夜明けの使者【コミカライズ企画進行中!】

社菘

文字の大きさ
上 下
36 / 70
第7章

しおりを挟む



ベランダからベッドに移動させてもらい、枢から抱きしめられながらキスをして甘やかしてもらうと安心する。名残惜しくも唇が離れ、ちゅうっと額に熱を押し付けられると陽は枢の首筋に顔を埋めた。

「……目隠しが、イヤだったんじゃなくて…」
「うん?」
「枢が側にいるかわからないのが、イヤだった……」
「……俺がいないと思って不安になった?」
「うん……いつも側にいるって言って…?おれの側から離れないって言って……」

正式にパートナー契約を結ぶ前、パートナーになったら自動的に恋人になるのかと聞く枢に『それは違うんじゃない?』と言ったのは自分なのに。側にいて、なんて公私混同しているよなと自嘲する。それでも、どこまでも優しい枢は「もう離れないよ」と言って、顎を掬ってまたキスをしてくれる。安心してと言って笑う彼を全部全部手に入れたい。枢の頭の中を自分のことでいっぱいにして、支配したい――なんて、凶暴な感情を持ってると言ったら、きっと彼は離れていくだろう。

「体の一部が触れていたほうが安心しますか?」
「うん、そうなのかも……星先生の膝の上でなら、なにをされても大丈夫…」
「そっか、分かりました。でも顔が見えなくて怖いなら、次からはしません」
「……信頼関係が足りないって怒らない?」
「どうして?そんなことで怒りませんよ」

俺の配慮が足りなかったからと言って、涙の滲む目尻に口付けられる。そんな枢の愛は優しくて甘くて、深い。一度堕ちたら、もう戻ってこられなくなるほどに。

「俺のほうが、あなたの過去に嫉妬してひどいことした。Glareが出そうになってたのに、怖がらないでくれてありがとうございます。あなたのほうが俺を信頼してくれてますよ」
「……聞くのはイヤかもしれないけど、前に一度だけ、ほんの一瞬だけPlayをした人がいたんです。その時に……ちょっと嫌な気持ちになってSub Dropしちゃって…その時のことを思い出してちょっと怖くなっただけです」
「……すみませんでした。許してくれますか?」
「ふふ。Subに許しを乞うDomなんて初めて会いましたよ」
「あなたには嫌われたくないから、こっちだって必死なんです……」

どうして嫌われたくないの?なんて、野暮なことは聞かなかった。それを聞いてしまうと、自分たちはきっと『パートナー』の域から出てしまうと思ったから。きっと枢はこの『特別』の意味をまだ分かっていない。だからまだ、パートナーの域を出るのは先の話だ。

「気遣ってくれてありがとうございます、星先生。でも多分、次は上手くできると思うから……」
「……敏感になるって、本当ですか?」

先ほどまでしおらしく謝罪していたのに、枢は少しむっとしながら陽の頬をあむっと甘噛みしてくる。そんな枢の言葉に、ごくりと唾を飲み込んだ。思い出したくもない過去の出来事。あの時はただ、目隠しをされたまま無理に欲求を満たすだけだったから、それを敏感になったとはき違えた可能性は否めない。でも確実に言えるのは『何をされるか分からない』から、感覚は普段より研ぎ澄まされている。だからこそやはり『敏感』になるのは、間違いではないかもしれない。

「えと、多分……」
「さっき少し触っただけでも体、跳ねてましたもんね」

枢の熱い手に脚を撫でられて反応してしまったのは事実だが、あれはいきなり触られたから驚いただけであって……。と言い訳をしようとしたのだが、枢の指が優しく背中をなぞっていって小さい声が漏れた。

「ん、ぁ……」
「……いま触っただけでもそんな声出すのに、目隠ししたら今度は怖いじゃなくて、おかしくなっちゃうんじゃないですか?」
「だから、星先生にならおれは……」
「……〈Shushしー〉、ヒナ。それ以上言ったら、あなたをめちゃくちゃにしてしまいそうです」

熱い唇が押し付けられて。
口の中を味わうように舌で舐め回され、お互いの唾液が混ざり合ういやらしい音が静かな寝室に響き渡る。陽は無意識のうちに枢の首に腕を回して体を密着させ、枢も強く陽の腰を引き寄せていた。

枢とのキスは好きだ。愛して甘やかしたいという思いが伝わってきて、唾液に媚薬効果があるんじゃないかと疑うくらい、次第に頭の中がふわふわしてくる。それだけでも、もちろん幸せを感じるし満たされるから、最高のご褒美だと言える。

でも――

「かなめ……」
「ん?」

おれの奥底に眠る凶暴な感情。
この男のものになりたい。この男を自分のものにしたい。
そんな汚い感情は日に日に募るばかりで、いつか爆発してしまうかもしれない。

「……なんでもない。おれのこと、抱きしめて眠って」

まだ、この気持ちに気付かないで。
ううん、星先生自身が感じている『特別』の意味に、早く気付いて。

そしたら、おれは――



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

「じゃあ、別れるか」

万年青二三歳
BL
 三十路を過ぎて未だ恋愛経験なし。平凡な御器谷の生活はひとまわり年下の優秀な部下、黒瀬によって破壊される。勤務中のキス、気を失うほどの快楽、甘やかされる週末。もう離れられない、と御器谷は自覚するが、一時の怒りで「じゃあ、別れるか」と言ってしまう。自分を甘やかし、望むことしかしない部下は別れを選ぶのだろうか。  期待の若手×中間管理職。年齢は一回り違い。年の差ラブ。  ケンカップル好きへ捧げます。  ムーンライトノベルズより転載(「多分、じゃない」より改題)。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け!

小池 月
BL
 男性オメガの「本田ルカ」は中学三年のときにアルファにうなじを噛まれた。性的暴行はされていなかったが、通り魔的犯行により知らない相手と番になってしまった。  それからルカは、孤独な発情期を耐えて過ごすことになる。  ルカは十九歳でオメガモデルにスカウトされる。順調にモデルとして活動する中、仕事で出会った俳優の男性アルファ「神宮寺蓮」がルカの番相手と判明する。  ルカは蓮が許せないがオメガの本能は蓮を欲する。そんな相反する思いに悩むルカ。そのルカの苦しみを理解してくれていた周囲の裏切りが発覚し、ルカは誰を信じていいのか混乱してーー。 ★バース性に苦しみながら前を向くルカと、ルカに惹かれることで変わっていく蓮のオメガバースBL★ 性描写のある話には※印をつけます。第12回BL大賞に参加作品です。読んでいただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします(^^♪ 11月27日完結しました✨✨ ありがとうございました☆

処理中です...