26 / 70
第5章
6
しおりを挟む今日は朝から色んなことがあったあと、昼休みに中途半端にPlayをしてしまったからか、ちゃんと陽のほうからお誘いのメッセージが届いた。仕事が終わったあとは元々なにも予定は入れてなかったので、陽と会えるとワクワクした自分はさながら、ご主人様に遊んでもらえるのを待っている犬のようだろう。
力関係で言うと世間的にはDomのほうが上かもしれないが、陽と枢に関してはSubである陽のほうが主導権を握っている。陽を好きすぎるがゆえ、なんでも彼の言う通りにしたいし彼の好きにやってほしいという思いが先走っているから、どちらかと言えばDomである枢のほうが手のひらの上で転がされているのだ。
陽においでと言われれば行くし、来るなと言われたら行かないだろう。
それくらい、自分は単純な男なのである。
「白石先生から、宅飲みの話はなかったことにしてほしいって言われました」
「まぁ、そりゃそうでしょうね……」
「でも白石先生ならすぐにいい人が見つかる気がします」
「なんでですか?」
「……なんとなく?」
さすがにパートナーの前で他の女性を『凛として綺麗だったから』とは言えない。陽はなにも思わないかもしれないけれど、白石先生に枢が迫られたのかも、と疑って拗ねていたくらいだ。枢が白石先生に対してそう思ってしまった、ということは言わないでおこう。
「怪しい。何か隠してません?」
「隠してません」
陽の家を訪れた枢は一緒に夕飯を食べながら、向かい合って座っている陽に足でちょんちょんつつかれた。陽はいつもジーンズや丈の長いスウェットを着ているくせに、なぜか今日はオーバーサイズのTシャツに短パンという姿で出迎えられて、白い肌が眩しい細い生脚にぶっ倒れそうになったものだ。
人のファッションにケチをつけるほど自分はオシャレではないし、好きなものを好きなように着たらいいとは思う。でもさすがに、仮にも『パートナー』の前でそういう格好はいかがなものか。
先日、枢は陽に対して『性的な意味で体に触りたい』という話をしたばかりなのだ。その時に陽は『上半身や脚には直に触っていい』と言っていたから、それを考慮してそんな格好をしてくれているのかもしれない。そう思うと陽への愛しさが大爆発しそうなのだが、勘違い野郎と言われたらたまったものじゃないのでなかなか切り出せないのだけれど。
でも、枢がトイレを借りて出てくると、陽がカーペットの上にぺたんと座り込んでいて艶めかしい太ももをちらつかせていたのだ。
「……そういうの、あんまり、どうなんですかね」
「え?なんのことですか?」
「男の前で、Tシャツと半パンで、脚を見せるのはいかがなものかと……」
「男の前って星先生だし、ちょうど手に取ったTシャツが大きすぎるのが悪いし、暑いのも悪いので、おれのせいじゃないですね」
「……百歩譲って、俺の前でだけならいいです。他のところでやらないでくださいね」
「うん、星先生の前でだけ。他の人の前ではしませんよ」
コマンドを出したわけではないが、陽の返答が嬉しかったので彼の顎をするりと撫でる。Play中ではないから怒られるかと思ったが、意に反して彼は気持ちよさそうに目を細めた。
そんな陽に「〈Come〉」と言うと、ソファに座る枢の足に近づいた陽はぺたりと座ったまま、膝にこてんと頭を預ける。素直な陽が可愛くて、昼間に顔を出した黒い感情が浄化されていくような感じがした。
「〈Good Boy〉……っと、すみません、ちょっと待ってくださいね」
頭を撫でようとした時、枢のスマホが着信を知らせる。電話の主は姉の乙織からで、無視をしてもよかったのだが後々面倒くさいので電話を取ることにした。ただ、姉には陽のことを言っていない(片想いをしていたことすら言ったことはない)ので、いまPlay中だというのも悟られたら面倒くさいのだけれど。
「電話取ってもいいですか?短時間で終わらせます」
