隠しをされたまま無理に欲求を満たすだけだったから、それを敏感になったとはき違えた可能性は否めない。でも確実に言えるのは『何をされるか分からない』から、感覚は普段より研ぎ澄まされている。だからこそやはり『敏感』になるのは、間違いではないかもしれない。
「えと、多分……」
「さっき少し触っただけでも体、跳ねてましたもんね」
枢の熱い手に脚を撫でられて反応してしまったのは事実だが、あれはいきなり触られたから驚いただけであって……。と言い訳をしようとしたのだが、枢の指が優しく背中をなぞっていって小さい声が漏れた。
「ん、ぁ……」
「……いま触っただけでもそんな声出すのに、目隠ししたら今度は怖いじゃなくて、おかしくなっちゃうんじゃないですか?」
「だから、星先生にならおれは……」
「……〈Shush〉、ヒナ。それ以上言ったら、あなたをめちゃくちゃにしてしまいそうです」
熱い唇が押し付けられて。
口の中を味わうように舌で舐め回され、お互いの唾液が混ざり合ういやらしい音が静かな寝室に響き渡る。陽は無意識のうちに枢の首に腕を回して体を密着させ、枢も強く陽の腰を引き寄せていた。
枢とのキスは好きだ。愛して甘やかしたいという思いが伝わってきて、唾液に媚薬効果があるんじゃないかと疑うくらい、次第に頭の中がふわふわしてくる。それだけでも、もちろん幸せを感じるし満たされるから、最高のご褒美だと言える。
でも――
「かなめ……」
「ん?」
おれの奥底に眠る凶暴な感情。
この男のものになりたい。この男を自分のものにしたい。
そんな汚い感情は日に日に募るばかりで、いつか爆発してしまうかもしれない。
「……なんでもない。おれのこと、抱きしめて眠って」
まだ、この気持ちに気付かないで。
ううん、星先生自身が感じている『特別』の意味に、早く気付いて。
そしたら、おれは――
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