夜明けの使者

社菘

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第5章

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今日は朝から色んなことがあったあと、昼休みに中途半端にPlayをしてしまったからか、ちゃんと陽のほうからお誘いのメッセージが届いた。仕事が終わったあとは元々なにも予定は入れてなかったので、陽と会えるとワクワクした自分はさながら、ご主人様に遊んでもらえるのを待っている犬のようだろう。

力関係で言うと世間的にはDomのほうが上かもしれないが、陽と枢に関してはSubである陽のほうが主導権を握っている。陽を好きすぎるがゆえ、なんでも彼の言う通りにしたいし彼の好きにやってほしいという思いが先走っているから、どちらかと言えばDomである枢のほうが手のひらの上で転がされているのだ。

陽においでと言われれば行くし、来るなと言われたら行かないだろう。

それくらい、自分は単純な男なのである。

「白石先生から、宅飲みの話はなかったことにしてほしいって言われました」
「まぁ、そりゃそうでしょうね……」
「でも白石先生ならすぐにいい人が見つかる気がします」
「なんでですか?」
「……なんとなく?」

さすがにパートナーの前で他の女性を『凛として綺麗だったから』とは言えない。陽はなにも思わないかもしれないけれど、白石先生に枢が迫られたのかも、と疑って拗ねていたくらいだ。枢が白石先生に対してそう思ってしまった、ということは言わないでおこう。

「怪しい。何か隠してません?」
「隠してません」

陽の家を訪れた枢は一緒に夕飯を食べながら、向かい合って座っている陽に足でちょんちょんつつかれた。陽はいつもジーンズや丈の長いスウェットを着ているくせに、なぜか今日はオーバーサイズのTシャツに短パンという姿で出迎えられて、白い肌が眩しい細い生脚にぶっ倒れそうになったものだ。

人のファッションにケチをつけるほど自分はオシャレではないし、好きなものを好きなように着たらいいとは思う。でもさすがに、仮にも『パートナー』の前でそういう格好はいかがなものか。

先日、枢は陽に対して『性的な意味で体に触りたい』という話をしたばかりなのだ。その時に陽は『上半身や脚には直に触っていい』と言っていたから、それを考慮してそんな格好をしてくれているのかもしれない。そう思うと陽への愛しさが大爆発しそうなのだが、勘違い野郎と言われたらたまったものじゃないのでなかなか切り出せないのだけれど。

でも、枢がトイレを借りて出てくると、陽がカーペットの上にぺたんと座り込んでいて艶めかしい太ももをちらつかせていたのだ。

「……そういうの、あんまり、どうなんですかね」
「え?なんのことですか?」
「男の前で、Tシャツと半パンで、脚を見せるのはいかがなものかと……」
「男の前って星先生だし、ちょうど手に取ったTシャツが大きすぎるのが悪いし、暑いのも悪いので、おれのせいじゃないですね」
「……百歩譲って、俺の前でだけならいいです。他のところでやらないでくださいね」
「うん、星先生の前でだけ。他の人の前ではしませんよ」

コマンドを出したわけではないが、陽の返答が嬉しかったので彼の顎をするりと撫でる。Play中ではないから怒られるかと思ったが、意に反して彼は気持ちよさそうに目を細めた。

そんな陽に「〈Comeおいで〉」と言うと、ソファに座る枢の足に近づいた陽はぺたりと座ったまま、膝にこてんと頭を預ける。素直な陽が可愛くて、昼間に顔を出した黒い感情が浄化されていくような感じがした。

「〈Good Boyよくできました〉……っと、すみません、ちょっと待ってくださいね」

頭を撫でようとした時、枢のスマホが着信を知らせる。電話の主は姉の乙織いおりからで、無視をしてもよかったのだが後々面倒くさいので電話を取ることにした。ただ、姉には陽のことを言っていない(片想いをしていたことすら言ったことはない)ので、いまPlay中だというのも悟られたら面倒くさいのだけれど。

「電話取ってもいいですか?短時間で終わらせます」

枢の膝にこてんと頭を預けたままの陽は少しだけ不満そうに唇を尖らせていたが、おざなりに頭を撫でて電話に出た。

「もしもし?何の用?」
『何の用って、姉に向かってなによその口の利き方は』
「あー…すみません。何の用でしょうか」
『あんた、そろそろ美容室の予約取るかなと思って。この優しい優しいお姉さまがわざわざ連絡してあげたのよ』
「確かにそろそろ行こうと思ってたかも……えーっと…乙織、いつならいる?乙織がいる日に合わせて行くけど」

乙織との電話に夢中になりながら、陽を見ずにするりと顎の下を撫でる。犬や猫にするようにとりあえず頭や顎を撫でていると、不意にがぶりと指を噛まれた。

突然の衝撃と痛みに驚いて陽を見ると、彼はじとりとこちらを睨んでいる。陽が口パクで「ひどい」と言っているのが分かって、何とも言えない感情に小さな心臓が支配された。ご褒美をお預けされ、おざなりに撫でられて拗ねているなんて、なんて可愛い人なんだ。

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