枢の膝にこてんと頭を預けたままの陽は少しだけ不満そうに唇を尖らせていたが、おざなりに頭を撫でて電話に出た。
「もしもし?何の用?」
『何の用って、姉に向かってなによその口の利き方は』
「あー…すみません。何の用でしょうか」
『あんた、そろそろ美容室の予約取るかなと思って。この優しい優しいお姉さまがわざわざ連絡してあげたのよ』
「確かにそろそろ行こうと思ってたかも……えーっと…乙織、いつならいる?乙織がいる日に合わせて行くけど」
乙織との電話に夢中になりながら、陽を見ずにするりと顎の下を撫でる。犬や猫にするようにとりあえず頭や顎を撫でていると、不意にがぶりと指を噛まれた。
突然の衝撃と痛みに驚いて陽を見ると、彼はじとりとこちらを睨んでいる。陽が口パクで「ひどい」と言っているのが分かって、何とも言えない感情に小さな心臓が支配された。ご褒美をお預けされ、おざなりに撫でられて拗ねているなんて、なんて可愛い人なんだ。
43
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
兄さん、僕貴方にだけSubになるDomなんです!
かぎのえみずる
BL
双子の兄を持つ章吾は、大人顔負けのDomとして生まれてきたはずなのに、兄にだけはSubになってしまう性質で。
幼少期に分かって以来兄を避けていたが、二十歳を超える頃、再会し二人の歯車がまた巡る
Dom/Subユニバースボーイズラブです。
初めてDom/Subユニバース書いてみたので違和感あっても気にしないでください。
Dom/Subユニバースの用語説明なしです。
おねしょ癖のせいで恋人のお泊まりを避け続けて不信感持たれて喧嘩しちゃう話
こじらせた処女
BL
網谷凛(あみやりん)には付き合って半年の恋人がいるにもかかわらず、一度もお泊まりをしたことがない。それは彼自身の悩み、おねしょをしてしまうことだった。
ある日の会社帰り、急な大雨で網谷の乗る電車が止まり、帰れなくなってしまう。どうしようかと悩んでいたところに、彼氏である市川由希(いちかわゆき)に鉢合わせる。泊まって行くことを強く勧められてしまい…?
男の子たちの変態的な日常
M
BL
主人公の男の子が変態的な目に遭ったり、凌辱されたり、攻められたりするお話です。とにかくHな話が読みたい方向け。
※この作品はムーンライトノベルズにも掲載しています。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
少年野球で知り合ってやけに懐いてきた後輩のあえぎ声が頭から離れない
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
少年野球で知り合い、やたら懐いてきた後輩がいた。
ある日、彼にちょっとしたイタズラをした。何気なく出したちょっかいだった。
だがそのときに発せられたあえぎ声が頭から離れなくなり、俺の行為はどんどんエスカレートしていく。
浮気性のクズ【完結】
REN
BL
クズで浮気性(本人は浮気と思ってない)の暁斗にブチ切れた律樹が浮気宣言するおはなしです。
暁斗(アキト/攻め)
大学2年
御曹司、子供の頃からワガママし放題のため倫理観とかそういうの全部母のお腹に置いてきた、女とSEXするのはただの性処理で愛してるのはリツキだけだから浮気と思ってないバカ。
律樹(リツキ/受け)
大学1年
一般人、暁斗に惚れて自分から告白して付き合いはじめたものの浮気性のクズだった、何度言ってもやめない彼についにブチ切れた。
綾斗(アヤト)
大学2年
暁斗の親友、一般人、律樹の浮気相手のフリをする、温厚で紳士。
3人は高校の時からの先輩後輩の間柄です。
綾斗と暁斗は幼なじみ、暁斗は無自覚ながらも本当は律樹のことが大好きという前提があります。
執筆済み、全7話、予約投稿済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる