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第3章
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しおりを挟む高校を卒業したあと、陽は地元を離れた大学に進学をした。
一人暮らしを始めて、近所には同じ大学へ進んだ真白が暮らしているから、私生活においては何も心配はなかった。
高校の時の同級生はほとんど散り散りになってしまったが、大学でも新しい出会いがあってそれなりに楽しく過ごしたものだ。
ただ、一人のことが頭から離れないまま。
「ほしかなめ……なんで突然、おれを嫌いになったんだろう…」
別に好きだと告白されたわけではないけれど、なんとなく好意があるのかな、と勝手に感じていた。ただ、陽自身が枢に好意を抱いていたのでそう思いたかったのかもしれない。
だってあんなに、全身に絡みつくような熱視線を送ってきていたのに。あれは本当に自分の勘違いだったのだろうか?
「もしかして、Subだったとか、かな……」
陽は本能的に枢をDomだと思ったのだが、冬休み前の診断以降、枢からの視線がなくなったのはダイナミクスが関係しているんじゃないかと考えた。ただ、枢は陽のダイナミクスを知らないはずなので、彼がもしSubだったとしても避けられる理由が分からない。
それか、もしかしたらNormalだったのか。だとしても別に結ばれないと決まったわけではないし、Playへの欲求は薬で抑えられるのに。
なぜ突然そうなったのか分からないので色々考えていたのだが、結局は『男に興味がなかった』が一番の理由かもなという結論に至った。ノートを拾った日に陽の友人が悪口にも似た言葉を言ったから、それが気に障って睨んでいただけだろう。だからそもそも『好意』だと思っていた視線も、自分の勘違いだったのだ、きっと。
「君なら、よかったのにな…」
いつも目を合わせようと思ったら避けられていたので、本当は嫌いだから見ていただけかもしれない。そう思うと胸の奥がつきりと痛んで、その日は一日中なにもしたくなくなる。
そうやって初めて、これが『恋』なのだなと実感した。
あの日、ノートを拾った日、眼鏡の奥に輝いていた枢の瞳に一目惚れしたのは間違いではなかったのだ。
「でも、もう会うこともないか……」
なんせ在学中に接点はなく、あの日以来一度も話さずに卒業してしまった。卒業した今は学校に行く用事もなければ、地元を離れているので長期休暇しか帰らない。大学が休みに入っている期間、もちろん高校も休みの期間中だ。家がどこかも知らないし、彼には友達がいないようなので誰からも情報は得られない。
もう完全に終わった恋なんだなと、諦めることしかできなかった。
「陽、そういえば前に話してた気になる人ってどうなった?」
「あ~…。結局どうにもならずに、おれが卒業しちゃった」
「てことは後輩だったってこと?」
「ん、まぁ……そうだね」
「仲いい後輩いるし、今度帰省した時に集まりに呼ぶ?」
「いや、大丈夫。そこまでするほどのことじゃないというか……」
自分のこの気持ちも勘違いだったかもしれないし。
それに、もし再会したところで拒否されたり気持ち悪いと思われたら、それこそもう立ち直れない。だからこの気持ちは高校生だった陽と共に、胸の奥底へしまったのだ。
「お前がそう言うならいいけど……」
「心配してくれてありがとね、真白。おれなら大丈夫だから」
「本当か?最近めちゃくちゃ顔色悪いの、気のせい?」
「気のせいだって。暑さにやられて夏バテなのかも」
この気持ちに蓋をしたと思っていたけれど。
自分の中の『Sub』としての欲求なんてなくて、薬で抑えられていると思っていたけれど。
現実はそう、甘くはない。
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